転生後 7 円卓転生 中編
「では、他に異議申し立てのあるものは?」
「ちょっと待ってください!!!」
俺の声がこの部屋に木霊した。
少し部屋が沈黙した後、カミトさんが口を開いた。
「なにかな?転生者。他に疑問に思う点でもあったか?」
「疑問も何も、この判決に不満しかありません!」
俺がそう言うとカミトさんがゆっくり息を吐いた。
「ということは、この判決に異議申し立てがあるということでいいかな?」
「はい」
「わかった。じゃあ、この判決を覆すことが出来るほどの証拠、もしくは矛盾を示すことができるという解釈で間違いないな。」
カミトさんは言葉とは別に、とてもリラックスした態度で話しかけてきた。
判決を覆すほどの証拠?そもそも、証拠も何も・・・。
「その前に、どうして俺がそのような判決を下される事になったのかを教えていただけませんか?」
俺はこの話し合いの内容について全く聞かされていない。そのような条件でどうやって矛盾とかを見つけることができるだろうか。
「その必要はないですね。」
しかし、俺の質問に対する答えは意外なところから返ってきた。
白銀の髪をした女の子だ。
「もう最初にこの判決に至る理由は出してるじゃないですか。あなたが、この世界に、議長を犠牲にして、やって来た事に対しての処罰を決める、と。」
モモと呼ばれた女の子はその可愛らしい見た目とは裏腹に、鋭い目付きで俺を見てきた。
「やっぱ、聞いてたけど状況処理能力に欠けてるみたいだね。議長が可哀想。」
その横にいる同じ白銀の髪を持つ男の子、シャルも会話に参加する。
「と、いうことだ。」
カミトさんがやけにリラックスした声で話しかけてくる。
「それで、自分のやらかした事に対してどのような自己弁護を行うんだ?」
いや、違う、リラックスしてるのではない。
これは、俺をバカにしている。
どういうことだ?訳がわからない・・・。カミトさんは味方じゃなかったのか?
「どうした?反論はないのか?」
俺をバカにしたようにゆっくりと話しかけてくる。
「なら、無駄な時間を使わせないでくれ。そもそも最初に言っただろ。反論しない方が身のためだぞって。」
彼がそう言うと彼を除いた六人が笑い始めた。
「じゃあ、これで確定だな。今日の議会はこれで終了。集まってもらって感謝してる。」
彼が頭を下げると、それを機に次々と人がいなくなっていった。
そして残ったのはカミトさんと、モモとシャル、それにタケノコ頭のやつだけになった。
本当にこれで刑罰が決まったのか?こんな意味不明な裁判で?
俺が余りの理不尽、そしてその理不尽が余りに簡単に決まってしまった事自体に放心状態へと陥っていた時、
さらに信じられない言葉がカミトさんから聞こえてきた。
「じゃあ、こういうことは早く片付けたいからもう刑罰始めるか。」
は?
彼は何を言っているんだ?
俺を今から処刑する?
何の執行猶予もなしに?
「ちょっと待ってください。副議長。」
それを静止する可愛らしい声が響いた。
「どうしたモモ?」
不思議そうにしているカミトさんにモモが答える。
「私が彼を封印しましょう。」
モモはそう宣言するとカミトさんと同じ不思議な力を身に纏う。
その様子を見たカミトさんは目を細めた。
「いや、これは俺がやるべきだ。こんなことを君にやらせるわけにはいかない。」
そのまま俺の方に向かって歩いてくる。
「ダメです。副議長。いや、カミト!」
しかし、モモの制止の声を受けて動きが止まった。
「カミト、さすがに私はあなたに親殺しをさせることは出来ない!」
モモがカミトさんの手を取った。
「そうだよカミトさん、あなたがそんな役目をする必要はないさ。」
今まで黙っていたシャルも口を開く。
「ここは俺たちに任せて。な。」
シャルもモモとは反対側の手を取る。
「お前ら・・・。ありがとな。」
そして、カミトさんは彼らを後方に吹き飛ばした。
「それでも、俺がやるべきだ。」
一歩一歩かみしめるようにカミトさんが俺の方に向かってくる。
なんだ、この三流ドラマみたいな展開は?こいつら頭おかしいんじゃないか?
というか、ちょっと待ってくれ。本当に俺はここで封印されてしまうのか?
ふざけるなよ!
何であんな意味わからない裁判モドキで最高刑に選ばれなくちゃいけないんだ?
というより何で俺がこんな目に会わなくちゃいけないんだ?あの時確かにカミトさんは根回ししたと・・・。
待て、まさか、俺にこの罪を擦り付けるように根回ししたのか?
どうして?何のために?なぜカミトさんが俺を封印しようなどと考えた?
目障りだったから?
なら、何で最初会ったとき俺を慰めるような真似をした?ダメだ、彼の考えてることがわからない。
「魔法式名 エレキドゥ 第一級封印魔法。対象の精神を異空間に隔離し、何もなき終わりのない空間で死ぬこともなく、永遠に一人で生き続けさせる魔法。」
カミトさんはそう言いきった後、無表情に右手を差し出した。
ここで、おれは、終わりなのか・・・。そんな、まだ俺は、終わるわけには・・・。
その時、カミトさんの口が小さく開いた。
「ごめんな、恨むなら俺を恨め。」
そして、魔法が発動し・・・。
「ちょっと待てよ。」
目を閉じた俺の前に、何かの人影が存在するのを感じた。
ゆっくりと目を開ける。
「どうして邪魔をする、タケル。」
タケノコ頭をした男が俺の前に立っていた。
カミトさんが、心底不思議そうに目を細める。それに対してタケノコ頭は肩をもちあげた。
「いや、な。確かに昨日お前の理念に共感して、計画に参加したんだが。」
タケルが目線だけをこちらに向ける。
「お前が言っていた最初の前提条件に疑問を覚えてな。」
「と、いうのは?」
カミトさんが先を促す。
「本当にこいつは、この世界で生きていけないほど心が優しく、脆いのかどうかってところだ。」
そういったあとタケルは俺の目を指差した。
「さっき封印されそうになったとき、こいつの目は死を何処かで妥協している目ではなかった。
果たして、ホントにお前の言ってる人間が、こんな目に合って、少しでも死を妥協しないなんて事が出来るのか、と思ったわけだ。」
そのまま指を下ろすと完璧に俺の方を向いた。
「それか、今から自分がどうなるかすら想像のつかない暗愚かのどっちかだが。」
その瞬間、彼の眼光が俺をつらぬいた。
背筋が震え上がる。
「さて、転生者君よ。お前はこの目線を俺だけじゃなくて、この世界にいる人間皆から向けられてもなお、生き続ける覚悟があるのかい?」
俺が今まで生きてきた中で2番目に強力な負の感情を向けられる。
ダメだ、背筋の震えが止まらない。
だけど、
「そんなの、聞かれなくても、当然でしょ。そもそも、その覚悟無しに、俺の世界でも、生きていけませんよ。」
俺は、やっと幸せを掴んだのだ。震えてようが何しようが、なにがあっても俺は、生きてもとの世界に戻らなくてはならない。
「だ、そうだ。」
「・・・。」
タケルは顔をカミトさんの方に向けた。
「なら、俺は転生者は罰を受けるべきかどうかというのに対して反対票を投じさせてもらう。」
「・・・、そうか。ならば彼の処遇は保留と言うことになるな。
すまなかった。」
カミトさんは、無表情でそう呟いた。
もしかしてだけど、俺は助かったのか・・・。
「カミトさん。一ついいですか?」
俺は顔をうつむけているカミトさんに話しかけた。
「なんだ?」
「どうして俺を第一級封印の罪にしようとしたんですか?」
先程の状況から見て、カミトさんが俺に罪を与えようとしているのは明らか。
けれど、俺にはどうしてそのような事をしたのかがわからなかった。
もしも俺が憎くて堪らないのであれば、わざわざこのような方法を取らなくてももっと他に色々やりようがあるはずだ。
なのにこんなことをするのはなにか・・・。
「それは私が説明させていただきます。転生者さん。」
俺が思考の方に意識を集中させていると、後ろから可愛らしい声が響いてきた。
「いいですよねカミト。」
銀髪の女の子。モモだ。
「まず、第一級封印魔法をかけた理由ですが、その方が後々の処理が楽だって理由だけです。別に一番軽い刑罰でもほんとは大丈夫です。」
「えっ?」
こんなんだから、この世界の人に理解力が乏しいと言われるのかも知れないが、彼女の言ってることが理解できなかった。
「だって、あなた次どんな魔法でもかかったら死ぬのでしょう。そして、この世界の罰則は全てが魔法の使用を前提としています。
だから結局どんな罰則だろうとあなたにとっては・・・。」
「死刑?」
「はい。そういうことです。なのであなたが有罪と決めた時点で、もう全てが決まったようなものだったということですね。」
彼女は淡々と話していった。そして、
「では、本題のどうしてあなたを有罪にするように仕向けたということについてですが・・・。」
「モモ、そこからは俺が話すよ。」
本題に入る瞬間、カミトさんが話をとどめた。
モモが口をつむぐ。
「何で、俺がお前を殺そうとしたかというと・・・。」