表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

転生後 1 始まりの転生


 懐かしいと思った瞬間にこれが夢だと気付いた。


 そう、夢だ。今は過ぎ去った過去の記憶、もう二度と戻れない日々。


 俺は目を開けた。


 目に映ったのは真っ白な天井や見慣れない天井ではない。

もはや天井ですらない白銀の空が広がっていた。


 そこに今俺が横になっているベットと、何に使うのかよくわからない機械類。そしてその真ん中にはど○でもドアみたいな扉だけがある。


 しかも一番笑えるのがここが部屋のなかだと言うことだろうか。


 そして、俺はこのへやから出ることすらも出来ない。


 別に監禁されてる訳じゃない。他の人なら誰でも開けれるあのどこ○もドアが俺には開けれないのだ。


 何故か?それを説明するのは難しいし、説明したとしても信じてもらえないと思うが、簡単に言うとこの扉は魔法でのみ・・・。


 「おじいちゃん。起きた?」


 その時、ど○でもドアが開いた。そこから女神が直々に作ったとしか思えない究極の美貌が現れる。


 「ああ、おはよ、キリハ。」


 「どう?よく寝れた?・・・って流石に無理か。昨日の今日だしね。」


 キリハが俺の近くにやってくる。


 「そんなことないよ。ここの布団ホント気持ち良かったし。」


 「そう。ならよかった。じゃあ、おじいちゃん。もうご飯は出

来てるからこっち来て。」


 そう言いながらキリハは俺を手招きする。あの料理か。一回ここの料理になれてしまったら二度ど向こうでの料理には戻れない。


 「今日の朝ご飯は?」


 俺がそう聞くとキリハは俺を見つめて言った。


 「見てからのお楽しみ、ってところかな?」


少し俺は顔が赤くなるのを感じた。


 「じゃあ、おじいちゃん。いこっ。」


 そしてキリハは俺に手を差し出す。


 もう気付いた人もいるかもしれない。そう、俺は異世界に、

 しかも、おじいちゃんに転生したのだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 転生して最初の時、俺は何が起こったのか全くわからなかった。

目に映るのは白銀の世界。しかも体を動かそうと思っても動かない。


 パニックに陥るのにそう時間はかからなかった。


けれど、やはり体は動かない。


 そして思わず発してしまった声は、自分の声とは似ても似つかないしわがれた声。


 これは、死後の世界か何かなのか?もう俺は死んでいて、死後の世界に来ているのではないか?と本気で考え始めた時だった。


 「おじいちゃん!いい加減起きてよ。」


 キリハが現れた。


 まぁ、その時には名前も何もわからなかったが、取り敢えず俺的には言葉が通じそうな生物と言うだけでこの意味の分からない状況にhelpを求めるのは当然だった。


 「助け・・・・て。」


 「何、寝惚けてんの?ほら、起きて。」


 しかしキリハに俺のhelpは伝わらなかった。(というかこの時キリハは俺が転生していることなんて知らないから、当たり前っちゃ当たり前。)


 そして、俺のベットが消えた。


 ん、?状況が繋がっていない?いや、ただ事実を連ねていっただけだ。


 文字通り、


 今、この瞬間。


 何の予兆もなく、


ベットが消えたのだ。


 当然(いや、この世界ではそこまで当然でもないが、)俺の体は重力に従って落ちていき、床に叩きつけられた。


 その程度のこと、何さも大層な事のように書き連ねてるんだと思う人もいるかもしれないが、その時の俺にとっては一大事だった。


背中から落ちた瞬間、背中の感覚が消え失せた。ただ、体の中に衝撃だけが突き抜ける。


 「ガハッ」


 俺の体の中からしわがれた声が洩れ出た。

そして俺の体を地獄の痛みが襲った。


 「うぐっ、・・・ゴハッ・・・。」


 あまりの痛みに息をすることすら出来ない。


 「あれ、おじいちゃんどうしたの?」


 流石に様子がおかしいと思ったのか、キリハが俺の近くに来た。


 「おじいちゃん?」


 そのまま俺を覗き込む。しかし、俺はあまりの痛みに反応を返すことが出来なかった。


 「・・・えっ・・・?」


 その時、キリハの様子が変わった。何故か、急に痛みが消える。


 「おじいちゃんだよね?」


 何処か不安そうにキリハは俺を見つめてくる。痛みが消えたお陰でやっと言葉を喋れるようになった俺は取り敢えず疑問に思ったことを口にした。


 「おじいちゃんってどういうこと?」


 するとキリハは何かを確信した顔になった。


 「それは、おじいちゃんが今までの記憶を失ったせいで今の自分が誰かわからなくなったということ?それとも、自分が昨日まで送っていた状況と全く異なる状況を現在送ってるから混乱してるっていうこと?」


 その時、俺は耳を疑った。まだ俺は、おじいちゃんってどういうこと? としか言ってない。それ以外の情報を何も彼女に与えてないのだ。


 「多分、後者・・・。」


 俺がしわがれた声でそう言う。するとキリハは無表情のままで俺に質問を続ける。


 「今、見てる風景について何か違和感はある?」


 俺は動きづらい首を動かして周りを見渡す。見渡す限り一面全て白銀の世界。


 「・・・そっか。」


 キリハはそう言うと、俺に手を差しのべた。俺も、手をとろうとするが、体が動かない。


 「あ、そっか。その体のままじゃ魔法の補助なしに動けないや。おじいちゃん、じゃない、えっと、まあいいや魔法使える?」


 彼女は何をいっているのだろうか?率直な俺の感想はこれだった。そりゃそうだ、突然目の前で魔法とか何とか言われても意味不明としか言いようがない。

 

 俺が困ったようにキリハを見つめていると、

 

「その様子じゃ使えそうにないね。・・・まぁ、取り敢えず研究室に行くまで、あっ、そうだ。青年の姿にしたらちゃんと動けるようになるでしょ。」


 その時、初めて自分が青年以外の姿をしていることに気付いた。


 いや、気づきたくなかったと言うべきか。


 よぼよぼの手、


 しわがれた声、


 自分が別の何かになってしまっていることを認めたくなかったのかもしれない。


 そう、おじいちゃんの姿などになっていることをどうしても認められなかったのだ。


 「はい、これで歩けるでしょ。」


 しかしまだ俺は、気付いていなかった。


この世界がどれ程頭がおかしいのかということ。


そして、どれ程俺にとって厳しい世界なのかということを。

 

 キリハが姿を変更する魔法をかけた瞬間、俺は意識を失った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 「ということは、やはりおじいちゃんは・・・」


 目が覚めるとそこには一面の銀世界・・・ではなく、ようやく普通の家らしき天井がそこにあった。


 「えぇ、議長はその魔力の全てを失っています。」


 首を少し動かすと先ほどまでの動かしにくさはなく、スムーズに動いた。


 「それはPS細胞が消滅してるっていうこと?」


 「いや、PS細胞は普通に存在しています。正直、原因は不明です。」

 

 体を起こそうとすると、先ほどまでの全く動かなかった体はちゃんと俺の意思に答えてくれる。

 

 「精神と情報世界の関係性に新たな問題が出てきたって言うところかな?まぁ、でも・・・」


 「お、議長が起きたようです。」


 俺が自分の体を確認していると、俺が起きたことに気付いたらしく研究者っぽい服をした男がこちらを向く。


 「あ、おじいちゃん・・・。どう、体の調子?」


 どう?・・・と言われてもあまりに体の調子が違いすぎてどう返せばいいか分からない。


 「すごい良好って言った方がいいのかな?これ。」


 しわがれてない普通の、でも俺とは全く違う、声が辺りに響いた。


 「うーん、・・・そうだよって言いたいんだけど、実はおじいちゃんの体そんな良好じゃないんだよね。」


 しかしキリハは俺の言ったことを否定した。

 

 まぁ、俺も正直自分がどんな状況になってるか全くわからない。

 

「良好じゃない、ってどういうこと?」


 このときの俺は自分の体の状況をとても軽く考えていた。

 いや、体だけじゃない。

 あまりに意味不明な事が続きすぎて、自分がおかれた状況のことをまるで、夢の中のようにフワフワした軽いものに考えていた。

 

 「実際には良好じゃないってレベルじゃなくて、・・・うーん・・・。」


 キリハが俺に目をあわせるのをやめて少し下を向いた。一体どうしたのだろうか。俺はそう思い口を開こうとした瞬間。


 「議長、すみません。お話のところ失礼ですが、現在のあなたのお体の状況を説明させていただいてもよろしいでしょうか?」


 キリハの横にいた、男がやたら丁寧な口調で俺に話しかけてきた。


 ただ、なんとなくニュアンスで分かることは分かるんだが、

 議長って誰だ?


 「キリハさん、私が説明するのでいいですよね。流石にあなたに説明させるのは酷すぎる。」


 俺がそんな事を考えているといつのまにか男が俺のベットの近くに来ていた。


 「では、まずは何から話しましょうか。・・・そうですね。確か魔法が使えないと言っていらっしゃいましたが、取り敢えず魔法とは何か?ということから説明しますね。」


 そして男はキリハに変わって説明し始めた。


 「まず、魔法と言う概念は知っていますか?」


 「そちらと魔法の定義が一緒ならば知っています。」

 

 俺がそう答えると、男は手を取り出した。


 「じゃあ、あなたが言う魔法の概念についてしゃべれる範囲でいいので言ってくれませんか?」


 魔法についてか・・・あまりに定義が広すぎる。あるところでは、ちょっとした宗教的な意味しか持たないものもあるし、

神が使うような万能の力も魔法と言うところもある。


 「そうですね、物理法則が当てはまらない、俺ら科学の世界に生きるものにとって異質な力って言うところかな。」

 

 すると、男は少し顔を緩めた。


 「科学、物理法則。その言葉を知ってると言うことは、あなたはある程度以上の宗教的ではない文明を持っている所から来たってことですね。ならば、話は早い。」


 そして、俺の予想の斜め上を行く事を言ってきた。


 俺としては魔法などと言っている人の事だ。科学?物理法則?なにそれ?と言ったような答えを予想していたのだが。これではまるで・・・。


 「魔法は、あなたたちが言った科学文明のその先にあるテクノロジー技術の総称です。」


 「えっ?」

 

 俺は固まった。

 

 「では、魔法の概念についてはこれぐらいにして、そろそろ本題に入りましょう。」


 「いや、ちょっと待って。」

 

 そして、そのまま次に入ろうとする男を慌てて止める。

 

 「何か、わからないところでもありました?」


 そんな俺を男は怪訝そうに見てきた。


 「いや、その、さっき魔法は、俺たちの科学文明のその先にあるテクノロジーだって言ったけど、」


 「私が言ってる科学文明とあなたが言ってる科学文明が同じならばその通りですが、そうですね。水、と言えばどう考えますか?」


 そして俺が何か言う前に勝手に問いを出される。


 「えっと、酸素一つと水素二つが共有結合でくっついた水分子が集まったもの?」


 「なら、私達の科学技術とあまり変わりませんね。」


 そして独りでに話が終わった。って、確かにそれも結構気になってたところだけど、そうじゃなくて。


 「そもそも、この世界は俺がいた世界じゃないの?」


 そう俺が言った瞬間、部屋の空気が固まったのを感じた。


 「それは、私にはわかりませんね。」


 男が、少し呆れたようにそう言う。その態度に少し怒りを感じた俺は、


 「それは、おかしいんじゃないんですか?あなたたちが私に説明してくれるって言ったんですよ。ちゃんと説明してくれないと・・・。」

 

 「ちょっといいですか。」


 そう言おうとするが、男の少し呆れを含んだ声に止められる。


 「あなたがこの世界の人間じゃないかどうかなんて分かりません。もしかしたら、ただ議長が意味不明な記憶の混濁を起こしただけかも知れませんし、まだこの世界に探索していない場所があってそこから意識がこちらに飛んできたのかもしれません。」


 男が、一呼吸おいた。 

 

 「でも、いまそんなことはどうでもいい問題でしょう。」


 そして、俺は次に男が言った言葉を聞き逃す事が出来なかった。


 「どうでもいいってどういうことですか?」


 「どうでもいいって言うのは、ある対象が現在本筋にはあまり関係なく重要ではないと・・・。」


 「そんなことを聞いてるんじゃねえよ!」


 あまりにバカにしたような物言いに感情が爆発した。


 「俺が自分がいた場所から、意味不明な、知ってる人が誰もいない場所に連れてこられたことがどうでもいいってどういうことだって聞いてんだよ!」


 「私には関係のない話ですから。」


 その言葉を聞くと同時に頭の線が切れる音が聞こえた。頭のなかには取り敢えず目の前にいる男を殴ることしか考えられなかった。


 しかし、俺の拳はその男に当たることはなかった。確実に当たる軌道だった。普通の人間が咄嗟によけれる場所は大幅に越えていた。だけど、拳が当たる瞬間男がその場所から消え失せた。


 「なんですか、この低俗で野蛮な人間は。

 よかったですね、あなたが、議長が意味不明な記憶の混濁を起こした状態でないことだけは明らかになりましたよ。

 議長がたとえ記憶を失ったとしてもこのような低俗で野蛮な行動をするわけがないですからね。」


 「まさかお前、俺を挑発してるのか?」


 「さっきから思っていましたが、理解力も乏しいようで。もはや同情の余地は一欠片もありませんね。」


 もはや、理性が失われそうになるぐらい頭に血が上ったとき。


 「いい加減にして。」


 キリハの声が辺りに響いた。

 

 「失礼しました。」

 

 その瞬間男は俺の前から消え去りキリハの後ろに移動した。


 「私が説明するわ。そこで下がっときなさい。」

 

 その様子を見て、俺は頭の熱が急激に冷めていくのを感じた。


 「ごめんね、おじいちゃん。ちょっと言葉が足りなかった。」


 「いや、こっちの方こそいきなり怒り始めてすみません。それに、あなたが謝る必要は・・・。」


 「キリハ。」


 自分のしたことを後悔し始めた俺の言葉をキリハは遮った。

 

 「えっ?」

 

 「キリハ。私の名前はキリハって言うの。おじいちゃんの声であなたって言われたくない。」


 そういったキリハに表情は無かった。

 

 「あぁ、すみません。ええと、キリハさん?」


 俺がそう言うと、抜けきった表情に僅かな怒りが含まれるのを感じた。

 

 「キリハって呼んで。」

 

 しかし意図を把握できなかった俺は、初対面の人を呼び捨てにすると言う事が出来なかった。

 

 「でも・・・。」

 

 「私、さっきおじいちゃんの声で他人行儀にされるのが嫌って言ったよね。お願いだよ、それぐらい聞いてよ。」

 

 その言葉でキリハがどれくらいおじいちゃんを大切に思っていたのか気付かされた。


 「ごめん、」


 そして、おれは謝ることぐらいしか出来なかった。

 

 「いや、謝ってもらえる必要はないよ。私の我儘だし。まぁ、そんなことはどうでもよくて、今のおじいちゃんの状況を説明するね。」

 

 キリハが俺のベットのそばに来た。

 

 「さっき、ユズル・・・あぁ、さっきの男の事ね、それでユズルが魔法について説明したけど、」

 

 「俺たちの科学文明のその先にあるテクノロジーでしたっけ?」

 

  先程の空気を打ち払うように俺は、キリハの言ったことに積極的に参加した。

 

 「そうそう。それで、その魔法は実際には一体どのような原理によって起こってるのかっていうことなんだけど。」

 

 キリハが俺の前に手を差し出す。と同時にその手の上で漫画でしか見たことの無いような火の玉が生み出された。

 

 「うわっ」


  今まで魔法らしい魔法を見てこなかった俺は、ここが本当にファンタジーの世界であることを理解するのと共に胸が少しワクワクするのを感じた。

 

 「今、太陽を生み出してるんだけど、」

 

 しかし、その火の玉は全くスケールが違った。

 

 「は?」


  ちょっと待て、太陽ってあれ?あの空に浮かんでるあのでっかい恒星の事だよね。

 

 「多分、そっちの物理法則的にはエネルギーとか色々あり得ないって思うよね。」

 

 いや、エネルギー以前の問題でしょ。何で、お菓子でも取り出すような感覚で太陽作り出せるんだよ。

 科学技術が発展しきったら魔法と区別着かないとか何とかいってた人が地球でいた気がするけど、進みすぎだろ。

 

 「おじいちゃん?どしたの、虚空を見つめて。」

 

 「いや、そっちの魔法を舐めてたなぁと思って。」

 

 俺がそう言うと、キリハは少し笑みを浮かべた。

 

 「もしかして、太陽作ったことぐらいで魔法が凄いと思った?」

 

 いや、待て。その言い方だと・・・

 「じゃあ、おじいちゃんに質問です。魔法でできないことを一つ挙げよ。」

 

 「死者蘇生。」

 取り敢えず最も無理だろうと思われることを言ってみた。

 

 「おぉ、正解。凄いね。まさか一発で当てるとは。」

 

 どうやら合っていたらしい。そりゃそうか。死者を蘇生することができたらもはや神様の領域・・・ん、ちょっと待て。なんか言い方が気になる。まさか一発で当てるとは?もしかして・・・。

 

 「え、もしかしてだけど、それ以外何でも出来るとか言うんじゃないよね。」

 

 「そのつもりだけど?」

 

 あまりの魔法の力に俺は、絶句してしまった。

 

 「まぁ、実際にはある特定の魔法で殺された場合のみ蘇生することが出来ないって話だけど。」


 いや、もうほとんど全能の力じゃん。でも、まさかみんなそんなことが・・・

 

 「あぁ、もちろん特定の人だけが使える訳じゃないよ。ちゃんとそこら辺にいる人だってほとんど同じレベルの魔法が使えるよ。」

 

 いや、それでもまさかノーリスクでそんな魔法が使える訳が・・・。

 

 「もしかして、なんか魔法にリスクが必要って考えてる?

それはさっきの話になるんだけど、おじいちゃんの世界には情報世界って考え方はある?」

 

  情報世界。まぁ、情報社会と同じようなものならば、

今、俺達が生きてるとされてるな。


 「うん。」


 「なら、その世界では全ての物は情報に置き換えれるでしょ。」

 

 「うん。」

 

 「それで、魔法はその情報に全て置き換えられた物体の情報を書き換えることができるものって考えてくれたら、話は早いかな。」

 

 ・・・なるほど。あまりに分かりやすすぎて、逆に拍子抜けした。

 

 「と言うことは、キリハ的には魔法を使うのはただ、数値を書き換えてるだけに過ぎないっていうこと?」

 

 俺がそう言うと、キリハは笑みを浮かべた。

 

 「そう言うこと、そう言うこと。良かった、これがわからなかったら、今から言う話ほとんどわからないから。」

 

 その笑みがあまりに可憐で俺は、少し見いってしまった。

 

 「じゃあ、本題に入るけど、その前におじいちゃん。」

 

 すると急にキリハは表情を引き締めた。

 

 「今から、だいぶショックなこと言うから覚悟しといてね。」

 

 ショックなこと?ふーん。そのときの俺は、その言葉をその程度にしかとらえていなかった。


  気付くべきだったのだ。キリハが前もってわざわざショックなことと言うレベルであると言うことに。

 

 もしそれに気づかなくても、一番最初男が言った(あなたに説明させるのは酷すぎる。)と言う言葉の時点で身構えるべきだった。

 

 「精神世界の情報を書き換えることができる力、魔法。なぜそんなことが可能なのかと言うと、real spiritual virus

 通称RSウイルスと呼ばれる精神世界と現実世界どちらの性質も有するウイルスを操作することが可能になったからなの。」


  キリハが流れるように説明を始めた。


 「そのウイルスを操るための細胞それを私達はPS細胞って呼んでる。」

 

 そこに俺の理解を確認する言葉は入らなかった。

 

 「私達はPS細胞を通じて頭で組み立てた情報組み換え信号をRSウイルスに送りその信号を受けてRSウイルスが情報組み換えを行い魔法が発動する。それが魔法の発動プロセスなんだけど、そのときのRSウイルスへと送る信号の強さを私達は魔力って呼んでるの。」

 

 まるで自分で自分の言ってることによって状況を理解しようとしてるようにも見えた。

 

 「それで、さっきから言ってるように私達はウイルスを操って魔法を起こしてるんだけど、ウイルスはウイルス。もしも操る力が無ければ、そのウイルスは私達に牙を剥く。」

 

 そこでキリハは一呼吸おいた。けれど俺は、何も質問する気にはなれなかった。

 やっと今、自分がおかれた状況を理解したのだ。

 いや、正確には理解しそうになっているのを頭が全力で否定しているところか。

 

 「それで、おじいちゃんは原因不明の理由で魔力がゼロになってるの。だから、・・・だから・・・。」


 いつの間にかキリハの顔は泣きそうになっていた。


 だが、その感情が俺に向けられていないことも気づいていた。

 

 「もって、5ヶ月ってところですね。」

 

 その時、後ろから声が聞こえてきた。

 

 

 「あなたの生きられる時間ですよ。」


 さっき、後ろに引いたユズルだ。


 「ユズル。言い方ってやつがあるでしょう。」

 

 すかさずキリハがユズルに言葉を飛ばした。

 

 「どんな言い方をしても結局伝える事実は変わりません。」

 

 「でも・・・、」


 「大丈夫ですよ。」


 俺からどこからどう見たって大丈夫ではない声が漏れ出た。

 

「おじいちゃん・・・、」

 

「大丈夫、俺は大丈夫だから。」

 

 今ならば、余命宣告を受けた人の気持ちが理解できる。まだ、ずっと人生は続くものだと考えるまでもなく思っていて、


 それなのにいきなり死が目の前に迫っていたと気づいた時の虚無感。これ程運命を呪いたくなるときもないだろう。

 

 「おじいちゃん、まだ、5ヶ月って決まった訳じゃないから。もしかしたらもっと長く生きることだって。」

 

 「そんなことは、どうでもいいんですよ。」


 自分でもビックリするぐらい興味の無さそうな声が出た。


 「え、」

 「そんなことは、どうでもいいんです。なのでそろそろ俺を元の世界に戻してください。」


 「・・・、おじいちゃん。」

 

 「魔法って万能の力なんでしょ、だったら俺一人元の世界に返すことぐらいどったことないわけだ。」


 「・・・。」

 

 「それで、戻してくれてから俺の中にあるウイルスを魔法で除去してくれたらいい。

 こっちの世界ではどこにでもあるから除去してもすぐに感染してしまうけど、向こうにはそんなウイルスは存在しない。

よって、俺が死ぬことも・・・。」

 

 「おじいちゃん。」

 

 大きくはない。でも芯に響く声でキリハは俺の喋りを打ち切った。

 

 「それはできないよ。」


 「それは出来ないってどう言うこと?さっき魔法は万能の力っていってたじゃん。そんな俺を元の世界に返すことぐらいが出来ないのであればさっき言ったことと矛盾してる・・・。」

 

「おじいちゃん。ちょっと落ち着いて。」

 

 もう一度キリハが静かに俺に語りかける。

 

 「なに言ってるんだ。いまめちゃくちゃ落ち着いてるじゃ・・・。」

 

 「うん、いま、落ち着いてるんでしょ。そうじゃなくて、今からもっと落ち込むことを言うから、落ち着いてって言ってるの。」


 今度こそ、俺は思考が止まった。


 まだ、落ち込むことを言っていないだと?余命を宣告されることよりも落ち込むことなんてあるのだろうか?

 

 「ええと、さっきおじいちゃんは元の世界に帰してくれって言ったよね。」


 「まぁ、もしもおじいちゃんが別の世界から来たんだとして、確かにおじいちゃんを別の世界に送ることは魔法で出来るよ。」


 「なら、やっぱり俺を送ることは・・・」


 「おじいちゃん。まだ、話は終わってないよ。」


 キリハの声が少し冷たくなった。


 「・・・。」


 「じゃあ、話を続けるよ。おじいちゃんを別の世界に送ることは出来るんだけど、問題点1。どうやって、おじいちゃんの世界を見つけるの?」


 「はっ?」


 もう何も考えられなかった。いや、何も考えたくなかった。


 「俺の世界は、俺の世界だろ。そんなの万能の力である魔法によって見つけられるんじゃないのか?」


 そう言うと、キリハはさっきの男と同じようなあきれた顔を一瞬浮かべた。

 

 「魔法はおじいちゃんが言ってるほど万能じゃないよ。

 確かに私がおじいちゃんの世界がどんな世界か知ってたら捜索することは出来るけど、私はおじいちゃんの世界を知らないもの。

 どうやって知らないものを見つけろって言うの?」


 何も俺は、言い返すことが出来なかった。

 いや、自分が意味のわからないことをいっている自覚は最初からあったのだ。

 ただ、認めたくない。

 それだけで、俺は言葉を紡いでいた。

 

 「それにおじいちゃん。もう一つ問題があるんだよ。」


 まだ、問題があるのか。今度はなんだ?そもそも帰れない、魔法使えない、余命宣告、以上に問題などあるのか?

 

 「結論から言うと、次おじいちゃんに魔法をかけたら、その瞬間おじいちゃんは死にます。」


 本当の絶望は自分の想像できるその先にあることを、俺はその時始めて知った。


 「だからおじいちゃんにもう二度と転移の魔法も回復の魔法も身体強化の魔法も何から何まですべてかけることが出来ません。」


 キリハの声が遠く聞こえる。魔法が使えないならまだしも、かけられたら死ぬ?それは・・・


 「当然お爺ちゃんに世界を越える魔法をかけることは出来な・・・。」


 「分かりました。」


 キリハが少し驚いたかのように俺の方を見た。


 「おじいちゃん・・・。」


 「もういいです。状況はよく理解できました。

 要するに俺は、意味不明なところに突然転生して、周りに知っている人は誰もおらず、帰ることも出来ない。


 またファンタジーの世界に来たにもかかわらず魔法は使えず、それどころか魔法をかけられた瞬間死ぬ。


 しかもあろうことに転生したお陰で残りの寿命が5ヶ月以下という全く価値のない人生を送り死んでいく存在になったということですよね。 本当に最高の転生です。


 あぁ、神様に感謝しないと。こんな世界に転生さしてくれてありがとう。だから取り敢えず今すぐ地獄を百回ぐらいめぐってそのあと身体中滅多刺しにされた状態で土下座しろやぁ!!!!!!!」


 「おじいちゃん、落ち着いて。」


 いきなり叫び始めた俺にゆっくりとキリハが語りかけてくる。けれど、今の俺にはバカにしているようにしか聞こえなかった。


 「落ち着け?どうやって落ち着けばいいんだ?そりゃそうだよなあんたには関係ないもんな。俺がどうなろうとあんたらには微塵も影響を与えないもんな‼」


 「おじいちゃん、そんなこと言わないで。さすがにいくら他人だからって知り合った人が困ってたら助けようと・・・。」


 「はっ?あんたらに同情されるぐらいなら死んだ方がましだよ。そもそも何がどうなろうが俺の勝手だろ。こんなことになったんだ。最後くらい俺の好きなように・・・。」


 「ねぇ、それ本気で言ってるの。」


 その時、キリハから俺の身体中を震え上がらせるような声が響いた。


ちょっとキリの悪いところで終わってしまいました。ブックマークよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ