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転生後2 仲直り転生

 「ねぇ、それ本気で言ってるの。」


 キリハの雰囲気が変わった。


 確かに、まだ出会ってほんの少ししか経っていないほとんど赤の他人みたいなものだ。


 でも、先程までのキリハの印象からは全く想像もつかない声がキリハから聞こえてきた。

 

 「あのさ、あなたはいま自分だけが不幸な目に会っているとか思っているかもしれないけど。一回、自分の立場だけじゃなくて他の人の立場になって考えてみてよ。」

 

 言葉遣いはさっきまでと変わらない。ただ、そこにこもっている感情と冷たさが先程とはまるで違った。


「突然、自分が大切に思っていた人が別の人に体を乗っ取られた。

 しかもその人はその事を悪びれる素振りも見せず、ただただ自分のことばかり考えて、なんと私達は関係ないとほざき始める。」


 キリハの目には先程までの暖かさは消え、押し隠されていた敵意と冷たさがにじみ出していた。


 「私達が今回の件に関して関係ない?

 ということはあなたは私たちの感情など考察の余地すらない、どうでもいいこととして捉えてるって考えてもいいよね。」


 「・・・。」


 「あなた、だとしたらほんと最低だと思うよ。」


 「・・・。」


 「何も否定しないの?」


 「・・・。」


 「もういいや、ほんとおじいちゃんが浮かばれないよ。こんな最低な人間に殺されてしまうなんて。」


 「な、俺はあなたのおじいちゃんを殺してなど・・・。」


 「私達にとって意識がどこか別のところに飛んでしまうことは死んだのと同じようなもんだと思うけど。おじいちゃんの世界じゃ違うのかな。」


 「・・・。」


 「それでさ、さっきから全く謝ろうともしないけどさ、まさか故意に人を殺したんじゃないから自分に責任はないとかいうつもりじゃないよね。」

 

 「いや、そんなつもりは・・・。」


 「じゃあ、何で謝ろうともしないの?

 心のなかじゃそう思ってるんでしょ。

 そう思ってるんだったら、少しでも感情があったら謝るよね。

 それとも血も涙も無いから、謝る気も起こらないのかな⁉」


 「ご、ごめん。」


気づけば頬の辺りに暖かいものが流れていた。


 「なに泣いてるの?泣きたいのはこっちの方なんだけど。

 ここまでおじいちゃんを貶めておいて今更許してもらおうとか神経図太いね。

 あ、そうだ。おじいちゃんがどんな立場、才能、力、功績を持ってるか今から教えてあげようか?

 そしたら自分がどれくらい取り返しのつかないことをしたか少しは自覚できるんじゃ・・・。」


 「そこら辺にしとけ、キリハ。」


 その時、部屋の中に先程の男とは違う男の声が響き渡った。


 「お父さん・・・。」


 その声を聞いてキリハは後ろを振り向き、そういった。


 「でも・・・。」


 「もしも、キリハがそうやって彼を否定することによって、何か現状を打破できると思うのならば止めはしないよ。」

 

 キリハにお父さんと呼ばれた男はキリハの言葉に対しそう答えた。


 キリハが押し黙る。

 

 すると、男はキリハの横を通り抜けて俺のすぐそばにたった。


 「始めまして。といった方がいいのかな?父さん。いや、異世界のお方。俺の名前はカミト、そこにいるキリハの父。そしてあなたの、その体の持ち主の息子です。」


 カミトと名乗った男は頭を少し下げた。そして、いつの間にか手に持っていたハンカチを俺の前に差し出した。


 「・・・?」


 「もしよかったら使ってほしい。すまんな、キリハが迷惑をかけた。」


 だが俺は、そのハンカチを素直に受けとることが出来なかった。


 「・・・。ホントにすまなかった。確かにいきなり現れたやつの施しを受けることほど屈辱はないものな。」


 俺が受け取らないでいると、カミトさんは手の中にあったハンカチを消し去った。


 「キリハ、お前一体なに考えてるんだ。」


 「何って?どう言うこと?」


 「客人に対して心を叩き折るまで否定し続けるとは一体どんな考えがあってやったことなんだ?って聞いてるんだ。」


 カミトさんがキリハを詰問するように言う。


 「私はさっきの行為に間違いがあったとは思わないけど。

逆にお父さんこそさっきまでの会話聞いてたんでしょ?どうして彼を許せるの?」


 「許す、許さないの問題じゃないだろ?

彼の立場にたったときに全く同じことが言えるのか?

自分の都合よりも先に相手の都合を考えて行動できるとでも言うのか?

だとしたら傲慢にも程があるぞ。」


 カミトの言葉を聞いてキリハの声に先程のすべてを震え上がらせるような重みが加わった。


 「もしその言葉を認めることによって結果的に彼が正しいと言うことになるぐらいなら、傲慢だろうと私は構わない。」


 「キリハ。お前一回頭を冷やせ。今のお前とは話し合うだけ時間の無駄だ。」


 カミトさんはキリハとの会話をきった。キリハがカミトさんに背をむける。


 「そうさせてもらうわ。このままおじいちゃんが視界に入ってる状態だと二度と冷静になれないと思うから。」


 その言葉と同時にキリハはその場から消え去った。


 「・・・。」


 「私も一回外に出ますね。」


 後方で待機していたユズルも消え失せた。部屋に俺とカミトさんだけになる。


 「一回この部屋を出て俺の部屋に来るか?」


 カミトさんの言葉に俺は、首を縦にふるだけで答えた。

 もう何もしゃべりたくなかった。

 もう何も考えたくなかった。

 そのまま空気になって溶けていきたかった。

 なぜ、俺がこんな目に合わなくてはならないのだろう、その疑問だけが頭をぐるぐる回っていた。


 「じゃあ、俺についてきてくれ。」


 カミトさんが俺に背をむけて歩き始める。

 俺は、ゆっくりとついていった。

 カミトさんが俺のペースに合わせてくれているのか、物凄く遅く歩いているのに、俺とカミトさんの距離が離れることは無かった。

 部屋を出ると、石レンガによって整備された中世風の町が広がっていた。

 ただ、何故かすべてがぼやけて見えた。


 「今日は、中世風か。ということは馬車とかの方がいいな。」


 カミトさんがそう呟いたかと思うと目の前に漫画でしか見たことの無いような馬車が現れた。


 「ほら、乗ってくれ。」


 カミトさんの言葉に従って馬車の扉の前に立つと扉が自動的に開いた。


 「後、さっき断ったことをもう一度言うのは失礼かもしれないが、よかったら使ってくれないか?」


 俺が扉に入る瞬間カミトさんがもう一度、ハンカチを俺に差し出した。

 

 そこで始めてさっきからずっと涙を流し続けていることにきづいた。


 「流石に、ずっと人がなき続けるのを見るのはこちらも辛いものがあるからさ。」


 俺は、何のお礼も言わずにカミトさんからハンカチを受け取った。

 そのまま、馬車の扉を通ると外見からは想像もつかないほど広い内装が広がっていた。


 「受け取ってくれてありがとう。ホントにキリハが迷惑をかけた。」

 

 そこにさっき馬車の外にいたはずのカミトさんが椅子に座っていた。


 「だが、許してやってくれ。キリハも悪気があっていった訳じゃないんだ。ただ、彼女は父さんの事をすごく大切に思ってたから。本当は優しい子なんだ。」


 本当にお礼を言わなければならないのは俺の方なのに。

 本当に謝らなくてはいけないのは俺の方なのに。

 本当に許されなくてはいけないのは俺の方なのに。

何故カミトさんに謝らせているのだろうか?そう考えたとき黙っている自分が許せなくなった。


 馬車が動き始めたのをかろうじて周囲の風景が動いていることによって確認する。


 少し馬車の中を沈黙が支配した。


 「取り敢えずそこに座らないか?」


 カミトさんが自分の座っている席の反対方向にある席を指差した。

カミトさんの言葉に従って、俺が座るために椅子を引こうとすると椅子がひとりでに動いた。


 「何か飲み物はいるか?」


 カミトさんの言葉によって自分の喉がカラカラであることに気づいた。

 首を縦にふると目の前の机にお茶らしき何かが入ったカップが現れた。


 「大丈夫、普通のお茶だよ。」


 俺が少し不安そうにカップを眺めたからだろうか。カミトさんが笑いを浮かべながらいった。

 ゆっくりとカップを手元に持ってくる。お茶にしてはとても透明度が高い液体が入っているが、俺は口をつけた。


 一口飲んだ瞬間に身体中が幸福感で満たされた。


 美味しいなどのレベルを越えている。なんと言えばいいのだろうか。

 幸福としか言えない至福の感情が身体中を駆け巡る。陳腐だが本当に言葉で言い表せれない美味しさとしか言いようがない。

 

 現金なことで、お茶を飲むだけで心がほどけていくのを感じた。


 「ありがとうございました。」


 「ん?あぁ、別に気にしなくていいよ。それぐらいのお茶、いつでも、何度でも生み出せるから。」


 あんなに何も言おうとしなかった俺の口が自分で驚くぐらい軽く開いた。


 「いや、お茶のことだけじゃなくて・・・」


 「さっきのことかい?」


 「はい。」


 カミトさんが目を少し長い間閉じた。


 「それこそ感謝されることじゃないよ。ただ、人として普通の事を言っただけだ。」


 「それでも、感謝します。」


 俺は、カミトさんの目を見つめる。


 「なら、ありがたくその感謝を受け取っとくことにしようか。どういたしまして。」


 カミトさんが静かに微笑む。


 「でも良かったよ。もうしゃべってくれないものかと思った。」


 「それは・・・すみませんでした。」


 「何で謝るんだい?君は何も悪いことをしてないだろ。喋る喋らないは個人の自由だ。」


 確かに、喋る喋らないは個人の自由だ。でも何も悪いことをしてないというところには同意できなかった。


 「もしかして、キリハに言われたこと気にしてる?」


 俺が落ち込み始めたのに気づいたのか、そんなことを聞いてきた。


 「・・・事実ですから。」


 「確かに事実だね。でもそれは物事の一つの側面に過ぎない。君の立場に立てばやっぱり君は被害者なんだよ。」


 「それでも、一度自分が被害者であるという側面以外を知ってしまえばもう、知らないふりは出来ませんし。」


 俺が言いきると、カミトさんの顔が心配するような顔になった。


 「君は優しいんだね。でも、その生き方は自分を追い詰めるだけだよ。」


 「優しい?」


 「そう、もとの世界でも良く言われたんじゃないか?」


 優しい、そういわれたのはあの時以来だ。まさか転生してこの言葉を聞くことになるとは思わなかった。


 「まさか・・・、優しいだなんて・・・。何時も悪魔、人でなしって呼ばれてましたよ。」


 「でも、いま、いやこちらに来る直前にはそういってくれた人がいるんじゃないか?」


 この人はもしかして俺の事を知っているんじゃないか?そう思うぐらい的確な言葉だった。


 「・・・。後、ちょっとだったんですよ。」


 俺がそう呟くと周りの風景の流れるスピードが少し遅くなった気がした。


 「後、ちょっとですべてが上手くいったんですよ。今まで失ってきたものも全て取り戻し、今からやっと一歩を歩き始めるところだったんですよ。」


 突然独白を始めた俺をカミトさんは静かに聞いてくれていた。


 「なのに、

 なのにいきなり意味不明なところにつれてこられて、


 知ってる人は誰もいなくて、

 

 しかもその世界では俺は邪魔者で、


 ただ、無価値に死ぬことが強要されている。


 俺が何をしたっていうんですか。」


 なぜ、いきなり今さっき会ったばかりの人に、この様なことを言っているのかわからなかった。


 「神様は俺の事が嫌いなんでしょうね。少し希望を持った瞬間に絶望へと叩き落とす。

 それで俺が苦しんでいるのを見て爆笑しているんでしょう。」


 でも一度言い始めたら止めることが出来なかった。


 「俺だって普通の人間なんだ。ちょっと頭がいいとか言われてても普通の人間と変わらない。

 

 だから俺じゃなくたっていいじゃないか。

 

 確率五十億分の1をなぜ俺が引かなくちゃいけない?

 

 もっと他にもいただろう?もっと今までバカみたいに過ごしてきた幸福なやつはたくさんいたはずだ。

 

 そうじゃなくたって、俺よりももっと不幸なやつだっていたはずだ。今すぐに死にそうな人間が生まれ変わったら涙流して喜ぶのに。

 

 なのに、何で今から幸福になるはずだった俺をこの世界に呼んだんだ!


 教えてくれよ!神様!」

 

 「・・・。そう、それでいい。それでいいんだよ。」


 「キリハとかいうやつだってなんなんだよ。


 訳わかんねえよ。なにいきなり切れてんだよ?頭おかしいんじゃねえの?


 正論ばっかいってたら相手が黙るとでも、思ったのか?

傷心している相手をぼこぼこにして楽しかったか?


 そりゃ楽しかっただろうな?抵抗できない相手を一方的に攻撃するのは楽しいもんな。くそが!覚えとけよ‼いつか必ずし返してやるからな‼」

 

 ひとしきり叫び終わると、急に感情の熱が引いていった。

 いつの間にか椅子から立ち上がっていた俺は妙な充実感と共に椅子に脱力しながら座った。


 「少しは楽になったか?」


 俺の独白を聞いたカミトさんは、とても安心したような顔で俺の方を見ていた。


 急に恥ずかしくなった俺は、急いで謝る。


 「ごめんなさい、初対面に等しいのに変なこと言ってしまって。」


 「そんな、顔を赤くして謝る必要ないよ。むしろ俺の方が謝らなくちゃいけない。」


 カミトさんはいつの間にか空になっていたカップを指差す。

どういうことだ?ただ、物凄く美味しかっただけなんだけど。逆にお礼言わなくちゃいけない。


 「ごめんね、そのお茶軽く自白剤入ってるんだ。」


 俺の中ですべてが繋がった。

 道理でお茶を飲んだ後、いろいろ意味わからないことをペラペラしゃべりまくったと思った。


 俺が少しじとっとした目でカミトさんを見続けているとカミトさんは俺から目線を逸らした。


 「まぁ、そんな怒るなって。

 でもほら、楽になっただろ?

 お前みたいなタイプはいろいろ心になかで思ってること全部口に出した方がいいんだよ。」


 確かに楽になった。だが、根本的な解決はしていない。結局のところ俺はもとの世界には・・・。


 「後、一つ少し気になったんだがさっきから帰れない帰れない言ってるけど、まだ帰れないとは決まってないぞ。」


 「えっ?」


 一瞬ホントになにいってるか理解できなかった。


 「でも、確かにキリハが・・・。」


 「世界が無数にありすぎてどれがお前の世界かわかんないってやつ?

 確かに特定はできないが、ある程度、それこそ、この馬車を何の驚きもなく乗ったってことは、中世以上の文明を持った俺たちと同じ様な姿形を持つ世界だろ。

 だいぶ限定できる。後はしらみ潰しに調べていけばいい。」


 いや、それだけだったら俺もそこまでは絶望しなかった。そうじゃなくて・・・。


 「それとも、お前には魔法をかけれないってところか?それこそ発想の転換だ。お前を転移させるんじゃなくて世界をお前の場所に転移させたらいい。」


 「うそだ、そんなこと・・・。」


 「魔法を舐めるな。これでも万能の力って言われてるんだぞ。それぐらいの事できないわけないだろ。」


 いきなり前提条件が崩れた。帰れない訳じゃない?


 「じゃあ、何でキリハは俺に帰れないとかいったんだ?」


 「良く思い出してみろ。別に帰れないとか言ってないぞ。お前に転移の魔法をかけれないっていっただけで。

 まぁ、その瞬間お前はキリハをマジギレさしたからうやむやになったけど。」


 そう言われてみればそんな気もする。もしかして落ち着いて落ち着いて言ってたのは、このことを伝えるためだったのかもしれない。


 「後、価値のない人間になったみたいなこと言ってたけど、もしも帰れたらこの経験が無価値とは思えないけどな。」

 

 そこで、カミトさんは一息ついた。


 「それに、もしも帰れなかったからって何で自分が無価値だと思うんだ?

 自分の価値なんて人に定められるものじゃないだろ?

 だって元にお前はさっき、自分で頭のよさなんか必要ないって他人から見れば価値のあるものを言ってたしな。」


 俺は、こんなことになっても無価値じゃない?


 「そりゃ、自分で無価値だと思ってたら無価値になる。

 だから、自分の価値ぐらい自分で決めろよ。

 それを自分が本当に価値のあるものだと思っていたら自然と周りも認めてくれるだろ。」


 目から鱗が落ちた気がした。


 「ほら、そう考えたら楽になるだろ。」


 楽になる?そんな変化じゃなかった。まさか俺がこの転生に関して希望を持つようになるとは。


 「えぇ、ずいぶん楽になりました。」


 俺がそういうと、カミトさんは笑みを浮かべた。


 「それは良かった。じゃあ、取り敢えず楽になったついでにお仕事だ。」


 馬車から流れる風景が止まった。と同時に馬車の扉が開く。


 その空いた扉の向こうにはキリハがいた。


 「キリハと仲良くなってこい。」


 そして、カミトさんは消え失せた。



 


 


 

 




 



 


 


 



 


 


 



 


 

 





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