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「王に選ばれし者よ。ようこそ、契の神殿へ」
私に声をかけた人物は……男でもなく、女でもなかった。あえて言うならば中性的な顔、とでも表すべきか。彼女、いや、彼と呼ぶ事にしよう。
彼は全身に黒衣を纏い、首から異様な形をした透明の石のペンダントをぶら下げている。彼を見下ろせる事から、身長はとても小さい。百五十あるかどうかであろう。彼は私に言った。
「さあ、こちらへ。王は貴方が来られる事を、首を長くしてお待ちしております」
何が何だか状況が理解できないまま、私は彼の後を着いて行った。
神殿の奥の、石柱の中央にどんと置かれた玉座に鎮座する人物の前まで案内された。
その人物の顔は見えない。黒いフードで隠れていて、唯一人目に触れる箇所は、骨と皮だけになって痩せ細った両手だけだ。私はこの人物に、不思議な威圧感を覚えた。
「お連れしました、我が王よ。彼こそが名高いドミンゴの竜騎士であります」
「ほう……目付きが良いな。名は何と申す?」
「黄金色の竜、アリウスと言う。まずは問いたい。ここはどこだ? 私はどんな状況にいる?」
「何だ、ジゼラよ、何も説明しなかったのか」
「ええ、召喚してからすぐにここへ案内しましたので……申し訳ありません」
ジゼラという名を持つ彼は低姿勢で一歩下がった。
玉座の人物が王の地位にある事はジゼラの話し方、態度から本当だと見受けられるが、一体何の王なのかさっぱり不明だ。私をからかっているのか。
「簡潔に言わせてもらえば、我は死神の王なり。そなたは召喚士ジゼラによって魂を現世と冥界の狭間にある契の神殿に召喚されたのだ。ここに召喚された者は死神となる。そなたは今から死神として我に仕え、死神として第二の人生を歩むのだ。さて、これで理解はできたかね?」
「……死神とは架空の存在ではなかったのか?」
「そんなはずなかろうに。魂の管理者がいなければ行き場に迷う魂が辺りをうろつき、良からぬ事が起きてしまう。それを防ぐために死神は存在するのだ。仕事はただ魂を刈るだけではない。迷える魂を行くべき場所へと連れて行く事もあれば、死期が近い魂を迎えに行く事だってある。時には天国へ先導したり、地獄へ蹴り落とす事もある。もちろん、それは審判が下った魂だけだが」
なるほど、そういう事だったのか。
後に聞いた話によると、肉体から分離した魂はその場で審判にかけられる。吉と出れば白くなり、凶と出れば黒くなる。死神はそれを判断して定められた場所へと魂を運ぶのだ。
色のなかった私は審判にかかる前にジゼラに召喚され、この神殿に導かれた、というわけだ。
どうやら審判にかかる前の無の魂だけが死神になれるという事で、死神の数はとても少ないらしい。地獄へ落ちると考えていた私には思ってもいない好機。私は死神になる事をその場で承諾したのだった。