承ーその2ー
ー前回までのあらすじー
「オイオイオイオイ!ー承 その1ー読んでからにしてくれよ!」
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パニックも、度を越すとかえって冷静になれる様だ。周りの状況をつぶさに観察できる。総毛立つ程の臨場感だが、これが作られた映像であるのが判る。ナゼなら僕は椅子に座っているからだ。
正確に言うと、椅子に座っている感触がある。見えてはいないが、変わらず僕はあの会議室にいるのだ。
立体映像というヤツか。あの小さなプラネタリウムとこのマトリックスサングラスで、ここまで迫力のある映像を作り出せるとは…。
さっきの白い部屋で見たホログラムもそうだったが、一体この施設の技術はどこまで進んでるんだ?
技術的な事に気を取られていた僕は、巨大な球体が目の前をかすめた事で我にかえった。
『冥王星…かつて太陽系の9番目の惑星として知られていた星です…』
唐突に渋い声のナレーションが流れた。
『しかし冥王星は惑星というカテゴリーから外れました…。科学の発展により、太陽系内で新しい天体が次々に発見され、惑星の定義が曖昧であった事も手伝って、2006年、国際天文連合総会に於いて「準惑星」という新しく創設されたカテゴリーに振り分けられたのです…。』
『何故、この様な改定が必要だったのでしょう…。そこには、驚くべき事実が隠されていたのです…。』
仰々しいBGMと共に、タイトルが現れた、立体的に…。
『冥王星を意識の外へ!~人類の存亡をかけた知られざる戦い~』
僕は今、間違いなく「ゼロ表情」だ。
宇宙空間の一部が切り取られ、横長の画面が登場した。一人の男性が映っている。
「冥王星の話をするにはまず、宇宙の誕生から説明しなければなりません。いわゆるビッグバン理論からね。」
MITの教授という肩書きの外国人が、カメラの隣にいるであろうインタビュアーに語りかけている。声は吹き替えだ。
「最新の学説はほとんどこの理論を基準にしていますが、それは大きな間違いです。」
「ゼロ表情」の僕…。
「アリストテレスやプトレマイオスが唱えた天動説に基づいて研究を進めているのと同じ事です。ゴールに辿り着ける訳がない。間違った理論で間違った答えを求めようとしているのですから。」
「ではナゼ、ビッグバン理論が間違いである事を誰も注意しないのか?それは我々が知っている事だからです。ビッグバンが、文字通り『大嘘つき』の理論であるという事を。」
「我々が知っているのにナゼ、大嘘つきの理論を研究し続けているのか?それは人類をミスリードする為なのです。人類そのものの為に…。宇宙創生の秘密、本当の姿を知れば恐らくパニックが起こるでしょう。世界規模のね。そうさせない為にも、我々は日々、人類をミスリードしているのです。」
何これ?タブロイド版ディスカバリーチャンネル?完全に置いてけぼりになった僕をヨソに、話はドンドン進んでいく。
大学教授だとか、有名な作家だとかが入れ替わり立ち替わり、やれ爆発はなかっただの、宇宙は膨張してないだの、最新の研究テーマを否定しまくり。
挙げ句の果ては、超能力捜査官や預言者なんかも登場して、都市伝説信奉者が聞いたら泣いて喜びそうなトンデモ学説をマコトシヤカに力説している。
しかし、じゃあ真相はどうなの?というところになると、皆一様に「私の口からはとても…。」と、言葉を濁す。なんじゃそりゃ!オカルト雑誌だってもうチョット明快な答え出すぞ!
『ナゼ真実を知りながら、固く口を閉ざすのでしょう…。そこには数秘術が深く関わってきます…。宇宙生誕の謎を紐解く前に、まず数秘術とは何か、それを抑えておきましょう…。』
いいよもう!紐解いてくれよ!
一瞬抗議したが、一秒後には忍耐力をフル操業させて見る体制をつくった…。
数秘術とはつまり、占いの一種らしい。森羅万象、この世のものは全て、「運命数」という一桁の数字で表す事が出来る。で、出て来た数を多角的に検証して、そのものの運命とかを占うんだそうな…。
なんか数学みたいなの?と思ったら案の定、ヨーロッパでは、ヌメロロジー「数の学」と呼ぶそうだ。
例えば、1988年1月1日生まれの人がいたとしよう。この人の場合は1+9+8+8+1+1=28で、更に2+8=10、1+0=1となり、はい、あなたの運命数は1ですよぉと言う訳。
因みに1は、「スタート」とか「リーダーシップ」とかの意味らしい。
アルファベットも数字に置き換える事が出来るので、名前だけでも運命数を算出する事が出来る…そう、これがネックなのだ。
人にわかり易く説明するには、具体的に話さなければならない。具体的に話すには、固有名詞が必要になってくる。だからもし相手が数秘術を熟知した人物なら固有名詞を使うと、相手にその対象の、時には自分の運命数を知られてしまうと言う事だ。
どこに敵が潜んでいるのかも判らないのに、ウッカリ秘密を漏らすような真似は出来ない。確信に迫れない理由はそこにあるのだ、とナレーションは解説する。
ほら出た!トンデモネタによくある話の飛躍。
「敵」って!www
宇宙生誕の話はどこいったの?いやそもそも、コレは冥王星が惑星じゃなくなった事をテーマにしてるんじゃなかったっけ?www
『あなたは今、こう思っているはずです…「敵って!」と…』
Σ(゜д゜lll)ビクゥッ!
『しかし最初にこれらの予備知識を踏まえておく事は、どうしても必要なのです。それほど現代の情報は歪められているのです。我々の手によって…。』
横長の画面が消えた。何もない宇宙空間に戻った。
『時間を巻き戻しましょう…。我々が認識している宇宙生誕の時間まで…。』
星々がゆっくりと逆に回り始めた。自転、公転ともに速度をあげる。回転が速すぎて光の線になっている。無数の光の線はやがて無数の光の輪になり、あちこちで明滅している。
突然、光が一点に収束し始める。まるで何かに吸い込まれるように…。僕自身もその方向に向かっている。次々に光に追い越され、辺りは真っ暗闇になっていた。
何かいる………深淵の闇の中、何かの気配を感じる………あり得ない、ここは宇宙じゃないのか…。
『我々が認識している宇宙、その原初の時代に着きました…。さあ、心してご覧下さい…。これが始まりです…。』
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深い闇の中、夥しい数の何かが蠢く気配がする。真空中では音は伝わらないと習った筈だが、それらの気配が激しくぶつかり合う音が聞こえる気がする。それだけじゃない、太鼓やフルートの様な楽器的な音まで…。
「冒涜的な音階」そんな言葉が脳裏をよぎる…。
彼方で爆発が起こった。どこからか光線が発射されて、かなり遠い位置に当たった様だ。その爆発の明かりで全てが見渡せた…。
それは戦争だった。異形の群れの。
宇宙空間で数えきれない程の化物が死闘を繰り広げているのだ。よく見ればそれは、僕がエレベーターで見た幻覚に出てきた化物だった。
眼が幾つもあるナメクジ、腕の生えたムカデ、その他、夥しい数の巨大なミミズやダンゴムシの様な姿をした、名状しがたい物たち。
広大な宇宙を覆い尽くさんばかりに、あの気持ちの悪い化物が戦っている。どれがどれなのかよく判らないが、2つの勢力に別れているらしい。
僕は今、その戦いの真っ只中にいるのだ。まるで黒い砂嵐の中でもみくちゃにされている気分。ビジュアルがビジュアルなだけに、吐きそう…。
その勢力から一際巨大な化物が飛び出した。
人に似た姿だが頭が違う。蛸の様な形…あの巨人だった。初めて見た時は俯いていたので判然としなかったが、顔面の全体からビッシリ生えている触手が忙しなく蠢いているのが見てとれた。背中からはコウモリに似た翼が生えていた。崖に埋れて見えなかった下半身は足がなく、蛇の尻尾の様になっている。
『「C」。我々はそう呼んでいます。が、くれぐれも他言は無用で。』
巨人は翼をはためかせて集団から距離をとった。触手だらけの顔が光り出す。そして顔を一振りすると触手の隙間から光線が発射された。
光線は無数の化物達に降り注ぎ、至る所で爆発が起こった。敵も味方もない、いや、そもそも存在すら気にしていないようだ。巨人は何かを追っていた。何かをめがけて光線を放っていた。爆発に巻き込まれて化物達は見るも無残に粉々になっていく。
突然、絶え間なく続く光線ををかいくぐって、群れの中から巨人と同じ姿をした化物がもう一体現れた!
蛸の頭、コウモリの翼、蛇の尻尾。寸分たがわぬ容姿の巨人は、同じように顔を光らせて光線を発射した。
爆発と咆哮、巨人同士の戦いは周りの化物を巻き込んで凄まじい様相を呈していた。
『我々の時間感覚でおよそ137億年前、一つの争いごとが起こりました…。』
また例のナレーションが流れる。
『平行宇宙の重なる部分、特異点などではしばしば見られる光景です…。』
しばしばっ?
『俗にパラレルワールドと呼ばれるこの世界は、宇宙には無限にあり、絶えず互いに干渉し合っているのです。その為、特異点、若しくはワームホールの発生により2つ、ないしはそれ以上の世界が行き来出来るようになるのです。』
『そして、それぞれの世界の住人がばったり出会うと、決まって戦いが始まります。何故そうなるのか?この理由については、まだはっきりと判っていません。強いて言うなら「生存競争」といったところでしょうか…。ひとつの世界に同一のものがふたつ存在する事は許されない、そんな法則があるのかもしれません…。』
『戦いはどちらか一方が消滅するまで続けられます…。』
『しかし今回は、少し様子が違いました…。』
不意に、あの冒涜的な音階が流れ出した。
化物の群れが一斉に動きを止めた。巨人達も戦うのを止め、同じ方向に振り返った。
いつの間に現れたのか、そこには途方もなく巨大な肉の塊があった。あまりの大きさに目眩がする程だ。巨人が小人に見える。
見るもおぞましいとはこの事か。
肉の塊は、形容し難い生理的嫌悪感の塊でもあった。例えるならそう、「饅頭」だ。
ブヨブヨとしているが、角質だらけで鱗の様に見える肌、所々、青かったり紫だったり、血流の悪さが見える。表面がキラキラしているのは汗をかいているからだ。時々全体が痙攣している。生きているのだ。
巨人や化物の群れもビジュアル的に相当アレだったが、この肉饅頭は次元が違う。
『「A」。我々はそう呼んでいます。が、くれぐれも他言は無用で。』
化物の群れは奇声をあげて散りぢりに逃げたした。巨人達は逡巡している。皆と同じ様に逃げるか、それとも、この新たな敵を排除するか…。
一瞬の迷いが、巨人達の運命を決めた。肉の塊のちょうど中央部分にうっすら亀裂が入ったと思ったら、いきなりガバッと縦に裂けた。粘液を垂れ流しながら口を開いたのだ。
途端に巨人が物凄い勢いで吸い込まれ始めた。必死に抵抗しているがジリジリ穴に引き寄せられている。力の弱い化物は十分な距離があったにもかかわらず、引き戻されて口の中に消えていった。
まるでブラックホールだ。巨人も、化物も、バラバラに引きちぎられた化物の残骸も、何もかも吸い込んでいく。
と、僕自身も口の方へと引き寄せられている。映像を見ているのだと判っているのに、恐ろしさの余り鳥肌が立つ。あれに近づくだけでも勘弁してほしいのに、更に飲み込まれるだなんて!
二体の巨人は、抵抗むなしく口の中に引きずり込まれた。後を追う様に僕もまた、口の中へ…。
食べられたっ!
…という訳ではなかった。口の中はトンネルだった。広大なトンネル…暗くてよく判らないが壁面には、万華鏡かロールシャッハ的な模様が見える。その中を物凄い勢いで進んでいく。爆発に巻き込まれて死んだ化物の遺骸が流星群の様にすっ飛んでいく。
そういえば、あの巨人はどうなった?僕より先に飲み込まれた筈だったが…。
辺りを見回しても、どこにいるのかサッパリ判らない。あんな大きなの見過ごす訳ないのに。目を凝らして、ハッと気が付いた。巨人は目の前にいた、二体とも。
気づかない訳だ。形が変わっていたのだ。どういう訳か薄っぺらに引き伸ばされている。トンネルの進行方向側にある方がより引っ張られているみたいで、まるで紙に描いた絵の様になっていた。
巨人だけではない。生き残った化物達みんながロードローラーでペシャンコにされたみたいに薄く引き伸ばされていた。トンネルを進めば進む程、伸び具合も比率を増していく。
突然、トンネルを飛び出した。出口に着いたのだ。勢いを失った化物達は、ペラペラのまま、宙を漂っている…余りにも薄すぎて透けてしまっている。
ふと、自分が通ってきたトンネルを振り返ると、出口が塞がる所だった。そこに肉饅頭の姿はなかった。何もない空間にポッカリと空いた穴がゆっくり塞がっていく。
そして、穴のあった部分には別のものが現れた。月が満ちる様にして現れたひとつの天体…。
冥王星だった。
【すみません、報告の途中ですが一時中断します。侵食警報が出たのでシステムをシャットダウンするそうです。2012年に入ってから懸念されていた、眷属の総攻撃が遂に始まった様です。退避命令が出ました。といってもこの極寒の地、南極のどこに逃げる所があるというのでしょう…
やはり、あそこに行くしかないのか…。
報告の続きは必ずします。それまでしばしのお別れです。皆さんもど@'?☆→*…[<<°÷&?;………】
ー続くー