「チャンスを掴むには、犠牲だけでなく努力が必要だ。」
一日が過ぎ、アーサーは自室で体を伸ばす。
今日はメリー先生がタルミの決めたスタメンを発表する日だ。
急いで昼食を済ませ、学校の制服に着替える。赤いブレザーに白いズボン、ネクタイを締め、鞄を肩にかけ、寮のドアを開ける。
隣室のヴァートが丁寧に日本式の礼で挨拶してくる。
もう一人の隣人、ヤミも奇妙な日本人少年で、ニコニコしながら手を振る。
アーサーは挨拶を返し、興味を持って尋ねる。
「ねえヤミ、どのクラスなんだっけ?」
ヤミはわざとらしく傷ついた顔をする。
「えぇ!? 同じクラスだよ! 俺、幽霊じゃないよぉ〜!」
大げさな声で。
アーサーは驚く。本当に気づいていなかった。
「ごめん、見てなかった……」
少し恥ずかしそうに。
教室に向かう道中、アーサーはヴァートとヤミと楽しげに話す。
少し信頼を求めて、ヴァートに尋ねる。
「ヴァート……俺、最初の試合でスタメンに入れる可能性、あると思う?」
不安げに。
ヴァートは一切の遠慮なく、ストレートに。
「いや、正直ないと思うよ、アーサーくん」
アーサーはさらに自信を失う。
教室に着くと、チョークと開いた窓の匂いが懐かしい。
みんなおしゃべり中。メリー先生はまだ来ていない。
黒板にはスタメンが書かれている。
センターフォワード:ソニー
左ウイング:ケルミン
右ウイング:ロドリギーニョ
攻撃的MF:タルミ
サポートMF:ヤミ、ヴァート
センターバック:オリバー、カール
左SB:ニコール
右SB:ミンソク
GK:イェルム(スウェーデン出身の落ち着いた壁)
アーサーはすぐに反応できなかったが、心に不安が広がる。
やっぱり父の言う通りか……。
予想はしていたけど、ベンチスタートだ。
メリー先生が「おはよう」と入ってきて、普通に数学の授業を始める。
休み時間のチャイムが鳴る直前、メリーが天気の話のようにさらっと。
「今日の午後5時、1Yとのリーグ戦がある。
招集された者は全員グラウンドに来なさい」
ざわめきが広がり、チャイムと同時に生徒たちが獣のようにドアへ殺到する。
廊下を歩いていると、ソニーに会う。
いつもの笑顔だが、目は相変わらず評価するように鋭い。
「アーサー、スタメンになるために何をする?
みんなを犠牲にする? それとも自分を犠牲にする?」
興味深げに。
アーサーは意味が分からず。
「犠牲って……どういう意味?」
ソニーはそれ以上何も言わず去る。
チャイムが鳴り、授業が終わる。
嬉しそうな生徒、友達と予定を立てる生徒。
アーサーが教科書を片付けていると、ミンソクが近づいてくる。
「お前だけ補欠だろ? 恥ずかしくないの?
クラスで一番下って超恥ずかしいよな。
で、お前のポジションは?」
軽蔑たっぷりに。
アーサーは立ち上がり、拳を握りしめて白くなる。
「何だよ!? 舐めんなよ、このクソ野郎!
俺はウイングだ! なんで聞くんだ?
お前のクソみたいな右SBの座が奪われるのが怖いのか!?」
ミンソクは嫌悪の目で。
「相変わらず、下等生物が上等な人間の間にいられると思ってるんだな……」
独り言のように呟き、去る。
アーサーは屋上へ上がり、休憩する。
そこにアリスが座っていて、挨拶してくる。
「やっほー、アーサー! 元気?
なんか落ち込んでるね。スタメンに入れなかったから?」
あまりにも優しすぎる笑顔。
アーサーは少し疑うが、信じてみる。
「……そうかも。なんでそんなに気にするの?」
アリスはさらに笑みを深く。
「だって、クラスメイトが心配なんだもん!
みんな幸せでいてほしいじゃん!」
アーサーは少し頷く。
「……そうだね。ありがとう」
アリスは去り、アーサーは一人残る。
ボールを蹴り始める。
最大記録は30回。いつもそこで落ちる。
26回目で落とし、また練習。
試合1時間前になり、ボールを拾ってグラウンドへ。
仲間たちがウォーミングアップ中。
観客席には20〜30人、暇な生徒が見に来ている。
ベンチから見る1Y。
特に目立つ二人がいる。
スペイン人のマヌエル、異常にハイテンション。
試合開始のホイッスル。
ソニーがセンターサークルから素早くキックオフ、ヴァートが受ける。
ヴァートは落ち着いてオリバーへバックパス。
オリバーは叫ぶ。
「上げろチーム!!」
パスというよりクリア気味に蹴る。
ヤミが楽にトラップ、前から1Yの選手が猛スピードで来る。
ヤミはルーレットでかわし、股抜きパスをソニーへ。
ソニーはオリエンテッドコントロールで背後のDFを外し、シュート……
だがマヌエルが中盤から猛ダッシュでクリーンなスライディング!
スタンドから「オオオオ!」
マヌエルがボールを奪い、笑いながらドリブル。
ソニーをプレスするが、股抜き。
中盤まで運ぶ。
守備が殺到。ヤミとミンソクがサンドイッチ……
だがマヌエルは簡単に抜け、イングランド人のマックスとワンツー。
カールを抜き、オリバーがラストマンになるが、マヌエルは素早くオフサイドラインを抜け、マックスがループパス。
イェルムが飛び出すが、マヌエルが軽くコースを変えてループシュート。
ゴール。
メリーはベンチで眉を少し寄せ、ノートに記す。
4分で先制された。
試合再開。
タルミがソニーからセンターサークルを受け、落ち着いて進む。
一人目はフェイント、二人はレインボー。
流れるようなドリブルでプレスをかわし、左足でクロス。
曲がりながら落ち、ソニーがスプリングのように跳び、シザースキック!
DFの上を越え、高さと跳躍力で。
GKは予測不能の質の高いシュート。
ゴール。
アーサーはベンチから飛び上がり、歓喜。
2分足らずで同点。
ソニーのスーパーゴールに拳を握り、輝く笑顔。
メリーの肩の力が抜け、メモを続ける。
ピッチでソニーがタルミに。
「アシストありがとう、キャプテン」
笑顔だが目は冷たい。
タルミは無表情。
「パスをもらわないと何もできないって、無能じゃないか?」
ヴァートが笑顔で仲裁。
「まあまあ、議論は後に。
彼は彼のやり方で輝くんだから、続けよう」
相手を指す。相手は目覚めた。
時間が進み、40分。1YのCK。
マックスが強烈なクロス。
マヌエルがペナルティスポットで背を向けてバイシクル……
失敗気味だが、別の1Y選手が押し込む。
ゴール。
イェルムがミンソクを睨む。
「もっと頑張れ。上がるとき穴開けすぎ。ニコールはそんなことしない」
ミンソクは怒り。
「お前だって2失点だろ、黙れよ」
6分後、ハーフタイムのホイッスル。
ハーフタイム。メリーの指示。
「聞いて。マヌエルとマックスは抜群の相性。
マックスの危険なクロスをマヌエルが爆発的に合わせる。
後半、アーサー、ミンソクに代わって入って」
沈黙。
ミンソクOUT、アーサーIN?
問題はアーサーが右利きでSBじゃない。ウイングだ。
右SBに置くのは本人にもチームにも拷問。
タルミが最初に口を開く。
「でもアーサーは右利きのウイングですよ。
右SBに置くのはチームに負担が……」
メリーは即答。
「分かってる。でも試したいことがある。
後半はSBをより攻撃的にする。
アーサーは右サイドを上がってロドリギーニョをサポート。
あいつはドリブルばかりで時間浪費してる。スペースがないから」
選手たちは立ち上がり。
ミンソクは「チッ」と小さく舌打ち。ソニーが近くを通る。
後半開始。1Yのキックオフ。
マヌエルが狂ったようにドリブル、3人抜き。
オリバーがカットに出るが、マヌエルはマックスとワンツー狙い。
アーサーが運良くインターセプト、ボールが少し跳ねるが落ち着いて後ろへ。
イェルムへパス、イェルムがクリア。
アーサーは速い。右サイドを駆け上がり、ロドリギーニョがイェルムのクリアをアーサーへタッチ。
DFが来るが、アーサーはロドリギーニョへチップパス。
ロドリギーニョがトラベラでケルミンへ。
ケルミンのボレー、GKが奇跡的にセーブ。
こぼれ球をソニーが押し込む。
ゴール。2-2
メリーは満足げに頷く。
アーサーは無能じゃないが有用でもない。でもロドリギーニョを覚醒させた。
ミンソクは攻撃参加しないから、アーサーの賭けは当たった。
1Yのキックオフ。マヌエルが時間を稼ぐパス回し。
攻撃らしい攻撃なし。
アーサーは我慢できず、70分にボール奪取。
右サイドをロケットのように駆け上がる。
コーチの言葉を思い出し、センターも兼ねる。
左足を置き、右足でクロス。
マヌエルをかすめ、ソニーへ。少し悪い位置だが、ソニーはどんなパスでも活かす。
走って跳び、バイシクルキック。
アーサーは呆然。
奇跡的にネットを揺らす。
3-2
1Zベンチは大爆発。
ニコールが駆け寄り、ヤミがソニーの背中に飛びつく。
ソニーはいつもの笑顔。
タルミは満足げだが、ソニーがクロス依存なのは気に入らない。
試合再開。マヌエルがキックオフから弾丸のように。
マックスが即クロス。アーサーが体をぶつけられて転がる。
マヌエルはフェイント、オリバーに股抜き、カールにオーバーヘッド、
エリア内で鞭のようなシュート。
イェルム無力。3-3
時間が進み、90分。1YのCK。
マックスのクロス。アーサーがマヌエルに密着。
マヌエルはアーサーに寄りかかり、空中シザース!
イェルムが伸ばして弾くが、ペナルティスポットに落ち、1Y選手が押し込む。
ゴール。4-3
1Yベンチが大歓声。
終了のホイッスルがアーサーの頭に響く。
自分が責められる……
あのシュートをブロックできていれば、せめて引き分けかカウンターで逆転できたかも。
メリーはタブレットをしまい、何の苛立ちもなく去る。
アーサーは芝に座り込み、汗だく。
ソニーがいつもの笑顔で水を差し出す。
「いい試合だったよ、アート」
アーサーは振り向き、拳を白く握る。
「でも俺のせいで負けた……」
苛立った声。
ソニーは眉を上げ、平坦に。
「じゃあ自分を犠牲にする方を選んだんだね。
変わった選択だな。まあ、水飲めよ、アート」




