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大公の間の扉が勢い良く開き、数人の兵士達が殿下とシモンを取り囲む。それに混ざっていたのは、ようやくドミンゴに戻って来た父とヨエルだった。私は安心してその場に崩れ落ちる。
「援軍か。けど、今更遅い。白の魔法石も頂いたし、自慢の竜騎士様もこの状態――」
ロレンツィオがそこまで言いかけた時、私は槍を左手に彼に飛び掛り、右手で首を掴んで床に押し倒して槍を胸部に突き刺してやった。彼は顔を歪ませて私を激しく睨み付け、血に塗れた私の頬に手を触れる。
「いつか必ず、僕の物にしてみせる……世界も、君も」
そう捨て台詞を残し、彼はエッケハルトの時のように霧となって私の刃から逃れた。ようやく親玉が消え去ったが、私の本当の試練はこれからだった。
未だに全身を巡る激痛、心臓が誰かの手によって握り締められるような感覚、頭痛も酷く、右腕には熱して溶けた鉄をかけられているような……我慢できない私は頭を床に何度か叩き付け、それから部屋中に自身の体をぶつけて暴れ回った。
「アリウス、アリウス! どうしたんだ、やめろ! 落ち着け!」
ヨエルが私の背後から両腕を掴む。しかし、私はもがいた。早くこのどうにもならない痛みから逃れたいのだ。既に理性というものは崩壊し、意識だけが残ったまま私の体は暴走している。
もしこれが本当の肉体だったら、私はとっくに死んでいるだろう。仮の姿だからこそ、魂だけだからこそ耐えられるのだ。
「俺を見ろ、アリウス!」
父が私の顔を両手で挟んで目を合わせようとする。しかし、暴れ狂う私は父の手を払って突き飛ばす。同様にヨエルの腕からも逃れ、怪物と化す右腕でヨエルの喉元を掴んだ時、そこで私の記憶は途切れた。
ふと目を開ければ、私は自室のベッドに横たわっていた。白い病人服に着替えて右腕には大量の包帯、背中から胸部にかけても厚めの包帯がしっかり傷口を保護している。
多少の鈍い痛みはあるものの苦痛で顔が歪むような激痛はもう治まっていて、私は体を起こして右側の窓から外を眺めた。暖かい小春日の光――戦争なんて忘れてしまいそうだった。
だが、残念な事にこれからの戦いは更に激化するだろう。まさかクリスタの背中を押している人物が死神だった事には正直驚いたが、それはそれでもっと彼女達を危険視しなければならない。
死神の力は人間を大きく上回るため、クリスタがどんな手段に出るか普通の目線で予想しては駄目だ。最大限に頭を活用し、どんな非行に手を出すか予測をしなければまた国を危険に晒す破目になる。
しかしあの男……私に何の恨みがあるというのか。それだけが私の謎であり、怒りの根源だ。一体魂を何だと思っているのか? 道具以外の何ものでもないという言い方は異常者の決定的な証。奴を消せさえすればクリスタの行動はかなり抑え込めるはず。まずはロレンツィオをどうにかしなければ……。
「やっと起きたか。体の方はどうだ?」
ドアが開き、暗い表情をしたヨエルが入って来た。彼はベッドの隅に腰を下ろす。
「すまない……迷惑をかけて。大丈夫だ。それより、怪我はしなかったか?」
「打撲くらいさ。何も心配する必要はない。が、俺達が来る前に何があったんだ?」
「それは……」口が一瞬で重たくなるが、事実を伝えるために渋々明かす。「ロレンツィオは……死神だった。彼は私を真の死神にしようと何かを体内に埋め込んだのだ」
「真の死神? 今がそうじゃないのか?」
「奴が言うには、精神も肉体も全てが無になる事こそ真の死神の定義らしい。それがどういった状態なのかは不明だが、私が思うにそれはただの怪物に過ぎない。この腕のように……私は怪物になりかけた」
「ロレンツィオ……クリスタよりも強敵かもしれないな」
「そうだな。それに――」私は右手を優しくさする。「現世に来ているのなら任務もあるはず。これから調べなければならない事が山積みだ。エッケハルトや殿下のお体の事も気がかりだが……」
「ああ、そうだった。殿下はもう大分回復されたぞ。シモンも仕事復帰している。一番重傷だったのはお前みたいだな。五日間もずっと眠り続けて……このまま目を開けないのかと怖かった。あの時のように、お前はまた俺を置いて消えてしまうのではないかって」
久々に彼の暗い表情を見て、私は言葉を失った。
どうすればいい? 彼に大丈夫とでも言って、安心させるべきか。いや、それではありきたりで心には響かない。今の私にできる事は――。
「私はお前が死ぬまで守ると誓ったはずだ」右腕を覆う包帯を巻き取りながら、私は続けた。「例えこの体が怪物に成り果てようとも、例え魂が黒く染まったとしても、私はお前から離れない。だから――だからそんな顔をしないでくれないか。私を闇から引きずり出してくれた光が輝かなければ、私はまた闇に落ちる」
ヨエルは視線を下に向けて沈黙した後、唇を噛んで私に笑って見せた。
「ごめんな。お前が嘘つくはずがないのにな。本当にごめん。そうだ、殿下に顔を見せに行かないか? 殿下もとても心配していたし、心労がたたっている今、少しでもそれを取り除いてやらないと」
「分かった、行こう」




