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かんかんかんかんかん・・・
警報器の音が聞こえる。眼を覚ますと、僕はまた踏切の中で寝っ転がっているのだった。
「・・・」
僕は仰向けになったまま、夕焼けが終わり、夜が近づいてきている空を見た。そうしてむっくりと体を起こした。そのまま立ち上がり、無言のまま、慌てず、しかし素早く踏切の外に出た。踏切の前で、電車が通り過ぎるのを待った。電車はごおーっ、たたんたたん、たたんたたんという音をたてながら、僕の前を通りすぎた。僕は電車の車両の中にいる人々が、こちらを見もせずに去って行くのを眺めていた。
(死ねなかったな)
帰り道、僕はそんなことをぼんやり思った。
(死ねなかった・・・)
線路沿いの道を戻り、住宅街を歩いて、商店街へと帰った。やがて家に辿り着いた。そっと玄関の扉を開けると、出る時と変わらない両親の話し声がリビングから聞こえた。その声の主に感づかれないよう、僕は静かに二階に上がり、自分の部屋に入った。自分の部屋に入ると、部屋の電気をつけるよりも早く、パソコンに電源を入れた。
(さてと・・・)
僕はパソコンが立ち上がるのを待った。何でもいい。早く小説が書きたかった。そこに救いがあるのか、自分でも半信半疑だったが、とにかく、やれるだけはやってみようという気持ちになっていた。




