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1杯目 優しい風の薫り

 ここはとある町の商店街の少しレトロな雰囲気を醸し出す喫茶店。

 

 ワタシの名前は村咲菫むらさきすみれ。 この喫茶店『村サ喫茶』の看板娘だ。 休みの日や手の空いた時にお店を手伝っている。


 客足も疎らで忙しくなくかといって暇な訳ではない時刻、入り口のベルが鳴り、ワタシが出迎える為に向かうとワタシはその人物を見て少し驚き足を止めた。


「こんにちは、むらさきさん」

「ええ、いらっしゃい」


 挨拶をしてくれた人物にワタシは返すとお客には向けない軽い笑顔を向ける。


 この緑のパーカーを着た髪が全体的にくるくる跳ねた癖っ毛の少年は緑風くん。 隣町に住みそこの学校に通う少年だ。


「すきな席に座るといいわ」

「うん」


 ワタシがそういうと彼は笑顔で頷き、壁際のテーブルに座った。


「ご注文は?」


 おしぼりと水を持って行き聞くと、彼はメニュー表をみながら答えた。


「ブレンドのホットコーヒーとコーヒーゼリーお願いします」


 いつもアイスを頼むのだが、今日はホットのようだ。 彼はコーヒーゼリーが好きらしくたまに食べに来てくれるのだ。


「はい、少々お待ちください」


 注文を受け、厨房にいる親に伝えると手際よく用意をしてくれた。 そして、ワタシはそれを運んだ。


「お待たせしました」

「ありがとうございます」


 注文を届け、「ごゆっくり」と一言いいワタシはその場を離れた。



 お店も落ち着いているので遠目から彼を見ると、彼は両手でマグカップを手に取り、そのまま口の前に運びカップの水面に息を吹きかけた。


「ふーふぅー」


 恐らく、冷ましているのだろうが、それなら何故アイスコーヒーを頼まなかったのかとツッコンでしまいそうになる、しかし彼曰く、猫舌だがホットコーヒーの味の方が好きらしい。 彼はコーヒーの味の違いが分かるみたいだ。 確かにアイスとホットで違う豆を使うことがあるが、ここのは両方の淹れ方でも美味しい特製の豆を使っているのだ。


 緑風くんは少し冷ましたコーヒーを口に含んで一口味わった後にマグカップを机に置くとスプーンを手に取り、コーヒーゼリーのお皿を前に寄せる。 そして、コーヒーゼリーをスプーンで掬い上げて眼を輝かせながら少しジッと眺めた後口に運んだ。


「ん~♪」


 とても幸せそうな笑顔を浮かべ、赤ん坊の様な純粋な可愛い眼をキラキラと輝かせる。 彼の気持ちに呼応する様にひょこひょこと彼の癖っ毛が揺れていた。 その顔を見ているとワタシの顔が少し熱くなるのを感じる。 そんなに幸せそうに食べてくれるなんてこちらも嬉しい、ワタシは心の中でガッツポーズを静かに決めた。



「ごちそうさまでした」


 顔の前で手をあわせて律儀にいうと、彼は鞄の紐を首に掛け立ち上がる。


「ねえ」


 お会計を済ませてお店を出ようとする彼をワタシは少し呼び止める。


「またのご来店待ってるわよ」

「うん!」


 ワタシの言葉に緑風くんは子供の様な笑顔で返す。


「また、くるね! じゃあね、むらさきさん!」


 緑風くんは手を振りながらお店を出て行きワタシも手を振り返し見送った。



 彼の座っていた席の片づけをしていると無意識に空のコーヒーゼリーの入っていたお皿に目を向けていた。


「…………」


 彼の幸せそうな顔を思い出し無意識に頬が緩んだ。


「次は隠し味でも試そうかしら」


 そう独り言を呟くと空のマグカップをそのお皿に乗せた。


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