第3話 彼女
彼女の名前は、生田亜矢。同じ大学に通う同級生。
出会いは入学式だった。
首席で入学した僕は、壇上に上がり新入生の挨拶をした。
入学式が終わり、大学を出ようとした時、校門の所で記念写真を撮ろうとしてる女の子達がこちらを見て声をかけてきた。
「あの、写真を撮ってもらってもいいですか?」
新入生であろうスーツに身を包んだ女の子2人組。
「いいですよ」
ロングヘアの女の子が差し出したスマートフォンを受け取り、入学式と書かれた立て看板を真ん中に入れて両脇に立つ女の子を撮影をする。
写真を取り終えると、ロングヘアの女の子が小走りに僕の所へ来た。スマートフォンを返そうとすると
「ありがとうございます。先程は、壇上に上がってのスピーチ、緊張しませんでしたか?」と話しかけてきた。
僕は目を見開いた。
「あ、っとえ?僕だと分かりましたか?」スマートフォンを手渡す。
「はい!代表でスピーチするなんて、凄いですね。写真撮って頂いて、ありがとうございました。」
咄嗟になんと答えていいか分からずに
「あ、いえ・・・」とだけ返事をする。ロングヘアの女の子は軽く頭を下げ、友達のもとに小走りで走って行った。
その時の僕は、笑顔が可愛いらしいとは思ったが、学部も沢山あるし、二度と会わないだろうと思っていた。
数日後、授業を受けようと講堂に入ると、入学式の時に出会ったロングヘアの女の子が目の前にいた。
お互いに、「あっ」と声を出し、彼女の方から「良かったら、お隣どうぞ」と声を掛けてきた。
僕は会釈をして、言われるがまま隣に座った。
彼女は少しはにかんだ笑顔で、声を掛けてくる。
「同じ学部だったんですね。授業で分からない所があったら教えて貰えますか?」
その日から、勉強を一緒にするという名目でほぼ毎日彼女に会い、段々とお互い惹かれ合うようになって行った。
彼女は、北海道から上京しワンルームの部屋で一人暮らしをしていた。
東京の生活になかなか馴染めず、満員電車で通学するのもかなりのストレスになっていたようだった。人が多いだけで怖いと良く話をしていた。
ホームシックにかかり、毎日泣いていた彼女を慰めるのは僕の役割だった。長い髪を優しく撫でながら、いつも慰めていた。
五月病・・・よく聞く名だ。
彼女は、次第に大学に来る事が出来なくなった。朝起きるのが辛いと言い、夜型の生活になって行った。病院に行こうと誘うが、聞いて貰えなかった。
僕は、講義が終わると彼女の住んでいる部屋に行き、寝ている彼女を起こすのが日課になっていった。
彼女は、段々と死にたがるようになった。リストカットを繰り返しては、手首の画像をSNSに上げるようになっていった。
僕は必死で訴えた。頼むから病院へ行こうと、すると彼女は、こう言った。
「一緒に死のう?」
僕は、キツく彼女を抱きしめた。
その時の僕は抱きしめることしか出来なかった。
僕に抱きしめられた彼女が、僕の肩に顔を乗せ、声を出さずに泣いているのはわかっていたが、その時の僕にはどうすることも出来なかった。
大学の講義とアルバイト、そして彼女の家に行く生活。目まぐるしく日々が過ぎていった。
そんなある日、彼女は近所の高層マンションから飛び降りた。
朝焼けの静かな早朝、新聞配達員が発見した。
前日の夜、夜中まで僕とRAINをしていたのに・・・。