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番外編 王妃と元婚約者の婚約者(下)


 パーティーが始まり、リリーシアは一通り挨拶を済ませるとすぐに豪華な料理を堪能する。


 「リリーシア、遠慮しないでドンドン食べてね。欲しいものがあったら持ってくるからね」


 リリーシアが一人黙々と料理を食べるなか、アルバートはほとんど料理に手を付けず、リリーシアに料理を運ぶのに専念していた。はたから見れば、『妻に尻に敷かれる哀れな夫』という姿に、さすがのリリーシアも罪悪感を感じた。


 「アルバートごめんなさい。夫に料理を運ばせるなんて、妃失格だわ…」

 「何を言っている。私は君が料理を食べる姿が好きなんだ、気にせず食べなさい」


 満面の笑顔でいうアルバートの優しさがリリーシアの心に染み入る。

 出会った時からリリーシアの食べる姿が好きだと褒めていたが、婚姻してからもそれは変わらなかった。  

 元々少食なアルバートだが、妻であるリリーシアのために毎食大量の料理を作らせていた。そして自分は少しだけ食べ、残りは全部リリーシアに食べさせていたのだ。夜会やパーティーに参加する度に『我が妃の食べっぷりは世界一』だと豪語するほどの愛妻家っぷりだった。






 「おい、すごいぞ!」


 ある参加者が言うと、それに気づいた者全員の視線がある人物に向いた。本日のパーティーの主役、キャロルだった。


 「すごいぞ!あんな巨大な肉の塊があっという間に無くなったぞ」

 「今度は山盛りのポテトフライを一瞬で食べたぞ!」

 「すごい食べっぷりだな、キャロル嬢」


 キャロルもその体格からなかなかの大食いだ。今まで細身のリリーシアが大食いであるのが注目されていたが、キャロルの豪快かつスピーディーな食べっぷりに皆釘付けになっていた。


 「いや〜すごい食べっぷりだ。私の妻もすごいが、キャロル嬢もなかなかだな」


 一頻り食べ終わったキャロル嬢にアルバートは拍手を送った。


 「恐れ入ります」

 「そうでしょう、殿下。私もキャロルの食べっぷりに一目惚れしたもので」

 「まぁ、私のリリーシアは及ぶ程ではないがな」

 「…お言葉ですが殿下、()()()()()()は豪快さも早さもリリーシアを上回りますので」

 「早ければいいというものではないぞ。()()()()()()()は量もそうだが品がありしっかり味わって食べるところも魅力的だ」

 

 アルバートのリリーシア自慢に、ジルドも負けじとキャロル自慢に熱が入る。そして熱い論争の末、


 「ならば勝負をしませんか。私のキャロルとリリーシア妃、どちらが真の大食いかを」

 「ほほぉ、臨むところだ。まぁ、リリーシアの勝利は見えているがな」


 本人達の許可なく大食い勝負が開催されることになってしまったのだ。


 「王妃様、申し分けございません。なんか大変なことになってしまって…」

 「いえ、気になさらないでください」


 (思ってたより、いい人だな。キャロル様って)


 「…まぁ。いくら大食いで有名な王妃様でも、私と相手では勝負にならないと思いますので、ハンデとしてコルセット緩めていただいても大丈夫ですわよ?」


 …プチンッ



 (あっ…前言撤回しよ)


 キャロルのあからさまな挑発が、リリーシアの大食いプライドに火をつけた。


 「あら、お気遣いありがとうございます。キャロル様こそ、今のうちに医務室の空席状況ご確認した方がよろしいのでは?」


 顔は笑っているが威圧的なオーラを出すリリーシアとニヤニヤと挑発的な態度のキャロル。表向きは笑顔を交わす王妃と公爵令嬢だった。


 こうしてお披露目パーティーは、いつの間にか大食い勝負に変わっていた。






 パーティーホールの真ん中に用意したテーブル。そこに座るリリーシアとキャロル。二人の側にいる王子と婚約者、そしてその周りを囲むギャラリー達。


 大食い勝負のルールは簡単。各自好きなものを選んで食べ、どちらかがギブアップするまで続くというものだった。


 「それでは用意…始め!!」


 審判役のジルドが号令を出すと、リリーシアとキャロルはお皿を持つと各々料理を乗せていった。キャロルはお肉中心、リリーシアはとにかく自分が食べたいものを選んでいる。

 最初に席についたのはキャロルだ。キャロルは席につくなり、お皿に乗った料理を次々と食べていく。一方リリーシアも一通り乗せ終わると、席につき手を合わせて「いただきます」と小さく言って食べ始めた。


 キャロルは序盤から飛ばすタイプで、ものすごい勢いで食べていくのに対し、リリーシアはゆっくりだが一定のペースを保ちながら食べ進めていく。






 開始から三十分経過。皆の注目が集まる中、次第に二人の様子に変化がみられた。

 序盤飛ばしていたキャロルは肉中心に食べていたせいで胃もたれしたのかペースが落ちている。一方のリリーシアは、好きなもの中心だが合間に野菜や口直しのスイーツをはさみながら一定のペースを保ちつつ食べ進めていた。



 



 「……ギ…ギブアッ…プ」


 開始から一時間、ついに決着がついた。ギブアップを宣言したのは、キャロルだった。

 キャロルは苦しそうな顔をしてテーブルに突っ伏している。その様子を見てジルドは慌てて胃薬を用意する。

 一方リリーシアは、決着がついてもお皿に残った料理を食べ切るまで手を止めず、最後まで食事を楽しんだ。


 「ごちそう様でした」


 決着がついてから五分後。リリーシアは綺麗に完食しナプキンで口を拭いた。その瞬間、周りの参加者が歓喜の叫びを上げた。


 「すごいぞ、リリーシア王妃」

 「あの巨漢のキャロル嬢に勝つなんて」

 「誰だよ、リリーシア王妃が負けるとか言った奴」

 「俺じゃねぇよ!」


 皆口々にリリーシアを称賛する中、キャロルはおもむろに立ち上がるとリリーシアの横に立ち、いきなり土下座をしてこう言った。


 「王妃様、私を弟子にしてください!」


 まさかの弟子入りを申し込んだキャロル。周りは突然のことにざわつく中、リリーシアだけは冷静だった。


 「弟子…?」

 「私昔から食べることには自信がありました。大食いも自分が一番だと思っておりました。しかし、王妃様の食べ方や食事の前後の礼儀さに心奪われました。お願いします、私を弟子にしてください!!」


 キャロルは床に頭をつけて懇願する。すると、リリーシアは椅子から立ち上がり、土下座するキャロルの前に座った。


 「弟子はとらないわ。その代わり、お友達になってくださらないかしら?私一緒に大食いを楽しめるお友達を探してたの。貴方が宜しければ、またこうして一緒に食事を楽しみましょ」


 リリーシアはそう言ってキャロルの前に手を差し出すと、キャロルはその手をギュッと強く握った。


 

 こうして突然始まった大食い勝負は、いつの間にか大食い仲間の結束を繋ぐ対決へと変わっていった。



 その後各地の飲食店でリリーシアとキャロルが仲良く大食いを楽しんでいる姿が度々目撃され、その傍らで妻自慢に白熱するアルバートとジルドの姿も注目されるようになり、この二組の夫婦は各国で名物的な存在になるのであった…。





             〈番外編 完〉


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