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14話 塔中央へ

 中はかなりの広さがあり、前面はガラス張りになっている。


 そして、そのガラスの先に広がっているのが、塔の中心である例の空洞である。


 空洞の中には誰もいない。それは、そうだろう。何しろ中には粒子に分解されて見えなくなっているとはいっても、金属が舞っているのだ。中にいれば、途端に体を病んでしまう。


 かわりに空洞の周りをぐるりと囲むように作られたこの部屋に数十人もの七日妖精さんが、ガラスの向こうの空洞に向けて何かの作業をしていた。


「お邪魔します」


 中を窺いながら、声を掛けるが特にそれに対しての返答は無い。まあ、それは予想出来たことなので、特に気にすることではない。


「どう?」


 わたしは隣でキョロキョロと出店に目移りしているかのように、視線を泳がせている瑠巳佳ちゃんに声を掛ける。ここに瑠巳佳ちゃんのお父さんがいるかどうかを確かめるためである。


「いない……けど、まだわからないから」

「回ってみる?」

「うん」


 ドーナツ状の部屋なので、一目見ただけでは判断することが出来るはずもない。なので、わたし達はグルグルと空洞の外周を回り始めた。


 それにしてもと、わたしは思う。


 先ほどまでの中層の七日妖精さん達も静かだと思ったが、ここにいる七日妖精さんはそれ以上だった。


 まるで、感情そのものが欠落してしまっているように、ただ黙々と作業を繰り返している。本当にそれだけ。


 個を捨てる。


 それがイマイチわたしにはよくわからなかったが、目の前に広がる光景がそれの行き着く先そのものなのかもしれない。


 確かに数十人が活動しているにも関わらず、まるで誰もいないかのような錯覚、存在感が希薄すぎて実際この場において、彼らはいないものとして扱い始めているような感覚。


 それは、よくない傾向だと自分に警鐘を鳴らすが、無意識的な部分はどうしようも無い。


 そもそも、そんなこと考えている方が異常だ。


 わたしは気分を紛らわせるためにガラス越しの空洞に目を向ける。


 下層とは言っても今いる場所は一番階下というわけではなく少し高い位置に居るようだった。下に目を向ければ空洞の底が見えなくは無い程度だが、それでもかなり下に見える。


 そして、底には鉄骨の原材料となるであろう鉱物が山となって積まれていた。


「えっ?」


 そこで思わず声を上げる。


 瑠巳佳ちゃんがその声に反応してわたしに目を向けるのを「あ、なんでもないから」と適当に誤魔化して、再び底に目を向ける。


 増えていた。


 底に溜まっている鉱物の山が、砂時計の砂山のように時間と共に肥大していっているのが見て取れる。


 それは明らかにおかしなことだ。


 なぜなら、この場所では確か運ばれた鉱物を七日妖精の魔法で空気に舞うくらいまで分解することが役割のハズなのだ。だとしたら、底の鉱物は時間と共に減っていかなければいけないはずなのに……。


 しかし、実際増えている。これは紛れも無く事実に違いない。


 別に気にしなければ、気にならないことかもしれないが、気づいてしまうと気になってしまう。


 追ってみるか……。


 わたしは神経を集中させる。そして、七日妖精さん達の魔力の流れのその先を追う。意識を向けると確かに空洞の底に彼らの魔力の帯が向かっているのが感じられた。しかし、重要なのはその先の反応である。


「やっぱり……」


 底まで魔力を追った時にそれがどういう反応をしているのかがわかった。思った通りといえば思った通り、しかし、それは到底納得することが出来るものではない。



 だってこれは……嘘――



「どうかしましたか?」

「えっ、いやなんでもない……ですけど?」


 聞こえてきた声が瑠巳佳ちゃんにしては低かった。わたし怪訝な目を瑠巳佳ちゃん向けると、瑠巳佳ちゃんはわたしではなく真っすぐに先を見ていた。


 その視線の先を追う。そこに一人の七日妖精さんがいた。


「あ、お久しぶりです」

「ええ、そうですね」


 思わずそう挨拶してしまった。言ってからしまったと後悔する。別に久しぶりでも何でも無かった。


「……久しぶりのような気がします」

「ええ、そっちの方が正しいかも知れないですね」


 目の前の七日妖精さんが頷く。そこにいたのはほんの数時間前にわたしを案内してくれた七日妖精さんだった。


「おとーさんっ」


 瑠巳佳ちゃんはそう言うと、わたしの手を切って七日妖精さんに向かって弾けるように駆け寄る。そして、思いっきり抱きついた。


「瑠巳佳? どうしてここに?」

「おとーさん、さのかさんと別れてからもぜんぜんかえってこないから」

「お前、尾けてたのか。いつから尾けてた?」

「さいしょとさいごだけ」

「それで、茶ノ花さんを見張ってたら、お父さんを見失ったってことなのか?」


「……」


「でも、瑠巳佳。話しただろう?」

「……いっしょにいたいの」

「……そうか」


 七日妖精さんが優しく頷くのに、気まずそうに俯くと瑠巳佳ちゃんはぎゅっと七日妖精さんに抱きつく力を強くする。


 つまり、瑠巳佳ちゃんはわたしたちのことをずっと尾行していたが、エレベータで撒かれて、最後の最後で復帰したという事らしい。


「あの、あなたが瑠巳佳ちゃんのお父さんなんですか?」

「ええ、そうです。瑠巳佳が我侭を言ったみたいですね。礼を言います。ありがとうございました」

「いえ、どういたしまして……ってそうじゃなくてっ。あなたが瑠巳佳ちゃんのお父さんだってことは――」


 彼が七日妖精の例外だったということだった。


「だって、七日妖精のことを教えてくれたのはあなたなのに」

「まあ、そうですけどね」


 七日妖精さんは苦笑いを浮かべる。


「だから、私は茶ノ花さんに言ったと思うんですけどね。理解と共感は違うと、私は七日妖精を理解することは出来るが共感することは出来ない。つまりそういうことです」


「……」


 なぜか少し上から目線の七日妖精さんに、わたしは目を細めると、


「そうですね。あなたは七日妖精にしては少し饒舌過ぎましたから」


 強がりを言った。

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