Ⅴ土曜日の暴露(2)
「ところで英里さん」
この体勢でところでも何もないのでは…?
というのも、私たちは先ほどの体勢のままリビングの床に座りこんでいた。
「俺のこと、ずっと見てたよね」
「っ!?」
びっくりして、何も言えないまま振り返って彼の顔を見つめた。
その目に映る自分の顔は、なんともいえない間抜けな表情だった。
「…んっ?」
唇に、何かが触れた。
一瞬で離れたそれを理解した途端、落ち着きかけていた思考を再び乱した。
「ていうか、そろそろ気付かないかな。俺は貴女が好きだってこと」
至近距離で熱い、真剣な彼の目に打ち抜かれる。
「えっあっ?」
「ちょっとどころかだいぶ強引だったんだけど…もう止まれないから」
本性出して、いいよね?
優しい、だけど確固とした意図を持つ腕に、私は囚われてしまった。
否、ずっと前から、この強い瞳から目が離せなかったのは私。
――――逃げ出そうとしなかったのも、私。
彼、城川巳槻は、社内で知らない人はいないと言えるほど、顔良し器量良しで有名な男だ。もちろん仕事は難なくこなす。
同期であるにも関わらず知らなかった私ははっきり言って異様である。
初めて彼の話を聞いたときの私は、正直うさんくさいと思った。ドラマでもない限り、そんな完璧な男なんているはずがない、そう確信してさえいた。
あるとき、彼と同じ企画のチームに入ったことがきっかけで、彼を観察してみようと思った。私の自論が正しいかどうかにあまり興味はなく、対象が近くにいたためにただなんとなく見ていただけだ。
結果としてはある意味では正しいと考えられるようなものであったが、明確に正しいとは言えない結果だった。
どういうことかは後で述べるとして――ひとつだけ、わかったことがある。
いつの間にか、彼の領域から抜け出せなくなっていたのだ。