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父がそう言うと、険しい顔付きで顎に手を当てていたピエルが即座に反応した。分かりやすくていい。
「このまま、あの大部隊に突入しても負けるだけだ。そうなる事を防ぐために、言葉を使うんだ」
「言葉、ですか?」ヨエルの表情に戸惑いが浮かぶ。
「そう、言葉だ。実は威厳の竜……ヴァロ・ベルマンが死んだ事はクリストファーやアルフォンスには知られていないだろう。それを利用して、彼らの敵意の矛先をロレンツィオに向けさせるんだ。家族を殺されて黙っていられる人間なんていない。これが成功すれば、二人が率いる一万の部隊がこちらの戦力に加わるのはまず間違いない。一気に形勢逆転できる」
「なるほど、賭けてみる価値はありそうだ」ピエルは目を細め、夜明け前の空を見やる。「そろそろだな」
「父上は後ろで襲撃隊の指揮をお願いします」
「ああ、分かった」
万全の態勢ではない父を後列の方へ行かせ、私は槍を握って馬に跨る。
夜明けと同時に戦闘が始まり、また多くの死者が出るだろう。しかし、今更になって嫌だからと言って引き返す事は無理だ。もう開き直って前に進むしか道はない。受け入れなければいけないのだ、死という現実を。
「私はロレンツィオをやる」これだけは最初から決めていたし、譲れなかった。「ピエルはアルフォンスを、ヨエルとハンス王子はクリストファーの説得を。あと、これを持って行け」
私はヴァロの槍をヨエルに渡した。
「これがあれば、彼らは私達の話を信用するはずだ」
「了解」ヨエルは黒刃の槍を受け取って私の肩を叩いた。「いつも口を酸っぱくして言ってるが、また死んだりしないでくれよ、頼むから」
「分かってるさ。お互い様だ」
夜明けが始まった。
それと同時に馬が嘶き、ピエルが槍の矛先を天高く掲げて叫んだ。
「我らの誇りは黄金色の竜と共に! 突撃せよ!」
それから兵士達も続けて雄叫びを上げ、私達率いる騎馬隊は一気に地面を蹴って草原を駆け出した。馬の蹄に抉られた土が足元で舞い、無数の足音が耳の中で反響する。
私は左手に槍を握り、凶器と化した右手でロレンツィオの首をもぎ取るために戦場を駆けた。敵軍の最後尾で陣取る彼を目掛けて、虫の如く蠢いている敵兵の合間を縫うようにして通り抜けた。
両脇から飛び出てくる刃を弾き返し、正面から迫る矢を槍で払ってへし折ったり、どす黒くなって皮膚の硬度も高くなった、よく分からない生物のものと化した右手で、矢そのものを防御したりしてとにかく前へ突き進む。私の視線にはロレンツィオしか映らない。
ようやく見えてきた奴に私は激昂してしまい、走る馬の背に両足を置いてかがみ、距離が縮まった途端、馬に跨っていたロレンツィオに飛び掛るようにして襲い掛かった。しかし、予測できていたらしく、彼は槍の矛先を剣で振り払って馬から飛び降りた。
私は多少バランスを崩したが地面に着地し、忌々しいロレンツィオと真正面から対峙する。
「愚かだよ、君達は。今どんな状況に立たされているのか、分かってないのかい?」
「それはこちらの台詞だ、ロレンツィオ」私は皮肉を込めて言い放った。「次に死の淵に立つのは貴様だ。この私が地獄に突き落としてやる」
「こしゃくな……できそこないと同じ運命を辿れ!」




