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血ーその2ー

【ナイアルラトホテプ】


全宇宙を支配する『外なる神』の一柱にしてメッセンジャーの役割を担う神性。


外なる神のメッセンジャーでありながら、旧支配者の最強のものと同等の力を有する土の精であり、人間はもとより他の旧支配者達をも冷笑し続けている。


顔がない故に千もの異なる顕現を持ち、特定の眷属を持たず、狂気と混乱をもたらすために自ら暗躍する。彼が与える様々な魔術や秘法、機械などを受け取った人間は大概自滅している。(ネクロノミコンより一部抜粋)




「神…ですか?」


「便宜上そう呼んでるだけで、言葉の本質的な意味はない…と思いたいわね。」珍しく言葉を濁すレッド。


「で?私達がどうなるというの?」


N…いや、もうイニシャルで呼ぶ理由はなくなった様に思う。ナイアルラトホテプに対して全く臆する事なく、レッドさんは尋ねていた。


「厳密に言うと君達ではなく、まずピンクがその先陣を切る事になるのだ。…ピンクで良かったよな?」気さくに話しかけてくるナイアルラトホテプ。


「人間という物は実に面白い!あんなタコ頭から生まれてきた事自体がまず信じ難いのにその上、知性を持って進化し続けている。あり得ない。よく考えてみろ。死骸だぞ、死骸の塊からスタートしているのだ。一体何が作用したというのか。驚くべき出来事だ!


死骸の塊、なんの意味もなさない抜け殻同然の物は、言い換えれば『無』だ。無からの誕生。そう考えると、君達はなんという可能性を秘めた生き物なんだろう!人間を観測しているうちに、私はそう思う様になっていた。


ピンク。お前は自分の人生を振り返ってみて、一度でも『現実味』というモノを感じた事があるか?」突然話をフられてギョッとなる。


「現実が夢で、夢が現実…自身の行動や身の回りの出来事に対して、実感というモノを感じた事があるか?」


確かにそうだ。ここに至るまでの一連の出来事だけでも、僕にとっては信じ難い事の連続だった。こんなZ級ホラー映画の様な展開、誰だって受け入れ難いに決まってる!


「いやいや、そんな事じゃない。生まれてから今まで、お前がアイデンティティを感じた事があったかと聞いているのだ。」


え?哲学的な話ですか?てか心読まれた?!


「人間は皆そうなんだ。自分が何者か知っているつもりでも、それは全て後天的なモノだ。結局、何か拠り所があって初めて自分を認識した気になっている。本当は何者でもないのだ。いや、別に責めている訳ではない。何者でもないという事は、何にでもなれるという事なのだから!


とは言うものの、実はレッドの言う通り、私も初めから人間に興味を持っていた訳ではなかった。むしろ毛嫌いしていた位だったのだ。死骸のクズから生まれてきたクセに好奇心だけは旺盛な人間共。探したところで何も見つかる筈もないのに、自己の探求なぞ始める人間共。宗教、思想、哲学、占星術に数秘術。


挙げ句の果ては『観測したからこの宇宙は存在する』等と言い出す始末。全く手に負えない。まあ、それでこの『閉じた宇宙』の起源を知る事になるのだから、それはそれで凄い事なのだが…何と言ったかな…『苔の一念岩をも動かす』…『我思う故に我あり』…『光あれ』なんてのもあったな。あの発想はなかったよ。なんとまぁ根拠のない主張だろうか。


ともかく、私にとっては煩わしい存在でしかなかった。何故我が主はあの小賢しい化け物共の諍いに介入されたのか。あんな事さえしなければ、タコ頭の攻撃を受けて白痴化する事もなかったし、人間なぞ生まれはしなかったのに。後始末する者の身にもなってみろ。私が恐怖のどん底に叩き落としてやろうか、なんて思ったものだ。


しかし、この現状を見るにつけ、やはり主は偉大であったと思わざるを得ない。クズの子供達は消え去ったかに思われたクズの親をよみがえらせようとしていた。いやもう、よみがえったも同然だ。同一の世界では存在し得ない筈の二つの意識を実体化させているのだ!常識はずれもいいとこじゃないか!


私は、我が主に対する畏敬の念を新たにすると共に、人間に対する見方も改めようと思ったのだ。無限の可能性を秘めた人間を育ててみようと…。


ところがいざ始めてみると、なかなかどうして思う様に捗らなかった。方向付けをすると皆、汚れていくのだ。仕事に精を出す者。仕事を辞めたいと言う者。漂流者になる者。眷属になる者。誰もが何かしらのカテゴリーに縛られて、無限だった可能性は有限に、下手をすれば可能性そのものが消えてしまった。参ったよ。猿でも判る様にかなりあからさまなヒントを与えてやったのに。


ドリームランドへの入り口…恐怖山脈、ヒューペルボリア、無名都市…それと…具体的なアイテムだって…。」言いながらナイアルラトホテプは自分が運んできた荷物を開きはじめた。


3つの巨大な荷物からはそれぞれの大きさには似つかわしくない小ぶりの品々が出てきた。それらを手近なテーブルに並べていく。


五芒星の形をした曇りガラスの板。禍々しいデザインの縁取りがなされた鏡。そして、短剣にも見える銀色の鍵。どれも15センチ程の大きさしかない。なんであんなデッカい鞄に入れてたんだ?


「どれも目に付く所に置いてやってたのに、見つけた者は誰もが人目に触れぬ様に隠してしまった。自分だけのモノにする為に。頭を抱えたよ。バカじゃないのかこいつらって。


そして、そういう奴に限って無駄に霊感が強く、私の存在を認識し、あろう事か媚びてくるのだ。この私にだぞ!筋違いも甚だしい!」その時、背後に気配を感じた。ハッと振り返る。


イエローがいた。


全身が血塗れだった。本人の血ではない。返り血である事は一目瞭然のずぶ濡れ具合だった。そんな凄まじい様相を呈しているにも関わらず、恍惚とした表情を浮かべている事にゾッとした。


「あぁ、やっとおいで下さいましたね。この日が来るのをどれ程待ち侘びた事か!」僕の知ってるイエローではなかった。目が逝ってる…ナイアルラトホテプ以外、見えていない感じだ。


しかし当のナイアルラトホテプは対照的に、シラけた顔をしていた。


「全く…こういうのを愚の骨頂と言うのだな。」鼻で笑う。


「………え?」予想外の反応に戸惑うイエロー。


「ちょうど今、君の様な者の話をしていた所だ。自分こそ選ばれし者だと思い込む面倒くさい奴の話をな。」手に持った銀の鍵でイエローを指し示す。


「眷属だろうが漂流者だろうが、それは君達が言う旧神や旧支配者の中での話だ。我々の知ったこっちゃない。」


「わ、私は…!」動揺するイエロー。


「なのに媚びたうえに見返りまで要求してくる。勘違いを通り越して、もはや越権行為だ。」


「私はただ…!」ナイアルラトホテプに近づこうとするイエロー。


「お前うるさい。」銀の鍵を一振りした。


「伏せろっ!!!」ガクブル状態だった参事官が突然、僕とレッドに飛びかかってきた。3人が床に倒れ込むのと、イエローの体が裏返って爆発四散するのが同時に起こった!




********************************************




「なななななな…!」何が起こったんだ?!辺り一面血の海になっている!イエローが消えた!いや、なんか思い出したくないハプニングがあった!


「オイオイオイオイ…マズいぞこりゃ…ヒジョーにマズいぞこりゃ…!」ついさっき電光石火の早技を見せた人とは思えない程、またしてもガクブル状態に戻っている参事官。


「今の何なんですか?」体を起こしながらレッドに尋ねる。


「あれが銀の鍵よ。時空の扉を開く為のアイテム。正しく使えば、カダスやレン、それどころか過去や未来へも行く事が出来る究極の鍵なんだけど、ああゆう使い方すると次元の割れ目に挟まって………まぁ、あんな感じになる訳よ。」濁したっ!言葉濁したっ!


「え…でもあれ、僕が運んで来ましたよね?眷属に転んだら、さ、作動するって言ってましたよね。つ、つまり僕も…!」


「銀の鍵が作動してればね。他のアイテムが作動してたら、また違った結果になってるわ。」


良かった!眷属に転ばないで本当に良かったっ!


「おーい、話の続きしてもいいかー。」今の惨劇がまるでなかったかの様に同じ調子で話すナイアルラトホテプ。


「あー、なんだっけな。あそうだ、汚れてしまうって話だったな。まあ、これはこれで結構笑わさせてもらったのだが、しかしそれは私が、我が主が望んでいた事ではない。そこで私は考え方を変えた。クズに知恵を授けるのはやめよう。クズはクズだから良いのだ。何も足さない、何も引かない。」


ウィスキーかよ!


「それがピンクだと?」ナゼか半笑いのレッド。


「そう、私の最高傑作だ。無知なる者以上に無知な人間。『無垢なる者』とでも呼ぼうか。生まれた時から夢うつつで生きてきた人間。実感を持たない人間。実感を持たないから経験も持てない。経験を持てないから知識も持てない。知識を持てないから意識もしない。完全なる空虚。無。ゼロ。色即是空。それがお前なんだよ。」


褒めてんだかけなしてんだか…。


「で?だから何なの?その真っ白な奴が何に生まれ変わると言うのよ。」好い加減ウンザリだと言わんばかりにレッドが聞いた。


「ほら、後ろにいるだろ?」ナイアルラトホテプが指差す方向を全員が見た。マテリアルルームの一番奥、一面ガラス張りの壁、その先にいるのは今まさに実体化しようとしているC。


「オイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイ………!」

「きょ、狂気の沙汰ね…!」

「な、何なんすか…?」


ナイアルラトホテプは高らかに宣言した。


「ピンク。お前が新たなクトゥルーとなるのだ!」





ー続くー

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