転ーその3ー
ー前回までのあらすじー
「皆さんついてきてますか?大丈夫ですか?僕が心配し過ぎなだけですか?」
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「ツイ…ショウメツ…って、何ですか?」また聞き慣れない言葉が飛び出した。
「んまぁザックリ言うたら、物質と反物質が反応して、物凄いエネルギーが放出されるって事やねんな。」イエローが説明してくれた。
「え~とぉ、例えば、一円玉と反アルミニウムで出来た一円玉をくっつけたらぁ、この二枚の一円玉は跡形もなく無くなってまうねんけどぉ、その時に放出される熱量が、広島型原爆の1.4倍になるねんて。」間延びした声で途方もない事を言った。
「す、凄いですね…。」
「本来、反物質系はこの世に存在しにくいんで自然界で対消滅はまず起こらない筈なんだが、」またブルーが割り込んできた。
「俺たちがいるこの『閉じた宇宙』では事情が違う訳よ。」
「…まさか…さっきのビデオで見た、パラレルワールドの事ですか?別々の世界にいる同一の存在がひとつの世界を共有してるっていう…。」
「おぉ!」2人同時に驚きの声を上げた。「ホンマに飲み込み早いなぁ」イエロー。
「そうやねん。反物質とはつまり、パラレルワールドに存在する同一の物質っちゅうんが、漂流者、眷属両方一致してる見解やねんな。」
「ビデオで見た通り、無数の反物質がこの宇宙に流れ込んできてるから、ホンマやったらあちこちで対消滅が起こって、エラい事になってるはずやねんけど、137億年前から今までこの宇宙が続いてるんは、ある偶然のおかげやねん。」
ピンと来た。
「物質の状態を捨てクォークよりも小さい、言わば、意識だけの存在になった…。」
「そうそう!それそれ!」ドクロのリングがはまった指を突きつけられて寄り目になりながら僕は「じゃあ、あの崖にいるCが実体化するというのは、つまり物質化するという事ですか?そのぅ、意識だけのものが…。」
「正確には、2つの意識が1つの実体を持とうとしてる訳だ。この閉じた宇宙の中でな。」
「んまぁ、便宜上『物質』『反物質』とか呼んでるけど要は同じモンやねん。ただし、同時に存在する筈のないモンやねんけどな。」
「同時に存在する筈のないモノが1つになって、つ、対消滅が起こったとして…どうなるんですか?」
「アレがどれ位の質量になるのかは、ハッキリしてねぇが…ま、地球が吹っ飛ぶくらいで済みゃ、恩の字だな。」
またサラッと凄い事を!
「でも、それなら眷属だって、タダでは済まないじゃないですか!」
「だから、いンだよあいつらは。もともと肉体に固執してない連中なんだから。個々の壁を取っ払って、皆ひとつになろうって言ってんだぜ?」
なんか社会現象巻き起こしたアニメの話みたくなって来た…。
「って言うか、その辺は訓練の時に抑えてるモンだろ?怪奇小説。アレ読まされてねーのかよピンク!」
ピンクって呼ばないでっ!
「それアタシも気になった。なんでこんな事も知らんの?って。あの小説は全部、このアタシらの宇宙の事を書いてるねんで。そう教わらんかったん?」
「え~…その件につきましては…なんと言いますか…読むには読んだのですが、その~、拒否反応と言いますか、右から左と言いますか…殆ど頭に入ってないといった様な…。」
「読んでない?」
「いや!読んだんですよ、毎日一冊ずつ!感想文だって書かされたし…ただ…い、意味が判らなかったというか…。」まさかこんな展開になるなんて想いもしなかった訳だし、読んだ覚えがなかったって、それはやはり説明不足が尤もな原因じゃなかろうか…。
なんて言い訳しようとしたが、2人の表情を見て言葉が途切れた。
恐ろしいモノでも見た様な顔…え?何?僕なんかマズい事言いました?
「その程度の認識であのエレベーターを降りて来たのか…?」口を開くのもやっとといった感じで、ブルーが聞いてきた。
「え?あ、はい。アレは怖かったですねぇ。」
「そんな事言ってんじゃネェよ!!」
「え?あ、はい。ゴメンなさい。」ナゼか謝った…。
「ちゃうねん!あのエレベーターはシェルターと外界を繋ぐ唯一の連絡通路やねん。つまりあそこを通るッちゅう事はこの世からあの世に行くみたいなモンやねんな?。」イエローも信じ難いという顔をしている。
「あの世に行く訳やから、その通路ではこの世のモンではないモンと出くわす訳やん。」
「はい。」
「幽霊とか妖怪とかに出くわしたらビックリするやん。」
「はい。」
「でも知ってたらビックリせえへんやん。」
「はい。」
「訓練で山ほど読まされた怪奇小説って、つまりビックリせえへん様にするためのモンやねんな。」
「はい。」
「でもピンクはまともに読んでないのに、アレを無事に通過して来たって事やろ?」
「はい。あ、いや無事にって程ではなかったですよ、ホント、気を失いかけてましたから…。」
「そんな事言ってんじゃネェよ!!!」
うわ、また怒られた…。
「さっき話したろ?知識のない者がCに近づけば、それだけでも発狂したり、死ぬ事もあるって!」
「はい。」
「要するにピンクも、生まれながらの漂流者って事?」イエローの言葉に顔を強張らせるブルー。
「まさかっ!あってたまるかよ!そもそも眷属と漂流者は紙一重なんだぞ。こいつが眷属だって可能性もあんだよっ!そういう説明も出来んだろうが!」
「生まれながらの場合は転ばへんで。」
「だからネェよ!!大体、過去の漂流者とかだって実際んトコはどうだったか怪しいもんだ!信長や秀吉が眷属だったって話だが、俺に言わせりゃ、光秀だって家康だって眷属だった筈だ!Cの存在を知った時点でもう転んでんだよ!」
「出た。ブルーのおハコ『人間原理』。」
「ちっげーよ!そんなんじゃネェよ!!参事官だって言ってたじゃねえか。『ある』と思えば『ある』んだって。一旦『ある』と思えばもう『ない』とは思えないんだ。それがこの閉じた宇宙の法則なんだよ!」
「せやけどピンクの場合は、無知なる者並みに知らんかったやん。」
「ふざけんなっ!」ブルーがテーブルを叩いて立ち上がった。
「俺がどんな思いしてココまで来たか知ってんのかっ!どんな理不尽な目に遭って来たか!こんなポッと出の奴にアッサリ追い抜かれるなんて…認めねぇ!俺は認めねぇぞ!!」
ドクロのリングがはまった指を僕に突きつけながら、まだ何か言いたそうにしていたが、言葉が続かないらしくひとしきり睨みつけた後、ブルーは部屋を出て行ってしまった。
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「な、なんか気に障るような事言いました?」
「んまぁ、しゃあないか…アタシかてホンマかな?て思うもん。」フォローする様にイエローが話し出した。
「ブルーはああ見えて、デリケートやねん。ほんで真面目でちょっぴり神経質でちょっぴり心配性やねんな。」
あ、なんか僕と似てる…。
「でもプライドが高いモンやから、新人とか来る時はピリピリしよんねん。アタシの時かてそうやったから。せやからピンクが生まれながらの漂流者かもってなったら、あんなんになってまうねんな。」
「す、すみません…。」
「んまぁ、しゃあないか。今までにないパターンやもんな。自分の場合。」言いながら、ポケットからスマホを取り出す。
「こんなん言うたら、またブルー怒りよんねんけど、ホンマはあの人、ここ辞めたいねん。操作しながら話を続ける。
「マトモな神経でこれ系の仕事出来ねぇよお!言うて。」若干モノマネが入る。
「けど、この仕事ってめちゃめちゃ特殊やん?受けた時点でもう辞められへん様になったんねん。」
ー?
「んまぁ、転ばんかったとしても、トンデモな事実を知ってしまった訳やんか。それを口外されたら漂流者側はダメージやねんな。だから予め口封じされたんねん。辞めるに辞められへん訳よ。」
ー??
「この指輪な?『ドクロノミコン』言うてな?毒が仕込んであって、もし、はめてるモンが怪しい事してたら内側から針が出てきて致死量の毒を注入する仕組みになってるねんて。あ、無理に外そうとしたらあかんで。それでも毒注射されるから。」
ー???
「それとこのシェルターな。底に核爆弾が設置されてて、万一非常事態になった場合、爆発する仕掛けになってんねん。地上との連絡通路はあのエレベーターしかないから、アタシらはCもろとも消し炭やな。このシェルターが円錐形になってんのはモンロー効果の応用で…。」
ー????
「それと訓練の時、四六時中監視されてたやんか?アレ、今でもそうやねんで。対策班には監視班いう部署もあって、そこがずぅっとアタシらの事見張ってんねん。あ、ここのやり取りも聞かれてるから。」
ー?????
「せやからアタシら、何がなんでもココで頑張らなあかんねん。」スマホの画面を僕の鼻先に向ける。
「ほら、コレが同意書。スマホ立ち上げたらこの契約に同意した事になるねん。」
物凄く小さな文字で物凄くビッシリと書き込まれた文字列。要約すると「死んでも文句は言いません」的な内容…。
慌てて自分のスマホを見てみる。
「『設定』開いて…『一般』の…『情報』…あぁ、それそれ。そこの一番下…『契約内容』これ!」
あった!
「ききき聞いてませんよっ!!!」
「だから言うてないんやろ、ピンクには。」全身の血が滝の様に引いていく音がする。
「それだけやないで。アタシらはもう書類上、存在してないねん。」
ー??????
「平たく言うたらもう死んでんねん。ピンクも似た様な背格好の死体を用意して、事故死として処理されてもうお葬式も済んでる筈やで、三ヶ月前に。」
さささ最悪だ。いや、ここに来てからも十分過ぎるほど最悪な目に遭ってきたが、コレは最高に最悪だ!
「ヒヒ非、人道的…。」
「んまぁ、何も聞かされんとココまで来たって事はそれだけピンクが特別やいう意味ちゃう?アタシはそう思うで。」
「慰めになってませんよ…。」
「いやホンマやって。いくら秘密主義言うても最低限の情報は必要やんか。自分のモチベーション的にも。ピンクの場合は、最低限以下やねんから、なんか他に保険でもないと上の人間かてヒヤヒヤすると思うねんけどな…あ!保険で思い出した。ピンクが運んで来た荷物あるやんか?アレも…。」言いかけて2人のスマホが同時にメールの着信を知らせた。
「ありゃ。招集かかったわ。スケジュールの打ち合わせやて。いかなあかん。」僕のスマホにも同じ内容のメールが届いていた。「ミーティングルームですか?」
「うん。せやけど自分は着替えてから来ぃ。そこのクローゼットにアタシらとおんなじスーツ入ったるから。」立ち上がりながら部屋の奥を指差す。「これやったらネクロノミコンも内ポケットに入るから。」
あぁ、そういう仕様だったのか…。
「これ着たら気分変わると思うわ。イロイロ言うたけど仕事そのものは、やり甲斐あると感じる筈やで。」
「マジすか…。」
「マジマジ!さっきも言うたけど、ピンクは特別なんやと思う。論文読んでそう思たもんアタシ。ピンクみたいな人来てくれて嬉しいねんで。」
「論文………読んでくれたんですかっ?!」
「もちろん。政治的な事だけやなくて、実践的な話とかあって結構良かったよ。『宇宙で遭難した場合』とかは笑ろてもたわ。」
あぁ、僕この人と結婚するのかもしれない…。
「んまぁ、とにかく早よ着替えてミーティングルーム来ぃな。参事官にはチョット遅れる言うとくから。」そう言ってイエローは出て行った。
…なんかもう気持ちのアップダウンが激し過ぎてここ数時間の出来事に現実味を感じられない…。
取り敢えず言われた通り着替えよう。クローゼットを開く。
何じゃコリャ?
同じ型の黒いスーツがギッチギチに詰まっていた。何十着あるんだ?無理矢理ひとつ引っ張り出す。ハンガーには一揃い全てが掛かっていた。
スーツ、ズボン、カッターシャツ(これだけ白)、靴下に下着………下着っ?!
なんとパンツまである!しかも黒っ!
何なんだコレは。この徹底ブリはもはや狂気の沙汰ではないか?はっ!いかんいかん。レッドさんみたいな事言ってしまった………レッドさんか…あの人もこれ着てるんだよな………あ、イエローさんもか………てことは下着の色も同じなのかな………はっ!いかんいかん。何考えてんだ僕ぁっ!
なんかもう気持ちのアップサイドダウンが激し過ぎて、妄想がよからぬ方向に走ってしまった…誰もいないのに照れ隠しで着替えながら独り言を言ってしまう。
「黒で統一するのってなんか意味あんのかなぁ…。」
「黒には『存在しない』という意味があるのよ。」
「ははぁ、漂流者にはうってつけの色です………ね?………」…えっ?!Σ(゜д゜lll)
ギョッ!としてバッ!と振り返る!
そこには頬杖をついてソファに腰掛けるレッドさんの姿があった。
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「いいいいいつから居たんですか?!」
「あ?あんた達がつまんないお喋りしてた時から。」
ずっと?!てか見られたっ!ケツ見られたっ!
「ちょっ、着替え中なんでっ!やっ!ちょっ!まっ!…」アップサイドダウン状態の僕を尻目に、レッドは相変わらずの目ヂカラで睨み続けている。
「おかしいわね…。」
「何なんすかっ!」
「なんか混じってる気がしたんだけど…判らない、気のせいかも。」
「何の話ですか?!」どうにかネクタイを結び終えて、ネクロノミコンを内ポケットに突っ込む。
「っていうか、ミーティングあるんでしょ。行かなくていいんですか?」
「行くわよ、あんたの着替えが済んだら。」
見られてたっ!やはりケツ見られてたっ!
僕のわかり易い狼狽ブリは全くスルーして「あんた、ここに来る途中で何か変わった事なかった?」サラリと質問するレッドさん。
「え?いやぁ、特になんという事も…。」
「あの荷物を開けたりはしなかった?」
「はい。」
「移動中居眠りしなかった?」
「はい。」
「スマホでエロサイトばっか見てなかった?」
何なんだこの人ってヒトはっ!!!
「誰かと喋った?」ないですよ、と言いかけてフと思い出した。地下鉄で話しかけてきたオバちゃん。思えばガラス張りの建物を出てからここまで、会話らしい会話をしたのはあの人だけだったか…。
「そういえば途中、地下鉄で乗り合わせたオバちゃんからアメを貰いました。」
すっかり忘れていた。この数時間の展開の激しさのせいで、もう何ヶ月も前の話みたいに思える。
脱いだリクルートスーツのポケットから貰ったアメ玉を取り出して、レッドに見せた。それを見るやいなや…。
「F××in' S××t!!!」
ビクゥッ!Σ(゜д゜lll)
「あんたコレどうしたのっ!」
「え、や、だからオバちゃんに…。」
「知り合いっ?」
「あ、いえ、全然…。」
「ちっ!目を付けられてたのね。狂気の沙汰だわ。」僕の手の平にある黒いアメ玉を汚らわしいモノでも見る様な目付きで、レッドは吐き捨てる様に言った。そしてスマホを取り出し、電話をかける。
「最悪です。トラペゾヘドロンです。はい。今。ココにです。ええ、シェルター内に。」
途端に、悲鳴の様な警報音が響き渡った。
『侵食警報。侵食警報。全職員ハ直チニ作業中止。最優先事項イチマルキュウ発令。繰リ返ス、侵食警報。侵食警報。全職員ハ直チニ…』
「どどどどうしたんですかっ?!」
「シェルター内が侵食された。Cが目覚めるわよ。」
僕は途方に………暮れている場合ではなくなった!!!
ー続くー




