そして英雄は斯く吼える
【キャラクター】
・ユウキ
ヒーロー資格試験を同率最下位で通過した一人。
現在、ヒーロー組織「特異局」のとある支部所属。
何に対しても真っ直ぐな少女だが、頭でっかちになってしまう一面も。
・ヒロ
ヒーロー資格試験を同率最下位で通過した一人。
現在、ヒーロー組織「特異局」のとある支部所属。
常に落ち着き現状を正確に把握することができる。「切替」が口癖。
・由梨
常にオドオドしていて、小心者な性格。成人女性だが低身長なのがコンプレックス。
先輩にも関わらず、周りからは小動物的ポジションとして扱われているようだ。
とある特異局支部では、ナンバーツーとして活躍している。
・謎の男
30代後半ほどの男性。グレーのファーマルオーダーメイドスーツを着ている。
丸渕のメガネをかけた、知性的な印象を受ける人物。
変な男と被り。
・変な男
40歳前後の男性。第一印象はオッサン。近づくと匂う。
どこか掴みどころのない、飄々とした態度をしている。
謎の男と被り。
・ランダ
中性的な人物。どこか妖艶な雰囲気があり、性別問わず人を惹きつける。
会話による心理操作に長け、かつ、相手の心理状態を掴むのが特異。
・土蜘蛛
攻撃的な性格の男。所作や話し方においても、その性格が色濃く出ている。
首から下の全身にかけて刺青が入っている。
好きなものは、1に暴力、2に女。
【配役表】
────そして英雄は斯く吼える────
作:さもえどさん
比率/2:2:2
□ユウキ(♀)
〇ヒロ(不問)
△由梨(♀)
●謎の男/変な男(♂)
■ランダ(不問)
▲土蜘蛛(♂)
(名前の□や●などのマークで検索いただくと、兼ね役も一緒にマーキングできます)
【台本について】
・本作は、拙作声劇台本「そしてヴィランは斯く嗤う」の後日談になります。
知らなくても勿論楽しめるかと思いますが、よろしければ前作もお楽しみいただければと思います。
・本作は、雰囲気を楽しんでいただく為にルビを多数ふっております。
そのため、スマートフォンなど画面の小さいものですと、読みにくい可能性があります。
可能でございましたら、是非、パソコンやタブレットなどの端末でお読みいただければと思います。
・本作は、テキストサイトに転用は非推奨になります。
ルビを多用しているため、テキストサイトだとさらに読みづらくなっております。
・仲間内で楽しむのは勿論、配信サイトで公演したりしていただいても問題ありません。使用報告は義務ではありませんが、ツイッターのDM等で教えていただけると泣いて喜びますし、何卒、拝聴させていただければと思います(土下座)→ X: @samoedosan
・台本上映の際は、営利、非営利を問わず、作者名と台本名、台本のURLの明記をお願い致します。
・性別転換やアドリブは、共演しただく方が不快に思わなければ大歓迎です。ぜひ皆様で、この台本をもっと面白く、楽しくして頂ければと思います。
・台本に関する著作権は放棄してません。が、盗作や自作発言等、著しいものでなければ大丈夫です。
~~~~シーン⓪~~~~
薄暗い一室。コンクリート打ちっぱなしの殺風景な部屋。
ウッドとレザーの一人掛けソファに、ひとりの男がゆったりと腰かけている。
仮面で顔を隠した男だ。
●謎の男(N):突然ですが皆さん。“ヒーロー”とは何か、考えたことはありますか?
ヒーローとは。何をもってしてヒーローたらしめるのでしょう。
一説には、勇士や英雄の事を指し、勇者として人気を集めている人であると言われています。
であれば、どのような人間がヒーローになるのか。
その軌跡を、その末路を。私は見てみたい。彼らを真のヒーローたらしめているのは一体何なのか。
さぁ、それでは。渾身のヒーローショーを、始めてみるとしましょう────。
~~~~シーン①~~~~
とあるテーマパーク。楽しげな音楽がスピーカーから流れている。
轟音を立てて走るジェットコースターの音。
△由梨 :あのぉ~、お二人ともぉ……。ほんとに大人しくしててくださいねぇ……?
あくまで今日はお忍び! 秘密裏の作戦なんですから……!
□ユウキ:わぁーってるよ由梨サン。……ったく。初任務が修学旅行のオモリなんて華がねぇ。
〇ヒロ :ユウキ。文句言わない。任務は任務。しっかりやろう。
□ユウキ :でもさぁヒロ! オモリの相手はヒーロー校生徒だぜ!? なにかありゃテメーでなんとかすんだろ!?
△由梨 :こ、声が大きいですぅ……。まだ彼らは資格未取得の生徒。
能力の行使は禁じられていますぅ。
〇ヒロ :それに、多分僕らの時もこうやって護衛してもらっていたんだ。
なら受け継いでいかなきゃ。切替だよ、切替。
□ユウキ:でた、ヒロの口癖~。つか、華がないっていえばここもだよなぁ。
なんで修学旅行がヒロイックランドなんだよ。
〇ヒロ :テーマパークってだけじゃなく、ヒーロー博物館のような側面もあるからね、ここ。
□ユウキ:博物館ねぇ。そんな華々しいもんじゃないけどな。なんだっけ、受付のオッサンが言ってた……。
△由梨 :夢の世界へようこそぉ。
□ユウキ:そうそれ。何が夢の世界だよ。蓋開けりゃこんな冴えねぇ仕事ばっかだ。
……しゃぁない。給料は貰ってるわけだし、やりますか!
△由梨 :やるっきゃない状況にならないといいんですけどぉ……。
今回、不穏な手紙が各“特異局”に送られてきていますし……。
□ユウキ:なんだっけ。ジショーとか、ナンジーとか。
〇ヒロ :“英雄を自称せし、勇敢なる者共へ告ぐ。来る8月13日、汝らを称えし園に集え。”
△由梨 :“卵らを護る親鳥となりて、その勇士を供覧させよ。”
────内容はともかく、犯行声明としては意味不明ですねぇ。目的や要求も見えないですしぃ……。
□ユウキ:ま、大事のときは任せたぜ由梨サン! 我らがナンバーツー!
△由梨 :ひえぇ、やめてくださいぃ……! 私なんてただの守護要員……。
なんにもできないんですからぁ……。というか、こんな時になんでトップはいないんですぅ?
「ちょっくらぶらぶらしてくるぜ。居ない間は任せた。」って手紙置いたまま、もう一週間も音沙汰なし。
ありえないですよぉ……。
□ユウキ:何やってんだかなぁ……。
〇ヒロ :そういえば。所属してから今まで逢ったことないですけど、どんな人なんです?
△由梨 :あー……。なんていうか、テキトーな人、ですかねぇ……。良くも悪くも。
□ユウキ:なんだそりゃ。そんなんで勤まんのかぁ? ……ま、考えてもしゃーない。
散開して、怪しい奴いないかパトるか?
△由梨 :アトラクション内部は別局がやってくれているですぅ。なので、ウチは屋外をやりましょう。
私は定点で観測しておくので、ふたりはパーク内を散策してくださいぃ。
□ユウキ:はいよ、了解。
〇ヒロ :了解。
△由梨 :目立つのは控えたいので、く・れ・ぐ・れ・も! 騒ぎを起こさないようにぃ!
あと、生徒だけでなく念のため悪者にも注意してくださいぃ。
〇ヒロ :ラスカル……。悪者、ね。
□ユウキ:了解。じゃぁ、行ってくる!
間
△由梨 :はぁ……。不安でしかないですぅ……。
なんでリーダーは、資格試験最下位のふたりを選んだんでしょう? 不思議ですねぇ……。
────あっ、屋台のおねーさーん! アイスクリーム8つ、お願いしますですぅ~!!
場面はかわり、園内にあるとあるバー。
営業時間外のため、閉まっているようだ。
■ランダ:やぁ土蜘蛛。調子はどうだい?
▲土蜘蛛:あぁ、上々だぜランダぁ……。争いの匂いが強くなってらァな。
■ランダ:続々と集まってきているねぇ。夢幻泡影、あわあぶく。
▲土蜘蛛:ケカカ……! 上々、上々……!
■ランダ:土蜘蛛が嬉しそうでボクも嬉しいよ。……お、あそこに可憐な子猫ちゃん。可愛らしい顔だ。
▲土蜘蛛:相変わらずの好色家だなァ。
■ランダ:そうさ。ボクにとって愛は原動力だからね。……お、あそこには凛々しいジェントルマン。
引き締まった体だ……。そそられるね。
▲土蜘蛛:カカ。男も女も見境なしか。
■ランダ:あぁ。逆に君は、若い子猫ちゃんだけしか相手にしないそうだね。
さしずめ、ボクが大食漢だとしたら、君は美食家かな?
▲土蜘蛛:カカ。物は言いようだ。いいぜェ若い女はよ。脂がノッていて柔らかい。
■ランダ:成程、文字通り肉食系というわけか。カニバリズムともいえるね。
▲土蜘蛛:抱くのも好きだぜェランダぁ? 今度、同衾でもしてやろうか
■ランダ:遠慮しておくよ土蜘蛛。ボクは美しく染めていくのが好きなんだ。
キミとは方向性が違うのさ。
▲土蜘蛛:カカカッ! お高く留まっていやがる。──まぁいいさ。
今は、あそことは違ェ。せいぜい、お互い仲良くいこうぜェ。
■ランダ:ははは。お邪魔虫にならないよう、努力するとしよう。
▲土蜘蛛:よろしく頼まァな。んじゃまちょっくら暴れてくる。
間
■ランダ:あそことは違う、ね……。ボクにとってはどこも変わらないよ。
あそこも、ここも、ね……。
~~~~シーン②~~~~
丘の上に建てられた、展望台。観覧車が回る足元に、ふたりの少年少女がいる。
〇ヒロ :さて。しばらく巡回したものの。これと言って怪しいやつは見当たらないね。
□ユウキ:そりゃそうだろうぜ。こんな白昼堂々ぱっと見で怪しい奴いねぇだろ。
〇ヒロ :そう? 女の子も多いし、変な人もいそうなもんだけど。
□ユウキ:入園料払ってまでかぁ!? そんな奴いるわけ────。
●変な男:おっほぉ……! 若い女の子のおみ足!! 眼福、がんぷく……!
ぴっちぴちの太もも、ぱっつぱつのヒップ……! たまらねぇなぁ……ッ!!
□ユウキ:いたー。
●変な男:お……ッ!! おぉッ!! 見えそうで、見え……、見え……ッ!!
□ユウキ:コラてめーっ!! 何やってんだっ!!
●変な男:ぬぉっ!? びっくりしたぁ……。なんだ、お前らか。
□ユウキ:あぁっ!? 誰だよテメー!
●変な男:えぇっ!? って。あー……。いや、そうか。
〇ヒロ :……?
□ユウキ:ともかく、事情聴取だジジョーチョーシュ! 変質者は即! 逮捕!!
●変な男:げ。まじか……!
□ユウキ:さぁ、観念しろよ悪者ぅ。ここが年貢の納め時!
●変な男:ちょっ! いや待て!! 俺は────。
□ユウキ:問答無用ッ!! “獄炎のッ! 鉤爪”ッ!!!!
●変な男:発火の異能!? どわっ! あぶねッ!!
□ユウキ:ちょこまかと! “一刀・獄炎”!!
●変な男:今度は手刀かよ!? あらよっ!!
□ユウキ:返しの攻撃も避けるかよッ!
●変な男:教科書通りの追撃なんか当たるか!
〇ヒロ :……なら、これは避けれますか?
●変な男:なッ! 背後!? いつの間に!!
〇ヒロ :六天流・嵐身。“御木砕”。
●変な男:突き蹴り……ッ! 速えぇ! 避けられ────、ぐぁあッ!!
□ユウキ:クリーンヒットォ! やったなヒロ!!
〇ヒロ :いや、当たった感触が無い。これは……、霞……?
●変な男:いやぁ~、びっくりしたぁ。オジサンの腰に突き蹴りとか、下手したら半身植物よ?
最近の若者はおっそろしいねぇ。
□ユウキ:瞬間移動……? 残像か!?
●変な男:連撃で注意を逸らし、死角からの奇襲。咄嗟の癖にいい連携じゃないの。
とはいえ、ここで目立っちゃうのはオッサン嫌なのよねぇ。
□ユウキ:そんなん知ったことか。いくぞヒロ、追撃だ!
●変な男:おっと残念! これ以上の騒ぎはゴメンっと!!
悪いけど退散退散! “微睡はより深淵に”。
□ユウキ:体が消えて……! 待て……ッ!!
────クソッ! 逃げられちまった。
〇ヒロ :幻覚系の異能……? いや、これは────。
□ユウキ:逃げるってこたぁ、後ろめたいことがあるってこった! 追うぞ、ヒロ!!
〇ヒロ :うん。行こう。
一方その頃、由梨は。
△由梨 :たっこやきー! わったあめー! やっきそばー! かれーらいすぅー!
ランド内のたっかいゴハンも、こういう時は経費でいけるからいいですよねぇ……!
……はむっ。れいふぉうっふぉいのもよひえふぅ(冷凍っぽいのも良きですぅ)。
間
△由梨 :あ、あのぉ……。それで、いつまで隣のベンチに座ってるですかぁ……?
■ランダ:すまないね。食事の邪魔かい、子猫ちゃん。
△由梨 :そ、そう、ですねぇ……。その。あんまり見すぎと……いいますかぁ……。
■ランダ:失礼。子猫ちゃんの食べている姿は、どうにも癒しでね。可愛らしい子なら尚更さ。
△由梨 :は、はぁ……。
■ランダ:しかし、遊園地に子猫ちゃんひとりなんてどうしたんだい?
彼氏と喧嘩でもしちゃったのかな。
△由梨 :しょ、初対面の方に話すほどの事でも、ないのでぇ……。
■ランダ:はは、つれないなぁ。そう警戒しないでおくれ。おしゃべりに来ただけだよ。
────今は、ね。
△由梨 :……はぁ。……い、いとこの付き添いですぅ。単なる保護者ですよぉ……。
■ランダ:ふぅーん。そっか。……成程ね。
間
■ランダ:────それで、本当は?
△由梨 :……えっ?
■ランダ:流れるような綺麗な嘘だ。……でも惜しい。
もう少し視線と口元の動きに気を付けたほうがいいかもしれないね。
△由梨 :な、なにを……。
■ランダ:それに、一般人を装うならそんなにお固くしてちゃだめだ。
そんなに隙がないと逆に奪いたくなる。……特にボクみたいな人間は、ね。
△由梨 :あなたは……、何者です……?
■ランダ:終焉の使者。君たちの言う、悪者さ。
△由梨 :……ッ!!
■ランダ:おっと! そう構えないで。さっきも言ったけれど今はおしゃべりに来ただけだよ。
△由梨 :い、今は……?
■ランダ:そう。今は。招待状を届けたくてね。我らが使役者、純悪たる愚者への招待状を、さ。
△由梨 :純悪たる愚者……?
■ランダ:ありていに言えば、宣戦布告さ。ボクら終焉の使者から、キミたちへの。
しかも、使役者は選りすぐりの猛者をご所望なのさ。だから、ボクは子猫ちゃんを選んだ。
強く、凛々しく、それでいて可憐な、ね。
△由梨 :それは……。と、とんだ節穴ですぅ。こんな無能ひっつかまえて……。
■ランダ:ふふ、謙遜かい? まぁそれもいいさ。
……“その時”が来たら逢いにおいで。合言葉は「夢のその先」。覚えておいてね。
△由梨 :その時、です?
■ランダ:すぐに理解る。それじゃ、いったんボクはここで。夢のその先で、また逢おう。
△由梨 :待って……ッ! ────きえ、た……?
間
△由梨 :終焉の使者、純悪たる愚者、夢のその先……。
間
△由梨 :さっむぅ……。
~~~~シーン③~~~~
植木で作られた、人工的な迷路。2人の少年少女が疾走している。
□ユウキ:……くそっ!! どこ行きやがった……!
〇ヒロ :追い付いたと思ったら、また消えて逃げられる。完全に遊ばれてる感じ。
●謎の男:あー。あー。テステス。聞こえるかな?
□ユウキ:インカムに誰か入ってきた。
〇ヒロ :聞きなれない声だけど……。────はい、聞こえます。
●謎の男:はじめまして、新人たち。といっても、私にとっては初めましてじゃないのだけれど。
□ユウキ:どこかで会ったことあるか?
●謎の男:知っている、が正しいかな。何せ私は、リーダーだからね。
□ユウキ:リーダーって、失踪中のトップか!? どこにいんだよ。
〇ヒロ :……? どこにいるか理解らない?
□ユウキ:あぁ。近くにいない。ってより、むしろ……。
〇ヒロ :そっか。……それでリーダー。どうかしたんですか?
●謎の男:進捗確認だよ。どう? 敵は見つかったかい?
〇ヒロ :敵……?
□ユウキ:怪しい奴ならいた!
●謎の男:それはよかった。
〇ヒロ :あの。リーダーはなんで失踪したんですか?
●謎の男:失踪したわけじゃないよ。潜入捜査をしていたのさ。
〇ヒロ :潜入捜査?
●謎の男:そう。そして私は、遊園地全体を見渡せる場所にいる。
索敵と誘導。ようは君たちのサポートさ。
〇ヒロ :サポート、ねぇ……。
●謎の男:ともかく、論より証拠。その通路をまっすぐ進んでくれ。敵の所までナビゲートしよう。
□ユウキ:だとさ。どうする? ヒロ。
〇ヒロ :行ってみよう。
間
▲土蜘蛛:さァって……。ノッてやったはいいが、果たしてってナ。
□ユウキ:すげぇな。マジでいやがった。
●謎の男:そりゃいるさ。いてくれなきゃ困る。
▲土蜘蛛:……お? なんだテメェら。
□ユウキ:悪者に名乗る名前はねぇ!
▲土蜘蛛:なるほどォ……。脂がノッてるねェ。男もいるが、マァ及第点ってとこだ。
若けェし肉付きがいい。肝が据わってるのもそそられる。
□ユウキ:いいねぇ、ぶっ飛ばしがいのある気色わりぃ目だ! 行くぞヒロ!!
〇ヒロ :了解!
▲土蜘蛛:迷わず2対1を選ぶか。……カカ。燃えるネェ。なら、先制攻撃と洒落こむかァ!!
────おらよッ!!
〇ヒロ :当たらない!
▲土蜘蛛:カカッ!! まァ避けるよなァッ!? ダが当てんのが目的じゃねェんだワ! 単珠、壱、爆!!
〇ヒロ :な……ッ!? 爆発!? がはッ!!
▲土蜘蛛:カハハッ!! ほらほらァ! 助けねェと相方が死んじまうぜぇ!?
□ユウキ:────“一刀・獄炎”。
▲土蜘蛛:ノールックかよ! うぉらッ!!
□ユウキ:玉ばらまきやがって! ここはパチンコ屋じゃねぇんだよ! “獄炎の鉤爪”!!
▲土蜘蛛:接近戦じゃ分が悪ィ!! 失せろッ! 単珠! 参・伍・捌!! 爆!!
□ユウキ:爆風!? 邪魔くせぇッ!!
▲土蜘蛛:薙ぎ払ったッ!?
□ユウキ:捉えたッ! “獄炎の拳骨ッ!!”
▲土蜘蛛:炎の拳ッ! 連珠・陸三、結!!
□ユウキ:消えた!?
▲土蜘蛛:単珠、玖。爆
□ユウキ:ぐぁッ……!!
▲土蜘蛛:アブねぇナァ……。
〇ヒロ :油断してる場合か。
▲土蜘蛛:後ろ!? いつの間にッ!
〇ヒロ :六天流、紅身。“腕廻衝”。
▲土蜘蛛:ゴ……ァ……ッ!
□ユウキ:おらッ!! 追撃!!
▲土蜘蛛:連珠・陸十、結。
□ユウキ:また消えた……!
〇ヒロ :上だ。
□ユウキ:何……ッ!?
▲土蜘蛛:ンン……? ナルホドなぁ……。
□ユウキ:くそ、建物の上に……。これじゃ届かねぇ。
▲土蜘蛛:単調で大ぶりな攻撃。ちょこまかする割に威力の低い技ァ……。とはいえ、ナァ……。
□ユウキ:てめぇ! 降りて来いよ、コラァッ!!
〇ヒロ :口の端、火吹いてるよ、ユウキ。
▲土蜘蛛:どうにも、薄ら寒ィ……。べっとりと張り付く、この気持ち悪さはなんだァ……?
□ユウキ:銃もってねぇか?
〇ヒロ :あったら最初から使ってるよ。
▲土蜘蛛:まァいいや。「夢のその先」で、待っててやらァ。楽しみにしてるぜ?
〇ヒロ :玉をばらまいて……! まずい!!
□ユウキ:ヒロ!!
▲土蜘蛛:単珠、全。爆。
爆音が、木霊する。
その音は、遠くに離れる由梨にも届いていた。
●変な男:爆音……? ────そうか。おっぱじめやがったか。なら俺も動かねぇとなぁ?
△由梨 :なんで。なんで、あなたがここにいるんですか……!
●変な男:調子はどうだ。……ま、ここにいるってことはそう言うことなんだろうが。
△由梨 :なんで……。
●変な男:なんでってそりゃぁ、手番が回わりゃコマ進めるだろ。
ただでさえ一回休み喰らってんだ。こっちはもうスキップ残ってねぇってコト。
△由梨 :なにを……。
●変な男:台パンして盤上引っ繰り返すのは俺の流儀に反するが……。こうなっちゃもうしょうがねぇ。
△由梨 :なにを言ってるんですか!
●変な男:悪ぃ。なりふり構ってる暇無くなっちまったんだわ。
△由梨 :訳わかんない……! 訳わかんないですよッ!!
●変な男:まぁ……、その。なんだ。
間
●変な男:すまんな。死んでくれ。
△由梨 :え……っ。
間
△由梨 :ゴフッ……。
●変な男:恨んでくれて構わねぇ。俺もすぐそっち行くからよ。言いてぇことはそん時に、な。
△由梨 :ほん、とうに……、あなた、は……。いつも────(絶命)。
間
●変な男:本当に、な。
~~~~シーン④~~~~
■ランダ:さぁ。盤上のコマは整った。プレイヤーたちは物語を壊すことができるのか。
────なんて。ヤツの考えそうなことだね。
▲土蜘蛛:相変わらず黄昏てんなァ。こっちはひでぇ目にあったゼ。
■ランダ:おかえり、土蜘蛛。
▲土蜘蛛:おゥ。首尾はどうだ。
■ランダ:上々だよ。なかなかに痺れる子猫ちゃんを見つけてね。そういうキミはどうだったんだい?
▲土蜘蛛:まァ、それなりに。粋のいいガキが二匹。……ま、育ちゃァ面白そう程度だが。
■ランダ:おや、予想外。殺し尽くしてつまらなそうに帰ってくるとばかり思っていたよ。
▲土蜘蛛:カカ。言えてらァ。現実主義はもォいいだロ。見飽きたよ。
■ランダ:だからこそ、ボク達は虚構を選んだ。求めていた幻想が同じだから。
▲土蜘蛛:滾るねェ。そりゃそうか。虚構ってのは膨らんでいくモンだ。
■ランダ:またもや予想外だ。キミでも機微が理解るんだね。
▲土蜘蛛:馬鹿にしてンのか。殺すぞ。
■ランダ:キミの心臓は苦そうだけど、お望みとあらば。
▲土蜘蛛:……カカ。面白れェ返事だ。
■ランダ:────さて。子猫ちゃんたちは来てくれるかな?
▲土蜘蛛:来てくれなきゃ興ざめダな。このままズブズブと深淵に沈んでいくのも悪くはねェが。
■ランダ:おいで、英雄。ボク達は覚醒た。次は、君たちの番だ。
もう欠片は揃っているよ。おいで。ボク達の、袂まで……。
一方その頃、ある一角。
立ち込める爆炎が、少しづつ晴れていった。
●謎の男:────やぁ、生きてるかい?
□ユウキ:げほげほっ!! ……ひぇ。ひでぇめにあったぜ。
〇ヒロ :ほんとに死ぬかと思った……。
●謎の男:驚いた。傷ひとつないなんて。
〇ヒロ :こんなんで死んでたらヒーローなんて勤まらないさ。
●謎の男:一発が手榴弾クラスの威力だよ? 簡単な事じゃない。
〇ヒロ :……たしかに。ちょうどそれぐらいの威力だったよ。
□ユウキ:……ヒロ?
〇ヒロ :とにかく広い所に行こう。
●謎の男:外に出るのかい? なら覚悟するといい。きっと驚くと思うよ。
□ユウキ:何の話?
●謎の男:すぐに理解るさ。
〇ヒロ :……行ってみよう。
間
□ユウキ:はあ……っ!? 何だよコレ……ッ!!?
〇ヒロ :空一面の……オーロラ……!?
●謎の男:奴らが動き出したか。
〇ヒロ :やつら……?
●謎の男:いずれ理解る。
□ユウキ:ヒロ! あれ……!!
〇ヒロ :あれは……。学生たち? どこかに向かってるみたいだ。
□ユウキ:あいつら目が死んでねぇか。
〇ヒロ :たしかに様子がおかしい。一体何が起こってる?
●謎の男:饗宴だよ。
〇ヒロ :饗宴?
●謎の男:終わりの始まりさ。ここはもう名もなき聖域に昇華した。
君たちの協奏曲は、もはや幻想曲と相成ったんだよ。
〇ヒロ :何を訳のわからないことを……。
●謎の男:さぁ……! 歌いなさい!! 踊りなさい!! その燦々と輝く生命、そして闘志の炎を! 私に魅せつけるのですッッ!!
□ユウキ:ヒロ、こいつ……。
〇ヒロ :あぁ。やっぱり、こいつはリーダーなんかじゃなかったってことさ。
●謎の男:おやおや。勘づかれておりましたか。流石は英雄。新米といえど優秀だ。
〇ヒロ :そりゃどうも。
●謎の男:さぁ、ここからどう巻き返していくのか見ものです。解答は既に、あなた方の手の中にある。
〇ヒロ :あっそ。ま、確信は得られた。夢の世界へようこそ、だっけ。どうも親切なことで。
●謎の男:ほぉ……。だが、君たちは最後の一線を超えることができるかな?
〇ヒロ :それについては────、そうだね。ご期待に沿うことはできないと思う。
●謎の男:それは悲しいですなぁ。この窮地に怖気づかれてしまうとは。
〇ヒロ :あぁ違うちがう。そうじゃないよ悪者さん。
●謎の男:……?
〇ヒロ :あんたの思い通りに、事は運ばないってことさ。
●謎の男:……言いますなぁ。であれば。その真意見せつけていただきましょう。
〇ヒロ :はいはい勝手にしてて。……ユウキ。
□ユウキ:はいよ。
〇ヒロ :“自害だ”。
●謎の男:な────ッ!?
□ユウキ:……よくわからんが、いいのか?
〇ヒロ :それが最適解。
□ユウキ:ふーん。
●謎の男:トチ狂ったのかい、君たちは!? 敵を前に死ぬなんて! 助けるべき生徒たちはまだ残されている!!
彼らのために奮闘しなくていいのかいッ!?
□ユウキ:うるせーなぁ、ギャーギャーピーピー喚いてよぉ。ヒロが最適解だって言うんだ。だったらそうなんだろ。
●謎の男:盲目だ! それは信頼ではない、思考の放棄に他ならない!!
□ユウキ:なんとでも言っとけよゲロ野郎。少なくとも、あんたの言葉は薄っぺらくてかなわねぇ。
●謎の男:なにを────!?
□ユウキ:盤上にすらいねぇヤツが騒ぐなってこと。棋士気取ってんな、胸糞わりぃ。
●謎の男:な……ッ!?
□ユウキ:んじゃ、ヒロ。先行ってるぜ。
〇ヒロ :あぁ。
●謎の男:待────……ッ!! ……自爆とは、派手に散りますねぇ。
〇ヒロ :スマートじゃないのは確かだね。
●謎の男:しかし、どうして。
〇ヒロ :解答は既にあなた方の手中にある、だっけ? デカすぎだよ、解答が。
●謎の男:…………。
〇ヒロ :ま、顔洗って待っててよ。僕たちがあんたを────、殺しに行くからさ。
●謎の男:────ッ!!
間
●謎の男:……はてさて。英断か、はたまた蛮勇か。見ものですなぁ。
~~~~シーン⑤~~~~
イベントドームの中。少年と少女が横たわっている。
その横にちょこんと、女性が座っていた。
△由梨 :起きて……。起きてください……! おー! きー! てー!!
〇ヒロ :ん……。おはよう、由梨さん。
△由梨 :お、おはようじゃないですよぉ……。どうなっているんですかぁ、これ……。
〇ヒロ :説明は後です。ユウキは?
□ユウキ:いるぜ。
△由梨 :ほんっとうに色々説明いただきたいんですけどぉ。後回しにせざるを得ない状況なんですぅ。
〇ヒロ :というと?
△由梨 :ほら、あれ……。
■ランダ:やぁやぁ。元気に帰ってこれたかい、子猫ちゃん達。
▲土蜘蛛:見立てどォり、よく戻ってきた。
■ランダ:夢の中にいた方が良かったとも言えるけど。
〇ヒロ :……ふむ。どうしようか。彼らを倒してさっさと本丸に攻め込まなきゃなんだけど。
■ランダ:へぇ、どうしてそう思うのかな。
〇ヒロ :夢の世界に閉じ込めるメリットは二つ。時間稼ぎと、リスクの排除。
さらに、想定される副次的効果は、潤沢なリソースの確保。おおよその目的は推測できるよ。
■ランダ:ふふふふ。どうかなぁ?
□ユウキ:いずれにしろロクな話じゃなさそうだな。さっさと突っ切るぞ、ヒロ!
▲土蜘蛛:ケカカカカッッ!! ところがギッチョンそうはいかねェんだなァッ!?
■ランダ:残念だけれど、ここを通すわけにはいかないね。
□ユウキ:切り拓くぞ、ヒロ!
〇ヒロ :あぁ。
▲土蜘蛛:だから、やらせるかッてヨ!! いけ!! 単珠────。
△由梨 :────させません。“Shield=Right:Bash”。
▲土蜘蛛:なッ!!? 急に目の前に────! ぐあァァああァァッ!!
■ランダ:エスコート相手がガラ空きだねッ!
△由梨 :“Chain=Left:Attract”。
■ランダ:腰に、鎖……!? 投げ飛ばされ────、うわぁぁっ!
▲土蜘蛛:痛ェ痛ェ……。大型トラック並みの威力だ。ちょっとオイタが過ぎるナァ!?
□ユウキ:たたみ込む!
■ランダ:間合いには入らせないよ! “愛が心を切裂いて”! はぁっ!!
□ユウキ:赤黒い剣……!?
△由梨 :“Shield=Right”。
■ランダ:く……っ! やっぱり、防がれるよね!
▲土蜘蛛:中距離範囲をカバーしてくる守護要員ァ……? ウゼェウゼェ!
□ユウキ:この匂い……。血か……!
■ランダ:そんなチープな言い方、やめてほしいなぁ! コレは、子猫ちゃん達がボクに捧げた愛さ!
△由梨 :愛……!? そんな身勝手な!
■ランダ:身勝手? 面白いことを言うね! 愛するには対価が必要さ。そうだろう!?
□ユウキ:なにを……っ!
■ランダ:ボクは対価を貰い愛されてきた! 昔も、今もッ!!
物欲、肉欲、独占欲、支配欲、承認欲! それら胸に渦巻く総称が愛だッ!!
△由梨 :剣が肥大化……!?
■ランダ:ボクはそれを満たす装置にすぎない! “幾多の愛の刃が・奮い貫く”ッ!!
△由梨 :砕けて分裂した!?
□ユウキ:あんな数来たら一溜まりもねぇぞ!
〇ヒロ :やられる前に刺す!
▲土蜘蛛:そこで遊んでろよオコチャマ!!
〇ヒロ :チッ、爆発……! 邪魔なッ!
■ランダ:愛の終着は永久の契り! だからこそ、添い遂げてあげるのさ!!
────“汝の御心は・串刺した”。
□ユウキ:くそ────!
△由梨 :“Shield=Around:Aegis”ッ!!!!
■ランダ:な────ッ!?
△由梨 :あなたには悪いですけど。……そんなのは、愛なんかじゃない!
■ランダ:全て受け止められた!? そんな、幾つあると思ってる!?
△由梨 :モテモテで自己中なイケメン御曹司が、実は私にだけ優しくて……!
普段はめちゃくちゃ放任主義なくせに、たまに男の影が見えるとヤキモチ焼いて不機嫌になっちゃう!
────そういうのが、愛なんですッッ!!!!
■ランダ:世迷言を……ッ!
▲土蜘蛛:遊んでンならどいてろ好色家ァ!! 単珠、参・伍・捌! 爆ッ!!
△由梨 :“Shield=Right”。
▲土蜘蛛:チッ! 全身に目でもついてんのかよコイツ!
△由梨 :さ、殺気が漏れすぎです……! 不意打ちしたいなら、いっぺん死んで来てください!
▲土蜘蛛:カカカカッ!! 燃えるコト言ってくれるねェ!! だッたら、爆ぜ尽くしてやるよッ!!
連珠ッッ!! 全ッ! 空蝉ィィッ!!!!
□ユウキ:分身……!? 一気に包囲網が!
▲土蜘蛛:消し飛べよ!! 単珠、全ッ!! 轟爆裂!!!!
■ランダ:く……ッ!! すべての珠を爆発させる────!
なんて威力だ、ボクまで吹っ飛ばされそうだよ……!!
□ユウキ:由梨サン!!
▲土蜘蛛:カカカッ!! 爽ッッ快だなァ!!? どうよ!? 消し炭になッた気分はよォ!!?
△由梨 :────────“Chain=Around:Pashuparasutora。
▲土蜘蛛:な────ッ!? ぐぉぉおおぉぉッ!!??
■ランダ:そんな────ッ!?
□ユウキ:分身が一瞬で消し飛ばされた!?
△由梨 :あ、あなた方に逆転の期はありません……! 投降してください……!
▲土蜘蛛:カ、カカカ……。だってよォ、ランダァ。
■ランダ:はぁ……。まったく計算外だよ。────いや、計算通りとも言えるね。
▲土蜘蛛:しょうがねェ。出し惜しみは無しッてこたァな。
△由梨 :注射器……? 一体何を────。
■ランダ:ヴィラン組織「揺蕩う深淵の集合体」。その目的は、ボク達、終焉の使者の選別。そして────。
▲土蜘蛛:(注射する)ン……、クハァ……!!
■ランダ:“苗床”の培養・増殖と、異能薬の量産化、だよ。
〇ヒロ :異能薬……?
■ランダ:キミたち英雄は先天的な異能を是としているけれど、「揺蕩う深淵の集合体」は違う。
後天的に異能を発生、管理できる社会を望んでいるのさ。
△由梨 :どういう、ことですか……!
■ランダ:ボク達は、過酷な人体実験を乗り越えた成れの果て。壺から放たれた毒蟲のひとりさ。
(注射する)く……、ふぅ……。
▲土蜘蛛:そんで、敗れたヤツらは死して尚、生き残った奴らに利用されるッてワケ。
────こんな風にな。“引導者からの贈呈”。
△由梨 :な……、土人形!? 別の異能が発現した!?
▲土蜘蛛:体組織を培養し、増殖させ、異能発現の髄液を抽出。
そうして、異能薬の量産化も見えてきた。
■ランダ:どこまで行ってもモルモットなのは癪だけど。
とはいえ、降りかかる火の粉は払っていかないとね。“引導者からの贈呈”。
□ユウキ:よくわかんねぇけど、ロクでもない話だってのはなんとなく理解る!
〇ヒロ :六天流・嵐身。“御木砕”!
▲土蜘蛛:カカカッ!! やッぱサクッと倒されちまうよなァ!?
いいねいいねェッ! ならば蹂躙を! 粉砕を!! 虐殺を!!
滅ぼしつくしてやろうじャねェか!!
“引導者紡ぐ・茫漠なる化身”ッ!!!!
△由梨 :巨大な土人形が10体……! ご、5メートル以上ありそうですぅ……!
■ランダ:殲滅し! 撃滅し!! 討滅するっ!!!!
破壊の極致を見せてあげるよッ!!
“引導者紡ぐ・災厄の奉呈”ッ!!!!
△由梨 :次々と土人形が生成されて……! 20! 30!?
▲土蜘蛛:さァさァッ!! 饗宴開始だ!! 叩き潰される準備はOKかァッ!!?
△由梨 :こ、これは……。骨が折れますです……!
□ユウキ:デカブツと雑魚がわらわら……!
〇ヒロ :く……っ!
■ランダ:それじゃぁ、踊ろう。子猫ちゃん。終焉を君に見せてあげるよ!!
▲土蜘蛛:滅殺しろッ!! 茫漠なる化身ッ!!!!
■ランダ:饗宴の儀だッ!! 災厄の奉呈ッ!!!!
間
△由梨 :お腹すくから、嫌だなぁ……。
▲土蜘蛛:ッ!?
□ユウキ:由梨サン!?
△由梨 :“時計ウサギのベルが鳴る。白いウサギの尾が揺れる。あなたはチェシャ猫、私はアリス。”
■ランダ:────ッ!!?
▲土蜘蛛:な、なンだ……? なんだヨ、この力の奔流はッ!?
■ランダ:立ってるだけなのに、冷や汗が止まらない────ッ!
△由梨 :“あおイモムシは夢を見て、いかれ帽子屋うた唄う。”
“ハートの女王、お時間よ。ここは素敵な失楽園。”
▲土蜘蛛:ク、ソ……が────!
■ランダ:は……、はは……。これは、手に負えない。
▲土蜘蛛:見渡す限りの盾……。千は超えてンだろ、これ……。
△由梨 :“Shield=Infinite。
間
△由梨 :All Around The World”。
▲土蜘蛛:ランダァッッ!!!!
■ランダ:わかっているッ!!
△由梨 :Clock。
間
▲土蜘蛛(N):数多もの隕石の様に、次々と盾が降り注ぐ。轟音とともに、一面が土煙に包まれた。
△由梨 :逃げられましたか……。
▲土蜘蛛(N):土煙が晴れると、そこには誰もいない。ゴーレムの残骸がそこらじゅうに残るだけだった。
△由梨 :はぁ……、お腹が、すき……まし、たぁ────。
〇ヒロ :おっと。
□ユウキ:由梨サンがガス欠するなんて何年ぶりだ? ──ほら、飲んで。
△由梨 :ん。高カロリー飲料……。ありがと……ですぅ。
□ユウキ:お疲れさん。後は任せてゆっくり休め。
△由梨 :そうします……。
間
●謎の男:嗚呼、嗚呼。なんと美しい。なんと輝かしいことでしょう……!
やはりあなたがた英雄は、斯くあらねば。
□ユウキ:その声……!
〇ヒロ :インカムに入ってきた人。
●謎の男:ご明察です。しかし想定外でした。あなたたちのどちらかは死ぬ算段だったんですが……。
ま、一番の懸念材料を潰せただけでもよしとしましょう。
△由梨 :く……!
□ユウキ:誰だよ、テメェ。
●謎の男:本名はとうに捨てました。なので純悪たる愚者とでもお呼びください。
△由梨 :純悪たる愚者……!
●謎の男:おやおやご存じで? 恐悦至極ですなぁ。
△由梨 :名前だけです、けど……。
●謎の男:ならばこの名、全国に轟かせて見せましょう。
まずはその先駆けとして。3つの華を散らすとしましょうか。
△由梨(M):瞬間。地の底から脊髄を伝い、
脳をわし掴みされるような緊張感が、一帯を支配する。
身じろぎ一つさえ禁じられたかのような、有無を言わさぬ束縛感がそこにはあった。
□ユウキ:な、なんだこれ……!? 冷や汗が、止まらねぇ……。
●謎の男:混沌を束ね、失楽の深淵から舞い降りた「揺蕩う深淵の集合体」。
その一翼である純悪たる愚者の名のもとに。
貴公、英雄の一対が最初の犠牲者に選ばれたことを、ここに祝福する。
〇ヒロ :……!
●謎の男:地獄より這ずり出し愚者より。楽園の帳を下すとしましょう。
────まずは、手始めに。“蜉蝣満る桃源郷”。
~~~~シーン⑥~~~~
▲土蜘蛛:クソが。まんまとしてやられたな。
■ランダ:本当にね。あの男の考えそうなことさ。
▲土蜘蛛:食えねェ野郎だ。ま、仕事は果たした。後はどうぞお楽しみくださいってナ。
■ランダ:という割にここで居残り残業かい?
▲土蜘蛛:まァな。
■ランダ:どういう風の吹き回しなのかな。
▲土蜘蛛:単純な答え合わせだヨ。あの薄ら寒さ。確かめておこうッテな。
■ランダ:おや珍しい。
▲土蜘蛛:そう言うテメェはなんでここにいる?
■ランダ:そんなの、単純明快なことさ。
▲土蜘蛛:あぁ?
■ランダ:物語の終着点を、この目に焼き付けたい。ただ、それだけさ。
〇ヒロ :これは……!
□ユウキ:敵が……!
△由梨 :分裂した……!?
●謎の男:月並みで申し訳ないがね。本物はどれでしょう? お理解りになられますかな?
△由梨:な……っ!
●謎の男:それでは────、参りましょう。
□ユウキ:合わせろ、ヒロ!
〇ヒロ :そのつもり!
■ランダ:始まったね。
▲土蜘蛛:あぁ。
■ランダ:さぁ。見えるものと感じるもの。そこにあるもの、満ちているもの。
その綻びを、見つけられるかな?
▲土蜘蛛:この初撃、沈ンでくれるなよ? ガキ。
〇ヒロ(M):数は12。この中の一人が本物だとすれば、確率は12分の1……?
それとも、本物とダミーでは何か差異がある? でもとりあえず……!
●謎の男:はあッ!!
〇ヒロ :六天流、穹身。“逆落瞬歩”。
●謎の男:なっ、消えた!? ぐあぁっ!
〇ヒロ :まずはひとり。
●謎の男:まだまだ終わらんよッ!
〇ヒロ :知っている! 六天流、嵐身。枝垂桜”!
●謎の男:また消えた!? 今度は足元! ────ぐあッ!!
〇ヒロ :ふたりめッ!
■ランダ:……へぇ。やるねあの子。
▲土蜘蛛:はァン。だいぶ違和感の正体が理解ってきたゼ。なかなかに底の知れねェガキだ。
■ランダ:恐らくあの子の武器は、瞬発的な加速。一瞬で相手の死角まで潜り、
超接近間合から不可避の一撃を繰り出す。
▲土蜘蛛:それだけならマァ、1、2手ありゃ気付ける様なカンタンなカラクリだ。
だがアイツは、それだけの器ジャ収まらねェ。
■ランダ:12以上の“同一の目”を欺いた。これだけでも、驚異的なスキルだ。
▲土蜘蛛:ただ12人の死角を突くのとはワケが違ェ。それら全てが一個の目なンだからよ。
■ランダ:それぞれの距離や配置。常に目まぐるしく変化するそれらの状況を捕捉。
▲土蜘蛛:加えて、視界のアナを作り出す視線誘導技術。考えただけでも鳥肌モンだな。
こうやって俯瞰的に見なけりゃ、気付かねェ芸当だ。
■ランダ:しかし、だからこそ。彼には一歩届かない。
▲土蜘蛛:それこそ最悪の相性だッタ。それだけの話だ。
■ランダ:あの子はここで死ぬ運命だったんだね。
〇ヒロ :5人目ッ!!
●謎の男:ぐあぁああっ!
〇ヒロ :あと7人! 各個撃破でカタがつく!! イージーゲームすぎるなラスボス!
●謎の男:これはこれは……! 予想外に手ごわい。であれば畳み掛けるとしよう!
〇ヒロ(M):一気呵成の攻撃……! ここを捌ききれば!
敵は1人、残りは幻覚。どれが本物か理解らない以上、全ての攻撃を避ける必要はあるけど……。
これなら、やれるッ!!
●謎の男:────と、思っておいでなのでしょう?
〇ヒロ :は……?
〇ヒロ(M):後ろ……? いつの間に背後に立たれてた!? 向かってきている敵は7人、減ってないッ!!
まさか……! まさかッ!! “分身の中に本物がいる”ことそのものが嘘……ッ!!
●謎の男:絶望を、お見せしましょう。
〇ヒロ(M):必殺の間合い! 超接近での攻撃。こっちは体勢が整ってない! 回避は不可能……!
まずい、まずい、まずいまずい────ッ!!
●謎の男:まずは、ひとり。
間
〇ヒロ :────と、思っておいでなのでしょう?
●謎の男:なに……!?
□ユウキ:オイ。楽しそうだなぁ。オレを忘れてよ。
●謎の男:なッ!! いつの間に!!
□ユウキ:獄炎の拳骨!
●謎の男:くっ……! ぐあぁっ!
■ランダ:あの子猫ちゃん、なんで……?
▲土蜘蛛:撒き餌、だナ。
■ランダ:撒き餌? ……なるほど。
▲土蜘蛛:そう。この戦闘における主人公は男の方じゃなく、あの女だったってことさ。
■ランダ:視線を少年に集中させて、最大の隙を生ませ、そこを狩る……。
▲土蜘蛛:理解ってきたぜ、ガキどもの歪さがヨ。
●謎の男:くそ……ッ! “蜉蝣満る桃源郷”!
〇ヒロ :消えた……! どこに……!
●謎の男:狩り取るッ!!
〇ヒロ :足元……!?
□ユウキ:おらぁッ!!
●謎の男:チィッ!! なかなかに目障りですね! あなたはッ!!
□ユウキ:テメェもなッ! 獄炎の鉤爪!
●謎の男:だが単調! 受けるのも容易い!! “蜉蝣満る桃源郷”!
△由梨(N):ユウキの背後に、5人の分身が出現する。されど彼女は、意にも介さない。
本物だけを見据え、連撃を繰り出していく。
●謎の男:異能が効いていない……? いや、今までは術中にハマっていた。
だとすると、視覚情報ではない何か……!
□ユウキ:喰らえッ!!
●謎の男:ぐ……ッ! 体勢を崩され……!
□ユウキ:そこだッ!! 一刀・獄炎ッ!!
●謎の男:だが……ッ! まだ甘いッ!!
□ユウキ:なっ!? 避けられた!?
●謎の男:状況一転、隙だらけだッ!!
□ユウキ:しま────ツ!
〇ヒロ :六天流・嵐身。“御木砕”。
●謎の男:なにッ!? ぐあッ!!
△由梨 :やったっ! クリーンヒット!!
●謎の男:く……! またキミは、死角からの攻撃ですか……。しかしそれでは威力がまるで足りない……!
〇ヒロ :チッ! 急所外した……!
●謎の男:紙一重、針の穴を通すような攻撃をする!
しかし悪いね、一度仕切り直しにさせてもらおうッ!! ふッ!!
□ユウキ:くっ! 煙幕!?
●謎の男:少々君たちを過小評価していたようだ。
私の英雄知恵参集に、君たちの情報を記載しなかったことが悔やまれる。
本当に資格試験最下位かい?
□ユウキ:ちくしょう、煙の臭いで位置がわかんねぇ……ッ! どこに居やがる!
●謎の男:正直、この奥ノ手を使うのは気が引けますが……。
これは、事前準備を抜かった私への戒めとしましょう。
△由梨 :すでに勝ったような物言いを……!
■ランダ:ついに始まるんだね。終わりの始まりが。
▲土蜘蛛:あぁ。英雄の教示、しかと見届けよう。
■ランダ:これからは……。そうだね。さしずめ終焉狂乱遊戯といったところか。
英雄達よ。お手並み拝見といこうじゃないか。
~~~~シーン⑦~~~~
●謎の男:さぁ、英雄よ。我正しきと自称する異能の使い手どもよ!
その在り方を! 己が正義の道筋を! 魂があらんとする場所を!
私に! 民草に! 斯く示す時が来たのです!!
そのお手伝いを、僭越ながらこの私がさせていただこう!
□ユウキ:お断りだなッ! 面倒な予感がプンプンしやがる!
●謎の男:此度ばかりは聞く耳を彼方へ置いてきた! ではご狂乱いただこう……!
間
●謎の男:“蜉蝣満る桃源郷・魅惑の傀儡箱”。
△由梨(N):瞬間。氷山に亀裂が入るような緊張感が、一帯を支配する。
何が起こったのかは理解らない。けれど、そこに確かにある異変が、少しずつこの場を侵食しているのが分かる。
□ユウキ:なんだ、足音……?
△由梨 :あ、足音……?
□ユウキ:普通の足音じゃねぇ。ひどく不安定で、不規則な……。しかも、一人二人なんてもんじゃねぇぞ。
十、二十。もしかしたらもっとか……!?
〇ヒロ :煙幕、晴れる!
□ユウキ:来るぞ!!
△由梨(N):辺りを囲む、人、人、人。虚ろな瞳を向けて、ゆらゆら、ゆらゆら。
意思なく揺れる彼らの服装には、いくつかの規則性があった。
□ユウキ:あいつら……、あの制服は、ヒーロー校生徒じゃねぇのか?
△由梨 :それだけじゃないですぅ……! キャストさん達もいます!
□ユウキ:それに、別局のヒーロー達も。それでもプロかよ、だらしねぇなぁ。
〇ヒロ :切替。のほほんとしている場合じゃないかも。
△由梨 :そうですぅ! 明らかに彼ら────。
●謎の男:ご明察ですなぁ。これが、私の異能。蜉蝣満る桃源郷の真の力。
さぁ。その選択は、果たして。あなた自身の選択ですかな?
△由梨 :どういう意味ですか!
●謎の男:お気になさらず。ただ、あなた方は魅せてくれればいい。
蹂躙せよ、支配人形ども!!
□ユウキ:押し寄せてくるぞヒロ! 数は!!
〇ヒロ :85から95!
△由梨 :ヒーロー達はともかく、生徒とキャストさん達は一般人ですぅ!
〇ヒロ :理解ってます!
□ユウキ:全員無傷で敵だけぶっ飛ばす!
△由梨 :援護はやります! でも、あんまり期待しないでくださいぃ!
まだカロリーが吸収できてなくて……!
□ユウキ:ご心配無用! 自分のケツは自分で拭ける! 迎え撃つぞ、ヒロ!!
〇ヒロ :了解! 加速する!!
■ランダ(N):傀儡の群れが押し寄せる。圧倒的不利だ。
しかし、少年少女は怯まない。
□ユウキ:無双系ゾンビゲーってかッ!? いいねぇいいねぇ!
超難易度度合いがちょうどいいッ!!
▲土蜘蛛(N):直進突破の爆炎少女。一撃で数人の意識を刈り取っていく。
とはいえ敵に対する手数が足りない。討ち漏らしの傀儡が襲い来る。
〇ヒロ :その間合いに入るには、通行手形不足です……よッ!!
■ランダ(N):だが、その強襲は届かない。疾走する少年が討っていく。
燃え盛る少女の周りを翔けるその様は、輝く星の衛星。
瞬く間に10、20と地に伏せた。
●謎の男:────やはり、お二人の核はあなたですねぇ、少年。
〇ヒロ :また……! いつの間に後ろに!
●謎の男:あなた方の定石を、破綻させましょう。
△由梨 :ヒロさんっ!!
□ユウキ:────なら、テメェの定石も破綻だな!!
獄炎の鉤爪ッ!!
●謎の男:な……ッ! チィッ!!
□ユウキ:こいつ、守備が速えぇ! いつでも回避や防御ができる体勢でいやがる!
●謎の男:恥ずかしながら、戦闘向きの異能ではないものでね……!
□ユウキ:逃げんなッ! ……クソ、どんどん後ろに退きやがる!
●謎の男:単調、一律、一本気! いくら一撃が重かろうとも、当たらなければ意味がないですなぁ?
□ユウキ:コイツ……ッ!! ぜってぇブッ殺すッ! 焔獄刺突弾!
●謎の男:体から火炎の短刀!?
□ユウキ:発射ッ!!
●謎の男:飛んでくる! 中距離攻撃か!! しかし狙いが……甘いッ!!
□ユウキ:叩き落すか! だが足は止まったなぁッ!?
●謎の男:急接近!? 接近戦型とは相性が悪い!
□ユウキ: 一刀・獄炎!!
●謎の男:おぉっと!! だが単純! 安易過ぎて欠伸がでますなぁ?
□ユウキ:クソが……ッ! 殺す、殺す……ッ!
●謎の男:おぉ怖い怖い。しかし良いのですか? 私にばかりかまけていても。
……オトモダチが独りぼっちですぞ?
□ユウキ:……ッ!!
■ランダ:嵌められたね。
▲土蜘蛛:あぁ。
■ランダ:爆炎の子猫ちゃんをひきつけ、もうひとりを孤立させる。
それが純悪たる愚者の狙い。
▲土蜘蛛:支配人形はマダ半数以上残ッテいる。小僧ひとりジャァ潰されて終わるな。
■ランダ:なんだ、あっけない。
▲土蜘蛛:いや、まだだ。
■ランダ:えっ。
▲土蜘蛛:ヤツらの歪は、マダ深ェはずだ。
■ランダ:……?
●謎の男:さぁ、再び示すのです。あなたの英雄を。
ここで私を打倒りにいくのか。オトモダチに加勢するか。
□ユウキ:────何理解りきったことを聞きやがる?
▲土蜘蛛(N):少女はさらに加速する。迷いなく、一直線に。倒すべき相手へ。
●謎の男:な、に……!?
□ユウキ:オレの敵は、テメェだ。クソ野郎。
●謎の男:く……ッ!
□ユウキ:獄炎の拳骨・剛烈弾。
▲土蜘蛛(N):瞬間。一閃の爆炎が、宙を薙いだ。
~~~~シーン⑧~~~~
■ランダ(N):一方その頃。少年は。
△由梨 :ヒロさんッ!! 一旦、退きましょう……! この数、あなたでは……ッ!
〇ヒロ :退きません。
△由梨 :ヒロさん!
〇ヒロ :兄ならきっと。こんな危機でも諦めない。
△由梨 :お兄さん……? た、たしか、幼い頃生き別れたっていう……。
〇ヒロ :再び兄と逢うまで、僕は死ねない。地を這ってでも生き延びる。
兄の覇道が正しかったと証明する。
△由梨 :敵が目の前に……!
〇ヒロ :…………切替。
△由梨 :ヒロさんッ!!
〇ヒロ :真実は光の傍に。
▲土蜘蛛(N):刹那。白く迸る閃光が放たれる。
手刀の様に見えるそれは、群がる支配人形を薙ぎ払った。
△由梨 :その光……、その異能は……?
〇ヒロ :隠しててすみません。これが、僕の異能。僕の異能は、光を物質化する能力。
半径1メートル以内の光しか物質化できないのが玉に瑕ですけど。
△由梨 :で、でも……、異能は、ひとりにつきひとつじゃ……。
〇ヒロ :六天流は、我が家に代々伝わる古武道。言うなれば虚勢です。
六天流が異能だと油断させ、一撃必殺を叩きこむ────つもりだったんですけど。
△由梨 :か、簡単に言ってますけど……! 異能だと思わせられるレベルまで武術を昇華させたんですか!?
〇ヒロ :夜とか光の無い所だと、ほとんど使い物にならない異能ですからね。
そんな弱点が理解りやすい異能、ホイホイ使えませんよ。
△由梨 :……。
〇ヒロ :さて。切り札は切ってしまった。こうなってしまえば、後は即興です。
鬼が出るか蛇が出るか。突き進むしかないでしょうッ!
間
□ユウキ:でやぁッ!!
●謎の男(M):……なんだ?
□ユウキ:ちょこまかと逃げやがって……! 一刀・獄炎!!
●謎の男(M):なんだ、この違和感は……!
□ユウキ:獄炎の拳骨!!
●謎の男:く……ッ! あなたが時間をかければかけるほど、オトモダチは窮地になる!
いいのですかな!? ここで私と遊んでいて!
□ユウキ:……そんなの、知ったことかよ。
●謎の男:何ッ!!?
□ユウキ:お前は悪者で、オレはヒーロー。ヒーローは悪者をぶっ飛ばし、悪者はヒーローにぶっ飛ばされる。
ただそんだけの単純な事だろうがよ。
●謎の男:貴様……!
□ユウキ:外野がどうとか知ったことか。悪者はオレが倒す。オレがヒーローであるために。
ヒーローとしてあり続けるために。その身体、その髄までヒーローとして燃え続けるために!!
●謎の男:貴様……、狂っている……ッ!!
□ユウキ:爆裂。
●謎の男:な────ッ!? 爆発を利用した瞬間移動!? しまった────ッ!
□ユウキ:剛炎のォ……ッ! 瞬爆獄炎拳────ッ!!!!
●謎の男:ぐ……ッ! ぐがぁぁああぁぁああぁぁッッ!!
間
●謎の男:(荒い呼吸)。
●謎の男(M):理解ったぞ……ッ! 理解ったぞ奴の異常性が……ッ!!
□ユウキ:立てよ悪者。まだ引導にゃ早ぇだろうが。
●謎の男(M):あの眼……! あの瞳!! 私を見ているようで見ていない、あの双眼!
奴の瞳に映っているのは、私ではない……! ただの敵ッ!! 倒すべきただの動く壁なのだ……ッ!!
□ユウキ:オレがオレであるために。誰かの支えであり続けるために。誰かの記憶に残り続けるために。
そのために。そのために。そのためにそのためにそのために────ッ!
間
□ユウキ:オレはお前を屠るぞ、悪者────。
間
●謎の男(M):────また、私は誰の目にも映らない。ここまで辿り着いても、まだ……ッ!
まだ私は、独りで、孤独で、煢然で薄淋しくて 寂寞で…ッ!!
これからも独りで、朽ちていくというのかッッ!!!!
────嫌だ。嫌だ嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だッ!!!!
●謎の男:私をッ!!!! 見ろぉぉおおぉぉおおぉぉッッ!!!! 英雄ッッッッ!!!!
□ユウキ:な────ッ!!? あれは、注射器!! しまった────ッ!!!!
間
〇ヒロ :その瞬間を、待っていました。
●謎の男:な……、にぃ……ッ!?
〇ヒロ :六天流・穹身。廻龍。
●謎の男:ぐぁッ!! くっ、注射器が……!
〇ヒロ :その脅威は理解ってます。勝利の欠片は、僕の手中にある。
□ユウキ:ナイス!! ヒロ!!
●謎の男:くそ……ッ! どんなに強力な異能だろうとも、こんな短時間で突破されるはずは……!
〇ヒロ :僕だけの力ならね。
●謎の男:なに……ッ!?
△由梨 :ふ、ふえぇぇええ……。1日2回のAround The World”はぁ……。
流石に空っぽ案件ですぅ……。だ、誰か……、燃料を……。燃料をぉ……。
●謎の男:守護要員ッ!!? あの大技を放てる贅肉を、まだ蓄えていたというのか────ッ!!?
〇ヒロ :あなたの切り札もここで切らした。仕舞としましょう。
●謎の男:幕引にはまだ早いさ! 英雄ッ!! 既知っているだろう!?
デッキに仕込まれた切り札は2枚であるとッ!!
△由梨 :な────!?
●謎の男:グ……、ンン……ッ!────クハァ……!!
□ユウキ:2本目、だと……!?
●謎の男:ククク……! アハハハッ!! あははははははッ!!!!
そちらの異能薬を使えなかったことはひどく惜しいですが、仕方がない!
こちらの異能も優秀ですからなぁ……!
□ユウキ:クソでけぇ力の奔流。来るぞ、ヒロ。
〇ヒロ :あぁ。
●謎の男:灰燼と化せッ!! “地獄の饗宴に華を宴を”ッ!!!!
▲土蜘蛛(N):四方八方。至る所で闇が蠢く。初めは靄のようだったソレラが、次第に形を帯びていく。
ソレラは、よたり、よたりと蠕動する、人型のナニカ達だ。
■ランダ(N):あらゆる部位が爛れ落ち、呻き声を漏らす。
臓物らしきモノが垂れ下がっている者もいる。
そしてソレラが一歩、一歩と動くたび、粘着性を伴った湿った音が嫌に耳に響いた。
〇ヒロ :数は……200? 300? 多すぎて数える気にもならないよ。
□ユウキ:一般人じゃないならやりやすい。それとヒロ、ラスボス倒すのはオレだ。邪魔すんなよ。
〇ヒロ :そっちこそ。奴は僕が倒す。兄に名が届くまで倒し続ける。サポートは任せたよ、強敵。
□ユウキ:ハッ!! おこぼれ拾いはテメェの仕事だろ、強敵。
●謎の男:ここを生きて切り抜けられるとでもッ!? 思いあがるなよ、英雄!!
行けッ!! プロミネント・インフェルノ! 愚か者どもを殺せッ!!
□ユウキ:薙ぎ払う!! 全力で行くぞ衛星!
〇ヒロ :仰せのままに、太陽。
□ユウキ:迸れ漲る血潮! その一切を烏有に帰す!!
“森羅万象燃え爆ぜる!! 湮滅皆無爆撃派”ッ!!!!
▲土蜘蛛(N):直径1メートルほどの火球。蓄えられた膨大なエネルギーが一気に放出する。
いくつもの亡者が飲み込まれ、爆ぜた。
■ランダ(N):しかし猛攻は止まらない。圧倒的不利、その物量差は、強力な異能があろうとも覆せず、ジリジリと押されていく。
●謎の男:くははははッッ!!!! 壊せ! 滅しろ!! 捻り潰せッ!!
四肢、魂、その須くを奪い尽くせッ!!!!
〇ヒロ :壊せるものなら壊してみせろ! 奪えるものなら奪ってみせろ!! 僕は悪者の全てを否定するッ!!
●謎の男:ぐ……ッ!? なんだ、この光は……ッ!!
〇ヒロ :悠久の時、突き進む一線! 天翔ける光芒、我が前に示せッ!!
“数多の真実は・光輝へ昇る”ッ!!
▲土蜘蛛:数十体の……、光の手!? あんなノ隠し持ってタのかよ!?
■ランダ:能ある何とやらってやつだねぇ。これは計算外だ。
▲土蜘蛛:どんどん亡者が減ッテ……! しかしマダ足りない……!
●謎の男:おのれ……ッ!! おのれおのれェッ!! 目障りな弱者が! 身の程を弁えろッ!
〇ヒロ :おまえこそ弁えろ悪者……! 策は詰んだ! 大人しく敗北っとけ……!
□ユウキ:ゾンビども焼き尽くしたら次はテメェの番だッ! 大人しくお座りしてろよ敗北者が!!
●謎の男:そもそも!! お前ら風情が英雄などと! 私は認めない!! 認められるものかッ!!
英雄の資格すら与えられないッ!!
□ユウキ:英雄の資格ぅ? なんだそれ。いらねぇよその概念。
●謎の男:なにぃッ!?
〇ヒロ :僕自身が────、
□ユウキ:オレ個人が────、
〇ヒロ :突き進んだ道こそが、僕を英雄たらしめる。
●謎の男:ならば、私はその一切合切を否定しよう!! 我が覇道を以て私を悪党たらしめよう!!
この身、この頭、この魂!! 我が全身全霊すべてによって!!
“蜉蝣満る桃源郷・強欲なる断罪”……ッ!!
△由梨 :ゾンビが分裂……!? どんどん増えてく!
□ユウキ:く……ッ! こんだけ多いと偽物か本物か嗅ぎ分けらんねぇ……!
●謎の男:やれ。プロミネント・インフェルノ。
□ユウキ:くそ……! どうするよヒロ!! なんか策はあるか!
〇ヒロ :そんなのあったら最初から使ってる……! ここを切り抜け、どうにかしてアイツに接近できればまだ……!!
□ユウキ:やっぱそれしかねぇよな……! ならやることは簡単!
────3分。3分だ! それでケリをつけるぞッ!!
△由梨(M):ユウキさんは、ずっと高火力で戦い続けている。燃料切れが近い……。
とはいえ、ヒロさんの異能で対処できたとしてもせいぜい50体が限界。敵の数はおおよそ500。
幻覚が多数とはいっても、1/3は殺傷能力ありです……!!
〇ヒロ :もっと僕に火力があれば……!!
●謎の男:ククク……! 服従せよ。さもなくば跪け。
ここまで私を手古摺らせた、せめてもの手向けです。あなたたちの異能は、私が有用に活用していきましょう。
〇ヒロ :……ッ!! ────そうか。そういうことか。最初から、勝ち筋はコレだったんだ……ッ!!
□ユウキ:ヒロ……? 待て、何を────ッ!!
〇ヒロ :勝利のパズルに足りない欠片は────。
●謎の男:異能薬……!? やめろ、それは────ッ!!
〇ヒロ :ぐ……ッ!!
△由梨(N):銀色の注射針が首筋に突き刺さる。プランジャーが一気に押し込まれた。
■ランダ:あーりゃりゃ。
▲土蜘蛛:終わったな、あいつ。
■ランダ:異能薬がもたらす力は、宿主を選ぶ。
▲土蜘蛛:身の丈にあわネェ力を望んで、全身ドロドロに溶けた奴モいたな。
■ランダ:あの力を飼いならせた終焉の使者は、純悪たる愚者だけ。
▲土蜘蛛:その覇道は、鬼が出るか、蛇が出るか……。
●謎の男:よくも……! よくもよくもよくもォッ!! 貴様ごときが、わが友を使うなァッ!!
殺しつくせェッ!! プロミネント・インフェルノォッッ!!!!
□ユウキ:ヒロ!!
△由梨 :ヒロさんッ!!
〇ヒロ :────“数多の真相は・暗黒へ堕ちて”。
△由梨 :……陰から、無数の手……? 影の、塊……?
●謎の男:影……? 違う。あれは闇だ……ッ! あの異能薬の効果は、闇を物質化する能力!
光と闇を同時に飼いならせるというのか……ッ!?
〇ヒロ :逆転だ……ッ! 失せろ“三下”……!
●謎の男:プロミネント・インフェルノォッッ!!!!
〇ヒロ :舞え。ハイドアファクト、ファインドアトゥルー!!
●謎の男:ぐ……! 徐々にこちらが削られて……! だがしかし、お嬢の護衛がお粗末ですなぁッ!!
□ユウキ:く……っ!!
△由梨 :あぁっ! 敵に囲まれてる!
〇ヒロ :護衛……? 知らね、その概念。
●謎の男:なに……っ!?
□ユウキ:迸れ! 漲る血潮ッ!! 纏いし焔で薙ぎ掃え!!
“黄金呪縛の獄炎龍”ッ!!
▲土蜘蛛:全身が炎に包まれて────!
■ランダ:焔の龍になった!?
〇ヒロ :いけ……!! 英雄ッ!!
△由梨 :いけ……! ユウキさん……!!
□ユウキ:うおおぉぉおおぉぉッッ!!!!
●謎の男:愚者を灰にしながら突っ込んでくる!? クソッ!!
だが、貴様の単純な攻撃ではッ!!
△由梨 :“Chain=Left:Attract”!
●謎の男:な────ッ!? 鎖!!? これでは、身動きが……ッ!!
△由梨 :ほんとにほんとの、燃料切れ、です……。あとは……、まかせ……、まし、た……。
〇ヒロ :由梨さん!!
□ユウキ:あぁ。その想い、確かに受け取ったッ!! ────これで、終わりだッ!!!!
●謎の男:変化を解いて、爆発的加速ッ!!? しまッ────!!
□ユウキ:“一刀”……ッ!!“獄炎”ッッ!!!!
●謎の男:グ……ッ!! ぐああぁぁああぁぁああぁぁッッ!!!!
間
□ユウキ(M):なんだ、これ……!
■ランダ:────チェック。
▲土蜘蛛:────メイト。
□ユウキ:なんでこんなに、手ごたえがない────ッ!!?
●謎の男:勝利を確信したその油断、死を以って知るがいい。
□ユウキ:な────ッ!!?
□ユウキ(M):いつの間に後ろに!? まさか……! さっきのアレは、幻影……ッ!?
●謎の男:────さようなら。英雄。
□ユウキ:クソ、が……ッ!!
間
〇ヒロ :“やっぱ、テメェならそう来るよな、三下……ッ!!”
●謎の男:なッ!!?
●謎の男(M):コイツ……! いつの間にここに……ッ!? いや、あの背中!! 光と闇の……、翼、だと────ッ!!?
〇ヒロ :終幕だ、悪者……ッ!
●謎の男:クソが……ッ! クソがぁぁああぁぁああぁぁッ!!
〇ヒロ :“真実と真相は・虚無を切裂く”────ッ!!
●謎の男:ぐああぁぁああぁぁああぁぁッッ!!!! ────カハッ!!
■ランダ(N):血潮をまき散らしながら、男の体は大地へと臥す。
光と闇から成る槍。それが通過した痕跡が、胸に残っている。
▲土蜘蛛(N):徐々に広がる赤黒い円弧。夕日が反射し、水面が煌めいた。
●謎の男(M):すべて、読み切られた……。計画も、奥の手も……。
この私が、策略に嵌り、思うがままに動かされたとでもいうのか……ッ!
今の私は……。なんと……、なんと……!
●謎の男:美しい瞳を、しているのでしょうなぁ……?
〇ヒロ :さよなら、悪者。
●謎の男(M):それでも。私の策は、私の認識は、確かに────。
●謎の男:これで私も、独りでは────。
〇ヒロ :“真実は光の傍に”。
間
△由梨(N):────そうして。この一連の事件は、幕を閉じた。
~~~~シーン⑨~~~~
▲土蜘蛛:あーあ。死んじまッタか。
■ランダ:ま、彼では「揺蕩う深淵の集合体」足り得なかったということさ。
▲土蜘蛛:策略に拘り過ぎタ。敗因はそれだけだッタろうよ。
■ランダ:たった一つの欠片が、生死を別つ、か。
ボク達は、もう変えられないんだね。この生き方を。
▲土蜘蛛:あの日。異能を手に入レタ時。そこでもう、決まったコトだ。
────サ、ズラかるぞランダ。鳥籠が開け放たれる。
■ランダ:そうだね。……さようなら、純悪たる愚者。君の事は嫌いじゃなかったよ。
●変な男:おぉっとぉ。そうは問屋が卸さねぇ、ってね。
▲土蜘蛛:あぁ……? なんだ、テメェ。
■ランダ:ウロチョロしていた溝鼠か。もうキミたちに用はないよ。ボクらの仕事は終わったからね。
●変な男:ハイそうですかサヨウナラとはならんのよなぁ。悪いけど、ここで捕まってくれや。
■ランダ:お好きにどうぞ! ボクらを好きにできるのなら、ねっ!! “愛が心を切裂いて”!!
●変な男:“我が御霊に従え・雫の精霊よ”。
■ランダ:なッ!? ボクの愛が、勝手に────、ぐあぁッ!!
▲土蜘蛛:“単珠、陸・捌・玖・拾────!
●変な男:あ、これいる? 美味いよん。
▲土蜘蛛:水の入った……、ペットボト────ッ!!
●変な男:“我が御霊に従え・結晶の精霊よ”。
▲土蜘蛛:氷柱ッ!? しま────、ぐああぁぁああぁぁッ!!
●変な男:急所は外してあるから、大人しくしててねん。つっても、動けないと思うケド。
■ランダ:この……! クソオジがぁッ!! “愛が心を”────!
●変な男:遅いなぁ。
■ランダ:がはっ……! く、そ……(気絶)。
●変な男:────さぁて、これで無力化終了、お仕事完了っと。
……はぁ、嫌だ嫌だ、大人の仕事ってのはよぉ。────連れてけ。
▲土蜘蛛:ク……ソ……、きさま……ッ!
●変な男:言う事聞いてりゃ扱い酷くならんだろうさ。知らんけど。
言う事聞かなきゃ────。ま、そうだねぇ……。
間
●変な男:せいぜい死んだほうがまし程度だろうさ。────それじゃ、幸運を。
△由梨(N):男は、懐から煙草を取り出し火をつける。一本の紫煙が、ゆらゆらと立ち上った。
●変な男:(煙草を吸い、吐く)。────ホント。嫌な仕事だねェ。大人っつぅのはよ。
~~~~シーン⓪~~~~
●謎の男(N):おやおや。私よ、死んでしまうとは情けない。────おっと失礼。
己の信ずる道を、真っ直ぐと突き進む。いいですなぁ、ヒーローは斯くあらねば。
……さてさて。それでは、今回はここまで。また熱い饗宴を楽しませてもらうとしましょう。
恥ずかしながら私、高見の見物をさせていただくのが何よりも好みなもので。
────あぁ後、最後に豆知識。「揺蕩う深淵の集合体」は、実は数年前に設立されたヴィラン組織だ。
一人の男に組織ごと乗っ取られてしまったらしい。前の組織は────、名前はダサすぎて忘れてしまった。
とにかく、新しい支配人はネーミングセンスがいいようだ。……なんてね。
────では。私はこのあたりで。また……。夢のその先で、お逢いしましょう……。
~~~~終演~~~~