そして、夏の雨は見守るように
ある日突然動かせなくなった
自分の身体が自分のものでないように
私を動かしていた何かが、もう無くなっていた
気づかない間に、私は辛いという感情を思わないと錯覚していた
いつも、本当は辛かった
辛くて、嫌で、逃げ出したい
その感情を思い出した途端に、私の身体は停止した
機械じゃなかった
ただ、外の雨音だけが嘲笑うように響いてきて
私は否応なく聞き入れるしかなかった
なんとかして、会社には風邪を引いたとメールをして休みにした
嫌なことを思われてるだろう
明日、それを直接言われるのだろう
自分のことを棚に上げておいて、ズルいんだよ
だけど、もう嫌うことすら疲れてしまって
意味もなく憎むべき対象を、自分に向けてる
自分が悪いのかもしれないと、意味もなく自分を責める
私は悪くないって、誰かに否定してほしい
ほんのわずかな希望は、雨音に飲み込まれていった
再び目が覚めた時にはもう昼だった
自己嫌悪することに疲れてしまって、いつの間にか寝ていたみたい
寝たからか、少しだけ辛いけど身体を動かせるようになっていた
何も予定がない、平日の昼下がり
私は今日、何をすればいいのだろう
ふと、窓を見る
まだ、雨は降っていて、私の気持ちを不透明にする
この今日という日が雨降りで
私の何を見ているのかわからない
今日を生きる意味が何かを知りたくなって
私は外に出る支度をした
何かを、探したくなっていた
電車に乗って少し離れた地元の駅に来ていた
朝から続く雨は、まだ私を見ている
私に愛情をくれた祖父母に会えば、何か分かるかもしれない
思いつきで電車に運ばれつつ、少し早いお墓参りをしようと決めた
数年前まで一緒にいて、私を大切にしてくれていた
私が独り暮らししても、実家に行った時は優しく迎えてくれて
会えなくなった時は悲しかった
ね、私はどうしていけばいいの?
お父さんとお母さんには、なんだか話せなくて
このまま、がんばればいいのか
がんばるとして、何にがんばればいいのか、今は分からないよ
「雨に向かって叫んでみな。嫌なことも消して、きっと洗い流してくれる」
おじいちゃんが伝えてくれた言葉を思い出した
友達とうまくいかない時があって
もやもやが晴れない日に、今日みたいに休んだことがあった
その日も、雨が降っていたっけ
居間にいて、外を見ていた私に言ってくれた言葉だった
厳しい時も優しい時も、見てくれているって
外に出て、雨に打たれて包まれてきなって
きっと、今日もあの日と同じなんだろう
私の暗い感情は、打たれて流されてしまっていい
厳しさとやさしさで、私を包んでほしい
そうして、あの日のように空に向かって叫んでいた
多分だけど、見守られながら
家に着いたのは、もう夜が始まる時間だった
なんだか心が満たされたな気持ちで
明日を迎える恐怖もなくなって
私は幸せになるために、少しだけ前を向くことを決心する
誰かに想われていることを、思い出させてくれたから
そして、私は夏の雨を好きになった