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第7話 先生が好きなんです

 それでこの後どうなったかというと、先生は元気になった。


「よくよく考えればアマゾン原産の植物なのだから、日本の冬の寒さと乾燥に強いはずがない。ハッハッハ、これはうっかりさんだったなぁ」


 暖房と加湿をガンガンに効かせて温室のようになった部屋で、先生は笑いながらジト目の僕の肩を「まあまあ」と叩く。


 そう、あのとき僕がつけた暖房と加湿器が先生を救った。適切な環境に置かれた先生の身体はたちまちに潤いを取り戻し、あっという間に元気になった。


 先生はすっかり色艶を蘇らせた髪をうねうねと踊らせて、「うんうん」と冷ややかな視線をむける僕に(さと)すように言う。


「失敗を転じて進歩となす。学問を志すものは皆この道を通るのだ」


「ただの結果オーライでしょうに」


「終わり良ければすべて良し。死なずに花実がなったのだから良いではないか」


 そう、(うそぶ)きながら先生はカラカラと笑う。僕はため息と一緒に首を振った。


 ちなみに適切な環境の下では実もすくすく育ち、無事収穫された。今、僕の手の中にはクルミに似た固い殻を持つその実が握られている。


「さて、八代くん」


 そこで先生が身体を寄せて、僕の顔を覗き込んできた。


「君の気持ちを利用していたズルい私だが、君は私をどうしたい?」


 突然の質問だった。じっと窺うような先生の瞳。だから僕は詰まることなくすぐに答えを返していた。


「ズルい先生が好きなんですよ」


 僕がまっすぐに返した言葉に、先生の瞳がたじろぐように揺れる。


「人間じゃないぞ?」


「でもズルい先生です」


 目が泳ぎそうになる先生に、僕はダメ押しのように言った。


「先生が好きなんです」


 そのとき先生の頬が桜色に染まったのを、僕は一生忘れないと思った。


「……これからもよろしくな」


 先生はそう言って僕に背中をむける。けれどその髪は嬉しがる猫のしっぽのようにゆらゆらと揺れていた。


 僕はそんな先生を見つめながら手の中の実を握り締め、「さて、この実をどうしてくれようか」ということを真剣に考えていた。

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