表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お姫様ピエロ  作者: お姫様ピエロ
8/15

5話

 僕に割り当てられたのは誰にも使われていないコテージだった。

 無人と云うだけで劣化は進むものなのか、軒下の雑草は生い茂っておりウッドデッキに侵食を初めていた。

 そして入り口にはお決まりの小鳥のカリカチュアが置かれていた。一昔前のバンドマンを彷彿とさせる、(たてがみ)のようなオールバックの冠羽が立ち上っていた。

 鳥に詳しくはなかったが宝田さんから割り当てられた部屋は恐らくここだ。

「オカメインコの家を使ってください」と云われて、何のことやらわからなかったが教えられた髪型の特徴に沿って考えるとこのコテージで間違いない。

 真っ暗闇の中、左手の壁をさすりボタンに手がかかる。試しに部屋の電気を点けてみると幾度かの明滅の後に点灯した。地理的に正規の施設から電力供給は望めまい。どこかに湧泉地があり、付近に水力による発電施設でも作ったか。

 電球色に照らされた部屋にはなにもない。家具はおろか、マットレス一枚置かれてはいなかった。クローゼットをあけてみてもハンガーも布団も何もない。建設されたその日からずっと無人のまま放置されているのでは、そう思わせるほどに劣化しながらもどこか小綺麗な空間だった。埃があまりにも少ないところを見ると、年に何回か清掃されているのかもしれない。

 リュックサックを下ろして、内容物を陳列しながら今日一日を振り返る。

 しょうがないとはいえ、住民の覚えは良くない。空き家で寝ろというのだからやはり拒絶されていると思った。もっとも野宿を覚悟して寝袋を用意してあるのだ。毛布がない程度のことではへこたれない。

 水回りはどうだろうか。

 洗面台の蛇口をひねると茶色い濁り水が勢いよく飛び出してきた。飲める水かどうかは大いに警戒するとして、暫くは出しっぱなしにしておこう。

 ひとまず風呂で汗を流せる、と安堵しながら期待に胸を膨らませて風呂場に足を運んだ。乾燥しきった簀子(すのこ)のささくれに足を切らぬよう注意しながら扉を開くと、正方形の浴槽が目に入った。真横に取り付けられている銀色の装置は古めかしい給湯器でつまみがあった。直接見るのは初めてだがバランス釜というやつだ。

 使い方は直感的に察せられるが取り扱いには注意せねばなるまい。

 でなくば僕は山火事を引き起こし、炭に生まれ変わるだろう。

 時計を見ると午後2時。

 大の字になって天井の梁を漠然と見つめる。部屋に見るべきものは何もなく、時間ばかり持て余す。

 だが幸運なことに僕は連日の運動で疲労困憊していた。重力に全身の筋肉が引っ張られ、大の字のまま動けなくなった。副交感神経が優位となり、意識が奈落の深淵へと落下を始める。車中泊のリクライニングシートでは決して得られない、のっぺらいフローリングのなんと心地よいことか。目を閉じて意識を手放すのに一分もかからなかった。

 体の硬直が気になって目が醒めた頃には午前6時。

 凝り固まった肩甲骨を解しながら窓際に立ってカーテンを開ける。

 ほんの少し顔を出した朝日が山々を青く染め上げていた。

次で新キャラでます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ