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僕の中の嘘  作者: 桃花*
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第2話 ユリ

「貞ちゃん!ちょっと、こっち手伝って貰える?」

女性にしてはハスキーボイスの、少し中年太りな前田さんが私の名を呼ぶ。

「もう!前田さん!下の名前で呼ばないでくださいよ!」と言うと

「そんなんいうても、あんたの名前、貞子でしょ?吉田貞子、違う?」と悪びれない様子で返してきた。

それは、そうなんですけど・・・

「苗字で呼んでくださいって、いつもいってるやないですか!」

そんなことは、どうでもいいと言わんばかりに前田さんは、仕事をどんどん押し付けてくる。


パン屋の朝は早い。7時の開店までにある程度のパンを焼き上げなければならない。手際よく惣菜パンを作り店頭に並べる。これが私の仕事だ。


仕事の休憩時間に、前田さんが私の所に来て缶コーヒーを差し出す。

「貞ちゃんは何で自分の名前言われんの嫌なん?」

前田さんは、人の嫌な部分を直球で聞いてくる。裏表のない人なのだ。真っ直ぐな瞳で私を見つめる。

本当は、言いたくないのだけれど、ため息混じりに言葉を紡ぐ。

「貞子って、ホラー映画で使われて名前が有名になったじゃないですか・・・それから、名前を呼ばれるのが苦手になったんです。」

そう答えると大爆笑をして、そんなこと気にしたらダメよ、いい名前じゃない!と私の背中を叩いて去っていった。悪い人では無いのだけれど、デリカシーは無いのかもしれない。


ふと、スマホを見るとRAIN通知が来ていた。

ハンドルネームは、ユズ。本名は、北村柚琉からだった。

「そういえばさ、大学入ってから彼女出来たんだ!今度、ユリちゃんにも紹介するね!」


ユズとは、ユズが高校生の時にネットゲームいわゆるネトゲで知り合った。最初は、高校生だと知って、未成年だし何か問題が起きたら嫌だなと思い、仲良くするのを躊躇ったが、そんなのどうでも良くなる位、年齢の差を感じる事も無く、話をしていて楽しかった。


「ほんまに?よかったなぁ、今度写メ送ってなぁ!」送信。

RAINを返すと直ぐに既読のマークが付いた。


年齢や性別を越えた趣味の友達関係ってあるのかな、と思わせてくれる人、それがユズだった。


休憩室の窓から外を見ると晴天が広がっていた。

そこに一筋の飛行機雲。


明日は雨かな、そんな事を考えながら休憩室を後にした。


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