僕の一番の友達
あいつと初めて会ったのは、確か小五の夏休み。
僕とあいつは小学校もちがければ、出身地も違う。また、僕は家で勉強をするほうが好きだが、あいつは外で遊ぶのが好きだし、僕は犬派であいつは猫派だったりと、所々対照的だった。
しかし、どこか馬が合い、毎年夏休みに一人で住んでいる母方のおじいちゃんの家に帰省するたびに、よく遊んでいた。
同い年なのに、目を合わせるのには少し見上げないといけないほど背が高くて頼りがいがあった。
その村は自然が豊かで山に囲まれており、川が流れ、夜には蛍が飛び交い、カエルが泣き…と、都会とは比べ物にならない平和な土地だった。
一番あいつとの思い出で覚えているのは秘密基地を作ったことである。
そこはかなりの田舎で過疎化が進んでいる村だった。だから丈夫そうな空き家を秘密基地と称してよくそこに集まっていた。そこで宿題をしたり、アイスを食べたり、ここについて教えてくれたり、遊んだりと2人きりで自由に過ごしていた。
僕が秘密基地に行けばあいつも必ずいて本当に気が合うなと感じていた。
夏休みが終わる頃にはその秘密基地にそれぞれ手紙を残した。来年へのタイムカプセルのような感じで、相手に向けて書き、また来年ここで!と挨拶をして帰るのが恒例だった。
それは中学生になっても続いた。実はその頃、僕は中学でいじめを受けていて、友達と言えるのは夏休みに会えるあいつだけだった。
あいつといる時間は世界で一番楽しかった。
しかし、中学三年の夏休み中におじいちゃんが亡くなり、もうこの土地に来る理由もないだろうとなってしまった。僕はショックで「もう会えない」というのを帰省の最終日前日まであいつに伝えることができなかった。できたのはいつも通り全力で遊ぶことだけだった。
ついに最終日、恒例の手紙を書こうとなった時に僕の方が背が高いので少し下を見るようにして目を合わせ、そのことを打ち明けた。するとあいつは思ったよりもあっさり、「そうなんだ、まあ、またいつかどこで会えるよ。」と言った。でも、今思えば寂しそうな笑顔であったように感じる。
だが、当時は「自分は一番の友達だと思っていたのに、あいつはそうは思っていなかったのではないか」という裏切られたような気持ちになってしまい、住んでいるところを聞くこともできないほど悲しい気持ちのまま別れてしまった。
そこにいるときは毎年一回も雨が降ることがなかったが、その最後の帰りの時だけはものすごく雨が降っていた。
そして、その帰りの車で思い出した。いつのまにか僕の方が背が高くなっていた、というよりか、あいつの身長は毎年変わっていなかったということを。
家に帰って母に子供の頃のあの村のことを聞いてみると、昔は同じくらいの子供がもっとたくさんいて、よく集まって遊んでいたが、夏休みだけは子供が増えることがあるらしい。
それは今までの僕のように親について帰省している子もいれば、この地域に住んでいないのにやたら詳しい子がいたりもしたらしい。
母はそんな子について「まあ、この村の守護神みたいなもんなんじゃない?」と言っていた。
きっとあいつも僕のような子供達と村を守る守護神だったのだろう。
そこから二年経ち、その年の夏休み、一人でその村に寄ってみた。そして、ついた瞬間秘密基地に駆け込んだ。
そこにはあいつが書いたであろう手紙が置いてあった。
「今までありがとう。僕の姿は大人には見えないから、久しぶりに人と話すことができて嬉しかった。僕はこの土地の守護神だからここから離れることはできない。だから、君が見たいろいろなことを教えてもらえて本当に楽しかった。いつも見てるよ。またいつか会おう。」というふうな手紙があった。
そして最後には「僕の一番の友達へ」と書いてあった。いい友達を持ったなと生まれて初めて思った。しばらく感動に浸ったあと、僕は返事を書いた。
日が暮れそうになり、いつかあいつが教えてくれた、村全体を見渡せる崖に登った。都会では見えない、ようなのどかな風景。最低な人間も誰もいない。夕日が山を、川を、そして僕を照らしている。あぁ、綺麗だなぁ。これであいつと会えるかなぁ。これで、あいつと一緒にこの綺麗な村で一生暮らせるかなぁ。まぁ、あいつと会えたらなんでもいいや。
そう思いながら、僕はそっと崖から飛び降りた。
ーー次のニュースです。
一昨日より、行方不明となっていた都内在住のーーさんが、山奥の〇〇村近くで見つかりました。遺体は原形をとどめておらず、警察は近くの崖から飛び降りたものとして、調べを進めています。
亡くなったーーさんは、一昨日、一番の友達に会いに行くといった手紙を自宅に残し、親に知らせることなく家を出たとのことです。
また、その村はーーさんの母方の実家があった村であること、ーーさんは学校でいじめを受けていたことなど様々なことが明らかとなっており…
「すごい大事になっちゃった。」
「当たり前でしょ、人一人死んでるんだから。」
「だって守護神に会いたかったんだもん。」
「守護神ってなんかやめない?友達っぽくないじゃん。」
「確かに。じゃあなんて呼ぼう?」
「友達っぽいやつならなんでもいいよ。てか、お前頭どうなってんの?僕に会うために死のうとか正気じゃないでしょ。死んでも会えるか分からなかったし、ここにきたら大人にならない限りはいつでも会えるのにさ。」
「いいじゃん、なんでも。会えたんだから。あっちにいちいち戻りたくないし。」
「…いいのかよそれで。」
「いいよ。一番の友達と一生別れず過ごせるなら僕はいいよ。」
「…そっか。お前と過ごせるならいいかもな。というか、お前もこの村の守護神になったってことか?」
「まぁ、そうかも?」
「じゃあ、こき使うから覚悟しとけよ?」
「いいけど、そんな大変なの?守護神って」
「はぁ?当たり前だろ!そこの山が噴火しないように毎日見張って、村のみんなが楽しく暮らせるように全力でサポートして、、、」
「そんな大変なことしてたんだな、いつも。」
「まあな。でもこの村に来るようなやつは、みんないいやつだし、やりがいはあるからな」
「…じゃあこれからはお前も楽しく過ごせるように全力で頑張るよ。」
「…ははっ、一緒に頑張ろうな。」
「うん!」
「…ありがとう。」
「大したことないよ、友達は助け合うもんだろ?」
「そうだな。」
僕は、一番の友達が君で、本当に良かったと思う。