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15話 魔法という名の魔法

「いくつか訊きたいことがありますけど、一番はどうしてわたしに嘘をついてたのかってことです」

「嘘なんてつきましたか?」

「ついたじゃないですかっ」


 飄々と答える七日妖精さんの隣では瑠巳佳ちゃんが瞳を潤ませている。


 せっかくお父さんを見つけたのに、またわたしに取られたからだろうか、時折、悲しそうな顔をわたしに向けるが今はどうしても七日妖精さんに訊いておきたいことがあるので許して欲しい。


「ああ、茶ノ花さんがアンチロマン主義であるのと同じくらいに、わたしがアンチ七日妖精だったということですか?」

「それもあります……けど、一番はここにいる七日妖精さんがやっていることについてです」


 そう言うと、わたしはこの場にいる中央の空洞に対して魔力を向けている七日妖精を示す。


「先ほどわたしが訊いた時七日妖精さんは、七日妖精の使う魔法は鉱物の分解と再構成だっていいましたよね」

「ええ、そう言いましたが、それがどうかしたのですか?」


 余裕の笑みを浮かべながら七日妖精さんが返す。


 おそらく、彼はわたしが言いたいことなどもう分かっているのだろう。その上で、わたしに合わせている。


 それを分かった上でわたしも続ける。


「でも、違うじゃないですか。ここの七日妖精さんがしていることは鉱物の分解や再構成ではなく、鉱物を何もない所から創造しています」


 既存のモノに変化を加えるのと、何もない所から何かを生み出すのは全然違う。


 生産とはすなわち何か既存のものを変化させることで生み出すこと、それは魔法であっても同じこと。


 もし、何もない所から生み出す魔法があるとすれば、それは魔法の根源様式と呼ばれるものだけだ。


 しかし、そんな魔法、普通は使うことが出来るはずがない。


「さすが、魔法を学ぶ学生さんですね。細かいことによく気がつきます。でも、そんな細かいことを覚えても大人になったら役に立ちませんよ。魔法なんて使えさえすればいいんですから」


 七日妖精さんはそんな褒めてるんだか、貶してるんだかよく分からないこと言うと、


「そんなものは些細な事ですよ」


 そう結論づけた。わたしとしてはここで、片付けられるわけにはいかないので、なんとか言葉を繋ごうと「でも――」と食らいつくが、


「それに、彼らのやっている魔法は七日妖精全員が使えるわけではない。言うなれば、ここにいる彼らは七日妖精の進化がさらに進んだ形であり、数は今のところは少数なのです。だから、別に私は茶ノ花さんに嘘をついたわけではないのですよ」


 これで、分かってもらえましたか? と諭すような声音で七日妖精さんが言う。そういう態度でこられるとこちらとしては非常にやりにくい……。


「ひとつ確かめたいことがあるんですけど」

「なんですか?」

「ここにいる彼らに、思考能力はあるんですか?」

「……」


 わたしの問いに、七日妖精さんは一瞬だけ沈黙すると、自嘲するような笑みと共に、


「ありますよ、もちろんね。そうでなければ彼らがプログラミングされた機械のように動き続けることなど不可能でしょう?」


 そう変わらない口調で言った。


「それは……、それはここにいる彼らが塔を成長させる為に存在する細胞に過ぎないと七日妖精さんが言っている様に聞こえます」

「嫌な言い方をしますね」


 それは肯定だった。


 つまり、思った通り彼らには思考能力がない。つまり完全に無駄がない。


 だからこそ、あんな魔法が使えるのだ。


「……そうですか。七日妖精さんは知ってるかもしれないですけど――」


 魔法とは精神の所作が世界に影響を与える行為のことを言う。


 つまり、魔法とは想像力を拠り所として行使される。それ故に魔法は理論上は何でも出来るとされている。


 理論上の最高は世界を作り上げてしまうことだ。これが、すなわち地・空・天の魔法の根源様式と呼ばれるものである。


 しかし、そんなことは普通出来ない。


 それは魔法の力は無尽蔵ではないからだ。


 そして、無尽蔵ではないにも関わらず、魔法のよりしろである想像力は無限。そこが、魔法の欠陥だった。雑多な想像力は魔法を分散させ力を弱めてしまう。


 魔法は何でも出来る反面、何でもしようとすると、何もできなくなるという性質をもつ。


 故に魔法とは、想像力の具象であるにも関わらず、最高の魔法を使うには、極限まで想像力を削ぎ落とさなければいけないという逆説的なものなのだ。


 だから、今の種族の多くは強力な魔法を使うことが出来ない。


 それは未来が開けすぎているから。多くは最低限種族が持つ志向性にあった魔法が満足に使える程度である。


 種族によっては進むべき方向に制限を掛けることで魔法の力を維持している種族もいるが、それだって限度というものがある。思考している限り雑念が入るのは必然。避けられないことのはずだ。


「だからおかしいんです。こんな魔法」


 ここにいる七日妖精の魔法は鉱物の分解と再構成ではなく。鉱物そのものを生み出すというもの。


 まだ、分解と再構成ならば理解の範疇だが、創造となると完全にアウトオブ範疇である。


 彼らは行っている魔法は魔法の根源様式そのもの、大地を彼らは作り上げてしまっている。そんなのは神様くらいしか出来ない魔法だろう。


 いや、神様だって堕落した。


 実際には、今存在しているのは神様のドッペル(生き写しの事)でしかないらしいけど、今はそんなことはどうでもいい。とにかく神様だって自分の未来に目移りするから、魔法の力を落としてしまった。


 それでも彼は別格と言っていいかもしれないけど、少なくとも魔法の根源様式である世界の創造はもう出来ない。


 だからどんな種族だって、こんな大地創造じみた魔法を使えるわけがないのだ。


 故に、七日妖精さんが使っている魔法は本当におかしなこと。それが使えるのは、きっと行き着く先まで行ってしまったから。



 無駄を省く効率化――その末は自分の排除。じゃあ、その先は?



「七日妖精さんは何を考えて、瑠巳佳ちゃんを育てているんですか?」


 七日妖精が無駄だと切り捨ててきたものを一杯持っている女の子。


 そんな瑠巳佳ちゃんをどういう気持ちで育てているのか。わたしは七日妖精さんに訊かずにはいられなかった。

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