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転生後 5 風呂転生

 「いや、だからね。この風呂は魔法によって動くから、魔法を使えないおじいちゃんじゃシャワーを出すことすら出来ないの。」


 キリハが慌てて説明を加える。


 「もしも、私と入るのがどうしても嫌だって言うのであれば、お父さんが帰ってくるまでお風呂は我慢してもらうことになるけど・・・。」


 「いや、全然、全く、嫌じゃない。うん。むしろ・・・いや、そうじゃなくて・・・」


 俺は、何をいっているのだろうか。というか一緒に入ることが嫌なはずがない。俺だって男だ。しかもキリハは俺の世界じゃお目にかかれないほどの美人。嬉しくないはずがない。


 「じゃあ、先に入っといて。私はちょっと準備してから行くから。」


 キリハはそう言うと俺の前にある扉を開けた。大浴場にあるような脱衣場が目の前に広がる。


 「タオルとかはそこの籠の上に置いとくから。」


 俺が脱衣場に入ると後ろのドアがピシャリと閉まった。


 ・・・。まて。ホントに一緒に入るのか?いや、心の準備が全くできてないんだが。


 そもそも普通の女の人が、出会って1日の男と一緒に風呂に入ろうとするだろうか?でも、ここは異世界。もしかしたらこっちの世界では常識なのかもしれない。


 色々考えている内に全て服をぬいでしまう。


 「おじいちゃん、もう入っていいかな。」


 扉の外からキリハの声が聞こえてきた。俺は、慌てて自分の大切な場所をタオルで隠す。


 「あぁ、良いけど・・・。」


 「じゃあ、入るね。」


 脱衣場の扉が開いた。そこには・・・。


 「どうしたの?おじいちゃん。」


 先程と全く変わらないキリハが立っていた。


 えっ、一緒に入るんじゃ・・・。


 「じゃあ、取り敢えず中入ろうか。」


 キリハはさっさと扉を開いて風呂場の中に入っていく。


 そりゃそっか。出会って1日の相手に自分の素肌を見せるわけがないか。いや、でも、どう気をつけても服が水に濡れる気がするんだが。


 俺は、なんか肩透かしをくらったような気分になりながらキリハの後ろをついていった。


 風呂場は大浴場ってレベルで広い訳ではないが、普通の一般家庭に設置された風呂場よりは断然広いというところだった。


 「おじいちゃんは、そこに座って。」


 キリハが指差した先を見ると先程まで無かった椅子が現れていた。

 指示通り椅子に座る、と同時に俺の尻が椅子にめり込んだ。


 「うわっ。」


 どう見ても硬い材質で出来てそうだったのでだいぶ驚いた俺は、急いで立ち上がる。


 「どうしたの?なんか変なところあった?」


 そんな俺の様子を見てキリハが訝しげに聞いてきた。


 「いや、大丈夫。大丈夫。」


 「ならいいけど。」


 俺は、ゆっくり腰を下ろしていく。椅子に接触すると同時に何の抵抗もなく尻が椅子にめり込んでいく。

 物凄い違和感を感じるが無視して体を預けていく。


 これはいいかも。すごく気持ちいい。ウォーターベットをさらに柔らかくした感じと言えばいいのだろうか。とにかくフィット感が凄い。うーん。このまま寝てしまってもいいかもしれない・・・。


 「じゃあ、おじいちゃん。水を出すよ」


 危うく眠りそうになった時にキリハの声が聞こえてきた。すると頭にシャワーのような温水がかかるのを感じた。


 「湯加減はどう?。」


 「うん。ちょうどいい。」


 「じゃあ、頭を洗っていくよ。」


 「お願いします。」


 なんだろうこの既視感。少なくとも風呂に入ってるときには感じたことはない・・・。

 あぁ、そこそこ。そこがちょっと痒かったんだよね。


 「リンスとかいる?」


 「別にいいや。いらない。」


 あぁ、そうだ。美容院で髪を洗ってもらってる感覚。これに凄く似てる。


 「じゃあ、背中流すね。ちょっと上体を起こして。」


 キリハに言われるとおり体を起こすと背もたれが消え失せた。


 キリハのスベスベの手・・・ではなくフワフワのタオルの感触が背中に起きた。


 ・・・。なんか虚しい。いや、別にこれでいいのだが、なんか期待していたのと違うというか・・・。


 「前は自分で洗ってね。」


 「うん。ありがとね。」


 「そんな、気にしないで。」


 うん。これでいいのだ。マンガみたいな展開を望んではいけない。いくら異世界だからってそこまで一緒になるわけがない。


 「じゃあ、そろそろシャワー出すね。」


 「うん。」


 体の泡が洗い流されていく。スッキリしたようなスッキリしてないようなよく分からない気持ちが体を満たした。


 「浴槽の水は満たしといたから。取り敢えず、一回入ってみて。」


 促されるまま浴槽に入る。温度もホントにちょうどいい。


 「気持ちいいよ。温度もちょうど良い。」


 「良かった。なら私は外に出とくね。もし出たくなったら呼んでね。」


 キリハが扉に向かって歩いていく。俺も呼び止める理由がないので何も言うことができない。


 その時だった。


 「なんだ、キリハ入ってるんだったら呼んでよ。」


 どこかで聞いたことのある澄んだ声が浴槽に響くと同時に浴槽の扉が開いた。


 「えっ・・・。」


 「・・・。」


 今度こそ本当に時が固まったのを感じた。


 「なっ・・・。」


 病的にまで白い肌。不自然なほどに整った顔に、もとの世界ではありえない青色の髪。

 先程出会ってすぐに別れたシズクが生まれたままの姿で立っていた。


 思考が停止する。向こうも思考が停止しているのか硬直している。


 「・・・、な、なんで・・・。あなたが・・・。」


 するとシズクは物凄いスピードでタオルを自分の体に巻いた。


 怒りのせいか、さっきまで白かった肌がゆでダコみたいに真っ赤になっている。


 「・・・見た?」


 「・・・いや、」


 見てないわけがない。逆にあの状態で見ない方が男として終わってると思う。


 「見たよね。・・・もうやだ。」


 彼女はそう言うと目に涙を浮かべた。


 そしてその場から消え失せた。


 「・・・。」


 「・・・。」


 後味が悪すぎる。ここまでして裸を見ようとは思わない。


 「じゃ、じゃあ出たくなったら呼んでね。」


 キリハもその場から離れる。


 ・・・。


 ・・・。


 ・・・。


 俺が悪かったのだろうか・・・。いや、俺が悪かったのだろう。

 たとえ偶然だったとしても許されることではない。


 どうやって謝ろう。というか謝るもなにも、そもそもこれから一度でも会話の席に立つことが出来るのだろうか。


 彼女の一番大切な人を奪った挙げ句、彼女の裸を見る。これが偶然でなかったら史上まれにみる糞野郎だ。

 偶然でなくても許しがたい。

 まさかそんなやつにもう一度会おうとは思わないだろう。


 なんか、心労を癒しに風呂に入りに来たのに、更に心労が増えた気がする。


 「キリハ、聞こえる?」


 「ん?風呂出たい?」


 「お願い。」


 すると独りでに浴槽の扉が開いた。


 「服はお父さんのに似せといたから。もしサイズが合わなかったらいってね。」


 「あぁ、ありがとう。」


 「・・・それとおじいちゃん。さっきのは気にする必要ないよ。」


 「それは・・・。流石に無かったことには出来ないよ。」


 しかし彼女から返事は返ってこなかった。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 結局あのあとシズクの話題に触れることはなく。俺は最初に目覚めた白銀の世界広がる部屋に、移り寝ることになった。


 「おじいちゃん。もしなんかあったら私の名前を呼んでね。そしたら私に通じるから。」


 「うん。わかった。」


 「じゃあおやすみ、おじいちゃん。」


 キリハがベットに横になった俺に背を向けた。


 「ちょっと待って。」


 「ん?」


 キリハが俺の方を振り向く。


 「そういや、キリハはいつ寝るの?」


 するとキリハは苦笑いを浮かべた。


 「うーん。実は、私達寝る必要無いんだよね。」


 「寝る必要がない?」


 「そうだよ。私達は生まれてから1日でも寝たことないんだ。」


 いや、それはおかしい。だって俺が目覚めたとき確かに・・・。


 「おじいちゃんはかわってて、一週間に一回ぐらい寝る習慣を持ってたけど。」


 そっちの方が変わってるのか・・・。


 「だから、いつ寝るかって言われたら今のところ予定無しかな。」


 キリハはもう一度扉の方を向いた。


 「じゃあね、おじいちゃん。また明日。」


 そして俺では開けることの出来ない扉をくぐって消え失せた。


 するとキリハが気を利かせてくれたのだろうか、白銀の世界が夜空に変わった。

 

 今日は色々あった。明日のためにも早く寝よう。そう思って俺は、目を閉じた。意外と疲れていたらしい、すぐに眠気が襲ってきて俺は意識を失っ・・・。


 





 ・・・・・まさかそこまで楽観的にこの出来事を考えられる訳がない。

 異世界にいきなり連れてこられて、その事をすぐに受け入れられるほど俺は状況適応能力が高くない。

 

 少し状況を整理してみよう。

 

 まず俺はいきなり異世界に、しかもその世界で英雄視されているらしい人間に、彼の意識を奪って転生した。

 

 ここからして疑問点がたくさんある。

 

 ひとつ目に俺に転生する心当たりが全く無いということだ。

そんなこと疑い始めたらきりがないと思うかもしれないが、果たしてそうだろうか。

 

 流石に俺の周りに転生したことあるよ。とか言ってるやつはいないから、あくまでも俺が見たことのある小説の設定になるが、


 ちゃんと理由が無かっただろうか。


 神様のイタズラ。前世からの因縁。神様の好意。なんかのゲーム。理由は大小様々あるが、なんかしらの転生に至る理由があるはずだ。


 かえって俺の方だが、そもそも俺はあの世界で死んでいない。


 当然転生する前に神様にも会ってないし、何かゲームのキャラクターを作るかのように自分のステータスをいじったりしてもいない。

 

 そのような状態でなぜ俺がこの世界に転生したのだろうか。


 まぁ、これぐらいの理由なら単なる偶然で片付けることもできる。

 

 次の疑問は俺がおじいちゃんに転生した所だ。


 もう一度俺が転生したおじいちゃんのプロフィールを確認してみよう。


 昔、魔力が低すぎて滅びの運命にあった人間を救いだした文字通りの大英雄。


 カミトさんが言っていた円卓副議長という言葉と、ユヅルとかいう男が俺を呼ぶときに言っていた議長という言葉から、現在でも、とても高い地位を保持していることがわかる。


 この事からとても高い能力を持っていることは容易に推測できる。


 対して俺の方だが、はっきり言おう。


 俺は、この世界で限りなく無能に近い。


 魔力は持たず。

 運動もできず。

 前世の記憶など、この世界においてはなんの役にも立たず。風呂も一人で入れず。

 あろうことか扉を開けることすら人の力を借りなければ出来ない。


 このような人間がこの世界で価値のある人間と言えるだろうか。


 そんな俺が先程述べたこの世界で最も価値のある人の一人であるおじいちゃんを乗っ取った。


 これが偶然だと言えるだろうか。


 流石にここまで重なれば偶然とは言えないだろう。


 要するにおじいちゃんを無能にした。敵からすればおじいちゃんを無力化したと言うことと同義である。


 そこに何らかの故意が含まれていないとは考えづらい。


 今日集めた情報で推測出来るのはこれぐらいだろうか。まだ、誰が、どういう理由で、俺を、転生させたのかは情報が足りない。

 

 それに全て偶然と言うこともあり得る。ならば、今考えていることは全て無駄になるが、別にそれならそれでいい。


 だが、もしも何らかの意志が働いて俺が転生したのであれば、


 俺を無価値として転生させたことを後悔させてやる。


 その決心を抱いたまま、今度こそ俺は眠りについた。


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