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お姫様ピエロ  作者: お姫様ピエロ
3/15

1話

 国道の白い縁取りを新品のトレッキングシューズでなぞりつつ、僕は黄色い帯を探した。

 瀬能の言い方だと道路脇にそれは巻いてあり、注意深く見ていれば発見するのは容易とのことだった。

 わずかに聞こえる木々の凪ぐ音が耳心地良い。だが、呑気に歩いてもいられない。定期的に僕を追い越す車のエンジン音が鳴り響くたびに羞恥心を覚えた。どんな物好きでもこんな場所を徒歩で移動するはずがないからだ。体の右側に注がれる好奇の気配を必死に気にせぬふりをしてただひたすら僕は歩き続けた。

 色褪せて白く変色してしまっていた一本のボロ布を見つけたのは6分後のことだった。。

 瀬能の忠告通り、道と呼べるものは何もない。ただ生い茂る草木だけが定点的に僕の行く手を阻んでいた。

 もしやと思い、帯のあった地点からまっすぐ進んでみると数百メートル移動したはずなのに何も見つからない。引き返してみて、今度は幾らか角度をつけてから真っすぐ進んで見るがやはり二本目の帯はどこにもない。道がないのだから、帯の場所が全く予想できないのだ。

 長期戦を覚悟した僕は市のショッピングモールまで戻り、枕とマットレスを購入した。

 その日から道の駅に数日間車中泊し、道なき道に挑戦することにした。


 

 朝起きると手洗い場で着替えて顔を洗い、登山用のギアを一式身につけて一本目の帯まで歩く。

 道の駅にはK山の登山客で連日賑わっていたが、K山そのものは1000メートル超えとはいえさほどボリュームのある山ではなく、早朝から登らずとも日帰りができる。従って朝方の道の駅は無人に等しかった。

 それでも夕方になれば登山客や健康志向の中高年が出入りするようになる。彼らにとって僕は珍客でしかなかっただろう。ガチガチに装備を固めているというのに山に登るでもなくただ国道を散歩する人間などいるはずもない。おまけにある地点から姿を消し、追跡できない始末。かといって日暮れ頃になるとひょっこり道の駅に現れて何食わぬ顔で夕飯を食べているのだから、謎の散歩男が噂になるのは時間の問題だった。

 だがそれは僕に焦りを抱かせた。なんと一週間たっても二本目の帯すら見つけられなかったのだ。なんの収穫もなくただ時間だけが過ぎ去っていっただけ。僕は個人用のテントを購入して、帯を無視してでも別荘村に行こうと考えるようになった。

 あとから調べてみれば「バリエーションルート」と呼ばれているものを実践しているらしかった。雪山登山や沢登りのようなもので、尋常の登山道をトレースするだけの山行とは全く違う、難易度の高いものだった。

 遭難の危険すらあり、困難な取材とわかっていたがむしろ探究心を刺激させられた。

 別荘村の位置はわかっているはずなのだ。小さなプレートを木の幹に杭で打ち付けて僕は自分なりのコースを構築することにした。方角さえ合っていれば行程にして一泊二日で行ける計算だった。

 だが、どうやっても目当ての人工湖に辿り着けない。人工湖までの道のりさえ確立してしまえば、あとは湖を辿るだけで別荘村に到着できるはずなのに。

 素人では限界かもしれない。金を積んでどこぞの山男にでも同行してもらおうか。

 そんな事を考えていながら駐車場でコーヒーを啜っていると、バイクを並べて駐輪している男たちから奇異の視線を送られていることに気付いた。登山客ではないバイカーの間でも噂になっているとなると、いよいよ悪目立ちを自覚するようになった。

 素知らぬフリをしてくれているうちはよいが、警察に通報されると厄介だ。バリエーションルートを通る行為自体は違法ではないはずだが、道の駅の宿泊はグレーゾーンだし不審者扱いされかねない。

 悪目立ちは悩みの種でしかなかったが、反転するときが訪れた。

 道の駅に泊まり始めて10日目、いつものように目印の帯を捜索していると、

「君、なにをやってるんだ」

 若い女が立っていた。

 林の真っ只中で頬杖をついて眠りこけていたので接近に気が付かなかった。

 吃驚して背筋をまっすぐにすると、相手をまじまじと見た。

「あのう……ええと」

 半分覚醒していない意識をこねくり回して何か言おうとするがまとまらない。

「ここがどのあたりかわかっているのか?」

 再度声をかけられて、ようやく相手をまじまじと見た。

 年齢は僕と同じぐらい、二十代後半もしくは三十代前半といったところか。

 色艶のある肌に頬張った顔で、強面の部類だが美しい女性だった。

 僕と同じ登山用のギアを一式身につけているが、大きな違いは身の丈を大きく超える荷物を背負っている点だった。無骨な木を重ねた骨組みに布で荷物を括り付けている。恐らく自重を大きく超えるほどの荷物だと思うが彼女は華奢な体で悠々と支えていた。

「ちょっと探しものをしておりまして……」

「黄色い帯か?」

 その時の僕はどんな顔をしていたのだろう。物凄く怯えていたかもしれないし、まるで救世主を見るかのような恍惚とした表情をしていたのかもしれない。



 

あんまり進みませんでした……また来週投稿を目指します

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