潔ーその1ー
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僕は叫び続けていた。
その中で僕の人格は崩壊した。
粉々になり、目に見えない程の小さな粒に、クォークよりも更に小さい、言わば物質の状態を捨てた存在になっていた。意識だけの存在…。
あらゆるモノが混ざり、絡まり、ほどけない。僕はCであり、Cは僕であった。ずっと以前から…僕が生まれるずっと以前から…。
激しい頭痛と共に溢れ出していた記憶は、全てCの記憶だったのだ。悠久の時を経た記憶…決して人間が触れてはならない記憶…何故?何故触れてはならないのか…。
僕は叫び続けていた。だが自分の声が聞こえない。代わりにあの、フルートの様な管楽器の旋律と、打楽器の重々しいメロディが流れている。あの忌々しいメロディが…。
目の前にはただ、無数の星々が散らばるばかり…。
彼方から黒いモヤの様なものが見えてきた。アレには見覚えがある。数えきれない程の化け物の群れ。あの卑しくもおぞましい化け物達が醜い姿を晒して戦っている。互いの存亡をかけて、血で血を洗う総力戦を繰り広げている。
だが、こいつらは雑魚だ。遠のきかけた意識を無理やり引き戻して僕は真の敵を探した。
もう一体のC。僕自身を。
僕は知っていた。この中に僕がいる事を。僕を殺さなければいけない事を。そして、この戦いが永遠に終わらないという事を。
まるで黒い水しぶきを上げる様にして、化け物達を弾き飛ばしながらもう一匹の「僕」が現れた。
蛸の様な頭。コウモリの様な翼。蛇の様な尻尾。僕と同じ姿をした怪物…戦いが始まる。どちらかが倒れるまで続く戦い。だが、もう一匹の「僕」も知っている筈だ。一匹倒したところで、この戦いが終わりはしないという事を。
何故なら僕は無限にいるのだから。
あの小賢しい部外者「A」に、してやられたのだ。
やはりあの時、止めを刺しておくべきだった。深手を負わせたものと思って油断していたのだ。まさか反撃の力を残していたとは。
「A」の最期の一太刀を浴びて僕は、無限に存在する羽目に陥ってしまった。僕は僕を殺し続けなければならなくなってしまった。
まぁ、「A」に喰らわせてやった一撃の事を考えれば、この状況はまだマシと言えるだろう。今や奴の通り名は「白痴の王」だ。
自分を殺すのは気分が悪いが、白痴の王に近づく為だ。仕方ない。もう一匹の「僕」もそう思いながら戦っているのだろう。いつの日か、奴に止めを刺す。この戦いは、その為の「肩慣らし」みたいなものだと…。
考え事をしていた為、僕達は奴の接近に気付けなかった。いつの間にか「A」自身が、すぐ目の前にいたのだ。
もう一匹の「僕」も虚を突かれたらしい。明らかに戸惑っている。奴はその汚らしい口を開いていた。僕達を飲み込む気だ。
そうか、そういう事か。僕に負わされた傷を僕たちに治させようというのだな。姑息な。一瞬、反撃しようかとも思ったが、考え直した。いいだろう、貴様の思惑に乗ってやる。ただし正反対の結果をくれてやろう。間違っても貴様のモノにはならんぞ。
奴に飲み込まれたが、僕は意に介さなかった。
僕はただ眠りにつくだけだ。時が満ちるまで。
ただ眠る。その時が来るまで。
僕達は眠る。夢を見ながら。
ただ眠る。今はまだ、割り切れない、お互いの存在…。
僕達は眠る…。
ー続くー




