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「一つのチャンス、一つの夢」

家族の典型的なロシアの居間から物語が始まる。

豪華な部屋ではないが、質素で温かみのある空間だ。壁には家族の思い出が詰まった四角い写真が飾られ、キッチンからはパンの焼ける香りと温かい食事の匂いが漂ってくる。


廊下のドアから、身長およそ170cmの少年が入ってきた。

スポーツユニフォームがびしょ濡れで、小さなバックパックをソファに放り投げる。


「ただいま、パパ。」

青い髪の少年がそう言いながら、バスルームに向かう。


「アルトゥールが……帰ってきた……」

床に散らばったおもちゃをぶつけ合って遊んでいた小さな人影が呟く。


アルトゥールは振り向く。

3歳の妹アリアが、両手を激しく振って喜んでいる。まるで何年も会っていなかったかのように、たった2時間の留守のあとでも。


キッチンから、バラのように鮮やかなピンクの髪の女性が出てきた。

目も髪と同じ色。世界中の愛情を込めて、息子に言う。


「アルト、シャワー浴びなさい。汗の匂いがすごいわよ。」

シルヴィアはからかうでもなく、素直にそう言った。


アルトゥールは振り返り、平坦で少し苛立った声で答える。


「ママ、それをするつもりだったんだけどさ。アリアが毎回、俺が世界一周して帰ってきたみたいに見るから……」

皮肉を込めて。


シルヴィアは小さく頷く。


「そうね。じゃあ早く浴びておいで。もうおやつ用意したし、アルマンももうすぐ仕事から帰ってくるから。」

いつもの優しく穏やかな声で。


数分後、欠伸をしながらバスルームから出てきたアルトゥール。

居間にはすでに父アルマンがいて、普通の電気屋が持つような工具箱を置いている。


息子を見て、穏やかに尋ねる。


「試合、どうだった? アルト。」

期待を少し込めた優しい声。


アルトゥールは乱れた髪をとかしながら(というか、とかそうとしながら)答える。


「まぁまぁだったよ。フリーキックの練習ちょっとやったし。……なんでそんな疑うような聞き方するの、パパ? なんか企んでるでしょ。」

少し疑いの目を向ける。父が自分のサッカーの成績を聞くことなんて、ほとんどなかったから。


アルマンは表情を変えずに、淡々と続ける。


「メールが来たんだ。ある機関が君に興味を持ったらしい。普通の学校じゃない。スポーツと心理学が深く関わっている施設だ。才能に目をつけられたんじゃないか、君の。」

無表情だが、ほんの少しだけ誇らしげ。


アルトゥールは櫛を落とし、ゆっくりと振り向く。

信じられない。

サッカー専門の施設? 奨学金?


「パパ……そのセンター、どこにあるの?」

興奮を抑えきれず、声が震える。夢のような話か、悪質な冗談か。


「残念ながら——俺にとっても、君にとっても——そのセンターはドイツにある。当然、父親として一人で行かせるわけにはいかないし、付き添いでもダメだ。」

アルマンは迷いなく、容赦なく言い切る。


キッチンから一部始終を聞いていたシルヴィアが飛び出してくる。興奮と喜びで。


「アルトゥール! 私の子! お母さん、すごく誇らしいわ……本当にすごく……認められるなんて、あなたがずっと夢見てたことだもの……でも、ごめんね。お父さんの言う通り。ドイツに行かせるわけにはいかない。家族と離れるなんて、とても辛い決断だけど……でも大丈夫! 人生にはもっとチャンスが来るから!」

励ますように、でも少し涙声で。


1時間後。

家族でおやつを囲むが、アルトゥールにとっては息苦しい空気だ。

こんな機会を逃すなんて、耐えられない。


アリアは小さな声で「ママ、明日スーパー行ったらアイスたくさん買って〜」とねだり、

アルマンは静かに食事を楽しみ、

シルヴィアはアリアの言葉に笑っている。


「……パパ、ちょっと話がある。」

真剣を装った声で切り出す。


「また落第科目でもあるのか?」

アルマン、平坦で少し苛立った調子。


アルトゥールは眉を寄せる。


「違うよ。奨学金の話。……俺、あれ嫌だ。」


沈黙が少し続く。

やがてアルマンが返す。


「何? ドイツに行って迷子になりたいってか?」

皮肉たっぷりに。


「まさにそれ。行きたい。頼むよ、パパ……こんなチャンス、もう二度とないよ。」

切実な、懇願するような声。


シルヴィアが間に入る。


「ねえ、アルトゥール……そんなに必死にならなくても。お父さんなら何か方法を——」

温かく慰める声。


だがアルマンは即答。


「ダメだ。危険だ。それに家族から離れるなんて、メリットがない。」


アルトゥールがついに爆発する。


「いやだ! お願いパパ……! サッカー選手になれない未来なんて想像できない! お願い……ママ! 説得してよ!」


シルヴィアの心が引き裂かれる。


「……アルマン、もしかしたら……行かせてあげてもいいんじゃないかしら。アルトゥールがこんなに嫌がってるの、見てられない……」

少し自信なさげに。


「シルヴィア、正気か? ドイツに放り出すなんて、馬鹿げてる。」

苛立ちを隠さない。


「パパ! お願いだよ! 考えて! こんなチャンス、俺みたいな歳の誰だって夢見るよ! プロになれるかもしれないんだ! 電気屋にも事務員にもなりたくない! サッカー選手になりたいんだ!!」

立ち上がり、怒りと悔しさで叫ぶ。


アルマンは片眉を上げ、興味深そうに。


「……仮に行かせたとしても、プロになれる保証はないぞ、アルト。世界中から集まる奴らの中で目立てるのか?」

冷静に、だが少し苛立っている。


アルトゥール、言葉に詰まる。

確かに保証はない。

才能ではなく、努力でここまで来ただけだ。


「……でもな。興味はあるんだ。お前が本当にやれるのか、世界でどれだけやれるのか。無責任かもしれないが……行かせてやる。俺のプライドと好奇心が、責任を上回った。」


シルヴィアは喜びと不安が入り混じる。

息子の夢が叶う。でも遠く離れる。胸が締め付けられる。


「……でもアルマン、誰か一緒に行かせないと……ミュンヘンの街を一人で歩かせるなんて……」

小さな心配そうな声。


「大丈夫だよ。港に着いたらセンターの人間が迎えに来て、案内してくれる。アパートも用意されてるし、食事も無料だ。心配いらない。」

冷たくも、妻に対しては少し柔らかく。


「……そうね。アルトゥールが大丈夫なら……私も受け入れるわ。」

悲しげで温かい目で息子を見つめる。


アルトゥールはようやく現実に戻り、震える声で。


「……ありがとう……本当にありがとう、パパ。ママも、ありがとう……!」


数分後、食事を終えたアルマンが言う。


「いいか、アルトゥール。明日、入学手続きの書類を埋めて送る。返事が来たら次の日には船のチケットを手配する。一週間後には出発だ。友達に別れを告げろ。監督とチームにも、学校にも連絡しろ。」

そう言って手を洗いにキッチンへ。


……


数日後。

アルトゥールは荷造りをしているが、一度外へ出て気分転換。

あと4日ほどで出発だ。

サンクトペテルブルク → ヘルシンキ → ストックホルム → トラーヴェミュンデ(ドイツ)。

船旅で3〜4日かかる長い旅。


帰宅後、荷物を詰め続ける。

マンガ、必要な服、香水、櫛、サッカーブーツ、服、イヤホン、ノートパソコン……


荷造りが終わり、下に降りると

アリアがクレヨンで一生懸命絵を描いている。

シルヴィアはキッチンで家事をしているが、少し寂しそうだ。

アルマンは仕事中だろう。


午後2時。

退屈になり、いつものグラウンドへ向かう。


歩いて着くと、監督がいつものように芝を刈っている。

挨拶すると、監督は笑って通してくれる。


「やれやれ、アルトゥール。お前、裏切り者だな。チーム捨ててドイツか。俺なんか2回離婚してるのに、これが一番キツイわ!」

大笑い。


アルトゥールはため息。


「……3回じゃなかったっけ?」

皮肉で返す。


監督、胸を押さえて大げさに。


「ぐはっ! しかも追い打ちかよ……前の嫁より酷いぞ、お前。まぁ、明日出発だろ? いいコーチとして、最後にプレゼントを用意したぞ。」


アルトゥールの目が輝く。

新しいスパイク? 何か物?


「プレゼントってのはな——お前のゴミみたいな精度を、少しはマシにしてやるってことだ。」


アルトゥール、明らかにムッとする。


ボールを受け取り、監督が指導を始める。


「インステップで蹴るときは簡単だ。自分の足のどこで当てるか分かれば、ボールはそこに行く。

ボレーもお前得意だろ? フリーキックはゴミだけどな。

インサイドで蹴ると曲がる。だから自分の曲がり方を覚えないと。

サポート足を向ける方向、重心を落として蹴る——これはできてる。

でもインサイドは狙った方向にそのまま飛ばない。曲がる分を計算して、少し外に狙え。

見てろ。」


監督が構え、助走。

左足を左に置き、右足のインサイドで強く蹴る。

ボールは綺麗にカーブを描き、左上の隅に吸い込まれる。


アルトゥール、納得した顔で頷く。

何度も試す。

最初は真ん中。失敗。

何度も、何度も。


数時間後——

ようやく感覚がつかめた。

左足を右上の隅に向け、右足のインサイドで少し右寄りに蹴る。

ボールは緩やかにカーブを描き、ポストのすぐ内側を抜けてゴールネットに突き刺さる。


アルトゥールは拳を握り、燃えるような笑顔を浮かべた。

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