第4話 鬱
亜矢を失ってからの僕は、大学に通う事が困難になり、自宅から出られなくなった。
喪失感、そんな言葉では言い表せられない。彼女を救えるのは僕だけだったはずなのに、救えなかった。自分自身を苛む。あの時どうすれば良かったのかと、悔やむ毎日を送っていた。
コンコン、部屋のドアをノックする音が聞こえる。
「柚琉?夕飯食べない?」
母の声。
「今、行く・・・」
と応えて、ゆっくりベットから起き上がった。
リビングに行くと、テーブルに1人分の夕飯が用意されている。
「父さんは?」と母に問いかけると、台所から声がして
「今日も遅いみたい・・・」と返事が返ってきた。
用意されていた食事を食べ始める。亜矢を失ってから、殆ど味を感じなかった。味覚もおかしくなっていたのだ。ただ生きて行くために摂取するだけの食事。そんな状態だった。
二口ほど食べたが、口に運べなくなり、ふと、つきっぱなしのテレビに目をやる。バラエティーのトーク番組がやっていた。最近人気のホストがテレビに出ている。たしか、CLUB響の紫音とかいうナンバーワンホストだったか・・・。
僕には関係の無い世界の話。
テレビを消して2階に上がろうとすると母が声を掛けてきた。
「もう食べないの?」
振り向く優しさを見せられたら良かったのだろが、今の僕はそれすらも出来る状態ではなかった。
「ごちそうさま」
母の顔を見ること無く、ボソッと呟いて階段を上った。