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アヴェンジャー

 私の生涯は教団によって狂わされた。


 私、エヴァンスは片田舎に住む純朴な少年だった。家はけして裕福ではなかったが、両親は十二分に私に愛情を注いで、育ててくれた。だから不満なんてなかった。それよりも家族と過ごす毎日はどれも魅力的であり、かけがえのないものだった。


 ある日、両親は買い物のため、街に向かい、私は留守番をしていた。

 けれど、家の中にいるのに飽きてしまい、私は外に飛び出した。

 私が近くの原っぱを駆けずり回っていると、暫くして両親が帰ってきた。

 だが、二人の様子が少し変だった。二人はどちらも黒くて分厚い本を脇に抱えていた。買い物に行ったはずだが、他の荷物は持っていなかった。

 私は不思議に思ったが、とくに深く考えることもなく、遊ぶのをやめて、急いで家に引き返した。


 しかし、家の戸を開くと、衝撃的な光景が待ち構えていた。


 両親が机に張り付き、血眼になって例の本を読んでいた。父親の方は黙々と、一方で母親の方はぶつぶつと何かを呟いていたが、どの言葉も判然としなかった。

 それが異様なことであることぐらい子供の私じゃなくても分かっただろう。

 私はまず父親の方におそるおそる話しかけた。


「お父さん、買い物はどうしたの?」


 でも、父親は無反応だった。彼はまるで私がいないように振る舞っていた。

 私は焦燥を感じるとともに、今度は母親の方にしがみついてみた。


「お母さん、お腹空いた」


 そのとき、私は確かに空腹だった。遊び疲れていたせいもあるだろうが。

 私が服を引っ張ると、母親は怒りの眼差しで、私を射貫き、片腕を天高く掲げた。


「離れろ!」


 バシンッ。

 直後、私は弾き飛ばされた。


「えっ?」


 私は何が起きたのか、すぐには理解出来なかったが、暫くして、母親が私をぶったのだと分かった。

 父親もだが、母親が私に暴力を振るったことは一度もなかった。だからこれが私にとって初めての体験だった。

  私の頬を張った母親はやはり、父親と同じで、まるで何事もなかったかのように、読書を再開した。さっきと同じように呪文のような言葉を連ねて。


 時間だけが流れていく。

 日はすっかり落ちて、空は暗闇に変わっていた。

 空腹が続いていた私はずっと我慢していたが、両親は一向にその場を動かず、読書に夢中だった。料理をつくる気配はまるでなかった。


 夜も深くなり、寝る時間が訪れた。

 しかし、二人が読書をやめることはなかった。というより、一度も席を立つことはなかった。トイレにも行かなかった。

 仕方がないので、私は夕食を諦めて、布団に入ることにした。横になってからもお腹の虫は鳴いていた。それでも今さらどうしようもないので、私はお腹を抑えることしか出来なかった。

 やがて、微睡み始めて、私に眠りが訪れた。ドアの隙間から見ていたが、両親は相変わらずあの本を読み耽っていた。


 次の日の朝。

 私が眠りから覚醒すると、両親は失踪していた。ついでに例の本も消えていた。

 私は家中を探し、二人が行きそうな場所も全て回ったが、発見出来なかった。


 それからまもなく私の両親が亡くなった知らせが届いた。

 どうやら使われなくなった廃屋の地下(・・)で死んでいるのが発見されたらしい。

 そこは広い空洞のような場所で、なんと私の両親の他にも幾人もの人間が死体となって見つかったらしい。

 被害者の家族の中には私と同じように両親を亡くした子供もいたようだ。

 また、奇妙なことに彼らは全員、同じ荷物を持ち合わせていたという。それはあの例の黒い本だった。

 両親を失った私は喪失感に襲われ、激しく泣いた。その慟哭はしばらく止まなかった。


 それから私は廃人のようになっていたが、あるとき、あの事件が教団という組織によって引き起こされたものであることを知った。

 さらに街では丁度、教団を倒すために裏で活動しているジャッジという存在の噂が流れていた。

 そこで私は両親を殺した教団への復讐を誓い、ジャッジになることを決意した。

 それから私はジャッジについて、詳しく調べ始めた。そして、ジャッジになるためには難関な試験を突破しなければならず、かなりの実力が必要であることが分かった。

 そこで私は自力の調査で、かつてジャッジであり、今は引退していると噂される人物にコンタクトすることに成功した。


「なんの用だい?」


 その人物は女性で、美しい金髪をしていたが、筋肉質な身体つきで、腕は丸太のように太かった。また、顔は強面で、目つきは鋭く、私が思わず怯むほどだった。


「私をあなたの弟子にしてください」


 けれど、私は後に引くつもりはなかった。

 自分のことを隠さずに全て打ち明け、ジャッジになるために稽古をつけてほしいと懇願した。

 はじめその女性はまるで相手にしなかったが、私の真剣な態度を目の当たりにして、しぶしぶ引き受けてくれた。


「あんた名前は?」

「はい、エヴァンスです」

「そうか、私はオリガだ」


 名前を告げると、オリガは剣呑とした目つきを私に向けた。


「分かっているだろうが、私の訓練は相当厳しいぞ? それでもついてこられる自信はあるのか」

「はい」


 私は覚悟とともに頷いた。


 それからオリガの言葉通り、辛く、厳しい特訓が始まった。

 具体的には限界を越えて走り続けたり、断崖絶壁を命綱なしで登ったり、息が続かなくなるぐらい長く潜水したりしていた。

 お陰で途中で死ぬと思ったことは枚挙にいとまがなかった。

 汗に塗れ、泥に塗れ、特訓が終わると、いつも私の格好はボロボロで、疲労でぐったりとしていた。

 

 そんな生活が数年続き、私は晴れてジャッジとなった。


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