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万事解決…?ーその3ー

********************************************



僕は途方に暮れていた。


クトゥルーの身体ならいざ知らず、ただの人間に戻った今の僕にこんな怪物、どうやって相手しろってんだよ!もう最悪だ!ここんトコずっと最悪だ!


今日何度目かの諦めモードに入って、そのまま何の抵抗もせずに死を受け入れそうになったが、一歩手前で踏みとどまった。


プラクティスフロアに横たわる多数の職員の亡骸を見たからだった。


そうだ…もっと早く帰ってきていれば、僕はこの人達を救えたかもしれない…もっと早くアカシックに気付いていれば、この人達は死なずに済んだかもしれない…。


そうだよ!アカシックという力が僕には備わったんじゃないか!この力を使わないでどうするんだ!ナイアルラトホテプが実力行使に出たって事は、つまりそれだけ追い込まれてるって事じゃないか!


なんとかしなくちゃ!誰でもない、僕がなんとかしなくちゃ!逃げちゃダメだ!逃げちゃダメだ!逃げちゃダメだ!


僕はナイアルラトホテプを睨みつけた。


考えろ!何か打つ手はある筈だ!


意識を集中する。思考の扉が開く。そこから情報の波が押し寄せてくる!


【………無貌なるがゆえにナイアルラトホテプはさまざまな化身をとる。

人の姿をとるときには、長身痩躯で漆黒の肌をした人物、エジプトから来た高貴なファラオのごとき預言者、核兵器の研究を推進する物理学者、星の知恵派教団の神父(ナイ神父)、魔女を操る暗黒の男などの姿で現れ、人の世に混乱と死をもたらす前触れとなる。

また昨今では、萌えキャラとしてアレンジされる事も多く、女子中学生位の容姿で登場する作品もいくつかある。】


っつ…使えねーっ!何このムダ知識!もっと実用性のあるもんないの?


突然、鉤爪の一本が一瞬で僕の目の前まで伸びてきた!慌ててしゃがまなければ、頭が吹っ飛んでたかもしれない…


【………故に、鉤爪の伸縮も自在に出来る。】


遅っ!その情報、遅っ!


などと思う暇も与えてはくれず、ナイアルラトホテプは次々に鉤爪を発射してくる。走り回って交わすが、いつまでももちそうにない。

ナイアルラトホテプがゲラゲラ笑っているのが聞こえる。


最悪!マジ最悪!


と、その時、笑い声を切り裂く様な鋭い声が飛んだ。「伏せろっ!」


声と同時に僕に一番近くまで迫っていた鉤爪の一本が破裂した!


「なんだ!」驚いたのはナイアルラトホテプも同じだった。二人して声のした方を振り返る。


「参事官!」ストラップをいっぱいに伸ばして、MP5サブマシンガンを構えている。ピープサイトに視線を一直線に合わせ、ナイアルラトホテプの鉤爪をひとつずつ確実に撃ち落としていく。


「小癪な真似を!」ナイアルラトホテプの標的が参事官に切り替わった。粘液を撒き散らしながら、鉤爪の連射が始まる!


しかし参事官も負けてはいない。一箇所に留まらず、常に移動しながら、伸びてくる鉤爪を的確に破壊していく。


弾切れになると、ナイアルラトホテプから目を離さないまま、死んだ職員の体を探り、新たな武器を調達する。拳銃、マシンガン、手榴弾…何であろうと流れる様な動作で使いこなし、攻撃の手を休めない。


そして参事官が武器を持ち替える度に、その情報が僕の頭の中にも休む事なく飛び込んでくる!


【………ベレッタM92 世界中の警察や軍隊で幅広く使用………デザートイーグル 強力なマグナム実包を安全に使用する為………MK3A2手榴弾 接近戦でも友軍を巻き込む危険性が低い事から、室内戦などで…】


ああもう判ったよ!使うよ!使えって事でしょ!


僕は手近に転がっていた拳銃を拾い上げた。


【………SIG SAUER P230 『アンフェア』『SP』『交渉人』『西部警察』等、多数の警察モノで登場………】だからいいってトリビアはっ!


参事官の動きを見習って、僕も走りながら銃を撃つ!すると、途端に参事官の怒鳴り声!


「オイオイオイオイ!撃つのはイイが私の位置もよく見て撃ってくれよ!基本、十字砲火だからな!」


【十字砲火 機関銃のような連射火器を使用した戦法の一つで、二つの火器から放たれる火線が交差(Cross)するところからクロスファイアと呼ばれる。 この戦法は第一次世界大戦で登場した。


防御において大きな効果を発揮する戦法で、相互支援原則に従った武器の配置例の代表格であり、相互にお互いを支援しあうことで攻撃側が防御側陣地へ到達することを困難にしている。塹壕、有刺鉄線、地雷と組み合わせることで防御力は飛躍的に高まり、現代でも攻略することが困難な戦法である。


って言うか、こういう事は銃を扱う上では初歩的な話しであって、そんな事も知らずに連携を組もうとすると同士討ちになったりしてそりゃ~もう目も当てられない事態に………】


ああはいどーもスイマセンデシタッ!


なんだろ、このアカシックってヤツ…若干イラっとくる…


それはともかく、僕はひたすら撃ちまくった。参事官の腕前には遠く及ばないものの、なんとか目眩ましにはなっている様だ。ナイアルラトホテプが攻めあぐねているのが判る。しかしそれは、こちら側も同じ事だった。決め手に欠けている。いずれ武器も尽きるだろう。それまでに方をつけないと!


僕は辺りを見回した。部屋の反対側にあるテーブルに目が留まる。この激しい戦いの中で、普通に立っているのが奇跡に思える程、無傷でいるテーブル。その上には3つのアイテムがこれまた無傷で並んでいた。『銀の鍵』『ニトクリスの鏡』そして、『レンのガラス』…


その瞬間、またしても僕の頭の中で閃光が走った!


レンのガラス!僕が【削除済】から運んできた荷物のうちの一つ!五芒星の形にカットされた曇りガラスの板!アレだ!僕の中でビジョンが生まれた、ナイアルラトホテプを倒すビジョンが!


僕の表情が変化した事にナイアルラトホテプも気付いた。視線の先を追う。


「させるか!」僕の思惑がバレた!レンのガラスを破壊する為、ナイアルラトホテプが鉤爪を伸ばす!


「参事官!ガラスを…!」ダメだ!遠すぎる!


狙い過たず、鉤爪はガラスに突っ込んだ…かに見えた。が、命中していない!鉤爪は空を切っていた。横っ飛びでレンのガラスをかっさらう影があった!


「受け取って!」レッドさんだった!


彼女は僕に向かって、まるでフリスビーの様にレンのガラスをぶん投げた!鉤爪が連射される!水平に飛ぶレンのガラスは、絶妙な感覚で鉤爪をかいくぐる様に垂直に角度を変え、僕めがけて飛んでくる!


え?ちょっ!勢い強すぎない?!


慌てて銃を放り投げて手を出す!


真剣白刃取りっ!


五芒星の尖った部分が僕の鼻先にちょっぴり刺さっていた…あと少し手を出すのが遅ければ、僕の顔はまっぷたつになっていた…かもしれない…。


「奴にかざして!」言われる前に僕は腕をいっぱいに伸ばして、ナイアルラトホテプに向けていた!


【レンのガラス 通常は曇りガラスであるが、五芒星を作り、呪文を唱えることによりヒヤデスやレン高原などの異世界へ通じる扉(ワームホールの一種と思われる)となる。ヒヤデスで造られたものとされる。


神話的光景を覗き見るレンズとしての役割も持つ………】


………ガラス越しにナイアルラトホテプが見える………


しかし、背景はプラクティスフロアではない。漆黒の闇にまたたく無数の星…曇りガラスの向こうは宇宙になっていた。ナイアルラトホテプは今、宇宙に浮かんでいるのだ。奴もその事に気が付いたらしい。攻撃の手が止まった。


「………!」何か叫んでいる。だが僕の耳には何も届かない。


…いや、微かに聞こえる…これは…音楽?初めはプラクティスフロア内で流れているブルーのピアノかと思った。いやいや、違うぞ…これは…本物だ!あの管楽器と打楽器のハーモニー。本物のメロディ。冒涜的な音階。アザ【削除済】の歌声だ!!!


ナイアルラトホテプの背後の星々が光を失っていく。


闇の色が濃くなっていく。


闇の中心に何か見える。


青白い…玉?


…いや、あれは見た事がある


…グングン迫ってくる


…塊


…肉の塊


…生理的嫌悪感の塊


…とてつもなくデカい


…そして


…とてつもなく冒涜的な存在………


「アザトース!!!」思わず僕は声に出して言ってしまった!その声が聞こえたのか、ナイアルラトホテプは後ろを振り返った。悲鳴。ナイアルラトホテプの悲鳴。まさか奴があんな声を出すとは。僕は奴の悲鳴を確かに聞いた。


白痴の王の身体に亀裂が走り、その醜い口が大きく開いた。なす術もなく飲み込まれていくナイアルラトホテプ。


「ちょっ!待ってよパパ!これは違うんだ…!」


アザ【削除済】の口が閉じる瞬間、そんな叫びが聞こえた気がしたが………定かではない。


ナイアルラトホテプの姿は消え去ってしまったが、アザ【削除済】はまだ接近を続けていた。その巨体が更に大きさを増してガラスいっぱいに広がる。


まさか…出てくるのか?


僕は硬直してしまった。メロディは今や大音響となって、僕の鼓膜を破りかねない程になっていた。


恐怖…これこそ本物の恐怖だ…!


「頭引っ込めろぉっ!」


怒号と共に、レンのガラスが僕の目の前で砕け散った!


突き出した両腕の間をバラバラになったガラスが霰の様に落ちていく。


その向こうに、拳銃を構えるレッドさんの姿が見えた。銃口から煙が出ている。


「………え?う、う、う、撃ちました?」

Σ(゜д゜lll)ガクブル状態の僕。


「ボーッとしてんじゃないっつってんでしょうが!っとに狂気の沙汰ねっ!」


ほっぺたがひんやりする。指で触ると、ヌルッとした感触が…血だ!


かすってる!

Σ(゜д゜lll)ギリかすってる!


僕の動揺はお構いなしに、参事官が構えた銃をアチコチ振り向けながら、確認をとっている。


「終わりか?終わったのか?!」


ナイアルラトホテプの姿はもうない。これまでの事が嘘だった様に思える程の静けさ…。


「気配も消えましたね。」レッドさんが応える。確かに何も感じない。初めてシェルターに入ってきた時の、あの禍々しさ、あれがなくなっていたのだ。聞こえるのは超絶技巧を駆使したピアノソロだけ…


「あ!ブルーさん忘れてた!」


「おお、やはりコレはブルーが弾いていたのか。」言いながらスマホで連絡をとる参事官。


「………私だ。もう上がってきてイイぞ。」


待ってましたといった感じで、ガラス張りの側の床が小さくせり上がってきた。床下収納みたいな所から階段を昇ってくるブルーさん。


「あ~も~gdgd…何がナンダカ………うおっ!ちょっ!何この荒れ模様!ヤッベマジぱねぇ何がドシタ系?!うおっ!ピピピピピンクっ!おまっ!マジピンク系?!」


何語を話しているのかは判らないが、驚いてる事は理解できる。ずっとネクロノミコンを読んでたんだから、この変わり様には戸惑って当然だ。


そう言やブルーさんとはアレっきりだったな…。


クトゥルーの姿で散々ビビらせてしまったお詫びも兼ねて、皆にここまでの経緯を説明した。この世界がクトゥルーの見ている夢である事も含めて話したのだが、皆の反応は思っていた程ショックを受けている様子はなかった。


「ま、そんなトコだろうな。」あっさりとした返事をする参事官。


「その件に関してはそれ程問題視しなくていいと思う。ピンクの話が確かなら今、世界を回しているのは人間の主観だ。人間の理屈が通らないモノは、この世に存在し得ない。

我々が“曖昧”の中でも理屈を持てた時点で、世界の主役はもう交代しているんだ。

この世が『C』の…いやクトゥルーの夢だろうと、巨大な亀の甲羅に乗っかった大陸であろうと、どうでもいい事なのだ。」


はぁ、そんなもんですか…。


「その事柄が存在しようとしまいと信じた者の中に在る…しかしそれはもう人間の領域を超えるモノではない。彼らもきっと人間として浮かばれるだろう。」


亡くなった職員達を見渡す。魚顔の者は一人もいなかった。皆、人間だった。


「地上の侵食も収まっている事だろう…やれやれだな。」ため息をつく。


「それよりも!ピンクがアカシックに繋がった事の方が大ニュースだ!今の流れでいくと君は人間の理屈を超えた存在になっている訳だからな。よくこの場に戻ってきてくれた!感動したっ!」


握手された…。


なんだか居心地が悪くなってしまい、辺りをキョロキョロ見回していた。レッドさんが無表情でこちらを見ている。


「あ…お怪我の方は大丈夫ですか?」


「お陰様で。」


僕がスーツを破ったせいで、シャツ一枚になっていたが、臆する事なくその裾をまくって脇腹を見せた。『曖昧』になった脇腹…若干透けて見える気がする。


「レ、レッドさんは最初からこうなると知ってて、僕をドリームランドに送り込んだんですか?」


「まさか!ナイアルラトホテプがあんたを狙ってたから、手の出せない場所に放り込んだだけよ。」


…ですよねぇ~(T_T)


「でも、参事官の言う通り。本当によく戻ってきてくれたわ。」


<(。-_-。;


「うん、見事だった。」ブルーさんまで!


…そうか、皆もドリームランドに行った事があるんだっけ…その世界を知っているモノ同士だけが感じる連帯感…僕もようやく「C対策班」の一員になれたのかな…。


「それにしても素数が決め手だったとはな!」一際大声を出す参事官。


「全くですね。数字を音階に変換するなんて思いもよらなかったぜ。それもアカシック系の力な訳?」


「いえ、直接ヒントになったのは…あのぅ…最初に見せてもらった教育ビデオ……でして…。」


「あれか?!」3人の素っ頓狂な声がシンクロした。


何この拍子抜けした様なリアクション…。


間の抜けた顔をしてお互いに見つめ合うこと10数秒…。






…ま、いっかwww!





【10分前】



********************************************


「あ!でも、見事と言えばブルーさんのピアノ!凄いですね!」


「え?あぁ、まぁな。『バイエルンヤマダ』って言やぁ、吉祥寺じゃちったぁ知れた名前なんだぜ?」


バイエルン…。


「C対策班に入るには『一芸に秀でてる』という才能が必要なんだ。ブルーの場合はピアノだろ?私は昔、外人部隊にいたんだ。」


それであんなに武器の扱いに慣れてたのか………てかそれって一芸?


「レッドさんは何なんですか?」


「私は………別にイイじゃない…。」


「え?なんで?」ブルー。


「教えてやれよ。」参事官。


「その必要はありません。」レッド。


「イイじゃないですか…」僕…。


「Shut Up!アカシックで読んだらいいでしょっ!」


メッチャ怒られた!マトリックスサングラスしてなくても、その目力は殺人的だった…。


「と、ともかく最後の場面は僕一人では切り抜けられなかった。皆さんのお力添えがあったからナイアルラトホテプを撃退できたんです。

クトゥルーの封印も果たせたし、コレで本当に万事解決ですね。ありがとうございました。」


「オイオイオイオイ!最終回みたいな事言うなよ!この後、残務処理があるんだぞ!そっちのがよっぽど大変なんだ!」言ってはいるが、イキイキした顔の参事官。


「まずは本部に報告だ!解決済みである事を念押ししておけよ!それから現場は保存しておこう。調査班が入ってくるからな!えーと、それから…。」


ずどおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!


突如、シェルター全体を揺るがす程の地響きが起こった!照明が一斉に消える!


「なななな…!」僕。


「どした?!」ブルー。


「電源?」レッド。


「落ちたな…」参事官。


すぐに非常灯が点いて、明るさは戻ったが、計器類やモニターは依然、死んだままだった。ガラスの壁に表示されていた複数の画面も全て「NO SIGNAL」となっている。


その時、全員のスマホが着信を知らせた。慌てて確認。


「何だこりゃ?」画面が何かのタイマーを表示していた。10分前からカウントダウンしている様だ。


「オイオイオイオイ!!!」参事官の顔色がみるみる青ざめていく。


「何ですか?」


「…タイマーが作動している。」


「なんの?」


「…シェルターに設置されている自爆用核爆弾のタイマーが…作動している…」


「はい?」



僕はキョトンとしていた…。





ー続くー

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