森の長老
すると、ミロクが突然
「森の長老に会いに行こう」
と言った。僕は
「森の長老って本当にいるんだ。今からいって大丈夫
なの? 僕がついていってもいいの?」
と言うと
「ああ、いるよ。会いたい時に会いに行って大丈夫だよ。
心配なら少し離れた所で待っていればいい」
とミロクが言った。そして僕たちはミロクの案内で森の
長老に会いにいくことになった。
「森の長老って誰なの?」
と言う僕に
「行けばわかるさ」
とミロクが言った。
「楽しみだなぁ〜」
とアバンは言った。上空を飛んでいると、森を歩いて探す
よりいとも簡単にその場所が特定できる。人が足を踏み
込むことのなさそうな深い森の奥に一か所だけポツンと
広場の様な場所が見える。アバンはそこに降り立った。
何か空気が違う感じがする。するとアバンとミロクは元の
姿に戻る。僕はそのまま、消えたままでいた。そしてその
広場の真ん中に大きな大木のイチョウの木が一本立って
いる。樹齢何百年もするのではないかというその木は黄色
に紅葉している。他の木は青々と茂っているのに、
そのイチョウの木だけ時空が違うのでは無いかと思う程
に。ふたりはイチョウの木に近づくとミロクがその木に
左前足をあてて祈りを捧げる。
「森におわする、森の神様。我に森の長老とお引き合わせ
くださいませ」
と3回繰り返す。すると、イチョウの木の上の方から
バサバサという羽音がする。そして、イチョウの木の下に
一本だけ横に止まり木の様に飛び出た枝に止まった。
それは、白いフクロウだった。きっと僕の存在にも気が
ついている。そう思ったが、その白いフクロウは僕を気に
することもない。そして
「私を呼んだのはそなた達か? さて何を知りたい」
と言った。その神々しい声に僕は息をするのを忘れそうに
なる。するとミロクが
「はい。私共は、人間を助けとうございます。
ガルトリの邪気にあてられており、その者達を助ける方法
を教えて頂きとう存じます」
と言った。すると
「あなた方は、見たところ、三毛猫とドラゴン。どちらも
とても希少種と見受けられる。それがまたどうして?」
と言う。
「私共は契約を人間としております。
共栄共存していくことを。本当はそんな契約がなくとも、
共に生きられることが良いのだと思います。いずれは
そうなれば一番嬉しい。種族を超え一つになれるのは、
私共の望みでございます」
とアバンが言った。すると
「わかりました。あなた方に嘘偽りはないと見受けます。
教えてしんぜよう」
と言った。そして白いフクロウは
「これは、そなたの国〜ドラゴンの国〜の言い伝えで
ある。あるドラゴンがコウリンラン(虹色に光り輝く
スズラン)を取り込むことで邪気を払えるという。そちは
聞いたことはないか?」
とアバンに言った。
「はい、ございません。初めて知りました」
と言った。
「そうか」
と白いフクロウが言う。ミロクがすかさず
「恐れ入ります。御質問が二点ございます。
そのコウリンラン(虹色スズラン)とはまやかしの森と
言われる所に群生しているものでございますか? それと
取り込むとはどの様な方法なのでしょう?」
と聞いた。
「そうじゃ。まやかしの森じゃ。あそこから戻るのは難儀
じゃと言う。では、諦めるか?」
と聞かれる。すると、ミロクが
「いえ。戻ったものもおると聞いています。と言うことは
行って帰ってくる方法があるという事。
希望はございます」
と言う。すると
「そうか、ではもう一つの答えじゃ。取り込む方法は
そちらの国の長老が知っていようぞ」
とアバンの事を指して言った。そうだよね。ドラゴンの国
の言い伝えなのだから。するとアバンとミロクは深々と
頭を下げた。僕もつられて頭を下げる。そして
「ありがとうございました。心より感謝申し上げます」
とふたり揃ってお礼を言った。そして頭を上げた時白い
フクロウはもうそこにはいなかった。そして声だけが
聞こえた。
「神の御加護があらんことを」
と。そしてふたりはそこへへたばった。
「うわぁーー。緊張したねぇー」
とアバンが言うと
「ホント、し慣れないことをするから疲れたよなぁー」
とミロクも言った。僕もふたりに近づき
「お疲れ様」
と言うとミロクが
「良かったな。何も言われなかったな。もしかしたらお前
の事聞かれるかと思ってたけど」
と言った。
「そうなの? でも、かなり進展したね」
と言うと
「何言ってるの。ここからだよ」
とアバンが言った。楽天的なアバンが言うのだから大変
なのだろうと少しビビった。でも僕たちならなんとか
できるという変な自信もあった。
「でも、ふたりがいつもと全然違ったからビックリした
よ」
と言うとアバンは
「カッコよかったでしょう!!」
といい、ミロクは
「ボクもやる時はやるさ」
と言った。そしてまたミロクとアバンは姿を消して、僕
たちはいつもの洞窟に帰った。
さて、これからどうするか。僕たちは話し合った。
まず、まやかしの森にコウリンランという虹色に光り輝く
スズランを取りに行くことが重要だが、この、まやかしの
森というのが少し厄介なのだとミロクが言った。ここから
アバンが休まず飛んだとしても1、2日程かかる。ミロク
が聞いた話だとそこは蜃気楼に覆われているため、その森
の存在がはっきりとわからない。森全体が結界を張られ
見えなくてしているようだと言った。でも、入れない訳
ではなく見つけにくくしているだけで入れるのだという。
しかし、入ってからがまた大変で歩いても歩いても同じ
ところをぐるぐる周っているようなのだという。先に進め
ないという思いから疑心暗鬼になるという。大体ここで
諦めてしまうが、中には惑わされる事なく進み続けると
この世とは思えない所につくのだという。そこには色々な
モノがあるという。しかし、それもまた欲のせいで実在
しないものまで見えるのだと。そこには、たどり着いた者
の欲しいと思うものばかりがあるので、欲に任せてしまう
と、その森から戻っても持って帰ってきたものは全て
消えていると話してくれた。
それにしても厄介な話だ。まず、ここから距離がある
まやかしの森は着くまでに日にちがかかる。その上、森に
入ってからコウリンランを取れるまでもどれくらいかかる
かわからない。その上、そのコウリンランの取り込み方。
あるドラゴンが誰なのかもわからない。ということは、
ドラゴンの国にも行かないといけない。長老に会い、
あるドラゴンの話と取り込み方も聞かないといけない
のだ。やる事がありすぎる。
病人たちの事も考えると……。
僕は思考にぐるぐる支配されはじめる。すると
《すぐ出来そうなのからすればいいじゃないか》
と声がしてあっという間にスゥーと消えてしまった。
そっか。と、僕はアバンに聞いた。
「アバン、ドラゴンの国に戻るのは抵抗ある?」
「ううん。大丈夫だよ」
という。僕は続けて
「長老に会うのは可能?」
「うん。それ、ぼくのおじいちゃんかも」
と、言った。ミロクと僕は
「えっーーーー」
と大声をあげた。
「早く言ってよ」
と、僕が言うと
「ごめん。でもね。本当にそうなのかははっきりわから
ないんだ。両親の元を離れたのも飛べるようになってすぐ
だったし、まだ飛べない頃に一度だけ両親に連れられて、
会っただけだから、確信が持てないし、もしかしたら、
違うかもしれない。期待させといて悪いけど…」
と言った。
「そっか。でも、まずはドラゴンの国へ行こう!!」
と僕が言うと、
「たぶん、ボクたちは一緒に行けないよ」
とミロクがいう。ドラゴンの国はドラゴン以外には
見えないようにしてある。ドラゴンの出入りは簡単だが
それ以外は難しいといった。でも、じっとしているなら
行動した方がと思いこう言った。
「とりあえず、ドラゴンの国へ向かおう。そしてその近く
で、僕たちは待ってるよ。で、アバンにひとりでいって
もらうのは?」
「うん、いいよ。ぼく、行ってくるよ」
とアバンが言った。ミロクは
「本当に大丈夫か?」
と聞くと
「ありがとう。でもぼく、いつまでも昔のぼくじゃないよ」
と力強く告げた。