10/12
Ⅴ土曜日の暴露(1)
「ねぇ英里さん、どこへ行こうとしたの?」
幼い子供に向けるような表情でさえも、どこか艶めいた彼の雰囲気にのまれてしまい体が動かない。
「いや、その、帰ろうと…」
こちらに近づいてくる歩みの速さは普通なのに、とてもゆっくりと感じる。
来てほしくないような、もっと近くに来てほしいような、矛盾した思いがうまれる。
顔をのぞきこむように頭を下げてきて、私は自分が俯いていることに気がついた。
彼の手が私の頬に触れた瞬間、思わず私は走り出そうとしが、それは叶わなかった。
ぎゃー!
心の中でそう叫ぶほど、私の頭は混乱していた。
「英里さん逃げちゃ駄目でしょ」
後ろから両腕で抱きすくめられて、彼の胸に触れる背中が燃えるように熱い。
心臓が激しく鳴り、音が体を通して伝えられそうなほどだった。
「逃げなきゃ奪われる!」
今朝に言われた言葉が頭をよぎる。
―――大人しくしないと、襲うよ?
「何が?」
ぎゅ、と逃げられない程度に力が入った。
処女だなんて言えるかー!!
「私の身体が」
「…へぇ」
まずい、非常にまずい気がする。
こうして冒頭に至るのでした。