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4、爆食令嬢の生きる道


 リリーシアの一日はこうだ。


 朝食はサンドイッチ三人前、サラダ二人前、目玉焼きとソーセージを五人前、フルーツ盛り合わせを食べれるだけ食べる。

 その数時間後にアップルパイをホールで二つ食べ、その後すぐ昼食にビーフシチュー四人前、ライ麦パンとフランスパンを三人前、デザートにフルーツとクリームたっぷりのクレープを五人前食べる。

 夕食はヒヨコ豆のスープ三人前、トマトサラダ二人前、タンドリーチキン四人前、トマトパスタ三人前、ケーキ三種二人前ずつを食べ一日が終わる。


 メニューは日によって変わるが、毎回この量の食事を摂る。

 最初こそ驚いていた両親とナティだったが、日に日に顔色が良くなって元気になっていくリリーシアを見て皆安心する。むしろリリーシアの食べっぷりに皆がその姿をもっと見たくなってどんどん食事を用意してしまう。


 「リリーシア、今街で有名な焼き菓子とクレープを買ってきたわ。もちろん貴方用に特注サイズをね」

 「リリーシア、今日は各国の一流シェフを呼んでパーティーだ。思う存分食べていいからな」


 一人娘故爆食しても決して激太りはしないリリーシアに両親は前以上に甘やかすようになる。そんな両親にリリーシアは少々呆れつつあった。

 しかしそれ以上にリリーシアが呆れていたのが、婚約者のジルドだった。


 リリーシアが倒れたということは、伯爵家同士で話題になっている。当然ジルドの耳にも入っているはずだ。しかし、自宅療養を始めてから二週間経ってもジルドは見舞いどころか手紙ひとつ寄越さなかったのだ。


 (なんで自分はこんな人のために頑張ってたんだろう…)


 リリーシアは療養が明ける頃には、ジルドに対する好意が完全に冷めていた。


 



 療養が明けた次の日、ジルドからデートの誘いの手紙がきたリリーシア。正直気乗りしなかったが、デート先が今街で人気のカフェだというのでしぶしぶ了承したのだ。



 「しばらくだな…その…体調は大丈夫か?」

 「……えぇ」

 「見舞いにも行けなくて悪かった。俺も忙しくて…」

 「……気にしていませんわ」

 「…………」

 「…………」


 カフェの隅の席にいるジルドとリリーシア。ジルドの在り来りな話に一応は返答するリリーシアだが、当たり障りない返事をすればすぐテーブルに並んだケーキを口に運ぶ。

 

 「…リリーシア。俺が悪かったから、いい加減機嫌直してくれよ」

 「別に怒ってないですわ」

 「だったらなんで機嫌悪そうに…」

 「だから怒ってないですわよ。ただ婚約者を『デブ』と罵る殿方に興味がなくなっただけですわ」

 「なっ…!」


 前世の柚子は彼氏いない=年齢で生涯を終えているうえ、生きている時は大食いに熱中していて誰かを好きになったことがなかったのだ。前世の記憶の影響からか、リリーシアはジルドに対する興味がなくなっていた。

 いくら政略結婚の相手とはいえ、女性から興味がなくなったと言われたらさすがのジルドもイラッとする。しかし、相手は経済力のある伯爵令嬢。自家の経済発展のためにジルドはグッと堪えた。

 その後特に会話もなく、デートはお開きとなった。



 その後も何度もデートを重ねるが、ジルドがなんとか会話をしようとしてもリリーシアは空返事ばかりでカフェでケーキやクレープを堪能する。


 さすがのジルドも我慢の限界で、ある夜会でついに言ってしまった。



 「リリーシア・アルケミス!貴様との婚約は解消する!!」


 夜会でも自分そっちのけで会場の料理を食べてばかりのリリーシアにムキになってつい言ってしまった婚約解消宣言。会場は一気に静まり、ジルドはハッと我に返る。

 (やってしまった…)


 ジルドは冷や汗が流れるのを感じた。

 

 いくらリリーシアの行動にイラついていたとはいえ、大勢の貴族が集まる社交の場で婚約解消を申し出るなど言語道断である。

 

 「別にいいですわよ」


 焦るジルドとは対照的に、リリーシアはあっさりと了承したのだ。これには会場中がどよめいた。


 「クラウディア家のご子息が婚約解消ですって」

 「しかも相手はアルケミス家のご令嬢ですわよ」

 「確かクラウディア家って経済的に危ういって噂だぞ」

 「アルケミス家の支援を蹴るつもりなのか?」

 「一体何を考えてらっしゃるのかしら…」


 口々に話す参列者。一人青冷めるジルド。そして、そんな野次馬を気にしないリリーシアは黙々と料理を食べている。


 「リリーシア・アルケミス嬢…なんて、素敵なんだ…」


 

 令嬢らしからぬ食べっぷりのリリーシアに、好意的な眼差しを向ける者が一人いた…。

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