5、隣国王子が惚れた令嬢
衝撃の婚約解消宣言から一夜明け、この出来事が国中で話題になっている。
解消宣言をしたジルドは、朝からアルケミス家とクラウディア家両家から叱責される。
『何の断りもなく婚約を解消するなんて、一体何を考えているんだ!』
『クラウディア家に恥をかかせる気か!』
ひどくお叱りを受けたジルドは外出禁止令が出され、しばらく自宅謹慎を受けるはめになってしまった。
一方のアルケミス家では…
「リリーシア、この殿方なんてどうかしら?この方家柄も良くてしかもハンサムよ!あぁでも、こちらの公爵家のご子息も捨てがたいわ」
「まずは腹ごしらえだリリーシア。嫌なことは食べて忘れるのが一番だ。遠慮せずどんどん食べなさい」
リリーシアの両親は、婚約を解消された一人娘の傷を癒やそうと、母はリリーシアに釣り合う縁談を大量に取り寄せ、父は屋敷の料理人フル動員でリリーシアの好物を振る舞った。
これにはさすがのリリーシアも苦笑いを見せる。
(…にしても、これからどうしましょう)
リリーシアは紅茶を飲みながら考える。
ジルドとの婚約を解消したならば、次の結婚相手を決めなければいけない。かと言って見た目や家柄だけでジルドのような屑を選ぶのはごめんだ。この際見た目や家柄はどうでもいい、自分の大食いを理解してくれる人なら誰でもいいな。
リリーシアがそう考えていると、侍女のナティが部屋に入ってくる。
「旦那様、奥様。来客の方がお見えです」
ナティの報告に首を傾げる両親。
「来客だと?招いた覚えはないが?」
「それが、リリーシア様にお会いしたいという方が…」
「えーと…すまないが、もう一度申してくれないか…?」
「はい。私は隣国カリファチュア王国国王の第一王子、アルバート・サーガストであります。リリーシア嬢に求婚を申し込みに参りました」
リリーシアの両親と侍女や使用人達がざわついた。
カリファチュア王国は数ある王国の中で幅広く経済発展を示している豊かな王国として有名である。アルバート・サーガストは父である国王ローバート・サーガストの嫡男、そして国王の右腕として王国の経済や治安を守っている王子である。
そんなすごい人物が何故自分に求婚をしようとしているのか、リリーシアは一人ポカーンとしていた。
「…えーと、閣下。何故私を?」
「リリーシア嬢。私は先日のパーティーで貴方の食べっぷりに惹かれました。今まで多くの女性と出会いましたが、貴方のように他の人には魅了を感じました。どうか私と夫婦になってください」
閣下は膝をついてリリーシアの手を取りながら求婚を申し出た。その光景に両親と使用人達が頬を赤くして見守っている。
(まずいわ…)
リリーシアは今この状況に冷や汗が止まらなかった。
両親や使用人の前で名のある王子が自分に求婚を申し込んでいる。完全に断るわけにはいかない。むしろ断ったりしたならば、それこそバッシングの嵐だ。下手すれば両親にまで迷惑がかかる。
「ぐぅ~…」
沈黙の空間の中で、リリーシアの腹の虫が鳴る。
その瞬間リリーシアの顔が真っ赤になり、両親と使用人は逆に真っ青になる。
(馬鹿馬鹿馬鹿〜!なんで今鳴るのよ!!さっきまで結構食べてたのに!!)
リリーシアは今すぐにでも逃げたい気持ちでいっぱいだった。しかし、アルバートは意外な反応を見せた。
「良かったら、これから一緒に食事に行きませんか?」
決して馬鹿にするような笑いではなく、微笑むような笑顔でリリーシアに食事の誘いをするアルバート。リリーシアはそんなアルバートの笑顔に少しだけときめくのを感じた。
(もしジルドだったら絶対に馬鹿にしてただろうけど、この人は悪い感じではなさそう…かも)
「…わ、私で宜しければ」
誘いを承諾すると、アルバートは花が咲いたような明るい笑顔を見せる。それを見守っていた両親や使用人達も喜びに満ちていた。
こうして、リリーシアとアルバートは食事をしに街のレストランまで馬車を走らせた。リリーシアの両親と使用人達はそんな二人を笑顔で見送ったのだった。




