第3話 魔力適応率
元アーク=レイヴンは現状をエリュシオンたちとラグナに説明する。自身が九十九章司という日本人に転生しつい最近になり前世を思い出したことを。さらに魔力適応率が低いことを。ちなみにそれらの報告はアークが作り出したこの世界に唯一存在する豪邸にて紅茶を飲みながら行われている。
「転生ですか~すごいですね~」
「そう言われれば確かにご主人様から感じる気配が弱い気がするかも?」
「でもご主人様ならさ!すぐに魔力適応率?を100%にしちゃうんじゃない!」
「……それは無理……」
椅子から立ち上がり元気よくそうアンシュが言うがその言葉はすぐさまネルによって否定された。
「そうなのアーク?」
ネルの否定の言葉を聞いたラグナが章司に問いかける。
「今は章司だよラグナ。そしてネルの言う通りこればかりは時間がかかることだね」
章司がそう言うと台所から戻ってきたミューリが紅茶のおかわりを持ってきた。
「おかわりはいかがですか?ご主人様」
「いただくよミューリ」
ミューリが紅茶を入れながら魔力適応率について言及する。
「魔力適応率とは身体と魔力の親和性のことを差します。いわばご主人様の新たな身体がいまだ魔力に慣れていないということ。これを魔法では解決できないのですよ」
「だね。魔力が目覚めて約2週間で1%→5%に上がったがこのまま一定のペースで上がり続けるのかそれとも上がりにくくなるのか。こんなことは初めてだからこれからどうなるのことやら……」
結局は魔力適応率がいつ100%になるかは大魔導士アーク=レイヴンであってもわからないことのようだ。そんな少し気落ちした空気を切り裂くように1人お酒を飲んでいるキントが口にする。
「問題ねえだろ。ご主人様なら今の実力であらかたをなんとかするだろうし、いざというときにはあたしらがいる。そのためのエリュシオンだろ?」
「その通りです。いつでも我々をお呼びくださいご主人様。我々の使命はあなた様をお守りすることにあるのですから」
そういうとミューリが恭しくお辞儀をすると自然な形でほかのエリュシオンたちも立ち上がり同様にお辞儀をする。アンシュは慌ててお辞儀をしたしラグナはする必要がないのに空気を読んでお辞儀をしていたが。
「ふふ……これから頼ることが多くなるだろうが……よろしく頼む」
「「「イエスご主人様」」」
こうして章司はできるだけ魔力適応率の上昇速度を上げるためと現状での魔法の確認もあわせて自身の異界で魔法の訓練を初めた。それは約1ヶ月後に開催される冒険者国家試験に向けてのことだった。
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--2056年9月--
冒険者国家試験まで数日後に迫った日。この1ヶ月間で章司はこの異界にて魔法の練習を行い続けてきた。無職となったので時間は余るほどにあり生活に関しては貯金を切り崩しながらこの1ヶ月間は生活していた。
そして今もまたエリュシオンのキントと戦闘を行っていた。
「どんどん行くぜご主人様!」
ドン!
キントが使用している武器は天使であるエリュシオンのみが使用できる光を武器の形に成形する光器。その形は各エリュシオンで違いキントは光器” 手甲” 。格闘戦特化のそれは故に圧倒的速度を持つ。
高速で駆け章司に近づこうとするキントに章司は魔法で対抗する。
「火系統魔法≪10の火の玉≫!」
10の火の玉が章司から放たれる。近距離からいくつもの火の玉が向かってくるキントはしかしそのすべてを見事な反射速度で弾き返す。
ダダダダダッ!
「もらっッ!?」
バッ!
すべての火の玉を弾き返し己の拳が届く距離まで近づいたキントは振り下ろそうとした直感が働きその場から大きく後退。するとそれまでキントがいた地点に上から1つの火の玉が高速で落ちてきた。
「……1個隠してやがったな?……」
「俺は弱いんだ……工夫が必要なんだよ……」
章司がキントに対して放った火の玉は9個。もう1個は背中に隠しすべての火の玉を弾いたと錯覚し油断しているキントに上方向からぶつけるというのが章司の作戦だった。しかしそれはキントの直感にてかわされたが。
「へへっ!上等だ!だったらあたしも本気で『そこまでです』って止めんなよミューリ!」
ミューリが声をかけ戦いを終わらせる。その周囲にはその戦いを見ていたであろうエリュシオンの面々がいるがみんな序盤で飽きていた。
「何時間やってるかわかってる?これだから戦闘狂は」
「ああ?てめえだってこの前にご主人様と遊びすぎて怒られてただろうがチビツィール」
ツィールは自身の背が小さいことにコンプレックスを持っている。
「……いま……チビって言ったか?ゴリラ……」
「なんだ?もっと言ってほしいのか?小人のように背が小さいチビツィールちゃん?」
睨み合う両者。そんな一触即発の事態にいつものことと周囲の面々は我関せず。だがミューリの言葉によっていつ爆発してもおかしくなかったそれは不発に終わる。
「今からセリシーのお菓子を食べながらピクニックですが戦うのならあなたたちには必要ないですね」
「「……フン!……」」
「うふふ~仲がいいね~」
「「良くない!」」
そんなこんなでエリュシオンの料理担当のセシリーの手作りお菓子を食べながら今後についての話し合い。
「いかがですか?ご主人様」
「うん……大体10%って感じだな……」
「約一月半ほどで1割……このままいけば一年を超えてしまいますね……」
「それで済めばいいほうだろ」
章司の力について話し合っている章司とミューリ。しかしそんな章司をじっと見ているアンシュ。
「う~ん……ご主人様っぽくないな~……」
「うんうん」
アンシュのその言葉にラグナは頷きで同意する。それに呆れるのはミューリ。
「いつまで言っているのですか?今のご主人様はかつてのアーク=レイヴン様ではなく九十九章司様なのです。いくら前世の記憶を取り戻し性格も前世となったからと言って今世の人生が消えるわけではありません」
「今までが昔に引っ張られてただけでこっちが九十九章司としては普通だからな。慣れてくれとしか言いようがない。というか俺としてはそこまでの変化はないと思ってんだけどな?」
「だって……ねえ?ラグナちゃん?」
「うんうん。アークがアークじゃない感じする」
「そりゃそうだろう。だってアークじゃないからな」
彼はアーク=レイヴンとしての記憶を思い出しただけの日本人の九十九章司だということだろう。
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