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作者: 秋津音彦

「骨」


それは解け残った骨だった

もうすっかり穴だらけで

外気に曝されて


さっぱりとした物だった

眼窩は蒼く光り

鼻高の痕跡が

輪郭をなでている


既に口蓋はないが

出入りする僅かの風が

ボボッと擽る


覗いても内耳蝸牛は見当たらない

解け残った透明な耳介軟骨だけが

微妙に振動していた


そんな訳だから

肉片も恨みもありはしない

己というものが

すっかりと抜け落ちているんだ

それでも妙に

言いようのない何かが

いとおかしく 見つめていた




「ひとりごと」


鋭く尖った金のガラス片

チクチクと柔肌に刺さる

朝の鋭角 射光の矢じり


霞む隠沼は悲哀のうちに

麻酔は徐々に切れてゆく


気怠さの淵の柳の手招き

ああ密やかに女身を晒し

たまゆら翡翠は飛び込む


あの穏やかな夕暮れから

僅か十二時間の回転舞台


叢のなかのネズミたちが

蚯蚓を引きずり出してる

もう億年も経ったのかと


今朝の背景は臆面もなく

すっかりと新鮮な塗料で

ピッカピカに光っている



 

 「美しい夕景」


あんな美しい夕焼けは見たことが無い

大急ぎでカメラをとりに家まで走った


玄関に綺麗な鼻緒の下駄が並べてあった

誰のだろう お客さんでもきてるのかな


あ すみません隣のものですがといって

また 綺麗な鼻緒の下駄を置こうとする

えっ なんでうちの玄関におくんです?


当然でしょう はいこれも

駄目です持っていきなさい


女は怪訝そうな顔をして

下駄を持って出て行った


おれは全速力で走ったが

もう美しい夕焼けは消えていた



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