62.恋するお姫様
攫われたシェリルを追ってアルベルト邸にやって来たクレスト。完全防備された部屋を躊躇わず魔法で破壊して中に入る。しかしそこは驚きの光景が広がっていた。
「な、なんだ、この部屋は!?」
部屋中に置かれたシェリルの品々。
服やら下着やら肖像画に小物など。入って直ぐに分かる異様な空間。そして部屋の中央で縛られて椅子に座るシェリルの姿を見つけて言う。
「シェリル!!」
恐怖に駆られていたシェリルの顔に喜びの表情が浮かぶ。
「ク、クレスト様!!!」
それを見たアルベルトが腰に付けていた剣を抜いてクレストに向ける。
「く、来るな!! お、お前が何者かは知らないが、俺はこう見えてもサウスランドの国家武芸大会で、よ、予選通過した腕の持ち主。お前なんか、あっと言う間に、……えっ?」
ドン、ドンドオオン!!!
「ぎゃああ!!!!」
アルベルトが剣を構えたと同時に、彼の体に放たれる衝撃弾、そして激痛。
黒いローブを着たクレストは微動たりしていない。突然の痛みにその場にうずくまったアルベルトは、一体何が起こったのか理解できなかった。
「お、お前何をした……? い、いや、何もしていない!?」
クレストが答える。
「攻撃した。当然だろ」
「お、おのれえええ!!!」
アルベルトは剣を杖のようにして立ち上がると、再びその剣をクレストに向けながら大きな声で言った。
「お、俺はなあ、サウスランド王国のレスター国王の縁戚なんだぞ!!! び、びっくりしたか!! 俺はいつだって国王に謁見できるし、お、お前なんて国の力でひとひねりにしてやれるんだぞ!!!」
「……」
黙って聞くクレスト。饒舌になったアルベルトが更に続ける。
「それからなあ、お前、知ってるか? 国家最高魔導士マーガレット様!!! 南方大陸最強の魔導士様だ!! 俺はな、一度だけ会食でお会いしたことがあるんだぞ!! どうだ、お前も魔法使いかもしれんが、お前なんかマーガレット様に掛かればあっと言う間に消されるぞ!!! どうだ、どうだ、驚いたか? びびったかああ!! 俺様にいいい!!!!」
アルベルトは興奮のあまり顔を真っ赤にしてゼイゼイ息を吐きながら叫ぶ。クレストは首を横に振りながら哀れみにも似た表情でアルベルトに言った。
「なあ、縁戚さんよ」
「な、何だと、貴様ああ!!」
「俺はよお、その国王さんの父親から『息子がおイタをしたなら罰せよ』と頼まれてんだ」
アルベルトは引きつった顔で笑いながら言う。
「あ、あはははっ、お、お前何を言ってるんだ? サ、サウスランド国王に対する侮辱罪で……」
クレストが続ける。
「あと、その何だ、最高魔導士さんっての。そいつは俺の弟子だ。俺がそいつに魔法を教えた」
その言葉を聞いて目を大きくして驚くアルベルト。しかし再び怒りを込めて言い返す。
「お、お前、マ、マーガレット様まで侮辱するとは、いかに無知な野蛮人とは言え死罪ものだぞ!!!!」
クレストが言う。
「まあ、お前などに話しても仕方ないが今回俺がサウスランドへ行くのは、好き勝手やってる馬鹿弟子のマーガレットをぶん殴りに行く為だ。まあ、お前もその悪事に加担しているのならば、ここでぶん殴っときゃならんがな」
アルベルトは顔を真っ赤にして大声で叫んだ。
「きききき、貴様ああああ!!! 私だけでなく国王や国家最高魔導士様にまでそのような侮辱をおおおおお!! 許さんっ!!!!!!」
そう言って持っていた剣でクレストに斬りかかる。
「ク、クレスト様ああああ!!!」
部屋に響くシェリルの声。しかしクレストは微動たりせずに魔法を唱えた。
(音の旋律・コレクトヴォイス)
ドオン!!
「ぐわあああああ!!!!」
音の衝撃を受け、真横の壁に吹き飛ばされるアルベルト。あばらが折れたのか壁際に倒れ小刻みに震えている。
「シェリル!!」
クレストはすぐにシェリルの元に走り寄り、縛られていた手足の縄を切る。シェリルは涙を流しながらクレストの名前を言う。
「クレスト様、クレスト様……、ううっ……」
涙を流すシェリルの顔が赤く腫れている。
(酷いことをしやがって……)
クレストは手をシェリルの顔に当て、頭の中で回復魔法を詠唱する。少しだけ光るクレストの手と同時に、少しずつ引いていく顔の腫れ。クレストが言う。
「もう、大丈夫だ」
そう言ってシェリルの頭を撫でてから肩をポンポンと軽く叩く。シェリルは恐怖から一転、深い安心感に体が包まれる。
「クレスト様っ」
そう言って椅子から立ち上がろうとしたシェリルだが、落馬した際に痛めた足に力が入らずまた椅子に座ってしまう。それに気付いたクレストが腰を下ろしシェリルの足を見た。
「腫れてるじゃないか。ここも怪我したのか、痛かったろ? ちょっと待って」
そう言って足の腫れた場所に手を当て魔法をかける。再び光るクレストの手。同時にシェリルの足の痛みも引いていく。シェリルが思う。
――ああ、同じだ。子供の頃、怪我した私を治してくれたあの時と……
シェリルは幼少の頃、クレストとかくれんぼをして痛めた足を治してくれたことを思い出した。
――全然変わってない。私が泣いた時にはすぐに来てくれて、いつも私を助けてくれる……
シェリルは大人になって更に立派になったクレストを前に、この気持ちは抑えられないと心を決めた。そして立ち上がって言う。
「クレスト様、私……」
そこまで言うと、破壊した入り口から大きな声が響いた。
「シェリル、シェリル!!!!」
クレスト達が振り返ると、そこには真っ青な顔をしたシェリルの父、フレデリク国王が立っていた。そして異様な部屋に驚きながらも真っすぐに娘の方へと走り、その華奢な体を抱きしめた。
「クレスト先生、これは一体……?」
国王の後ろにいたマリアとアーニャが、部屋に入って来て眉間に皺を寄せて言う。クレストが答える。
「ああ、変態の部屋だ」
娘のシェリルを抱きしめた国王が、その部屋を見ながら倒れているアルベルトに言う。
「アルベルト殿、これは一体どういうことなのかね?」
ようやくよろよろと立ち上がったアルベルトが国王に言う。
「お、お義父さん。これは違うんです。私のシェリルさんへの愛の表現で……」
「嘘はやめてください。へ、変態っ!!」
目を赤くしてシェリルがアルベルトを睨んで言う。国王がアルベルトに尋ねる。
「これはとても正気の沙汰とは思えん。しっかりと説明して貰うぞ」
それを聞いたアルベルトが顔色を変えて言った。
「こ、国王よ。よ、良いのか? 私にそんなことを言って?」
「何?」
国王の顔が険しくなる。アルベルトが言う。
「我が国、サウスランド王国の庇護がなければ、お、お義父さんの国はどれだけ持つかな?? 縁戚である僕がレスター様に『酷いことをされた』と言えば、くくくっ、どうなるのかなあ??」
アルベルトは嘲笑しながら国王の顔を見た。国王が答える。
「国王としてはこれからいう発言は失格なのかもしれぬが、私もひとりの父親として言おう」
国王は怯えた娘、そして気の狂ったような部屋を見てから言う。
「お前などに娘はやれん。婚約破棄だ」
「なっ!?」
国王にはっきりと言われたアルベルトが狼狽し、震えながら言う。
「わ、私を、レスター国王の縁戚のこの私を……、そんなことが、そんな侮辱が……、ゆ、許されるとでも思って……」
「ああ、問題ない」
国王ははっきりと言った。
「な、何だとお!!!」
驚き焦るアルベルト。国王が言う。
「問題ない。何故ならここにクレスト殿がいらっしゃるからだ」
「はあ!? い、意味が分からんぞ!?」
アルベルトはその意味が理解できず大きく口を開けて言った。国王が言う。
「この方が一声掛ければ、我ら国王勢は皆喜んでその指示に従おう。無論、サウスランド国王とてな」
「こ、国王、それ以上は……」
それを聞いていたクレストが言う。国王はそれを手で制し更に続ける。
「冒険者時代、こちらのクレスト殿とレオン様に一体どれだけの民が救われたことか。彼らがいなければ私達はもちろん、国すら滅んでいただろう。返しても返しきれないほどの恩があるのだ」
「う、嘘だ、そ、そんな奴が、こいつが、こんな奴が……」
アルベルトは顔を真っ青にしてその場に膝まづく。国王が言った。
「アルベルトよ、我が国王女の監禁、窃盗、脅迫に暴行、そしてストーカー罪で貴殿を捕える」
「ま、待ってくれ。僕は、僕はそんなんじゃ……」
目から涙を流してアルベルトが言う。国王は部屋の外にいる兵士に命じうなだれるアルベルトを連行させた。アルベルトがいなくなるのを見てから、クレストが国王に言う。
「さすが、フレデリクの国王。見事でした。あなたのご判断、国民が知ってもきっと賛同することでしょう」
国王はクレストの肩を叩き、苦笑いして言った。
「いやいや、大変なのはこれから。もしかしてサウスランドと喧嘩になるやもしれん」
「ん、まあ、そこは大丈夫かと……」
クレストはわざと曖昧に答えた。国王がクレストの顔を見つめて言う。
「クレスト殿」
「はい?」
クレストは国王の真剣な目に少々戸惑う。
「実は私のこの計画には最後のピースがまだ未完で……」
「最後のピース?」
「うむ、最後のピースと言うのは、『シェリルとクレスト殿の婚約』だ」
「はあああああああ!!!???」
「まあ、お父様、それは素晴らしいお考えで!!」
国王の隣にいたシェリルも目を輝かせて言う。国王が言う。
「サウスランドや他の国々、たとえ魔物に攻められたとしてもクレスト殿がいてくれれば何の問題もない。それともなんだ、我がシェリルのことが嫌いなのか?」
シェリルの大きな目がじっとクレストを見つめる。クレストが焦りながら答える。
「い、いや、嫌いとか好きと言う問題じゃなくて……」
「お父様!」
シェリルが国王に向かって言う。
「何だ?」
「お父様、実は私、子供の頃にクレスト様と、その、結婚の約束をしておりまして……」
「うげっ!?」
クレストの顔が青くなる。対照的に喜びの笑みを浮かべる国王。シェリルが続ける。
「でも、何年もお会いに来てくださらなかったので諦めかけていましたが、クレスト様はやはりあの時のお約束を守ってこうして迎えに来て下さったのです!」
「い、いや、その、ここは通りかかっただけで……」
そう言おうとしたクレストの声をかき消すような大声で国王が言った。
「そ、そうだったのか!! クレスト殿も人が悪い。そんな約束をして迎えに来たのなら、最初から言ってくれればよいものの。娘はやる、もってけ」
「い、いや、そんな物みたいに、言われて……、うぐっ!?」
クレストが困っていると、シェリルがクレストの傍にやって来て純粋な目、そして少し恥ずかしそうに言った。
「私、その、裸も見られてますし……、もう、私のこと好きにして頂いてもいいのですよ……」
「へっ? は、裸!? あっ!!」
クレストは部屋に飾られたアルベルトが描かせたシェリルの裸体画が目に入った。慌てて言う。
「い、いや、あれは絵だろ。それにみんなも見てるし、俺だけじゃ……」
「なに!? もう娘の裸を見たって!!!」
国王がそんなクレストの言葉を抑え込むように大声で言う。
「そんなことをされてはもう結婚以外方法はない。観念せよ、クレスト殿」
(か、観念って……、いや、あんたも見てるだろ……)
クレストは汗を流しながら思う。そして同時に背後からも燃えるような怒りのオーラが放たれていることに気付いた。
「け、結婚? ハダカを覗いた……? ク、クレスト先生……」
「ひぃ!?」
振り返ると鬼の形相をしたマリアが顔を真っ赤にして立っていた。
「クレストはアーニャのものだにゃああ!!!!」
同じく魔力爆発寸前のアーニャがお怒りモードに入っている。クレストが後ずさりしながら部屋の出口へと向かう。
「さ、さあて、そ、そろそろ行こうかな……、それっ!!!」
そう言って全力疾走で階段へと向かう。それに気付いた皆が大声で叫ぶ。
「ク、クレスト様ああああ、お待ちをおおおお!!!!」
「クレスト殿、どこへ行かれる!?」
「クレスト先生、ま、待ちなさい!!!!」
「どこ行くにゃああああ!!!!」
クレストは平和が訪れたフレデリクの街をひとり必死に駆け抜けた。
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