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欠ーその2ー

********************************************




薄ら寒い荒野を二人して歩いていた。


ブルーはどういう訳か、延々としゃべり続けていた。


彼の説明によれば、ココはCが見ている夢の世界、通称「ドリームランド」という所らしい。Cの影響を受けてしまった人が取り込まれ、未来永劫、彷徨い歩く事になる世界…Cの夢の中だから、Cの主観が大いに働く世界。Cの見ているモノを僕も見ている訳だから、ブルーの姿が怪物に見えるのだろう、そして逆もまた真なり。というのがブルーの解釈だった。


空飛んでたけど………その説明はなかった。


それにしても、ドリームランドというネーミングの割には、随分と殺風景な世界だ。一体何を見て回るというのか。


「何言ってんだ。これはこれで結構忙しいんだぜ?見ろよ、地雷だらけじゃねぇか。」そう言って、触手の一本を伸ばした。指し示す方向には、あの名状し難い枯れ木が…。


一体あれのどこが危険だというのか?ただの枯れ木が何本生えていようが、地雷扱いする程の………。


目を凝らして見て、アッと驚く。


それは木ではなかった。奇妙な角度でねじくれていたので判らなかったが、それは人だった。


身の丈5m以上はあろうか。鋭く尖った眼、耳朶の長い耳、薄い鼻、どことなく仏像の様な顔立ちだが、全身がひどくくすんだネズミ色で一見、人には見えない。しかも微動だにしないんだから木と間違えるのも無理はない。


そんな異形の者があちこちに立っていたのか………全く気が付かなかった。


「大いなる者どもだ。ドリームランドの住人、旧神の従者にしてナイアルラトホテプにスカウトされたスパイ。そして人間の成れの果ての姿とも言われている訳よ。


こう見えてこいつらも生きてるんだぜ?何してんのかは判んないけど。ドリームランドはナイアルラトホテプもその支配権を狙ってる所でさ、そこで何をしてるのかってのも俺達の調査対象になってる訳。わかる?」軽い感じで喋り続けるブルー。


「まだいるぜ、上見てみ?」触手を空に向ける。曇り空。二カ所程、青空が見えるモノの相変わらず圧迫感のある雲が一面に広く垂れ込めている。


雲?


いや違うぞコレ。雲じゃない。毛だ。白い毛。上空にビッシリと毛が生えている!そして、青空と思っていたのは眼だった。青い眼。眼の上から眉毛が生えている。こちらも白い毛がビッシリ…。


よく見ると、眼の間が一段高く盛り上がっている。鼻か。そこも毛に覆われている。その下の口にあたる部分も同様だった。これはヒゲなのだろう。


曇り空と思っていたが、これは巨大な顔だった。空一面に広がった顔面毛むくじゃらの。それが今、地上を見下ろしている。ジッと。瞬きもする事なく僕らを見下ろしていたのだ。


「あいつはノーデンス。エルダーゴッズ、『旧神』の1人だ。ああやっていつもドリームランドを監視している。外なる神と旧き神は敵対してるからな。Cの夢の中でもお互いに牽制し合ってる訳よ。


ここはCの夢の中だが、言わば『悪い夢』なんだよ。夢ン中で恐い思いしてガバッと起きられでもしたら、途端に対消滅だ。そうならない様に俺達がパトロールしてる訳。わかる?」


『旧神』エルダーゴッズ、ナイアルラトホテプが使っていた言葉だ。エルダーゴッズやアウターゴッズは旧支配者であるCより格上の存在。Cにしてみれば目の上のたんこぶ。夢に見る位強い存在感を持っているのだろう、とブルーの説明。


だがしかし、ここは、このドリームランドはCの主観の世界だ。恐怖を糧とする邪神が、アウェイの恐怖に屈する事などあるのだろうか?


僕の思いとは関係なくブルーは淀みなく喋り続けていた。


何だろう、この違和感。フツフツと込み上げてくる。何かおかしい。何がおかしいのかは判らないけど、とにかく変だ。なんか間違いを犯してる気分………。


フと見ると、道を外れていた。考え事をしていて気が付かなかったが、あの標識の所からまっすぐ山脈の方向に歩いていた。あの冒涜的な城のある方向に…。


「だからさ、眷属と漂流者ってのは表裏一体な訳よ。理想と現実?デザインと機能性でもいいか。相いれないけど、どちらが欠けてもダメ。でも一つにまとめる事も出来ない。めんどくさい存在な訳だ。


どっちも主観でモノを見てるからな。客観性ってモノが欠けてる。かみ合う訳がない。なんでこんな事になってるかと言うと、この宇宙が2つの意識体で作られているからだ。


突き詰めると必ず2つのモノが残るんだな。この世界は。


光と影、白と黒、男と女、あ、善と悪は違うぜ?まぁ何しろ最後は割り切れなくなる訳よ。腐れ縁ってヤツだな。大元がそうなってんだから。判る?土台がそうなってんのに眷属と漂流者、2つの勢力が互いの覇権を争うなんて、土台おかしな話な訳よ。あ、『土台』って2回言っちゃった。」


やっぱこの人感じが違うぞ…。


一度沸き起こった不安感は、膨らむ一方であった。ブルーの事なんか具体的にそうだ。シェルターにいた時と違う。明らかに真逆の性格だ。あんなに僕の事を敵視してたのに、何なんだこのフレンドリーさは。場所の雰囲気も合間って、胃の辺りがシクシクしてきた。


「あの…ココっていつもこんなに寒いんですか?」特に聞きたかった訳ではないのだが、何か話さなければと思って取り敢えず口を開いた。


「ん?ああ、こんなもんだよ。季節はないな。強いて言えば、常冬?みたいな(笑)」


自分で言って、自分で笑う。


「ま、外の世界の暑さの事思えば全然マシだけどね。今日なんて猛暑日だったろ?これ位がちょうど良いやね。猛暑でもうしょわけありません。なんつって(笑)」


不安感と違和感が同時に僕の心の中で嵐の様に吹き荒れている。


おかしい。絶対におかしい。ここはCの夢の中だと言う。そこに紛れ込んだ僕達。レッドは僕に逃げろと言った。ナイアルラトホテプから逃げろと。


なのに僕は今、Cの夢の中にいる。敵対しているはずのアウターゴッズやエルダーゴッズを思いっきり意識している夢…。これは一体何を意味するんだ?



【死せるクトゥルー 夢見るままに待ちいたり】



突然、なんの前触れもなくそんな言葉が浮かんできた。


なんだ今の…聞いた事もないフレーズ………いや…知っている………僕はこの言葉を知っている………違う………思い出している?………どこで憶えたんだ………訓練の時に読んだ怪奇小説が今頃になって甦ってきたのか?………「夢見るままに待ちいたり」………何を待つ?………復活の時だ………Cは眠りから覚めて復活を望んでいる………何なんだ………どうしてこんな考えが浮かぶんだ?………


「外なる神も旧き神もCの敵なんですよね。それなのに敵が出てくる夢をCが見ているんですか?」


「さっき言ったろ?それだけ意識しちゃう相手な訳よ。何しろここは悪夢なんだから。Cの。」


「でも、Cが実体化すれば対消滅がおこるから、C自身も消し飛んでしまいませんか?」


「………………。」


「そうだ、Cだって無事じゃ済まないんだ。眠りながらでも人間社会に干渉出来る存在が、この事実を知らない筈がない!それなのに復活を望んでいる…いや、予言している!何故だ!」


「イイじゃんどーでも。それよか先行こうぜ。」


僕は歩みを止めた。


「『縞瑪瑙の城』には行きませんよ。」


唐突にあの城の名前が僕の口から飛び出してきた。まただ!また何かを思い出そうとしている!


ブルーも歩くのをやめた。ゆっくりとこちらを振り向く。


「ブルーさん。C対策班に入って何年目でしたっけ?」頭が痛い…。


「何だよ、藪から棒に。」


「確か3年間、一度も外に出てないんですよね?」何かを思い出そうとしている…。


「何だよ、棒から藪に。」


「どうして今日、猛暑日だって知ってるんですか?」遥か昔の記憶…。


「何だよ、ピンクのクセに。」


「どうして『N』と言わず、『ナイアルラトホテプ』と言ったんですか?」星辰の頃…。


「ピンクのクセに生意気だぞ。」


「どうして『縞瑪瑙の城』に行くんですか?」ダメだ!この記憶に触れてはいけない!


「テケリリテケリリテケリリテケリリテケリリテケリリテケリリテケリリテケリリテケリリテケリリテケリリテケリリテケリリテケリリテケリリテケリリ………………」小鳥がさえずる様な声………ブルーの声だった。


欠けていたモノが埋まろうとしている………。


「あなた、一体誰なんですか?」





ー続くー

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