6、お残しは許しません
馬車を走らせてしばらくして、リリーシアとアルバートは偶然目に留まったレストランに立ち寄った。レトロな雰囲気の小ぢんまりとしたレストランだが、一国の王子が入るにしては場違い過ぎて目立っていた。他のお客も、隣国の王子が何故こんな小さなレストランにいるのか気になってジロジロ見ていた。
「すみません。もっといい場所にすれば良かったですね」
「いえ、気にしないでください。こういう場所には偵察がてら良く利用しますので」
リリーシアが申し分けなさそうに言っても、アルバートは快く受け入れてくれて、一国の王子らしい寛大さを見せる。
(ジルドだったら、絶対文句言ってただろうな…)
以前デートで新しく出来たカフェに行こうと提案した時、『伯爵家の人間がこんなみすぼらしい店に入れるか!』と悪態をついたことがある。つくづくなんであんな人を好きになったのか疑問に思うリリーシアだった。
「さ、何か注文しましょう。遠慮なく好きなものを選んでください」
「えーと…そうですね」
リリーシアがメニューを見ていた時、厨房奥から声がした。
「何でこんなに作ったんだ!」
声からして只事ではないと気になったリリーシアは席を立ち、厨房へと向かった。
「リリーシア嬢?」
アルバートもリリーシアのあとをついて行った。
リリーシアとアルバートが厨房中を覗くと、店長とおぼしき中年男性が従業員である若い青年に叱責していた。二人の目の前には沢山のサンドイッチプレートが並んでいた。
「で、でも店長がさっきサンドイッチプレート二十人前作れって…」
「あれはクロワッサンプレートだよ!サンドイッチプレートは一人前で良かったんだよ!」
「えぇ〜!そんな…」
「恐らく、注文ミスをしたんだろう」
「そのようですね…」
二人は厨房裏の事態をただ静かに見ていた。
すると、
「まぁ…しょうがない。これは処分だな」
そういうと店長が作り過ぎたサンドイッチプレートを処分しようとしたのだ。その瞬間、リリーシアの頭に強い衝撃が走った。
(処分なんて……もったいないわ!!)
前世の柚子は、食事を残すことが一番嫌いだった。学校の給食が余った時は誰よりもおかわりをし、流行り病で休んだクラスメイトの給食も柚子一人で全部食べてしまったこともあった。
そして今注文ミスで廃棄されるサンドイッチプレートを見て、リリーシアの中のもったいない精神が走る。
「あの…それ私がいただきますわ」
リリーシアがそう言うと、中年店長と青年従業員、アルバートが揃って「えっ!?」っていう顔になる。
「い、いやお客様。さすがに注文ミスの料理をお出しするわけには…」
「私は全然構いません。なんでしたら料金もお支払いしますわ」
「い、いえお代は結構です。すぐにお席までご用意します」
そう言うと店長は従業員総出でプレートを席に運ぶ準備をする。リリーシアとアルバートはその間席で静かに待つことにした。
数分後。リリーシアの前には大量のサンドイッチプレートが並んでいた。その光景に他のお客がざわつき始める。
「あ、リリーシア嬢…もし良かったら私もお手伝いしますが…」
「いえ殿下。お気持ちは嬉しいですが、私一人で大丈夫です」
そう言うとリリーシアは手を合わせて小さくいただきますと呟くと、サンドイッチを手に取って黙々と食べていく。
早食いではなく、味わうように食事を楽しむリリーシア。その光景をひたすらじっと見ているアルバートと店にいる人達。休むことなく一定のペースでサンドイッチがドンドンなくなっていく。
食べ始めてから二十分後。あんなにあったサンドイッチプレートが、綺麗さっぱりなくなった。
「美味しゅうございましたわ」
リリーシアはナプキンで口元を拭く。周りにいた人達は歓喜の拍手をする。
「すごいぞ。あんなにあったのを一人で食べちまうなんて」
「しかもあんな細い子がだよ」
「一体どこの令嬢なんだ!?」
周りがざわざわするなか、アルバートもリリーシアに拍手を送る。
「素晴らしいです、リリーシア嬢」
「恐れ入ります、殿下」
「ところで…食べ始める前に手を合わせていたのは、どういった意味があるんだろうか?」
(あ、そうか…この国には食べる前に手を合わせる文化はないのか…)
リリーシアは前世の習慣からつい癖でやってしまった。
「えっとー……こ、これは食材などの命に感謝をするという遠い国の風習なんです…」
リリーシアはそれとなく説明すると、アルバートは納得したようだ。そして、
「やっぱり…貴方ほど素敵な女性は居ない。リリーシア嬢、改めて私と夫婦になって欲しい。これからの人生を貴方と共に歩んで行きたい」
アルバートは膝をついて再びリリーシアに求婚を申し込んだ。明らかに場違いだが、周りは突然のプロポーズに歓喜が沸き立った。
(またこんな所でプロポーズなんて……でも、さっきの食べっぷりを見てもプロポーズするなら…悪くはない…かも?)
「こ、こちらこそ宜しくお願いいたします、殿下」
リリーシアが承諾すると、温かい拍手と祝福の声が上がる。アルバートはプロポーズを受け入れてくれたことにとても喜んだ。
この日、一組の夫婦が誕生したことに国中の一大ニュースとなった…。




