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43.新たな英雄

魔法力を使い果たして意識が薄くなるリーズに向かってクレストが叫んだ。


「立て、立つんだ。リーズ!!!!」



――温かい。何で心がこんなに暖かくなるんだろう……


クレストが後ろにいると思うだけで自然と包まれる安心感。体の底から湧き上がる力。リーズは目にたまっていた涙を拭くと立ち上がってアルテナに言った。



「アルテナ様、最後に全力で魔法を掛けます。弓のご準備を」


「わ、分かった」


アルテナはリーズに言われて再び弓を構える。リーズが光精霊と調和する。


(ああ、感じる。まだこんなにたくさんの精霊達が私のところに来てくれている。まだ行ける。まだ行ける!!)


そして宙に魔文字を書いて叫んだ。



「光の旋律・光属性付与ライト・エンチャント!!!」


アルテナの矢が白く光り出す。弓を思いきり引くアルテナ。

それに気付いたドラゴンゾンビが再びアルテアに向かって突入してくる。



(光の旋律・光属性付与ライト・エンチャント


後方で見ていたクレストが心の中で魔法を唱える。



「えっ?」


突如、矢だけではなく弓自体も白く強く輝き始める。驚くアルテナとリーズ。



(まだ足らないか。ならば……、無の旋律・昇華ブースト


クレストが再び頭の中で魔法を詠唱。同時に今度はアルテナの体が白く神々しく光り始める。



(な、何これ……!? まさか、これって昇華ブースト?)


アルテナは突如自分の体の奥底から経験のないような力が湧き出て来るのを感じる。弓を引く腕が軽い。もっと引ける。もっともっと引ける。アルテナは力の限り弓を引いた。



「凄い……」


間近で見ていたリーズはその見たことのないような神々しいアルテナ、そしていつもの数倍もしなる弓を見て驚いた。後方から見ていたクレストが叫ぶ。



「撃て、アルテナ!!!! お前が、お前がここの()()だああああ!!!」


それを聞いたアルテナの目に涙が溜まる。そして大声で叫んだ。




「これで消えろおおおおお!!!!!」


シュン!!!!


アルテナの叫び声と同時に放たれる白く神々しい矢。

それは真っ黒な夜空に美しく輝く光となってドラゴンゾンビに放たれ、そして頭から貫通した。



グオオオオオオオオオオオン!!!!


ドラゴンゾンビは大きな鳴き声を上げると、やがてゆっくりと羽ばたきながら地上へと落ち始める。そして地表につく前に灰となって消え去った。

それを見たリーズがアルテナに抱きかかえられる様に倒れる。そして言う。



「お見事です、アルテナ様……」


魔法力を使い果たし意識を失いそうなリーズが小さな声で言う。アルテアは涙を流しながらその体を抱きしめ言った。


「お前のお陰だ、リーズ。ありがとう……」


「私なんて、何も……」


謙遜するリーズにアルテナが尋ねる。


「なあ、ひとつ教えてくれ。お前は昇華ブーストの魔法は唱えられるか?」


リーズは少し考えてから答えた。



「いいえ。無属性は、出来ません……」


リーズは疲れのせいか目を閉じ眠るようにゆっくりとアルテナの言葉に答えた。


「そうだよな、ありがとう。リーズ……」


アルテナは眠るように意識を失ったリーズの頭を優しく撫でた。



やがて昇る朝日。

暗かった街に温かな光が注がれる。魔物を退け、ドラゴンゾンビを討ったアルテナに兵士達から大きな歓声が送られた。


新たな()()()()を祝う声がいつまでもレイガルトの街に響いた。






「あれ、クレスト()達はどこへ行かれた!?」


その日の午後、領主から街の人達に向けての勝利宣言を行うための準備をしていたアルテナがリーズに尋ねた。領主の館の前には既に多くの人が新しき英雄の姿を一目見ようと集まっている。

アルテアに聞かれたリーズは下を向いて申し訳なさそうに言う。



「あ、あのお……、クレストさん達は既に発たれました……」


「な、なんだと!? これより勝利宣言を行うのに!!」


「申し訳ございません。口止めされていたので……」


「分かった!!」


アルテナはそう言うとすぐに近くの馬に飛び乗った。


「あ、私も!!」


リーズもその後ろに飛び乗る。





「クレスト様ああああ!!!!」


アルテナとリーズは街の郊外を歩くクレスト達を見つけると大声で名前を呼んだ。



「あれ、アルテナ?」


クレスト達は立ち止まりふたりを見る。アルテナが言う。


「あれ、じゃないですよ!! どうして黙って行ってしまうんですか!!」


クレストが答える。



「いや、だってゾンビはもういないし、まだ他に行かなきゃいけないところもたくさんあるので、早めにと……」


それを聞いたマリアが言う。


「だから言ったでしょ、クレスト先生。せめて挨拶ぐらいはしなきゃって!」



「いや、俺、そう言うのあまり得意じゃなくて、『あれ、いつの間にかいなくなったな、あの居候』ぐらいが丁度良くて……」


「何訳分からないこと言ってるんですか! さあ、ちゃんとアルテナさんにもお別れの挨拶をしましょう」


そう言ったマリアを見てアルテナが答える。



「お別れの挨拶は不要ですよ」


「へっ? どうして?」


驚くクレストにアルテナが言う。



「私もクレスト様と一緒に旅がしたくなりました。リーズだけでなく、色々と私にも教えて下さりませんか」


「はあ?」


ニコニコ笑うアルテナにリーズが言う。


「あ、ずるい、アルテナ様だけ!! クレストさんは魔導士。同行するなら同じ魔導士の私ですよ!!」


アルテナがリーズに言う。


「何を言ってるの、リーズ。唯一の魔導士がここからいなくなったら街はどうするの?」


それを聞いたリーズが顔を膨らませて言う。



「わ、私は暗闇でクレストさんに胸を()()()()()。私の方が一緒に行くべきです!!」


アルテアが顔を赤くして言う。


「リ、リーズ、何を言ってる? 私だってお願いされれば、む、胸を揉まれるぐらい……」



「どういうことですか!! クレスト先生!!!!」


「ぐはっ!!」


アルテアとリーズが言い争っているとそれを聞いたマリアが大声でクレストに言った。慌てて言い訳をするクレスト。



「い、いや、あれは、その事故で、いや、確かに柔らかくて天国に昇るみたいに気分が高揚して、その後も何度か事故のふりして胸を揉んだんだけど、いや、別に教える立場を利用してそんなことは……、あれ?」



「ク・レ・ス・ト・先生ええええ!!!!!」


「ぎゃあああ!!!」


激怒するマリアに逃げ始めるクレスト。

それを追いかけるマリアとアーニャ。それを唖然と見つめるアルテナと、真っ赤な顔をして立つリーズ。

クレストは走りながらアルテナに言った。



「アルテナ!!! お前が英雄だ、誰が何と言おうとお前が英雄!! みんなが待ってるぞ、早く戻れ!!!!」


「ま、待ちなさい!! クレスト先生!! 胸を揉んだってどういうことですか!! 不潔不潔、不潔っ!!!!」




アルテナとリーズは走りゆくクレスト達を微笑ましく見送った。そしてリーズがアルテナに言う。


「……戻りましょうか、アルテナ様。いえ、レイガルトの英雄様」


リーズはにこにこしながらアルテナを見る。アルテナは消えゆくクレスト達の方に向かって大きく頭を下げてから答えた。



「そうね。その名に相応しいように私ももっと強くならなきゃ。あなたみたいに」


「はい! 良い訓練の場所、知ってますからあとで教えますね」


「ふふっ、それは楽しみね」


アルテナとリーズは笑顔で去り行くクレスト達を見送った。

お読み頂きありがとうございます。

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