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【#1】一人前




地球に住み、スマホという板を片手に笑ったり怒ったりする「ヒューマン」とははるか遠く離れた別の世界、「マジックワールド」。ここでは、化学という迷信は拭い捨てられ、その代わりに魔法というものが深く浸透していた。

マジックワールドの住民である「ウィッチャー」の中には、世界の境界を通して行くことのできる「アースワールド」に住む「ヒューマン」のあらゆる願いを叶える職業「魔道士」「魔女」もいた。そしてそれは、ウィッチャーの多くの子供たちの憧れでもあった。そしてマジックワールドの子供たちは義務教育として「魔法学校」という教育機関に通い、一日でも早く魔法を習得するために、日々努力している。

その子供たちの中に、1人の少女がいた。



「わっ!?」

エインズ魔法学校、東の乗用箒ホーキ置き場。そこに、2人の少女が立っていた。いや、厳密に言うと、先ほどまで1人に見えたが、もう1人が急に現れた、といった感じだった。

「メルサルみっけ!」

もう1人に明快な声でそう言ったのは、エインズ魔法学校18年8組、36歳───「ヒューマン」の年齢に合わせれば、12歳───の、物質変質学専攻のフォニィだ。腰まで下ろした黄色い髪が、柔らかな丸みを帯びている。そして今は、棒のような「マジカルステッキ」を持っていた。

「も~、バレないと思ったのに……」

残念そうな表情で振り返るもう1人の少女は、フォニィが言ったとおり、メルサルといった。フォニィとは同学年、同じクラスだが、こちらは透明化学を専攻している。フォニィとは7年の時からずっと同じクラスで、一番仲がいい。フォニィ以外のクラスメイトの前では大人しく、おしとやかな印象がある。

そして今は、同じクラスの彼女たち10人で、「透明かくれんぼ」をしていた。放課後たまに行われる遊びで、本当はクラス50人全員で行いたかったのだが、「かくれんぼなんて子供みたい」と嫌がる人や、魔道塾など他の用事がある人も多く、結局この人数になってしまったというわけだ。「AOP」で負けたフォニィが鬼になった。AOPというのは、「アップル・オレンジ・ピーチ」の略で、相手の頭の中にどの果物を浮かべているのか当てるゲームだ。大人数でやる時は、一番多くの人に当てられた人が負ける。

「メルサルはまだ透明化が上手い方だよ。エリンは透明化の魔法も知らずに、物理的に隠れていたから」

フォニィの隣で、こちらは先にフォニィに見つかっていた、18年8組、念力学専攻のナフテという少年が言った。それで、メルサルが少し照れるのがわかった。

ナフテは確か校長の息子で、確か座学ではクラスで1位の成績を誇っていたはずだ。彼自身の性格について言うと、割と大人びていて、学校の帰り道で、あの甘いハリケーンコットン───「ヒューマン」からする綿菓子のような物───を売っている青年を連想させるかのように面倒見がよかった。

「フォニィ、あと何人だっけ?」

「んーと、西側はマーチとヴィクターとエリンが探してるはず。残ってるのは……ヘイグとフィオとルゥネと……シェーリスくらい?」

「OK。残りを探そう」

ヴィクターとヘイグは、どちらも魔道士を目指し、それぞれ瞬間移動学と時間学を専攻している少年。マーチ、エリン、フィオ、ルゥネ、シェーリスは、これまた全員魔女を目指して、マーチとルゥネは回復学、エリンはナフテと同じく念力学、フィオは状態変化学、シェーリスは透明化学を専攻している少女だ。皆、比較的フォニィと仲が良い。

ついでに、エインズ魔法学校をはじめ、大体の魔法学校では、10年生───「ヒューマン」の6年制学校に合わせると、3年生───まで、自然、火、水、光、闇といった「基礎魔法」を習得し、11年生からは個々の習得したい魔法から1つを選んで専攻する。フォニィが専攻する透視学は、クラスではフォニィを含め4人が選択していた。といっても、専攻した魔法以外にも魔法塾や独学で他の魔法も勉強するのが常だが。

よーし、今から見つけてやるぞー。シェーリスは透明化が上手だから手こずるかもだけど、他の子は大したことないだろう。まあこの透視を使えばあたしでも見つけられるでしょ。

そう思った時、後ろから声をかけられた。

「あ、ナフテさん。それに、フォニィさんとメルサルさんも」

聞いてわかった。この透き通ったような声は───。

「エーシェ先生!」

振り向くと、そこにはやはり「エインズの天使」ことエーシェ先生が立っていた。

真っ先に先生に飛び込んだのはフォニィだった。

「何かしてるの?」

「かくれんぼしてるんです」

メルサルが答えると、エーシェ先生は、ふふっ、と笑った。

「楽しそうね。私も小さい頃はよくやったわ。できることなら……戻りたいわね」

「先生は時間逆行を使って戻れるんじゃないですか?」

今度はナフテが口を開いた。

すると先生はどこか悲しそうに言った。

「それはできないのよ。時間逆行で逆行できるのは、周りの時間だけ。自分だけが若返ることはできないわ」

そして先生は、3人の頭を交互にでた。ナフテが一瞬だけ払いのけようとしているのが見えた。

「だから3人とも、今のうちに楽しいことしておくのよ! ウィッチャーはいつ死ぬかわからないんだから!」

「はい!」

フォニィは元気よく答えた。

そして、エーシェ先生は向こうへと歩いて行った。

「……よし、探すか」

しばらくしてから、ナフテが気を取り直すように言った。それについて行く流れで、メルサルもフォニィから離れていった。そうして2人は、東棟の方へと走っていった。

フォニィもそれに続こうとした。

その時だった。肩に何かが乗る感じがした。それは鉛のように重く、一瞬だけフォニィの筋肉をこわばらせた。

だがその緊張もすぐに解けた。

「うふふ。びっくりした?」

エーシェ先生だった。何か言い忘れたことがあったのか、戻ってきていた。

「先生……何かあったんですか?」

すると先生は、おもむろにフォニィの前を円を描くように歩き始めた。何かをブツブツ言っているようで、少しいぶかしんだ。

しかしやがて止まってフォニィの方を見ると、先生は笑顔を作って言った。

「フォニィさん、私、クラスの皆で楽しいゲームをしようと思うの。どう? フォニィさん、やってみたい?」

「どんなのですか?」

「それはやってからのお楽しみよ」

ふーん、とフォニィは思った。

「かくれんぼより楽しい?」

「ええ、ええ。何倍も楽しいわ。それに、勝った人にはご褒美もある」

「ご褒美!?」

フォニィはナフテに似た青年が売る、ハリケーンコットンを思い浮かべた。同時に、フォニィの顔に笑みが広がりはじめた。

もしフォニィの頭がハリケーンコットンのことでいっぱいでなければ、気づけたかもしれない。エーシェ先生の声が、少し震えていたことに。そして、顔にひどく冷や汗が浮かんでいたことに。

「はい! やります!」

とにかく、フォニィは返事をしてしまった。


◆◆◆◆◆


「それで、エーシェ先生は何をするかは言わなかったんですか……」

学校からの帰り道、夕日が4人を照らして、彼らの影を作っている時、フォニィの右隣、男子にしては少し高い声が耳に入ってきた。

ヘイグだった。大きめの眼鏡の位置を直し、フォニィ達に顔を向けて言った。

「なかなか面白そうですけど、ちょっと妙ですね……普段のホームルームなら何をするか告知されるのに……」

「まあまあ、ヘイグ君。別にいいんじゃない? そこまで考えなくても」

すると今度は左隣、いや、厳密に言えば左隣にいるメルサルのさらに左隣にいるシェーリスが言った。一回り身長が大きい彼女には、横を向くだけで反対側のヘイグの頭が見えていた。

「……もしかくれんぼだったら今日みたいにシェーリスが無双するじゃないですか」

「そうだよ……」

「ええ~?」

シェーリスはちょっと嬉しそうに微笑んだ。

そんな光景を眺めた後、フォニィは空を見上げた。かすかに黒みがかかったオレンジ色の空を、乗用箒ホーキに乗った誰かが横切っていた。家と学校の距離が遠い者には特別に乗用箒ホーキ通学が認められているのだが、もともと「魔道士」という職業は存在しなかったゆえ、この学校は女子が多かったので、乗用箒ホーキ通学者は原則ズボンを着用することが義務づけられていた。

「あのさ」

突然、メルサルの声が聞こえてきた。フォニィは空から目を離して、メルサルの方を見た。

「いいのかな……これで」

「?」

フォニィは疑問符を浮かべていた。

「あたしたち、ちゃんとした魔女……ヘイグくんは魔道士……にならなくちゃいけないのに」

メルサルの声は少し小さいものだったかもしれない。だがその声は、しっかりと3人に届いたのだろう。しばらくの沈黙の末、シェーリスが口を開いた。顔は前に向けたままだった。

「……まあ、そうだよね。私も正直、危機感を持ってないと言ったら嘘になる。このまま過ごしてて本当に一人前の魔女になれるのか。不安に思うときはあるよ。だから」

そこでようやく、シェーリスが横を向いた。

「みんな……一人前になろうね」

久々に見た、シェーリスの心からの笑顔だった。


◆◆◆◆◆


「ただいまー……って、うわっ!?」

フォニィが家のドアを開けると、白い何かがフォニィの視界を覆った。それで、フォニィはかくれんぼの時ののメルサルと同じように驚くことになった。慌てて念力で引き剥がすと、「それ」が勢いよく飛んで、向かい側の壁、緑を基調とした絵の隣にぶつかった。

「あ、ごめん、ミャー……」

ミャーと呼ばれたその猫は、フォニィの不慣れな魔法によって壁に激突したにも関わらず、嬉しそうに鳴き声を上げてフォニィの足下に絡みついてきた。

このミャーは、確か母親が助けた「ヒューマン」からお礼としてもらったものだった。従来なら日用品が多いらしいのだが、7年前、フォニィが18歳の時は「アースワールドの動物」がものすごいブームだったらしく、そのヒューマンが飼っていた猫が産んだ仔猫をもらった。アースワールドから来た動物だから、年の取り方が違う。こんなにかわいいのにかわいそうだな、とフォニィは感じた。

「おかえり……って、こら! またミャーにいたずらしたの!?」

すると左側のドアを半開きにして出てきた母親がフォニィに近づいてきた。フォニィの天真爛漫な性格は、この母親から遺伝したのだろう。フォニィはそう考えていた。

「お母さん、違うよ! ミャーがあたしの顔に飛びついてきて……」

「何だ、フォニィ。ミャーがどうしたんだ?」

今度は低い声と共に右側の階段から誰かが降りてきた。

少し汚れたゴーグルを髪の上に上げ、こちらは父親に似たのか半開きのような目を向けているその少年は、フォニィの兄、シンだった。彼はフォニィとは違いそこまで魔道士になりたかったわけではないので、卒業後は父親の営む魔具販売店で働いている。

「お兄ちゃん、違うよ……ミャーが飛び込んできて……」

フォニィが言い訳を展開させようとした時。

シンは、ふっ、と薄い笑みを浮かべ、ミャーの頭を撫でながら言った。

「いいなあ。お前、めちゃくちゃミャーに好かれてるんだな」

そして、シンは再び2階に戻っていった。あのゴーグルを見れば、透視しなくてもわかる。おそらくまた魔具の開発をしているのだろう。もちろんフォニィには魔具には興味は無かった。しかし、兄のことは大好きだった。小さいときに自分より何個も魔法を見せてくれた。″ほら、これがフレイムだ″と魔法の名前を口にしながら自分より一回りも大きな炎の塊を手の上に出したその光景は、フォニィが魔女に強く憧れるきっかけとなっている。透視学を専攻したのも、シンがそれを得意としていたからだ。

だから、もし自分が魔法をちゃんと使えるようになったら、自分もあの時の兄と同じように、魔法を兄の前で披露しよう。そう決めていた。

そして、シンが階段の向こうに消えていくのを見送りながら、そのことを思い出していた。

自分ならできる。自分なら兄をかつての自分と同じように感動させ、ヒューマンを助けることができる。



そう、思っていた。

そう、信じていた。



「あ、ちょうどいいや。フォニィ、ミャーにおやつやってくれない?」

夢からたたき起こす念力目覚まし時計のように、母親の声がフォニィの耳に刺さった。え、あ、はい。わかりました。

「じゃあ、よろしく!」

続けてそう言って、母親もドアの向こうに消えていった。残されたのは、先生の魔法実演を眺める時のように固まっていたフォニィと、その足にまとわりつくミャーだけだった。

(はぁ。しょうがないなぁ……)

やれやれ、といった感じで、フォニィは玄関の乗用箒ホーキ置き場の横に置いてあった、茶色い木箱を漁り始めた。こういう時に物質抽出術を習得できていたら、便利なのだが……。




その時だった。




『皆様、日々のご鍛錬、お疲れ様です』




突如として、頭の中に声が響いた。一瞬フォニィの体がビクッと浮き上がったものの、すぐに平常を取り戻した。エーシェ先生の声だった。おそらく学校で配られるプリントを配り忘れたとか、そういうお知らせだろう。過去に一回だけあったからわかる。これは───。

いや、待て。

エーシェ先生って、こんなに丁寧な言葉遣いだったか?

フォニィの顔から笑みが消えた。


『突然のテレパシー、申し訳ありません。皆様には、とあるチャンスを与えようと思います』


「チャン、ス……?」

思わず口にしてしまった。何か良くない気がして、慌てて口を塞いだ。

いや、「気」ではない。これは良くない。何かが良くない。


『皆様、魔法を専攻しておりますよね? 念力学、回復学、状態変化学……』


そして、その「気」は、的中することとなる。


『その魔法を使って、クラスメイトを全員殺してください』


『そうすれば、卒業を待たず、一人前の魔道士もしくは魔女にしてさしあげます』

アルネリア

アロウ

アンダン

ウィンド

ヴィクター

エリュナ

エリン

オルフェリ

カルネ

ケルチュア

サティ

サンドラ

シェーリス

ジョグ

セイラ

ソイェン

チェイン

ディア

トレイア

ナフテ

ニェムラ

ノーシェン

ノル

ハイド

ハープ

ハル

ヒュニア

フィオ

フォニィ

フラム

ヘイグ

ベレイ

ホールィ

マーチ

ミュレイア

ムジカ

メア

メルサル

メロー

モーリス

ユロイ

ラテ

リィリィ

リーフィ

リュネ

ルゥネ

ルーシェ

レイ

レミュナ

ロキ


〈50/50〉

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