おはなしを始める前に
世界というものは、たくさんたくさん存在していました。
ここではないどこかにある広大な草原に、天に向かってそびえ立つ常緑樹の大樹があります。その大樹の枝々一本一本に、艶々とした濃い緑の葉っぱがついていました。
大樹の名前は世界樹といいました。
一枚一枚の葉っぱは、ひとつひとつの世界でした。
ひとつの枝から、ふわっと葉が落ちてきました。穴ばかりあき、ぼろぼろになったその葉は、疲弊している様が一目見てわかる有り様でした。
これは、落葉といってひとつの世界が終わってしまったことを意味しています。
葉が落ちてしまった枝には、新たな葉がまた一枚生えてくるのです。瑞々しく輝く葉がそれです。
世界樹は、譲り葉の性質も持っているのです。盛者必衰の理を持っているのです。
どの世界も、いつかは滅びます。
それはどの世界に関わらず、世界に生きる命あるもの、ないものにも関わらずついてまわります。無機物だって、いつかは壊れるのです。
こうして、たくさんある世界樹の葉は、いつかは移り変わって行くのです。
――世界があるだけ、たくさんの物語が紡がれています。
ある世界で語られている、囚われのお姫様を救う王子さまのおはなしも。
ある世界で語られている、動物を仲間にして、悪い鬼をこらしめる勇敢な少年のおはなしも。
それらのおはなしは、ある世界ではお伽話であっても、きちんと独立したひとつの世界であるのです。もしかしたら別の世界では、あなたの物語がおはなしになって語れているかもしれません。
ひとつの、おはなしをしましょう。
ある世界の、あるいのちの行く末のおはなしを、しましょう。