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お父さんのお墓を作ります。


 時刻は、夕刻。空が赤く染まり始め、橙色と金色、赤に朱といったたくさんの色たちが、沈み行く太陽をよりいっそう輝かせる頃です。

 しばらく、姉弟ふたりはシウルの花畑に座っていました。木々の合間合間から漏れでる夕陽に照らされ、シウルの花畑は朱と金を混ぜたような色に染まっていました。

 そんな花畑にちょこんと腰を下ろし、ミアはテオに話しかけました。


「ねぇ、テオ。あたしたち、いつまでもこうしてやいらんないのよ」


 ミアは小さな手で拳を握り、頭上に掲げます。ミアの顔は、決意に満ちていました。


「…………?」


 しかしテオからの返答はありません。ミアが隣の弟を見ると、いつの間にかシウルの花の絨毯に横になって、ぐっすりと眠っていました。


「…………おねんねなわけね」


 ミアは脱力感を覚えながら拳を下ろしました。

 ミアは八歳、テオは五歳。テオは幼いながら、固定魔法への才覚が生まれつき良く、五歳という年齢で将来は化けそうな片鱗を見せ始めている天才児。

 天才児だからこそ、先ほども――泣きじゃくりながらですが――固定魔法を応用して、お父さんのからだをここまで運べたのです。普通ならば、あそこまで使いこなすにはかなりの年数と努力が必要とされるのですが、テオは難無くこなしました。

 なので、ミアは忘れていたのです。テオは天才児、麒麟児といえどまだたったの五歳で、魔法を行使すればすぐに疲れて寝てしまうことを。ミアは時々、こうして(魔法方面に)優秀な弟の実年齢を忘れてしまうのです。


「……お姉ちゃん失格じゃあないのよ」


 ミアはしばらく弟を見つめていましたが、すぐに自分の頬をバンバンと叩き、顔をブンブン横に振りました。


「だああああ!」


 そして、気合いをいれるために叫びました。


「お父さんは死んだ!! あたしひとり、テオが頼れるのはあたしひとり!」


 ミアは現状を確認するためになお叫びました。

 他の一族は、虐げられないために、それぞれ離れて別の場所で隠れ暮らしています。何人かのグループにわかれ、暮らしているのです。全滅を避けるために。

 ミアたち親子は、ミアたち親子だけで暮らしていましたが、先日ついに見つかって、逃げて――結果が今です。

 もう、ミアとテオたち姉弟の保護者はいません。そして、テオを守るのはミアしかいません。二人きりの家族となった今、ミアがしっかりしないといけないのです。


「まずすること!」


 ミアは眠ってしまったテオを、少し離れたところへゆっくりと横たわらせ直しました。寝やすい体勢になったテオは、からだを動かされたというのに、全く起きる気配がありません。それだけ疲れていたのでしょう。

 ミアはテオを見て感傷的になり、涙が出かけましたが、頬をバンバンと再び叩いて、涙をこらえました。


「お父さんを、うめる」


 ミアはお父さんに向き合いました。ミアの両頬は、真っ赤なりんごのようになり、目はそれ以上に真っ赤に潤んでいました。

 泣きたい、泣き出したい、。ミアはそんな心境でした。でもミアはテオのお姉ちゃんです。だから、泣けないし、泣き出せません。

 ミアは、お父さんの近くに座りました。テオの固定魔法で固定した風の勢いがとても良かったのでしょう。お父さんのからだが横たわる辺りは、風によって抉られ、ある程度の深さがありました。深さは、ミアの腕くらいでしょうか。

 お父さんの近くに座ったミアは、近くにあった木の枝を二本持ち、おもいっきり地面へ降り下ろしました。


「固定、勢いっ! 条件、土をかけ終わるまでぇ!!」


 ミアは、振り下ろした勢いを固定しました。

 だって、こどもの力では、お父さんのからだに土をかけて埋めることができないからです。

 だから、ミアは振り下ろす際に微かに纏う勢い――風に働きかけたのです。

 勢いの持続という――限られた時間ですが――力を得たミアは、こどもとは思えない速さで、お父さんのからだに土をかけていきます。

 お父さんのからだが土で見えなくなり、シウルの花畑にこんもりとした小さな土の丘ができた頃、辺りはいつのまにかすっかり暗くなっていました。


「お父さん、夜だよ」


 すっかり全身土まみれになったミアは、ぱんぱんに腫れる両腕で、かくかくする膝を抱えて座りました。あちこちが痛みますが、ミアは生きています。


「お父さん、ゆっくり眠ってね」


 ミアの土まみれの顔を、何粒も何粒も涙が伝っていきます。ミアはもう涙をこらえませんでした。


「お母さん」


 ミアは、空を見上げました。真っ黒な夜空には、真ん丸なお月さまが輝く星々を従えていました。

 ミアの涙を、淡い月光が照らしていました。ミアは、お母さんお母さんと何度も何度も繰り返し呟きました。


「お父さん、そっちにいっちゃったから、よろしくね、お母さん」


 テオが生まれた頃、ふたりのお母さんは、お父さんと同じように魔族に命を奪われたのです――けれどもからだは残りませんでした。その魔族は大きなドラゴンを従えていて、お母さんはぱっくりとドラゴンのお口に入って、ごっくんされてしまったのですから。

 お母さんがドラゴンにごっくんされてしまった時も、こんなにお月さまが真ん丸な夜でした。


「お月さまのいじわる」


 ミアは膝に顔を埋めました。

 ――そうして、姉弟ふたりはお父さんのお墓を作ったのでした。

 ふたりが眠ったあと、ふわふわとお月さまのように真ん丸な光が、お墓の中から飛び出してきました。その真ん丸な光は、淡く白く輝きながらも、しばらく姉弟のまわりをふわふわと漂っていました。

 そして、漂ったあと、ゆっくりゆっくりとお空へ昇って消えていったのです。

 それは、お父さんの魂でした。




 その頃、お父さんの魂が向かった冥界では……たいへんなことになっていました。


『俺っち、もう調停疲れたよ。やーめんぴ!』


 魔神さまが、冥界の入り口の扉をシャットダウンしてしまったのです!


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