それぞれの想い
しばらく沈黙が続いた。口に出してみたものの、それ
ぞれに思うところがあるのだろう。ミロクの意見は僕は
妥当だと思う。でも、母である弥玖には弥玖の思いがある
のだろう。そして、弥玖が
「ねえ。ここまでさせといて申し訳ないけど、やはり
あたしの事は伏せて欲しい。話が違うと言う事でもう一度
依頼者に確認したら違っていたと言う事にしてくれない
かな。それにあたしはルクとノンが幸せに暮らしていたら
それでよかったの。死んだ私の事を話しても会うことは
できない。今の私が異世界に行くこともあの子達をこちら
に呼ぶこともしない方がいい。だったらこのまま、少し
ずつ親の事を乗り越えていってくれるのならそれの方が」
と言い黙った。僕もミロクも何も言えなかった。しばらく
の沈黙の後口火を切ったのはミロクだった。
「そうだな。依頼者である母親がそう望むのであれば、
ボクたちは勝手な事はできない。ただこれから共に暮らし
ていく者としては、賢いふたりのことだからボクたちの
秘密は何となく気づくかもしれない。嘘をつくとなれば、
色々辻褄を合わせないといけなくなる。ミヤの事だって
そうだ。今は一緒にいられるけれど、また会えなくなる日
が続く。それをどうしたらいいのかちゃんと決めて
おかないと」
とミロクは言った。それにミロクの二重生活の事もある。
僕はダメ元で
「じゃあ、弥玖の事は違っていた事にして、僕の事や
ミロクの二重生活は正直に話してみる? そうしてみるのは
どう? 僕がいなくても、ミロクが少し洞窟をあけても
大丈夫だよね」
と言うと
「でも、それを話して、あの子たちがこっちへ来たいと
言ったらどうするの?」
と弥玖が言うと
「それは言うだろうね。そんな不思議な話を聞いて興味を
持たないとは思えない」
と僕が言う続けて
「かなりの魔力の持ち主でないとこっちには来れないと
言ったら。ミロクはあのリラよりも魔力があるって言われ
てたでしょ」
と僕が言うと
「そうだな。母親の件は違っていた。で、ミヤの事情と
ボクの二重生活はそのまま話す。こっちに来るにはかなり
の魔力の持ち主でないとダメだと」
とミロクは言ったがまた黙り込んでしまった。何か考える
ところがあるらしい。
「なあ。アイツらそんなに信頼できない奴らなのか」
とミロクがボソッと呟いた。僕も弥玖もハッとした。
僕たちは最初からふたりが誰かに言ったり、自分達が話を
してもわかってもらえない前提で話をしている。
「ごめんなさい。それでも、あたしの事はふせていて
ほしい。きちんと話せる時が来たら話をするから」
と弥玖が言った。
「わかった。お前の事は違っていた事にする。ボクはあの
ふたりを信じてみる事にするよ」
とミロクが言った。たぶん、アバンと話し合いどう伝える
か考えるのだと思う。あの村で暮らす事になるという事は
色々な事を共有していかなくてはならない。だとしたら、
アバンに話せて、ふたりには話せないとかやっていくのは
大変だろう。
僕たちはそれぞれ少しモヤっとしたまま話し合いを
終える事になった。ミロクはおばあちゃんの部屋へと
戻った。僕と弥玖も両親の寝ている和室へと戻ったが、
その間僕たちは何の言葉も交わさなかったというか
交わせなかった。
明くる日、弥玖の協力の元無事にアバンのいる異世界へ
旅立つ事が出来た。アバンに弥玖と話した事の顛末を
伝える。すると
「依頼者が望む希望は叶えないとね。で、ぼくたちと一緒
にこれから暮らしていくんだから知っててもらわないと
いけない事はやっぱり話した方がぼくはいいと思うから、
ミロクの意見に賛成だよ。ただ、ふたりがどう受け止めて
くれるかはわからない。だから、こういうのはどう?」
とアバンが新たな提案をした。
「この近くでふたりが住まれるような洞窟をまた、新たに
探すのとかは? 彼らは消えれるし、結界も張れる。
近ければ行き来もすぐ出来るし、ふたりだけの方が都合の
いい事もあるだろうし、近くても離れて暮らすのなら全部
を話さなくてもその都度必要なことだけ話せばいいんじゃ
ないの」
と言った。選択肢を増やしてあげるのか。僕は気になって
いた事を聞いた。
「ねえ。ミロク、バラのアーチは魔法の使える猫なら誰
でも出来るの?」
「いや、三毛猫に伝わる物だからリラ様が彼らに教えて
なければ造れないと思う。それに教えていたとしても他人
の造ったものは一度製作者と共に通った者でないと見え
ないはずだ。何個かあったとしても使ったアーチしか見え
ないはずだ」
と言った。だから僕には見えるんだ。そしてアバンにも。
「そうなんだ、ありがとう」
と僕は言った。僕たちはとりあえずこの近くにふたりが
住めそうな洞窟がないか探す事にした。さんにんで消えて
ここから近い場所を探してみる。しかし、そう簡単に
見つかるものでもなく、やはり一緒に住むのがいいのかな
と思っていた。僕は
「あの岩とか家にならないのかな」
と何気なく言ってみた。すると
「良いね。あれで地下とかに研究室とか作ったらいい
かも」
とミロクが言った。ミロクはその岩に結界を張り見えなく
した。見えていると、誰かが岩を切り崩したりすることが
あるからだ。でもさっきまであったものが無くなったら
不審に思わないのだろうか。と思ってミロクに聞いた
「結界を張ると他の者にはそこにあったものが何だった
かわからなくなるんだ。だから、誰も気に留めなくなる。
結界にもいろんな種類があるから。ボクはそれを使って
いる」
なんて便利なんだ。と僕は思った。そして僕たちは洞窟は
見つからなかったが、何か所の住まい候補を確保した。後
はふたりが気に入ったところがあればそこに家を造って
もらう事にした。そうして僕たちはルクとノンがこっちに
来る為に必要な準備を日々こなしていった。
その間にザボリタ王国の村での拠点を引き払い村の人達に
挨拶を済ませて村を出た。
そして、僕たちはルクとノンを迎え入れる日がきた。
「よく来てくれたね。ここがボクとアバンの住居さ。
じゃあ、アバンを呼ぶよ。覚悟はいいか」
とミロクが言った。そう、今日初めてふたりは大きな
アバンを目の当たりにすることになるのだ。
「うん」
とルクとノンは声を揃えて言った。
「アバン、いいよ」
とミロクが言った。僕は初めてアバンと会った日のことを
思い出していた。するとアバンが自分の部屋から出て
きた。その大きさにふたりはびっくりしたが、すぐに
「アバンさん、改めてまして、よろしくお願いします」
と口々にルクとノンは言った。やっぱり、アバンの人柄
ならぬドラゴン柄なのかアッという間にさんにんは仲良く
なった。そして、アバンとミロクがこの村での置かれて
いる状況などを掻い摘んで話をした。
「アバンさんは【守り神】なんて凄いですね」
とノンが言うと
「そうかなぁ」
とアバンが嬉しそうに言っている。ひと通りミロクが
ふたりにこの村で生活していく為に必要なことを説明
した。今は、ふたりからの質問タイムになっている。
アバンも含め和気藹々と談笑している。
そして住居の話になった。
「あれから少し考えてみたんだが、ふたりに決めてもらい
たいことがあるんだ。ここでみんなで暮らすのも良し。
ただ、少し手狭になる。なので、ふたりでこの近くに住居
を構えるのでもいいんじゃないかと思ったんだ。何か所か
候補を確保している。見てもらってそこが良ければそこで
もいいし、やっぱりここがいいならここで一緒に住もう」
とミロクが言った。アバンも
「君たちの好きなようにしていいんだ。離れて暮らしても
いつでもここに遊びにくればいいしね」
と言った。すると
「実は私たちもその事を考えていました。おふたりには
おふたりの生活のペースもあるだろうし、私たちの
スタイルやペースが合うかもわからない。あの時は
嬉しくて勢いで住みたいみたいな事になってしまったけど」
とルクが言った。
「そっか。じゃあとりあえず候補の場所を見に行こうか」
とアバンが言った。
「ごめん。気を使わせたね。その前にふたりはあの大木の
家は自分たちで造ったのか?」
とミロクが聞いた。
「はい。私がそういうのが好きで、ノンと相談しながら
造りました」
とルクが言った。
「どんな素材でも大丈夫なのかな?」
とミロクが聞くと
「はい。大体のものなら」
と答えた。
「そっか。よかった。じゃあ行ってみようか」
とミロクが言った。そしてみんなでミロクの消える魔法で
消えるとアバンに乗る。するとルクとノンは大興奮だった。
空を飛ぶことは初めての体験なのだから。
そして住まい候補を巡った。




