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目を開くと、そこはあの真っ白い部屋だった。目の前ではスチール机に頬杖をついた井出山さんが、ニコニコしながらこっちを見ている。
「いかがでしたか?」
井出山さんにそう問いかけられて、僕は「思い出創作」が終わったことをようやく理解した。
「・・・。」
「おや、どうしました?涙が出ていますよ」
そう言って井出山さんはにんまり笑うのである。僕は慌てて涙を拭った。悲しい夢を見たあとのように、確かに頬が涙で濡れていた。しかし、涙は確かに流したけれど、思い出はかなり物足りないものに思えた。
「正直に言っていいですか」
僕がそう言うと、井出山さんの顔が暗くなった。
「はい、もちろん。お伺いします」
「正直に言うとーーこれからこの後僕がまた人生をやりなおさなくちゃいけないことを踏まえて、正直に言わせてもらいますがーーあっさりしすぎと言いますか」
「あっさりしすぎ」
「はい、かなり薄味でした。この思い出を抱えて、現実に戻らなきゃならないとすると」
僕がそう言うと、井出山さんは慌て、まくしたてるように言った。
「泣いてたじゃないですか!こちらもきちんとデータに基づいて思い出を作ってるんですよ。渡辺さんの場合、母親からの愛情不足が希死念慮に強く結びついているので、ああいう思い出にしたんです」
「それはそうですけど。母とは今はうまくやっているし・・・これが僕が孤児でもあったら、いい思い出なんでしょうけど」
井出山さんは僕の正直な感想を聞くと、「あー」と言いながら頭をぼりぼり掻いた。カツラが少し、前にずれた。
「わかりました、わかりました!ええ、わかりましたですとも!はい!やり直しですね、やり直し。想定内ですよ想定内、なんて言ってもいまの若い人たち、こじらせちゃってるからなあ!あーあ」
「なんかすみません。やり直しって、そんなことできるんですか?」
僕がそう聞くと、井出山さんは調子を取り戻したのか、またにやりと笑った。
「もちろんですよ、渡辺さん。いくらでもアフターケアできるんです。それでは改めて・・・」
そう言うと、再び紐を通した五円玉を取り出して、僕に向けてきた。
「さあ、あなたはだんだん眠くなる、あなたはだんだん眠たくなーる・・・」
井出山さんに誘われるがままに五円玉を見つめると、やがて意識が遠のいていった。




