最終回、王子と令息と黒豚と
「ジルド…?」
婚前パーティーも終盤。アルバートが改めてリリーシアに夫婦の誓いを述べようとした時、招かれざる客改めジルド・クラウディア乱入。
「…なんの御用ですか、クラウディア様」
「リリーシア、なんだその素っ気ない挨拶は。俺は婚約者だぞ」
「元婚約者ですわ。クラウディア家では招待状なしに殿下のパーティーに参加するような無礼な振る舞いをなさるのですか?」
ジルドの突然の乱入にも動じず、リリーシアは素っ気ない態度を示す。参加者の貴族達も、ジルドの身勝手な行動に呆れていた。
「あの方たしか…リリーシア様の」
「あぁ、ジルド・クラウディアですわ。リリーシアとの婚約を破棄した…」
「リリーシア様はアルバート殿下と婚約なさっというのに…今さら何の御用かしらね」
皆ジルドを見てヒソヒソと話す。
「リリーシア…今さらながら勝手だが、君と婚約破棄をしたことを後悔している。だから…もう一度君とやり直したいんだ」
「まぁ、本当に今さらですわ。散々婚約者の容姿を小馬鹿にしたり街の店の外観を小汚いと侮辱したり。私なんで貴方のような方を好いていたのか今でも疑問ですわ」
リリーシアのカミングアウトにジルドは青冷める。話を聞いていた貴族達は「まぁひどい」「最低ですわ」と陰口を叩く。
「それに私、こちらのアルバート殿下と婚約をなさったというのに。クラウディア家の存続をかけての宣戦布告でしょうか?」
ジルドは焦った。
リリーシアの隣りにいるのは、先進国であるカリファチュア王国の王子。下手に機嫌を損ねれば、失爵か最悪の場合クラウディア家は没落するだろう。
「ジルド・クラウディアと言ったね。噂で聞いたけど、君の家は婚約解消をしてから景気が芳しくないらしいね。もしかして、存続のためにリリーシア嬢とヨリを戻したのかな?」
アルバートが言葉にジルドはギクッと顔をしかめた。どうやら図星のようだ。
「まぁ、ひどい!家督存続のためにリリーシアを利用するなんて!」
「ますます最低な方ですわ!」
周りの怒りもピークに達する時、リリーシアが口を開いた。
「皆様落ち着いてくださいな。クラウディア様、わかりました。私のお父様にお願いして、クラウディア家にいくらか寄付金をお渡しします。…但し条件として、二度と私の前に現れないと約束をしていただけるのならですが」
言い方はキツいが、優しさもあった。いくら一方的に婚約破棄した相手でも、一度は本気で愛した殿方を無下には出来ないと、リリーシアなりの善意であった。「リリーシア様、お優しい方ですわ」「私だったらこんな殿方放っておいてますわ」など、リリーシアを尊敬しジルドを貶す声が響く。
「クラウディア様、もう用がお済みでしたらお帰りいただいて結構ですわ。もうすぐパーティーもお開きですから」
リリーシアはそう言って後ろを向くと、ジルドはリリーシアの腕を掴んだ。
「やっぱり嫌だ!リリーシア、君ともう会えなくなるなんて!婚約解消したことは謝罪する。これからは君を傷つける発言は絶対にしない!だから…だから、俺と一緒になってくれリリーシア!!」
会場中に響き渡るジルドの胸の内に、周りがほんの少しだけ同情のような感情が芽生え始めた時…
「……あの、もういいかしら。せっかくの黒豚が冷めてしまいますので」
「…は?」
リリーシアの思いもよらない発言に、ジルドは呆気に取られてたが、他の貴族達も同じような感じだった。
「せっかくの出来立てなのに、冷めては美味しさが半減しますわ。宜しければ、皆様もいかがなさいますか?」
今のリリーシアには、ジルドの熱い胸の内よりも黒豚の丸焼きの方が大事だった。これにはちょっとだけ、ジルドを同情する声がした。
その後リリーシアは無事アルバートと結婚した。一国の王子の結婚に、各国で大々的なニュースとして取り上げられた。
一方のジルドは、あのパーティーの後から屋敷に籠るようになってしまった。自分が黒豚の丸焼きに負けたことがショックだったようで、自室で「黒豚…丸焼き…」とブツブツと呟く声がすると、クラウディア家の使用人達が影で噂していた。
王妃となったリリーシアは、伴侶であるアルバートを支えつつ各国の色んな料理を満喫する。やがて子宝に恵まれ、リリーシアは前世で味わえなかった幸せと料理を噛み締めながら、今世を歩んでゆくのであった…。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
良かったら感想を宜しくお願いいたします。




