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-∞-

ボイス企画に寄稿させて頂いた作品は四つだけなのですが、調子に乗って書いてしまったものです。

タイトル「Galleria/美術回廊~生きた証明~」から連想されます(?)通り、四つの絵画の飾られたとある美術館の館長に視点を合わせたものです。

要は物語の案内人というところでしょうか。


書き終わって友人に「サンホラっぽいね」と言われ「ホントだ私の中の中学二年生が大暴れだっ!」と赤面した覚えがあります。

サンホラ大好きです。

 ――あぁ、今日もまた日が落ちた。ようやく、私にとっての至福がやってくる。




 カツン、カツン……。


 やぁ、お嬢さん。こんばんは、良い夜だね。おや、今日は随分と機嫌が良いね。君は笑っている顔が何より素敵だと私は思うよ。

 そう、待ち人が? それは良かったね。君にそんな顔をさせるような人がいたとは知らなかったけど、君がそんな風に笑っていられるのなら、それはどんな形であれ幸せなことだろうね。

 幸せ? そうだろう、きっとそうなのだと思うよ。ああ、泣かないでもいいんだ。私はただ君にそこで笑っていて欲しいだけなんだから。そうだろう? 泣く理由など探す必要は無いさ。ほら、そんなに泣くとまた着物が濡れてしまうよ。せっかく綺麗な赤い着物を着ているのだから。

 ……良い子だね。まるでそう、人形みたいだ。もう泣かないでおくれよ。他の子が皆起きてしまうからね。

 おやすみ、お嬢さん。良い夢を。



 カツン、カツン……。



 こんばんは、坊や。まだ寝ていなかったのだね。また悪戯をしていたのかい? いけないよ、坊やはもう寝る時間なのだから。

 ……そう、新しい玩具が? それは良かったね。けれど悪戯ばかりしていてはまた壊れてしまうよ。君の玩具には限りがある。それをちゃんと知っていなければ。……そう、坊やならきっとそう言うと思っていたよ。でもね坊や、壊れた玩具はもう元に戻らないのだよ。……ああ、そうかもしれないね。元々壊れていたのなら、仕方がないね。

 坊やが笑っていられる内は、きっと大丈夫なのだろうね。なに、こちらの話だよ。気にしないでいい。

 もうお休み、坊や。君がいつまでも眠らないでいると、君以外の皆が眠れなくなってしまうよ。

 ……私と? ……嬉しいお誘いなのだけれどね、私には明日も仕事があるのだよ。おやおや、そう駄々を捏ねないでおくれ。君が遊ぶのと同じくらい、私はこの仕事を愛しているのだから。

 ……そう、良い子だ。また明日。お休み、坊や。



 カツン、カツン……。



 やあ、いい夜だね、我が友よ。こんばんは。それともおはようと言うべきなのかな? そう、どちらでも構いはしないさ。時間など我々には関係のないものだ。

 ああ、君も相変わらずのようで何よりだ。ああ、いや、厭味で言っているわけではないんだ。何が君にとっての幸いかは分からないけれどね、私が考えるに、君はそこにいることこそが幸いなのだろう? 違うのかい?

 ……ほう、知らない間に考えが変わったみたいだけれど、何があったのかを聞くのは野暮というものだろうね。知らなくても構わないものというのは、この世には無数にあるものだしね。

 私? そうだね、変わったといえば私も今日は一段と機嫌が良いんだ。何故かはまだ聞かないでおくれよ。後の楽しみが無くなってしまうからね。

 今日は客人もいるようだし、私はそろそろ失礼するよ。あまり羽目を外しすぎないように、とだけ忠告させてもらおうかな。

 それではおやすみ、親愛なる友よ。良い夢を、或いは良い一日を……。



 カツン、カツン……。



 ……こんばんは。あぁ、別に返事を期待しているわけじゃない。君はどうせ彼の人以外の全てのものに興味などないのだろう? 分かっているさ、君も私と同じだからね。

 それはそうと、今日は良い報せがあるのだよ。と言っても、別に君にとって利があるというわけではないのだが、ただ私が誰かに語りたいだけなのだろうね。君は何も言わず何も聞かず、ただ黙って私の話を聞いてくれるから、私は君と何かを語らうのが何よりも楽しみなのだよ。

 そう、実は今日、ようやく注文していた額縁が届いたのだよ。君も知っているだろう? そう、特別な額縁だ。

 ああ、もちろん君たちのそれも上等の品だよ。君たちに合うように私が特別に造らせたものばかりだからね。だが、あれはそれらとはまた違うんだ。

 この額縁はね、この額縁自体に秘められた物語があるのだよ。それがどんな物語かはここで語るには易くない。それにその内知れることになるだろうしね。

 今の私はね、この額縁にどんな絵を飾ろうかと、そればかり考えているのだよ。

 ああ、この額縁には一体どんな物語が相応しいだろうか。悲しい悲恋か。それとも身の毛もよだつような物語か。静かな湖面に浮かぶ木の葉のように儚い夢か。荒波に抗う術もなく翻弄される、小さな箱船の冒険の物語か。ああ、どんなものにせよ、この新しい住人に相応しいものを選ばなくては。

 あぁ、そう。そうだろうね、きっと君には分かってしまうのだろうね。今の私はとても嬉しいのに、同時にとても悲しいのだよ。この額縁を、私は愛しいと思う反面、壊したいとも思ってしまう。永遠の美というものを、手にすることを望んでしまうのだ。

 所詮、私もここでしか生きられない者なのだね。ここに在り続けながら、私も何かを待ち続けているような気がする。何を待っているのかなど、疾うの昔に忘れてしまっているのだけれど。

 あぁ、叶う事ならば、この額縁を埋める物語を、私自身の身を持って描いてみたいものだ。それは一体、どんな物語に成り得るのだろうね……。




 ――……おや? まだこんな所においでだったのですか? 扉はもう、疾うに閉めてしまいましたよ? ……仕方のない方ですね。良いでしょう。本日は特別に、私自ら物語りの奥深くまでご案内いたしましょう。

 さて、貴方はどんな物語を、ご所望になりますか……?





 扉は閉まり、そして物語は終わりを告げる――。




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