5話
僕に割り当てられたのは誰にも使われていないコテージだった。
無人と云うだけで劣化は進むものなのか、軒下の雑草は生い茂っておりウッドデッキに侵食を初めていた。
そして入り口にはお決まりの小鳥のカリカチュアが置かれていた。一昔前のバンドマンを彷彿とさせる、鬣のようなオールバックの冠羽が立ち上っていた。
鳥に詳しくはなかったが宝田さんから割り当てられた部屋は恐らくここだ。
「オカメインコの家を使ってください」と云われて、何のことやらわからなかったが教えられた髪型の特徴に沿って考えるとこのコテージで間違いない。
真っ暗闇の中、左手の壁をさすりボタンに手がかかる。試しに部屋の電気を点けてみると幾度かの明滅の後に点灯した。地理的に正規の施設から電力供給は望めまい。どこかに湧泉地があり、付近に水力による発電施設でも作ったか。
電球色に照らされた部屋にはなにもない。家具はおろか、マットレス一枚置かれてはいなかった。クローゼットをあけてみてもハンガーも布団も何もない。建設されたその日からずっと無人のまま放置されているのでは、そう思わせるほどに劣化しながらもどこか小綺麗な空間だった。埃があまりにも少ないところを見ると、年に何回か清掃されているのかもしれない。
リュックサックを下ろして、内容物を陳列しながら今日一日を振り返る。
しょうがないとはいえ、住民の覚えは良くない。空き家で寝ろというのだからやはり拒絶されていると思った。もっとも野宿を覚悟して寝袋を用意してあるのだ。毛布がない程度のことではへこたれない。
水回りはどうだろうか。
洗面台の蛇口をひねると茶色い濁り水が勢いよく飛び出してきた。飲める水かどうかは大いに警戒するとして、暫くは出しっぱなしにしておこう。
ひとまず風呂で汗を流せる、と安堵しながら期待に胸を膨らませて風呂場に足を運んだ。乾燥しきった簀子のささくれに足を切らぬよう注意しながら扉を開くと、正方形の浴槽が目に入った。真横に取り付けられている銀色の装置は古めかしい給湯器でつまみがあった。直接見るのは初めてだがバランス釜というやつだ。
使い方は直感的に察せられるが取り扱いには注意せねばなるまい。
でなくば僕は山火事を引き起こし、炭に生まれ変わるだろう。
時計を見ると午後2時。
大の字になって天井の梁を漠然と見つめる。部屋に見るべきものは何もなく、時間ばかり持て余す。
だが幸運なことに僕は連日の運動で疲労困憊していた。重力に全身の筋肉が引っ張られ、大の字のまま動けなくなった。副交感神経が優位となり、意識が奈落の深淵へと落下を始める。車中泊のリクライニングシートでは決して得られない、のっぺらいフローリングのなんと心地よいことか。目を閉じて意識を手放すのに一分もかからなかった。
体の硬直が気になって目が醒めた頃には午前6時。
凝り固まった肩甲骨を解しながら窓際に立ってカーテンを開ける。
ほんの少し顔を出した朝日が山々を青く染め上げていた。
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