虹色に光り輝くスズラン “コウリンラン” と帰還
すると声がした。
『お前達は何をしにここに来た?』
この声はみんなに聞こえているらしい。ミロクが
「ボクたちはコウリンランを取りに来た」
と言うと
『それをどうするつもりだ』
と言う。するとアバンが
「ぼくたちがお世話になっている村人たちがガルトリの
邪気にあてられてしまって苦しんでいる。助けたいんだ」
と言った。
『他の者も同じか?』
と聞く。
「ボクは、一年前は村人を信じられないし、助けてやって
も裏切るかもって思ってた。でも一年経ってそんなに
悪くない奴らだとわかった。今は心から助けてやりたいと
思っている」
とミロクが言った。
『そこのお前は?』
と僕に聞かれた。
「正直、わかんない。でも、僕の大切なアバンとミロクが
強くそれを望んでいる。その願いを僕は叶えてやりたいと
思っている」
と言った。すると
『わかった。では、コウリンランを好きなだけ取って
いい。しかし、この先は全て自己責任だ』
と言った。自己責任? の言葉がひっかかる。
どういうことだよ。そう思っていると目の前がパァーッと
虹色に包まれた。次の瞬間に目の前一面に咲き誇る虹色に
光り輝くスズラン “コウリンラン” が現れた。とても美しく
キラキラと眩しいばかりに光り風に揺られリンリンと音も
聞こえる。綺麗な音色だ。僕らはゆっくりと近づき、
その存在を実感する。ミロクに
「どれくらいとればいい?」
と聞くと
「これに入るぐらい」
と持ってきた入れ物を見せてくれた。
「ねぇ、こんなにとってもいいのかな?」
と言うとミロクが
「よく見ろ」
と言った。とったそばからまた、咲いている。ミロクは
球根ごととる。それは5株程でやめた。でも、花をつむ
だけだと、また茎がのび蕾かつき花が咲く。でも、とった
花はすぐしおれることもなく虹色に光っている。株ごと
とったのはと思い見てみると、それも元気に咲いている。
株ごととった所は時間がかかるがまわりの株からまた芽が
出て再生をしている。なんて生命力の強い花なんだろうと
思った。僕たちはとり終わると、さんにんで
「ありがとうございました」
と、一面に咲くコウリンランにお礼を言った。すると、
僕らごと辺りが虹色の光に包まれて気がつくと最初の草原
に戻っていた。
ミロクの入れ物にはしっかりと “コウリンラン” が入って
いるのを確認した。アバンの背中に僕たちは乗りミロクの
消える魔法をかけ、扉があった方向を見た。すると、
こちらからはどこを通ってもまやかしの森から出られる
ようだ。アバンは外に向かって飛び立った。するとすんなり
と外に出ることができた。振り返るとまた、蜃気楼があり
まやかしの森は見えなくなっていた。
そして朝日が昇りはじめていた。そうか、一晩かかった
のか。と思った。それからアバンは休むことなく飛び続け
いつもの洞窟へ戻った。
洞窟へ戻ると村からの連絡の本が光っている。慌てて
ミロクは本の中のメモを取る。メモにはミロクが渡して
くれたスプレーのお陰でなんとか落ち着いていると書いて
あった。それは今朝届いたようだ。よかったと、みんなで
胸を撫で下ろした。そして、僕は気になっていたことを
聞いた。まやかしの森の草原に最初に着いた時ミロクの
様子がおかしかった。何でだったのかと聞くと、
ミロクにはまやかしの森に入る扉が何個も見えたのだと
いう。そして、あれがまやかしなんだと言った。その時の
ミロクは少し情けなくて正直に言えなかったのだと
言った。それを聞いて偶然にも上手くいってよかったと
僕は思った。
さあ、ここからはミロクの出番だ。ミロクは自分用に
作った研究室に閉じこもり紫のエキスの抽出に励んだ。
僕とアバンは何もする事ができない。かといって僕の世界
に僕だけ戻ると時間軸がおかしくなりそうだし、ミロクに
聞きたいけど今は集中させてあげたいと思った。僕たちは
ミロクには悪いが寝ることにした。まともに寝ていない
し、ひと眠りして次の事を考えようと思い僕とアバンは
眠りについた。目が覚めるとアバンはまだ、寝ていた。
当たり前だ。アバンは、ずっと移動してくれていたの
だから。起こさない様に起き上がった。ぐぅ〜〜とお腹が
なった。鞄を開けるとおばあちゃんの作ってくれたお弁当
が目に入った。忘れていた。どうしようと思うが、開けて
見ずにはいられなかった。するととても何日も経っている
とは思えない。さっき作ってくれた様だった。僕は、恐る
恐る口にした。やばかったら吐き出そう。すると、旨い。
いつものおばあちゃんのお弁当だ。気がついたらバクバク
とキレイに食べきっていた。持ってきた飲み物を口に
含んだが普通に美味い。なんなら一緒に入れてくれた氷が
そのまま残っている。時間が経っていない? お弁当だけ
こっちの時間軸ではなく向こうの時間軸で進んでいるよう
に思った。だって向こうに帰ってもまだ夕方だから。だが
少し心配になる。向こうに帰ったら腐っていて僕、大変な
ことにならないかな? と少し怖くなってきた。すると、
ミロクが現れた。
「どうした? 何かあったのか?」
というミロクに僕はお弁当の話をした。
「ねえ、僕、向こうに戻っても体、大丈夫だよね?」
とミロクにすがりながら言う。ミロクは半分、呆れて
「自分で食べちゃったんだろう。覚悟しろ!」
と言った。そして、クックッと笑いをおさえている。
「酷い。笑うことないだろう!!」
と僕が怒り気味で言うと
「いや、すまん、すまん。実はもうそれは、このボクが
体験済みだ」
「えっ!!」
と驚く僕。
「ボクなんか、生魚だった。それも何日なんてもんじゃ
ない。1ヶ月ぐらい経ってたかも」
と言う。
「エッーーーー!!」
と言う僕の声でアバンが目を覚ます。
「何、何かあったの?」
と寝ぼけまなこでアバンが言った。
「ごめん、大声出しちゃって」
と僕は言った。ミロクは
「ボクはあっちの世界からおばあちゃんがその日食べる
はずだった生魚を持ってきた。で、なんか悪い事をしたと
思って食べるに食べれず、ボクの部屋に隠しておいた。
普通なら1日もすれば腐ってすごい匂いになるはずなのに
全然だったよ。その時はこっちで色々することがあって
1ヶ月くらい居たんだ。で、ふと思い出した。あの魚
食べてないやって。で、お前と一緒だ。もう捨てようと
見たら持ってきた時のままさ。クンクン、しっかり、
臭ったけど、美味しそうな匂いしかしない。思わず
食べた。すごく美味しかったさ。で、お前と同じことを
思ったんだ。向こうに戻ったらボクはどうなるんだろう
って。で、その日のうちに戻ってみた」
「すごい、ミロク勇気あるね」
「ただの実験、研究好きなだけだ。そしたら、なんとも
なかった。ただ、戻るとその魚をとった日の夕方に戻る
ことになるから、おばあちゃんにこっ酷く叱られたよ」
とミロクは教えてくれた。僕はホッと胸を撫で下ろした。
そして
「不思議だよな、人間のお前はこっちにきたら年をとって
いるのに、食べ物は新鮮保存のままなんて」
とミロクは言った。本当だ。不思議なことが世界には
いっぱいあるんだなと思った。するとミロクが
「まあ、おふざけはここまでで本題に入る」
と言った。