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承ーその1ー

ー前回までのあらすじー


「あらすじ?そうね…話長い。狂気の沙汰ね。」


*******************************************


【4時間前】




僕は途方に暮れていた。



まだ20数年の人生ではあるが、ここまで目まぐるしく変化する出来事が我が身に降りかかった試しがこれまでにあったろうか?いや、ない。



どうせ突拍子もない事なら、実は君の両親は魔法使いで、君にもその血が流れているんだよ、くらい言われた方がまだ受け入れられそうな気がする…。



魔法学校に通って、名前を言うのも恐ろしいあの人と戦わなければいけない運命でもポジティブな姿勢で望む事が出来るだろう。



公務員になって初めての仕事が「邪神を封印する事」なんて言われた日にゃあなた、それ以外の事なら何だって出来そうな気がするってもんでしょ!………


******************************************


「我々の仕事は邪神を封印する事なんだよ。」


参事官と呼ばれた男はそう言った。私は今、とてもイライラしているんですよという気持ちを隠す気はサラサラないらしく、さっきからずっと机の上で五本の指を波打たせている。


2010年7月1日午後4時30分、【削除済】県【削除済】市某所地下に築かれたシェルター、「C対策班【削除済】支部」、そこに僕はいた…。




今いる所は「ミーティングルーム」だった。


ホントに普通の会議室。事務机にパイプ椅子、ホワイトボード、ヤニで汚れた換気扇等々…真っ白な空間から突然、現実味タップリの場所に移ったので、かなり面喰らった。


先程のだだっ広い部屋には、見えない扉が幾つもある様で、「マテリアルルーム」だとか「ロッカールーム」だとか「トレーニングルーム」だとかあるらしい。


まだトレーニングするの?


そして僕が通された「ミーティングルーム」には現在、僕を含め5人の人間が事務机を囲んで座っていた。


僕、参事官、マトリックス、そして、目つきの悪い男と、目つきの悪くない女…。

この2人は僕とさほど歳が変わらない様だ。みんな同じ黒いスーツに身を包んでいる。



言葉を失っている僕に、目つきの悪くない女が助け舟を出してくれた。「んまぁ、いきなりジャシンとか言われてもナンのこっちゃか判りませんよねぇ?」


好きだっ!


久しく人の優しさに触れてなかった気がする…。

関西弁なのがまたイイ!



「だからって、使えない系のヤツ送られたこっちの身にもなってくれってんだよ。」目つきの悪い男が吐き捨てる様に言った。


嫌いだっ!


冷たい言葉を標準語で言われると、威力倍増なのね…。


2人とも指に僕と同じ、厳めしいドクロのリングをはめている。



「いや、官房長官の思惑も判らんでもないんだ。眷属はどこにでもいるからなぁ。」相変わらず指を波打たせながら、参事官は溜息をついた。と、突然僕を見て「君はあの崖に埋れた巨人を見て、どう思った?」指を突きつけて聞いてきた。彼の指にもドクロのリング…。



「…えぇと…チョット信じられないと言うか…お、驚きました…あんなモノがいるなんて…。」



「うん。そうなんだ。それで普通なんだよ。あんなもん実際に見たって、自分の目がおかしいんじゃないかって思うのが当然なんだ。生物学的にみても、あの大きさでよく自壊しないもんだと感心さえする。しかも生きてるんだからな。あれは。」



あぁ、やはり作りモノとか手の込んだドッキリとかじゃないんだ…いや、その考えは最初からなかった。むしろそうであって欲しいと願っていたのだ。あのエレベーターでの出来事があってからずっと拭えない…リアリティ?


まるで今までの方が夢だった様な…現実と非現実の逆転。そんな筈はないと自分に言い聞かせていたのだが、その願いは虚しく潰えたみたい…。



「それでだ、この世には二種類の人間がいる。思いがけない事態に直面して、それを信じる者と、信じない者だ。」参事官の指は休む事なく波打っている。心なしかスピードがあがってる様な…。



「信じない者はいい。その事柄について思い煩う事がないんだからな。厄介なのが、信じる者だ。その事柄が存在しようとしまいと関係ない。信じる者の中に『在る』んだよ!」何故か苦しそうな表情の参事官。


「そして、信じる者にも二種類の人間がいる。信じた事を肯定する人間と、否定する人間だ。」


そう言って、参事官は僕の目を覗き込んだ。理解してるか?といった感じ。こういう「間」、ニガテなのだ…。



「つ、つまり、ここは…このC…」言ってからマトリックスの顔色を伺う…「C対策班は、信じるけど否定する側だと…。」



「オイオイオイオイ!呑み込み早いじゃないのどーも!」参事官の波打つ指が止まった。「じゃ、もうイイね、早速仕事にかかろう!」元気良く立ち上がる。



「あ!や、チョット待って下さい!それだけじゃまだ何も判らないです。例えばアレがなんなのかとか、なんであんなのがいるのかとかもう少しその…なんで僕なのかとか…」段々声が小さくなる。参事官の指がまた波打ち始めたからだ。速い。物凄く速い。残像が見える。



「秘密主義について一度、官房長官と話せにゃいかんな。」もう一度座り直した参事官は、ポケットからスマホを取り出すと、何やら操作を始めた。すると、机の中心がせり上がって来た。プロジェクター?いや、小さなプラネタリウムの様なものだった。


「本当は一秒でも惜しい所なんだが、君の事情も無視できない様だ。チームが揃うのも久しぶりだし、おさらいのつもりでビデオを見よう。」忙しくスマホを操作する参事官。



「3ヶ月前に作った官僚向けの教育ビデオだ。よくまとまってるとは言い難いが…。まぁこれを見れば君も現状を把握できるだろう。自分がすべき事もな。全く…この非常時に…レッドじゃないが、狂気の沙汰だよ。」チラリとマトリックスの方を見る。



レッド?あの人そんな名前なのか。勿論、アダ名なんだろうけど…。



マトリックス…もとい、レッドと呼ばれて一瞬眉を上げたが、彼女は無言だった。そう、この部屋に入ってからずっと。それだけじゃない。…じーっと僕を見てるのだ。例のエッジの効きまくったサングラス越しに。



怖い…あのサングラスって、なんか呪いとか飛ばせるやつなんじゃないのか?



「ほら、これ掛けて。君の分だ。」参事官が何かを僕の手元に滑らせてきた。



マトリックスサングラスだった。



ギニャ~!!!((((;゜Д゜)))))))



「それでないと見れないから。」目つきの悪い男と目つきの悪くない女も、いつの間にやらサングラスを掛けていた。割と長いモノに巻かれる人生を送ってきた僕だったが、この時ばかりは中二の反抗心の様なモノが芽生えた。ま、一秒後には掛けてたんだけど…。



「じゃ、いくぞ。」同じ様にサングラスを掛けた参事官は、スマホのリモコンアプリを操作して、再生ボタンをタップした…。



突然、部屋が真っ暗になった。


いや、違う。部屋がなくなったのだ。上下左右どこを見ても、何もない。と思っていたら、僅かに光が見えてきた。小さな星の光が無数に、360度全ての方向に。銀河が見える。ガス星雲も。



僕は今、宇宙にいたー。





ー続くー

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