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「では、まずは死神の鉄の掟を話そう。これは死神の法律であり、絶対的なものである。一つ、言い渡された任務に背く事はできない。二つ、失敗すれば己が朽ちる。三つ、任務以外で人間の手助けは不要。四つ、違法者は裏切りとみなし、処罰の対象となる。質問はあるかね?」
「二つ目の、失敗すれば己が朽ちる……どういう事だ?」
「そのままだ。任務に失敗すれば己の魂が朽ちる。失敗とは任務を承諾した後に拒否する事、標的を別の人物に殺された事を指す。病による死は例外だが、失敗と見なされた場合はこれまでの全ての記憶、形、魂の色が消去され、生命の輪廻に戻る事なく完全に消滅する」
「ならば、私のこれまでは全て水の泡となって無駄になるというのか?」
「そういう事になる」
「そんなの残酷過ぎる。私はこれまで必死に生きて来た。それが全て白紙になるなんて……」
「掟は掟。我も守らねばならん。我慢するしかあるまい」
納得がいかなかった。
全てが消える? 私を侮辱しているようにしか聞えない。
私の父はドミンゴの将軍だ。私はその背中を追いかけ、ただひたすら父に追いつくために死に物狂いで竜騎士の称号を我が物にしたというのに……それまでの努力が無駄になるなんて、これほど屈辱的な事ない。
竜騎士の座に上り詰めるまで、どれだけ私が苦労したのか、どれだけ私が非難を浴びたのか、どれだけ私が必死だったのか、この人物には到底理解できまい。いや、理解してもらおうとも思わない。この苦しみは私自身しか分からないのだから。
しかし、私の人生が無駄にならないで済むには、ただ単に任務を失敗しなければいい事。本物の戦場を体験してきた私にすれば、赤子の手を捻る事よりも簡単だろう。
「仕方ない、掟は絶対だ。死神であるからには必ず守ろう。早速、任務を私にくれないか」
「飲み込みが早い者は成長も早い。期待しているぞ。今回、そなたにやってもらう任務は――ドミンゴ国の新人部隊長、ヨエルの魂を刈り取ってくる事だ。簡単だろう?」
「ヨ、エル……?」
王の予想外な発言に私は言葉を失った。
聞き間違えをしたのかと思ってもう一度聞く。
「ヨエル、だって?」
「ああ、そうだ」
私の頭は酷く混乱していた。
魂を刈り取る、これを別の言葉にすると、殺せ、というものになる。そんな馬鹿な! 私がヨエルを殺せるはずがない! 私の死を誰よりも悲しんでくれた戦友を、容赦なく殺せというのか? 恩を仇で返すとはまさにこの事。
私は悪魔ではない。ヨエルを殺すなんて、到底私にはできない。いや、できるはずがなかった。私はヨエルに刃を向ける事すら不可能だろう。
「それは……やらなければならないのか?」
「もちろんだ」王は躊躇なく頷いた。「掟その一、依頼に背く事はできない。断るならば、違法者として今ここで始末せねばならん。どうした、何か断りたい理由でもあるのか?」
私は目を細めた。
「ヨエルは……私の戦友だ。命を懸けてでも守る価値のある存在。死ぬ間際も彼が私の最期を看取ってくれた。私はそんな大切な戦友に、矛先すら向けられない。無理だ」
「そんな事、我には全く関係がない」王に情けなどなかった。「そなたは死神。もう生きている人間ではない。生前の記憶など消して、死神の任務をまっとうせよ。それがそなたの使命だ。さて、どうする? 断るか、引き受け――」
「引き受けよう」私は王の言葉を遮った。「期限はいつまでだ?」
「……期限はない。気長に待つとしよう。だが、任務を遂行する意思が見られない場合は失敗とする」
「承知した」